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第八話 キツネ&大金っ!
しおりを挟む「ねぇさあや、なんか小っちゃいポーチとかかしてくれない?お化粧品とか入れるやつでいいからさ」
朝ごはんを食べ終えると、掃除をしながら銀乃が私にそういった。
「いいけど、何に使うの?」
「アルバイトをするのに使いたいんだ」
犬、じゃなかった狐が、アルバイトを……と思ったが、まぁ銀乃に限っては炊事洗濯すべてを行っているくらいなので、私はもう何も言うまいと思って理性をねじ伏せた。
「えーとね……」
私は自分の化粧ポーチを探す。黒のファーでできたポーチから、キャンメイクのファンデーションとハイライトとリップグロスとアイライナーとアイシャドウを取り出して、銀乃にポーチを差し出した。
「なんか……思ったより小っちゃいね」
「まずいの?」
「あんまり小さすぎるとね……うーん入りきるかな……??」
「そもそも入れる化粧品があんまりないもん」
「そうだね…化粧品、まさかの5個しか入ってなかったもんね…。
女の子ってもっとおしゃれ大好きなイメージだったけど昨今の女の子って、そういう感じなの?」
「わかんないけど私はそう」
「そっかーわかった、とりあえずこれ、借りていくね」
銀乃は黒のふわふわなファーポーチを受け取り、とことこと持って行った。黒い狐が黒ファーをもっているため、なんだか一体化してみえる。
私はなんに使うんだろうなと思いながら、はいはい、と返事をした。
◇◇◇
夕方、銀乃は、ポーチを背中にくくりつけつつ玄関に私を呼んだ。
「ねえ、さあや、ボクこれからお仕事してくるから、夕飯は冷蔵庫の中だよ。
あとは体に気を付けて、何かあったら飛んで帰って来るけど、何もないことを祈るよ。
あと、出歩いてもいいけど、ぼくの本音としては家でおとなしくしていてほしいな、お化けとかに会うの、心配だし。さあやは読みかけの本もあるみたいだし、それ読んでたらいいんじゃないかな」
それとなく反感を買わない程度に私に指示する銀乃。ちょっと策士だけどうまいな……。
「そんなに心配しなくて大丈夫だから……そもそも今日は家にずっといるし……」
「よかった!じゃあ、僕バイトにいってくるね。多分帰りは遅くなるから、ぼくの帰りを待たずに寝てていいよ。危ないから玄関のカギはかけておくこと。部屋の窓のカギだけ開けておいてくれれば、僕かえってこれるから」
「わかった、じゃあ間違えて部屋の窓のカギ、しめないようにするね」
「それじゃあ宜しく!…あ、玄関開けてくれる?」
「はいはい」
小さな狐には玄関の扉を開けるのは難しいだろう。私は言うまま扉を開けてやった。
銀乃は嬉しそうに一回りすると、黒いポーチをせなかにしょって、玄関の扉からすっと姿を消した。二階の階段をトントンと降りていく獣の足音が遠ざかっていった。
◇◇◇
銀乃がいないのは久しぶりだった。誰もいない部屋はとても静かで、銀乃って口数多かったな、なんて私は誰もいない部屋で少し笑ってしまう。
六畳一間、キッチンは玄関横に備え付けてある私の小さな部屋は、ちょこちょこと小走りに動く銀乃がいないと、しんと静まり返っていた。
私は、一人が寂しいと思ったことがない。たぶん、人生で一度も。一人は落ち着くし、いつも一人が好きだった。一人で考え事をしたり、読書をしたり、動画を見たり、それで何を思うことはなかったのに。
静かだなぁ、と私は思った。
なんだか静かで、それは少し寂しいって気持ちに近い様な気がした。ああ、私にも、こういう気持ち、あったんだなぁ。
まぁ銀乃、かわいいもんね。ちょっと口うるさすぎるところはあるけど、と私は思い、冷蔵庫の中のお夕飯を、一応確認しようと冷蔵庫を開けた。
