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第十三話 銀乃はコンっ!
しおりを挟む「あ、はい」
大変、思わず聞きほれてぼうっとしてしまった。
「コーヒーとケーキのセットで、このおすすめの古典チーズケーキっていうのをお願いしてもいい?
コーヒーはそうだなぁ、甘いのがいいかも、どれがいいと思う?ねぇ、さあや」
「え、はいっ?」
名前を呼ばれた、なんで私の名前を、と思った瞬間イケメンは、ひそひそ声で私にささやいた。
「もしかして、君、わかってないの?」
わかっているとは?
という内心の突っ込みも終わらないうちに、
「さあや、僕だよ、僕。ぎ、ん、の」
とひそひそ声のまま彼は言った。
「んなっ……!」
絶句するとはまさにこのことであった。つられて私もひそひそ声になる。
「どうして、なんで銀乃、これどういうこと」
「今日バイトさきに迎えに行くって言ったでしょ」
「そんな、まさか、なんで!?せめて狐で来ないですか!?」
意味不明に敬語になった私に、銀乃は苦笑いした。いや、苦笑いしたいのはこっちだから。
「狐の姿できたらみんなびっくりしちゃうでしょ?」
いや人間の姿でも超絶びっくりなんですけど。
「いいからさあや、注文お願いしてもいい?コーヒーは君のお勧めでお願いしようかな、甘いのがいいんだけど」
私にお構いなしに銀乃はにこにこしていた。
「え、ええと甘いのでお勧めだと、カフェラテ……」
「じゃあそれにするよ。お願いね、さあや」
はい、といった私に、ありがとう、と銀乃が緩やかに笑う。 その笑顔はとても魅惑的だった。伏せたまつげが意外に長い。
あの狐の銀乃、のはずなのに。これはいけない、何かいけない、とつぶやきながら私はキッチンに戻った。
◇◇◇
キッチンに戻ると、リコさんが待ちかねたように私を迎えてくれた。
「ね、すごいイケメンでしょ」
「はい……」
頭が痛い、知っている人だといったほうがいいのだろうか。しかし、知っている人というより、知っている狐であり、しかも同居しているとかどう言ったらいい…?
いや、これは言わないほうがいい気がする。リコさんすぐいろんな人に言う癖があるし……。
「でしょ、やっぱりそう思うよね。イケメンすぎじゃない?彼……何者??もしかしてこの間の人と兄弟とか??
それにしてもメイナがいないときにこんなことが起こるなんて……残念……メイナもいたら絶対に面白かったのに…!」
ちなみにメイナさんは今日は休みである。
「ちなみにイケメンは何を頼んだの」
「カフェラテです」
「うっ、ブラック飲みそうなのに何それかわいいっ……!やるわね!!ギャップ萌えってやつなの!?レベル高くない!?」
それは私も思った。
「もうちょっとこの話はしたいところ……なんだけど、閉店準備しなきゃ……。
私、お外の片づけをしてくるから、さあやちゃんお客さん対応お願いね」
そういってリコさんが外の片づけに出ていく。時計は20時43分を指していた。
私はカフェラテを入れ、ケーキを準備して銀乃(?)のところへ運ぶ。
「はい、銀乃」
「ありがとう。いただきます」
「閉店は21時だから、それまでに食べてね」
「わかってるよ。君と一緒に帰らなきゃだもんね」
銀乃はそう言ってニコッと私に笑いかけた。
ま、まぶしい。
え、なんだろう、どうしよう、形容しがたい恥ずかしさのようなものが心の中に生まれた私は、とりあえず手短にうん、というと、ささっとキッチンに戻ったのだった。
20時55分。あと5分で閉店だ。すっかり暗くなった外から、リコさんが戻ってくる。
洗い物もお片付けも全部終わって、レジの横に付けたベルがちりん、となった。
「お会計を」
銀乃の声。
あ、はい、とリコさんがレジ打ちに出てくれる。
キッチンからお会計をする銀乃が見える。すらっとした体つき、やっぱり見とれるほど美しい姿をしていた。絵から抜け出てきたみたいだった。
お会計を済ませた銀乃が、キッチンにいる私のほうに顔を上げ、目を向ける。視線が合った。銀乃はその瞬間、にこっとかわいらしく笑った。
「さあや、僕外で待ってるから、一緒にかえろ」
『え?』
というリコさんと私の声がハモった。私に振り返るリコさん。その目は、
『ちょおま、この人外のイケメンと知り合いかよ~!!一緒にかえるとか!?どういう!?』
ということを物語っていた。
ちなみに私は同じ瞬間、
(銀乃ほんとちょっと空気読んで~~~~!!!)
と思っていた。
「え、二人は知り合い?」
私と銀乃を交互に見て問うリコさん。
「ええ、そうですよ」と銀乃が答える。
「僕、さあやのいとこです。ね?」
ふぁ?
と思ったが、銀乃が合わせて合わせて!という感じに目配せを送るので、私はとりあえず同意した。
「あっ……そうなんです」
「え、そうだったんだ。すごおい。あなた、結城さんのいとこさんなんだ」
リコさんは、かわいらしく銀乃に一礼した。
「私、東リコっていいます。よろしく。またお店に来てくださいね」
「あ、これはこれは丁寧に、僕は銀乃っていいます」
「銀乃ってお名前ですか?苗字?どっちにしても珍しい……」
「あっ、えーっと、苗字かな」
たぶん思い付きで銀乃はいい、リコさんはすかさず、
「へーかっこいい苗字ですね!お名前も気になる」
と言葉を継いだ。銀乃が言葉に窮した気配があった。
「銀乃の名前はコン、です」
「ああ、そうそう、僕の名前、銀乃コン、です」
はっとしたように銀乃は私の言葉を繰り返し、リコさんににっこりと笑いかけ、
「それじゃ、外で待ってる」
そう言い残して、カランカランとベルを鳴らし、銀乃は店の外へと出ていった。
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