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第十九話 町へ
しおりを挟む大学生の夏休み期間中とはいえ、普通の平日で、都心の町であってもぜんぜん込み合っていなかった。
それでも、銀乃がこっちこっちと私を連れ出す若者向けのファッション街は駅よりはこみあっていて、私くらいの年の、たぶん大学生でにぎわっていた。
秋の初めだけれど、テナントは冬支度まっしぐらだった。厚手のコートに色とりどりのセーター、コーデュロイ。目にも鮮やかな洋服がならんでいる。
「ねぇさあや、これ可愛くない?」
いくつものテナントが並んでいるうちから、ふわふわの素材でできた、白いセーターに視線を向けて銀乃が言う。
「それ、女の子の服だよ」
「もちろん、君がきたら似合うんじゃないかなってこと」
「そういうのいいから。銀乃の服を選ぼう?」
わかったわかった、と銀乃はいい、私たちは込み合うデパートのエレベーターに乗り合わせる。
5回で降りた銀乃はそのままユニクロに足を踏み入れた。
「銀乃ってユニクロで服買うんだ」
意外と安い服を選ぶんだな、と私は思った。確かになんていうか、銀乃スーパーのセール品買ってきたりと堅実な狐っぽい感じあったもんね。
「うん、シンプルな服が多くて、僕、ここ好きだよ」
銀乃は屈託なく言うと、にこっと笑った。イケメンはユニクロを着ていてもイケメン、と誰かが言っていたことを思い出す。なるほど。銀乃はそれを素で体現していた。
「冬用のコートがほしいんだ~黒か~灰色か~薄茶色がいいなーなんて思ってるの」
銀乃が手に取ったのは、シルエットがはっきりした、形のきれいなジャケットコートだった。
「銀乃、すごく似合いそう」
「どれがいいか、さあやに見てもらいたいんだ」
「いいよ、ていうか、服、神様の力でどんどん出せるわけじゃないの?」
「うーん、僕が買ったり奉納されたりしたものはね~僕がどうこうできるけど、神様の力でどんどん出せるかって言うと出せないよね!
今着てる服とカバンと、あと着物はいっぱいあってさ、僕、着物好きなんだけど今着ると目立っちゃうじゃない?だから普通の服がほしいんだ」
言いながら、銀乃は黒いコートを羽織る。
「あ、似合う」
「どっちがいいかな?」
手持ちのブラウンのコートと、グレーのコートを胸に当てて銀乃が言う。
黒はかっちりしてかっこいい。ブラウンは軽やかな印象、グレーは優しい感じ。
「グレーが好き。銀乃は目が銀色だから、グレーと合わせると優しい感じがしていいかも」
「じゃあグレー」
「わわ、まってそんなすぐ決めちゃうの?」
「だって君がいいって言ったんだもん」
楽しそうに銀乃は笑って、
「ほかのもえらぶから、そっちも見てよ」
「神様の狐ってなんか……こういうお買い物とか詳しくなさそうなのに」
「僕、お金がある時は、結構現世にお買い物来てるからねぇ」
銀乃はこっちこっちと私を呼んで、私にトップスとかパンツとかを次々とどれがいーい?ときき、最終的に黒のデニムと細身のジーンズ、ふわふわした毛糸のカーディガン、グレーの長袖、黒のタートルネックにターコイズ色、からし色の長袖を買うことにした様子だった。
ここまでおよそ30分。
「銀乃、買い物早いね……」
「うん。たぶんそういう性質なのかも。ね、それよりあそこにあるベロアっぽいスカート、かわいいね~」
「あ、ほんとだ。冬だもんね。もうベロア出てるんだ。かわいい」
「君ああいうの持ってる?」
「ベロアのスカートはもってない」
「じゃあ何色が好き?」
白と黒と茶と赤のスカートが並んでいた。 私は何の気なしに、
「赤が好きかも」
といった。
自分じゃきないけど、という前に、銀乃は私の横をすり抜けて、売り場の赤のベロアスカートを手に取っていた。
「確かに赤、かわいいよね。僕も好きだよ、僕らのお社の色だね」
そしてそれを当たり前のようにかごに入れる。
「銀乃、私今日は自分の服はかわないから」
「うん?僕が買うんだよ」
「え、なんで、そんなのだめ、銀乃は銀乃の服を買いなよ」
「まってよさあや、なんで遠慮するの」
「だって私の服を銀乃が買うとか」
「あのねさあや。さあやは今日、僕の服を買うの、手伝ってくれたでしょ?そのお礼」
「でも」
「でもじゃないの。レッドのベロアスカート1390円だよ、そんな遠慮することないじゃない。13万9900円とかじゃないんだからさ」
二の句が継げない私に銀乃はそう言って、ちょっとまってて、とお会計に行ってしまった。私はぽかんとしたまま、その場に取り残されたのだった。
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