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6歳の僕♢学園編 3♢
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しおりを挟むミー兄様の膝の上で、ミー兄様に撫でられながらリディを撫でていると、いつの間にかイグリット団長さんが側まで来ていた。
「ミスティラリ公子様、レティシオ君の魔力操作、抑制の訓練は見ての通り、全て終わってしまいました。
つきましては、改めて、この先の基礎魔法の訓練指導も私にさせて頂きたいのですが、如何でしょうか?」
その言葉に、思わずえっ、と声には出さないものの驚き振り仰ぐように団長さんを見上げてしまった。
イグリット団長さんを見ると、ミー兄様の正面の位置に立ち、右掌を胸元に当て、敬礼の形を取っていた。
靱やかで優雅な礼だ。
その提案は、引き続き僕の基礎訓練を指導してくれるというもので、こんなに丁寧に、ましてやこの国で1番の魔道士としての地位を築いている彼がするようなものでは無い。
暫し呆然とイグリット団長さんを見上げていると、横からミー兄様の硬い声が聞こえてきた。
「その判断は、私の一存では返答しかねますね。
まずは、執務室にいるであろう父上に申し出て頂けますか?」
見ると、作った様なそれはそれは綺麗な笑顔を浮かべたミー兄様がいた。
色気の中に鋭さが見え隠れしている気がする、目が離せなくなる美しさだ。
僕には向けられた事がない種類の笑顔だけれど、学園で生徒や教師の人達と話す時にしている笑顔に似ていた。
なるほど、これがミー兄様の社交の顔なのだろう。
1人観察しながら納得していると、イグリット団長さんが「それでは早速」と一言言い置いて、僕の訓練の様子を見ながら自分たちの訓練を離れた場所でしていた魔道士団団員を呼ぶ仕草をした。
すると直ぐにその中の1人が急ぎ団長さんの元にやって来て、騎士団の礼を取る。
「悪いんですが、今から急ぎマガリット公爵様の執務室に行って、レティシオ君の魔力操作、抑制共に基礎訓練が終了した旨と、改めて、このまま基礎魔法の訓練の指導を私がしたいと申し出ている旨を伝えてきてくれますか?
その際、まだレティシオ君が兄上様と共に訓練所にいる事も伝えてください。」
団員さんはイグリット団長さんの言葉に驚いて、暫し固まった後に是と首肯し、足早に訓練所の出入口に向かって行った。
そうだよね、まさか引き続き団長さんが僕なんかの指導を申し出るなんて驚くよね…。
僕もとても驚いてる。
本当に大丈夫なのだろうか…。
そのまま団長や団員さん達の視線を感じながら、引き続きミー兄様に撫でられ、合間に口付けされながら腰に変わらずくっ付いているリディを撫でていると、伝達に走ってくれた団員さんが戻ってきた。
ずっと走って移動してくれたのかな。
仕事とはいえ、僕の事で貴重な訓練時間に煩わせて申し訳ないな、なんて思っていると、団長さんの耳元に話していた団員さんが離れると共にとてもいい笑顔で、公爵様の面会許可が下りましたので、このまま一緒に公爵様の執務室に行きましょう!と促された。
父様お仕事大丈夫なのかな?とは思ったけれど、既に許可も下りているし、ミー兄様も気にした様子もなく僕を降ろして手を繋いできたので、そのまま団長さんに続く形で左手をミー兄様、右手をリディと繋いでついて行く。
団員さん達の傍を通る時、歩きながらになってしまったけれど、それでも挨拶だけは、となるべく丁寧に見えるように頭を下げた。
貴重な訓練スペースを貸していただいてるのだから当然だと思いそうしたのだけれど、ミー兄様はそのまま気にもせず歩いていた。
もしかしてまた戻ってくるからしないのかな?
そんな事を思いながら、団員の皆さんがとても素敵な笑顔で僕の礼に応えてくれた事にホッとしながら、ミー兄様の歩調を少しでも煩わせない様にと、気付かれない程度に足を早め歩いた。
僕の足の長さだと、どうしてもミー兄様に合わせてもらう形になってしまうからね。
年齢もあるけど、僕が標準より小柄な事もあって、兄様との歩幅がかなり違うのだ。
それでも僕の家族はみんな、自然に僕に合わせて歩いてくれるんだけどね。
本当にみんな優しくて素敵なんだ。
でも早めに歩いてるのは気付かれない様にしないと、すぐ抱き上げられてしまう。
そこだけは気を付けなくちゃ。
父様の指示で、控え室に待機していたルーも伴って、初めて訪れる父様の執務室に辿り着いた。
詳しい仕事内容は未だに教えて貰っていないけれど、父様の執務室は内宮の奥の方にあった。
執務室、と言うからには個人に充てられた仕事部屋なんだろうけど、扉も重厚で立派。
扉前には宮廷騎士の団服を纏った騎士が立っていた。
王族に仕える宮廷騎士が扉を護っているのには、正直凄く驚いた。
国王陛下直属のお仕事とは聞いていたけれど、僕が思っていたよりもずっと要職みたいだ。
イグリット団長さんが宮廷騎士に目を遣ると、宮廷騎士が3回扉をノックし、僕達の来訪を告げる。
ややあって中から父様の部下の方だろうか?