冷蔵庫には小さなおにぎりと、冷やしたお味噌汁がはいっていた。ほとんど食材は空で、銀乃はうちにあるありもので、あれだけ作っていてくれたんだよなぁって思って、なんだか胸がぎゅっとした。
◇◇◇
テレビが今日のニュースをまとめている。夕飯を食べ終わり、お風呂に入って、まだ銀乃は帰ってきていなかった。
もう22時を過ぎているのに、と私は思った。
あんなに小さい狐が、こんな遅くまででほっつき歩いていて大丈夫なんだろうか。はっきり言ってだいぶ心配だ。道ではねられたりしていないよね、とよからぬ心配が頭に浮かんで、いやいや違った、私をはねたのが銀乃だよね、なんて思いながら、私は2Fの窓からアパートの下を覗いてみたりする。
いや、人の言葉を話して炊事洗濯どんとこいで神さまのお使い?もしていたという銀乃が、そんな事故にあうはずないよね、と自分に言い聞かせ、私は細く開けた窓を眺める。
何のバイトに行ったんだろう、と私は思う。狐に可能なバイトって……うーん、さっぱり思いつかない。何するんだか聞いておけばよかった。最悪どこに行くかくらい聞いておけばよかった。
私はスマホのSNSの画面を見ながら、小さくため息をついた。
◇◇◇
25時をずいぶん過ぎて、細く開けた窓が、ガタガタっとなった。
「銀乃」
私は窓辺に駆け寄ると、狐の銀乃の黒い手が、窓のふちにかかっていた。
「うふふただいまさあや」
にゅっと黒い鼻づらが差し込まれて、銀乃が顔で窓を開けようとじたばたしていた。
「ちょっと銀乃、おっこちちゃうよ!」
ここは2Fだ。私は慌てて窓を大きく開けて、窓にぶら下がる形になっていた銀乃をつかみ上げた。
「大丈夫なのに~」
「絶対大丈夫じゃない!」
慌てて銀乃を抱き上げて、部屋におろしてやった。銀乃は体を振り、首から紐で引っ掛けたポーチをおろすと、
「大丈夫だよ、僕が空から落っこちることなんかないんだからね~」
とくるくると跳ね回った。どうも様子がおかしい。この数日で銀乃がこんなに飛んだり跳ねたりしてることなんてなかった。
ご機嫌な銀乃は笑っているばかりだったが、その毛皮からは明らかにお酒と、そしてたばこのにおいがした。
「銀乃、銀乃、お酒……飲んだ?」
「うふふどうかな~?」
「……いったい何してきたの?」
「そんなに眉を寄せないでよう。それより君にポーチを返すね」
銀乃は床に置いたポーチのチャックをざっと開け、中身を咥えて引き出した。
「ひぇっ……!」
私は絶句した。
中からでてきたのは札束だった。数えてはいないけど、明らかに束になった見たことのないレベルの札束で、輪ゴムで止められていた。ちらっと見えた表紙は、すべて福沢諭吉。
10万20万なんていうレベルじゃなかった。
「……ぎ、ぎ、銀乃!これどうしたの!?まさか」
泥棒とかしてないよね!?
と思ったのを見越したのか、
「盗んだりなんかしてませんからね」
と銀乃はむっとしたように言った。
「じゃあどうしたの……」
「ちゃんと僕、働いてきたんだから。偉いでしょ?
これは君への賠償金だよ…うーん、賠償金……ふふっ」
銀乃は私の質問には答えず、そのまま床で丸くなる。
つついてもゆすっても起きない。仕方ないので、銀乃がお気に入りにしていつも丸まっているタオルの上にそっと銀乃を置いてやる。銀乃はそのまま寝息を立てて眠ってしまった。
どうしよう…どうしようこのお金……。
私はしばらく部屋をうろうろすると、念入りに玄関のかぎをかけ、窓の鍵を閉め、見たことないレベルの札束に恐る恐る触れ、ベッドの下に差し込んで洗濯したばかりの私の上着をかけた。
電気を消して布団に入ってからも、私はしばらく寝付けなかった。
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