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PART2
残業で2人きりに
しおりを挟むいつも月曜日になると、早く今週が終わらないかなあと憂鬱に過ごすものだが、今日に限っては時間が1分でも多く欲しかった。
確かに早く帰りたいのも事実なんだけど、この書類を終わらせなければ帰れるものも帰れない。
クッソォー!!早く終わらせて家で蟹の缶詰食べながらビール飲みてぇー!!
私は蟹缶とビールの為に額から火が出る勢いで集中しながらキーボードを叩きまくった。
中学時代、引っ込み事案で運動も得意じゃなかった私はパソコン部に所属していた。そこでパソコンに関する検定をいくつか取っており、学生時代からタイピングの速さに関しては自信があった。
私は指に全神経を集中させて、文字を打ち込み続けるマシーンと化する。
打ち込み続けること数時間。書類をめくると、デスクの表面が見えた。すなわちそれは全ての書類のデータの入力が終わった事を意味していた。
ふとデスクトップの右下のデジタル時計に目をやると、20:15と表示されている。
「課長、終わりました……!」
課長は自分のパソコンの画面から目を離すと、『え?』と言った拍子抜けの顔をして私を一瞥して書類の山に視線を移した。
「……案外、早く終わったな」
「はい、気合いで終わらせました!ひとまず、本日は退社しても宜しいでしょうか?」
「ん、俺も帰る」
「課長もお帰りですか?」
今退社したら私と帰るタイミング一緒になるじゃん……気まず。
そう思案していると、課長はそれを感じ取ったのかこう言った。
「何?俺が帰り一緒だと気まずい?」
「い、いえ、そんな滅相もございません!
帰ります一緒に!」
「お前って分かりやすいよな。ほら、行くぞ。電気消せ」
全く、人使いが荒いんだから。
私はオフィスの電気を全て消すと課長と共に階下へ降りる為、エレベーターに乗り込んだ。
ん?そう言えば今朝夢の中で課長と2人きりになって、エレベーターが停止して防犯カメラも気にせずに後背位で激しくヤリまくってたんだっけ。
久々の残業で頭をぼうっとさせながら遠い昔を思い起こすように、今朝見た夢の内容を反芻させてみたものの、頭が疲れ果てていて珍しくエロい気分にならない。せっかくエレベーターで2人きりの夢のシチュエーションなのに。
課長が『1』のボタンを押すとエレベーターは2人を乗せて静かに階下へと降りて行った。
ふとガラス張りの窓際に目をやると外はすっかり暗くて、街のビルの数々の灯りがイルミネーションのようにキラキラと輝いていた。
私は今ここで必要とされて、人々の役に立つ歯車の一員となれているのだろうか。あんなデータの入力位で、こんなデカい会社の運営の礎となれているのだろうか。
宝石箱をひっくり返したような街の輝きを見ていると、自分もこの光の一粒になれているのか?そんな風に問われているような気がしてきた。
「……午前中にも聞いたが、何で俺がお前を入社させたか分かるか?」
階数のボタンの方を向いてる課長が突然口を開いた。
「え……っと。それは、面接の時の私の気合いが誰よりもあったからでしょうか?」
「ああ、そうだな。
あとは単純に、能力を買って入れたんだよ。職務経歴書を見ても、持ってる資格を見ても、他のお飾りみたいな新卒よりかは充分な戦力になれそうだと思った。それに、『矢でも鉄砲でも持って来い』とでも言うような眼をしてた。コイツ、生半可な気持ちで挑んでるわけじゃないんだなって。俺はそういう奴好きだからさ。
別に金のために仕事してる奴を批判するわけじゃないが、金に人生振り回されてる奴とか面白くねえじゃん。俺は何にも振り回されたくないし、自分のために仕事してる。お前もそうだと思った」
か、課長…!私の事そんな風に思ってくれていたの……!?
残業のせいで疲れ切った頭に栄養剤が注がれたようだ。その言葉だけでお手軽にも疲れが少し回復した。
それにしてもやはり課長は若いなあと感じたのも事実。仕事を純粋に愛する事ができるのは若さゆえの特権だと思うから。
課長の仕事への真っ直ぐな想いで、この大きなビルの灯りも外から見れば一際大きく放っているに違いない。
「そんな、勿体ないお言葉です。でも、確かに生半可な覚悟でこんな大企業に履歴書を送ったわけではありません。それは課長のお言葉通りです。私は、自分の人生を再構築してイチからやり直したかったんです。この書類選考や面接で落ちたら人生後は無い、そういう覚悟で私は挑みました」
課長は階数のボタンから目を離してガラス張りの窓側にいる私の方へ、やっと視線を寄越してきた。
そして照れ臭そうに天井に視線を移して言葉を続けた。
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