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第二十一話 初クレープ記念日

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マフラーとブローチのお会計を終え、私たちはショッピングモールをぶらぶらと歩く。

「ねぇ、これ食べない?」

銀乃が指さしたのは、通りがかりにあった、スタンド式のクレープ屋さんだった。

「あ、てか君、おなかすいてる?」

「ちょっとすいてる、かも」

「やった、それじゃあ一緒にたべよう?」

私はうなずいた。銀乃はさっそくクレープのメニューを幸せそうにじーっと眺めている。
私は、中学生だったころ、同級生たちが帰り道のクレープ屋さんで、こういう風に楽し気にメニューを眺めていたのを思い出した。

「ほら、さあやもみてみて」

おすすめのイチゴクレープ、定番のバナナ、ティラミスの乗ったクレープなんてあるんだっていうのは驚きだ。
これ、全部乗るんだろうか?

「すごい、いろんなのあるんだね」

「君、もしかしてクレープ食べるの初めて?」

うん、と私は言った。

「それはいいね、人生で初めてクレープを食べたとき、僕すごく感動したんだ。
さあやもきっと嬉しくなるよ」

と、銀乃は心底嬉しそうに、にこにこにこにこした。

「そういうもん?」

「そうだよ、ほら選んで」

せかされてメニューを眺める。大福入り、ティラミス入り、ブラウニー入りにアイスクリーム入り、抹茶にイチゴにバナナ、クレープの中にこんなに入るの?ってくらい種類がある。
すぐに選びきれない、という気持ちと、なんだか今更わくわくする気持ちがした。

「うーん待ってね」

と数分私は悩んだ。悩んだ割に、結局一番安いイチゴとクリームの300円のクレープを頼んだ。

「あ、待って、その注文変えま~す、イチゴレアチーズケーキスペシャルアイスとクッキーのせで。
で、僕はフレッシュイチゴ大福ブラウニーのせで」

頼んだ瞬間、超早口な銀乃が横から登場し、私の注文を変え、ついでに自分の注文を通した。
そしてすかさず全部払ってしまった。

「あ~銀乃」

「だってさあや、アイスとチーズケーキ乗せようかすごく迷ってたでしょ」

「わ、わかっちゃった?」

「わかっちゃったー!それに人生初クレープなんでしょ。豪華にいこう、豪華に!」

銀乃は最高にイケメンな笑顔でにっこり笑った。私が銀乃に差し出そうとした、300円を握った手を押し返すようにして。

「だからここは僕のおごり。初クレープ記念日だからね」

店員さんが作った二人分のクレープを銀乃は受け取り、

「ほらほらこっちこっち」

と、クレープ屋さんに併設された長椅子に座って、自分の隣に私を呼んだ。

「はい、こっちが君ね。で僕はこっち。あはは、アイスも入ってるしケーキもはいっているとすごいボリュームだね」

「……」

アイスが3つものせられた上にイチゴがちりばめられた私のクレープは、確かにすごいボリュームだが、銀乃も負けていない。注文後にブラウニーが乗り、大福ましましにしていた銀乃のクレープには容赦なく大福がつめつめに入りその上に巨大なブラウニーが。すごいな……。

「…銀乃のクレープもたいがいじゃない…?」

「だね、早く食べよ!特に君のはアイスがとけちゃう」

「あ、ねぇ銀乃、なんかごめん、こんなに私……」

大福にかじりつこうとしていた銀乃が、私に視線を向けて、困ったように笑った。

「どうして謝るの?」
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