少し年嵩に見える人が、中から内側へ開くようにして扉を開けて現れ、一度こちらに礼をしてから、僕達を中に入るよう丁寧に促してくれた。
扉の中は直ぐに父様の執務室ではなく、何も置かれていない部屋になっていて、壁際にまた1人、宮廷騎士が控えていた。
もしかしてここは、ボディチェック等をする部屋だろうか?
存在は知っていたけれど、まさか父様の執務室にあるなんて…。
ますます父様がどれ程の要職なのかと考えてしまう。
父様のお仕事って一体…。
因みにミー兄様は少しも驚いた様子がない。
そして僕達はチェックを受けることはなく、そのまま父様の部下であろう人が更に奥にある扉をノックをして、応えを確認してから開けた扉の中、父様の執務室にそのまま足を踏み入れた。
兄様に続いて部屋に入ると、扉のすぐそこに父様がいて、認識した傍から掬い上げるようにして、僕の事を抱え上げてしまった。
その顔は、邸でいつも見ている少し脂下がった笑顔。
僕にも分かるほどにデレッとしているように見える。
それでも美形のままなのだから、本当に凄いなと思う。
そんな父様の顔を見て、そのまま入ることなく礼をして出て行こうとしていた部下だろう人も、手前の部屋に控えてこちらの様子に目だけを向けていた宮廷騎士の人も、驚きに目を見開いていた事を、父様に抱え上げられて背を向けていた僕は知らない。
辛うじて目の端に映っていたイグリット団長さんが、軽く目を見開いて父様を見ていたのには気が付いたけれど。
子供が3人いるとは言っても、父様も相当な美形だ。
そりゃこんなに蕩けた笑顔してたら、見入ってしまうよね、とこの時僕はまた1人で納得していた。
「レティシオ、初めての訓練疲れただろう?
レティシオの好きな茶葉も揃えてあるし、茶菓子もあるから奥のソファーに座って少し休憩していなさい。
ルデニアル、奥に揃えてあるから、レティシオの気分を聞いてお茶を入れてあげてくれ。」
抱え上げた僕の頬に自身の頬を一頻り擦り付けて満足したのか、僕を降ろしてルーにお茶の指示をしながら奥に備え付けてあった、これぞ応接セットといった風情のどっしりとしたソファーセットに促される。
何で父様の執務室に、僕の好きな茶葉が揃えられてるんだろう?と不思議に思いながらもリディを連れてソファーへ向かった僕を、柔らかい笑顔で見送った後、眼差しは鋭いものに変えて笑顔の消えた無表情で、未だに固まったまま退室していなかった部下だろう人に「いつまでそうしているつもりだ」と離れた僕には聞こえない、低く冷たい声で放った一言にも、僕は気付かなかった。
ルーが教えてくれた、父様が揃えたのだろう茶葉は、本当に僕のお気に入りばかりで、その中にはつい先日新しくお気に入りに入ったばかりのものもあって、その種類の充実ぶりには驚いた。
ここに来たことのない僕の為に揃えていたとは思えないし、もしかして父様の最近の好みが、僕と似てきたのだろうか?
この世界にも当然の様に珈琲はあって、父様は家の執務室で仕事をしている時は紅茶よりも珈琲を好んで飲んでいると聞いていた。
だからてっきりここでも珈琲を飲んでいると思ってたんだけど…。
もしかしたら来客があった時用に、どちらも揃えているのかもしれない。
さすが優しく気配りできる父様だな、とその人間性にホッコリと胸が温かくなる。
ルーに、先日僕のお気に入りに仲間入りした茶葉をストレートで飲むことを伝えて、ソファーに少し深めに腰掛ける。
リディが僕の隣に座りたがるので、一人掛け用ではなく、三人は優に座れるだろう1番大きいソファーに座っている。
父様達は執務机の方で話をしているみたいだけれど、僕のいるソファーセットからは、ここを区切る様に置かれた衝立のせいで何も見えない。
話している雰囲気は伝わってくるけれど、会話の内容まではここまで届かないから、大人しくルーがセットしてくれた紅茶や茶菓子を楽しむ事にした。
茶菓子も僕の好きな種類の物が一口サイズと可愛い大きさで、数種類置いてあった。
ゆっくりと美味しいお茶とお菓子を堪能しながら、父様達の話し合いが終わるまで、リディの甘えたタイムを享受しながら待つことになった。
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