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第二十四話 コリシの忠告

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黒いワンピースに赤いブーティー、着てきた服はコートが同じだけといういで立ちになった私と、
大量購入した私の服、私のここまで着てきた服と靴を詰め込んだお店のショッパーを持った銀乃は並んでお店を出た。

「さーてご飯に行こう!……と言いたいところだけど、荷物が多いからおうちにおくっちゃうかロッカーに預けるかしなくっちゃ。
君、今日着てた洋服で送っちゃダメなやつとかある?」

ない。一切ない。
というのが顔に出ていたのか、

「……と思ったけど、なさそうだね!」

と明るく銀乃は言った。

「じゃあさ、僕これから荷物と一緒に君が着てきた服も宅配で送っちゃうから、ここでまってて?
あ、いやちょっとまって」

そういって銀乃はショップの袋をがさがさと漁った。

「あ、あった」

というなり私に視線を合わせて少しかがむ。

「な、なにかな?」

「おとなしくしててね」

私の首に、銀乃は、雑貨屋さんで買ったチェックと茶のマフラーをぐるぐる巻くと、私が銀乃に似ているといった狐のブローチでぱちんと止めた。

「これ、銀乃のじゃ」

「うん、でもこれ、さあやにあげる。君、首元寒そうだし、このマフラーも良く似合ってるしさ。あったかい?」

「あったかい、けど…でも」

「ほら、僕には紺色が似合うってさあやもいってたし、僕はもう一つ買ったこっちの紺色のを巻くからいいんだ」

銀乃は袋から紺のマフラーを取り出すと、自分の首にふんわりと巻き付けた。

「それじゃ、ここで座ってまっててね。僕、荷物預けて、すぐ戻ってくるから」

そばの長椅子に座るように言われて、私はおとなしくそこに座る。
銀乃はひらひら手を振り、ちょっと心配そうに何度か振り返り、雑踏の中に消えていった。

「こんなところで何してるんだ」

座ってぼんやりしていたら、隣で声がした。見れば、見覚えのある美男子が立っていた。

「コリシ……さん」

「そうだ」

「あ、その、先日はありがとうございました……。コリシさんこそ何してるんですか」

コリシさんは非常に面倒くさそうに私を一瞥した。

「買い物にきまっているだろう」

まぁ……こんなところにいるってことはそうですよね。

「私も、です」

「そうか」

それきり私たちはしばらく黙っていた。

「こぎれいになったな」

苦虫をかみつぶしたような顔で彼は言い、隣に座った。
あ、はぁ、というような返事をする私に、

「あの狐は今も昔も、女に貢物をするのが趣味なのか」

あの狐、というのが、銀乃を指していることは明白だった。
そうなんですか、と答えながら、やっぱこういうことするの、私だけにじゃないんだな、と私は思っていた。
彼の口ぶりだと、私以外の誰かにも、こうして銀乃なりの親切をしていたのだろう。

まぁ私だけが特別だってわけないよなぁ。銀乃いいやつだし、皆から好かれそうだし。

そんなことを思うと、ちくりと胸が痛んだ。

……いや、ちょっとまて。今も昔も? ということは、昔も、銀乃は誰かに贈り物をしていたってことだよね?
一体それは、だれになんだろう、と疑問が首をもたげた。

「今日はお前に注意をしに来てやった。
あの飛脚狐は油断をしているが、人の魂は、とても弱くもろいものだ。
不安定な魂のまま、出歩くのは危うい。あれは強いが、しかしお前は人間で……つまり、弱くてもろいんだ。
あの狐は、自分の強さを過信している。お前を喜ばすことを優先して、お前のもろさには目を向けていない。どんなに強い者でも、油断があれば、つまずくものだ」

だから、とコリシさんは口を開きかけたが、ちらっと雑踏の向こうに目をやり、はぁ、とため息をついた。

「……まぁそれだけだ。気をつけろ」

いうなり、彼の姿は消えていた。
入れ替わりに銀乃が向こうから私に手を振るのが見えた。ははぁ、銀乃を避けたわけか。

私も立ち上がり、銀乃に小さく手を振った。
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