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第七話 ついてくる宣言のキツネ、銀乃
しおりを挟む言葉が終わるか終わらないかのうちに、コリシと名乗ったイケメンはポケットに手を突っ込み、踵を返して踏切と反対側に歩いていく。その後ろ姿を見送りながら、
「……帰っちゃった」
「帰っちゃったね」
私と銀乃は顔を見合わせる。
「銀乃、私たちも帰ろっか」
私は銀乃を抱き上げる。くにゃっとあったかい動物の体温が手のひらから伝わってくる。
滑るような毛並みが、柔らかく手に伝わる。
「え、なになに、さあや僕をどうするの」
あっさり抱きかかえられながら、銀乃がはなづらを私に向けて、黒いキラキラした目で私にきいてくる。
「一緒にかえるの」
そのまま銀乃を自転車のかごにいれる。
「わわ」
私はそのまま自転車をひいて踏切を渡り、自転車にまたがって勢いよく漕いだ。
「わーお、いいね」
風を切って走ると、銀乃が嬉しそうに少しだけかごから身を乗り出した。
まかせて、と私は頷いた。そして、もっと勢いをつけて自宅に向かって自転車をこいだ。
◇◇◇
「それで、今日は踏切で何があったの?」
お風呂から上がった私に、銀乃は小首をかしげて問いかけた。
「アルバイトが終わって、踏切にいたら、怪しいお化けが私に触ろうとして……、そしたらあのコリシさんが来て助けてくれたんだ」
「怪しいお化け……たぶんまだここにとどまる人間の魂じゃないかなあ。普通は見えないはずなんだけど」
「見えたよ」
「君、魂が不安定だからねぇ。たぶん、現世と幽世のあわいが見えるようになってるんだと思うよ」
「どういうこと?」
「半分死んでるみたいな感じってこと」
「ええ……私ってやっぱりほんとに……死んだんだ……」
「えー信じてなかったの君。
まぁでも、そんなに心配しなくていいんだよ。
腕に鈴をつけたでしょ?」
私は思わず腕を見る。銀乃がくれた鈴があった。
「これ?なんかとれないよね。お風呂に入る時困ったんだけど」
「とれないように結んだんだからはずしちゃだめ。お風呂の時も外さないでよ。
まぁそれが君を守ってくれる。これのおかげで、そういう変なのがたまに見えるかもしれないけど、君に触れたらきえちゃうから。
お守りだってついてから。だからあのへんなコリシ君の出番はなかったはずなんだけど」
気に食わない、という顔をして、銀乃は鼻を鳴らした。
「あの人、なんだったんだろう、コリシさんが出てきて、お化けに触れたら消えちゃったんだよ」
「彼には気を付けて。あれは狐、変化狐だ。悪いやつじゃなさそうだけど、変化の類は人間によからぬことをするものもいるし、何しろ君は人生で一番死にやすいときだからね。
変なのに関わらないこと」
「人間じゃないんだ」
「うん、ほら彼、帰り際にうか様の名を出したでしょう?ということは僕のお仲間さ。成田山って言っていたから、あのあたりの変化狐だろう。
いい?とにかくまたコリシ君がうろついていたりしても関わっちゃだめだよ。悪い感じはしないけど、警戒はしておくこと」
「うーん、でも、お化けにあって、すっごく怖いなっておもったところで助けてくれたのに……お礼くらいはいいたいかな」
「だめ」
にべもなく銀乃は言った。
「……とはいえ、今日のことは僕も悪かったな、とは思ってるんだ。
さあやにお守りを付けたから、大丈夫だって思っていたけど、大丈夫でもお化けなんかにあっちゃったら、怖いよね。コリシ君が君を助けてくれたのはそういった点ではよかったのかも……?
うーん」
銀乃は最終的には自分に向かってつぶやくように言うと、
「ま、次から君がお化けに合わないよう、ぼくが何とかするよ!」
と明るく頷いた。
「えー、どうやって?」
「君がどこかいくなら、それについてくね」
「え、本気?」
「本気ですよう」
「野犬として通報されちゃうんじゃ」
「そこは何とかしますから大丈夫です!それについてくっていっても、送り迎えくらいだからさ、心配しないで」
「あ、いやいいよ、お化けなんて怖くないし、四六時中ついてこられるのも私困るし……」
私は自分のベッドに入ると、頬杖をついて銀乃に言った。
銀乃はぴょこんとベッドに飛び乗ると、私のまくらのあたりで丸くなる。
「あっ、布団に勝手にのっちゃ」
「えー駄目なの?僕ちゃんとおふろにも入ってるし、そもそも神使だから素晴らしき神威で清涼かつ美しく心身は保たれているからベッドに乗ってもいいと思うんだけど」
「…はいはい」
まぁいいか、と私はおもった。昔犬を飼っていたとき、犬をベッドに入れていたもので、実はあんまり気になっていなかったというのもある。
「ねぇねぇ、君、明日はどんな予定なの?」
銀乃の丸くなりながら私にいった。
「明日はバイトもないし、おうちでゴロゴロしている予定」
「そっか。じゃあ僕、朝昼晩御飯は用意しておくから、それ食べてね。僕は夜から少し出かけてくるから」
銀乃が出かける、というのは初めてだった。
「僕がいない間、出かけたりする?」
「うーん、買い物くらいにはいくかもしれないけど…」
「ふふ、そうかい?
じゃあお化けとかにあったら、怖いだろうしさっさと逃げること。本当は出かけない方が望ましいといえば望ましいけどね。まぁ君がよほどのピンチになったらその鈴が知らせてくれるはずだから、ぼくがかけつけるし、心配しないで」
「この鈴、そんな力があったの?」
「あったんです。ボクはすごいんだからね」
銀乃はそういってふふんと鼻を鳴らした。確かに狐が人間に変身している時点ですごいもんなぁ、と私は思った。
「そろそろ寝よっか」
「そうだね、おやすみ、さあや」
銀乃はもぞもぞと枕もとで丸くなると、しっぽの付け根の上に顎を置き、静かに目を閉じた。
私は部屋の電気を消すと、掛布団をかけて、おやすみ、銀乃と声をかけた。
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