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第二十二話 ごめんじゃなくて、ありがとうが好き

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「え、うーん、それは……」

「僕はね、こういうとき、謝られるよりお礼を言われるほうが好きです」

銀乃はそう言って笑った。

「ごめ、じゃなかった、ごちそうしてくれてありがとう、銀乃」

「どういたしまして」

ああ、美青年。とろけるように微笑むと、銀乃は、はくっ、と音が聞こえるくらい、おいしそうにクレープにかじりついた。
それにしても、大柄な男子が、身をかがめ、目を細めてクレープを食べている姿はとてもかわいくて、私はこっそり笑った。

「おいしいね」

「……おいし」

満足そうにもくもくと銀乃はクレープを食べる。ふと思いついたようにこっちを向いた。

「ねぇねぇさあや。今日、僕夕飯、外で食べようと思ってて」

「うん」

「そこは一人で入っちゃダメなお店なんだ。だからついてきてくれない?」

と、銀乃に言われた瞬間、私は真っ先に財布の心配をした。一人で入れないお店って、何だろう。すごい高いんじゃないだろうか。
そして、それに気が付いて、恥ずかしくなった。私はいつもお金のことばっかりだ。どういいだそう、と思った瞬間、

「付き合ってくれるなら、お代は僕が出すから」

見透かしたように、銀乃は柔らかくにっこり笑った。

「……ダメだよ、おごられてばっかりだもん」

私がださなきゃ。出せないなら断らなきゃ、と思った。クレープならまだしも、ご飯はもっと高い。
そう思って銀乃を見れば、自分のつま先を見つめものすごくシュンとしていて、断るのは銀乃に悪い、とも、その瞬間思った。
私はどうしたらいいかわからないまま、もう一度、それはだめ、とだけ言った。

「困ったな、だってもう予約しちゃった。僕どうしてもそこにいきたかったんだ、すっごくおいしいってきいてて、今日お夕飯食べるの、とっても楽しみにしていたんだよ」

ねぇだめ?と銀乃は私をのぞき込んだ。

「だから助けると思って、一緒に来てほしいんだけど」

銀乃の不思議な輝きをしたグレーの瞳がいよいよ悲しそうに瞬きする。縁取られるまつ毛は美男子のそれ、イケメンの懇願はすごい破壊力があった。だめ、と言い返そうとしたのに、言えなかったもん。

「ねーさあや、一緒に行こうよ。僕せっかく夕飯食べられると思ったのに、悲しいよ」

畳みかけて、銀乃はとても悲しそうなかわいそうな目で私を見た。私はだって、と言いかけて、小さく、うん、といった。
銀乃はそれをききのがさず、ものすごくうれしそうに笑って、クレープを持ったまま立ち上がって私の手を取り、ぴょんとはねた。

「やったー!きまり!いこいこ、僕嬉しいな!」

気恥ずかしいと思った。けれど、いやな気分じゃなかった。銀乃はそのままはっとして周囲の人たちが自分を見ているのに気が付くと、椅子に座りなおして、私に

「えーっと、その、目立っちゃってごめん。クレープ、おいしいよね」

と照れたようにつぶやいた。
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