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第二十六話 キミにあげる
しおりを挟む食事を終えて、私たちは駅へと続く道を並んで歩いていた。
もうすっかりあたりは暗いけれど、街頭はキラキラして、まぶしい。
足元を見ながら歩く。銀乃が買ってくれた赤いブーティーのふわふわが、歩くたびに視界に写る。足元が可愛い。
「今日はすごく、楽しかった」
よかった、と銀乃はニコニコした。
「ご飯まで全部おごってもらっちゃったし、そのうち、すぐには難しいかもだけど、今日の分のお礼、するね」
「んー」
銀乃は私を見下ろして、薄い灰色の目でニコニコした。
「僕にとってはね、君がすごく喜んでくれたら、それがお礼になる感じ」
「そんなわけにいかないよ。銀乃、お金だってたくさん使ってたし……」
「えーとね、さあや。
お金のこととか、気にしなくていいんだよ。君もしってるでしょ、僕、たくさんお金あるんだから」
「お金がたくさんあるとかないとかじゃなくて、銀乃が稼いできたお金だよ」
神様のお使いって、金銭感覚が違うんだろうか?
でもそうだとして、お金はちゃんとかえさなきゃでしょ、と私は思った。
「違うよ、あれは本当は君のお金なの。慰謝料だったんだから」
「慰謝料なんて、そんなの」
「さあや」
銀乃は立ち止まった。
「僕はね、さあや。君が喜んでくれたら、本当にそれでいいんだ。
僕は君を一度殺してしまった。そのせいで君はこの世との縁が薄くなった。
その償いはしなくちゃいけない。これは償いで、君は何を後ろめたく思うことなく受け取るべきものだよ」
「……そうかなぁ」
「そうだよ」
銀乃は、柔らかく笑った。
「まぁ、償いってのもあるけどさ」
銀乃は、何もかも見透かすような目で私を見るのだ。
「君は、当たり前の幸せを、何にも知らない、みたいな目をしてるんだもん。こんなに若くて小さいのに、そんなのあんまりじゃない。
僕が何かして、君がちょっとでも幸せになってくれたら、僕が嬉しい」
「どうして?」
「僕はおせっかいで、年下には優しくて、親切な狐だからね」
銀乃は冗談めかしてにこにこ笑って、私に聞いた。
「さあや、今日は楽しかった?」
「……楽しかった」
こんなに楽しかったのは、たぶん人生で初めてじゃないかなって思った。
誰かに好きなものを買ってもらったのが初めてだと、あんなふうにコックさんがでてくるような外食というものを、人生で初めてしたのだと、銀乃に言うことはできなかった、恥ずかしくて。
もっと、何か言いたいと思ったのに、楽しかった、というありきたりな言葉しか出てこない。
洋服を似合うといってくれたこと、私といて楽しいと言ってくれたこと、笑いながらご飯を食べて、それで。
目の奥が一瞬、熱くなった。喉がチリチリして、不慣れな感覚がした。
楽しかった、ありがとう、そう言いたいのに、言ったら声が震えてしまいそうで、私は、ただ小さい声でもう一度、楽しかった、とだけ言った。
「良かった、さあや」
銀乃は、美しい灰色の目を細めて、口元を緩めた。心から、嬉しそうだった。
「僕は、現世の利益を運んでくる神様の使い、僕は僕がもたらすことができるもので、君を喜ばせたいんだ。
君の魂が現世にきちんと縫い付けられるまでの間、君にたくさんの贈り物をするよ。君にはそれを当たり前に受け取ってほしい。
しあわせになってさあや、それが僕の罪滅ぼし。
だから受け取って、これからも。僕がここからいなくなるまで、その間だけでいいから」
言い含めるように、銀乃が言った。
ああそうだったと私は思い出した。
銀乃は、いつかいなくなる。私の魂が地上に縫い付けられたら、と彼は言った。
それは、そう遠くない日だ。
温まった胸の奥が、ちくっと痛んで、冷えた気がした。でも私は、気にしないふりをして、小さく頷いた。
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