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第3幕/学歴は、洗いません。
第5場①
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前期の授業の最終日、声楽専攻の1年の連中がオペラ実践のような授業を受けている教室の前で、咲真は片山が出てくるのを待っていた。何をしているのかかなり興味があったが、覗くと不審者だし、ピアノ専攻の自分が見学というのも変なので、洩れ出るアンサンブルを耳で追いながら5分ほど過ごした。
音が止んでチャイムが鳴ると、華やかな男女がお疲れさまです、と言いながら扉から出てくる。ピアニストにも派手な者はいるが、声楽界隈のキラキラ感は、かなり独特である。咲真は歌手たちに圧倒されつつ、何となく顔を知るだけの彼らを見送り、友達と呼ぶべきか、仲間と呼ぶべきか、ちょっとよくわからない連れを待つ。
目指す相手は、あちらから声をかけてきてくれた。
「お待たせ、急ぎの話って?」
「お疲れ、美味しいバイトの話持って来たで」
「えっ、密かに薬運んだりさせられるやつ?」
関西人顔負けの返しをしてくる片山は、Tシャツにジーンズというラフ過ぎるいでたちである。その後ろに、片山とは対照的にパリッとシャツを着て、耳にピアスを光らせる小洒落た背の高い男がいた。確か声楽専攻1年のホープと噂される……誰やったっけ。咲真が思い出せないでいると、その男が咲真を何やら警戒混じりの目で見つつ、片山に問うた。
「この人誰?」
「器楽専攻の松本」
片山が答えると、小洒落た男が咲真を見下ろす形で、値踏みするのがわかった。ハンサムやけど微妙に感じ悪いやっちゃな、と思う。
「あ、大阪出身のピアニスト? 片山ってマジで誰とでも友達になるなぁ」
やっと思い出した。この男の名は塚山天音。この大学の学部を首席で卒業して、コンクールに出れば3位以内に必ず入る期待のテノール。しかし、大阪出身と言われたのが気に入らないし、片山に対する言い草が、何やら嫉妬深い執着男の彼女への嫌味のようで、咲真の神経を軽く逆撫でする。彼は片山の一体何なのだろう。
それを察してくれた訳でもないのだろうが、想定外に片山は塚山に冷たく応じた。
「うん、少なくともおまえよりは友達だな」
笑顔で毒を吐いた片山の横で、塚山はショックを受けたように目を剥いた。
やば、おもろい。咲真が笑いを堪えていると、塚山はやや不機嫌そうにすたすたと去ってしまった。片山の後から出てきた先生が、部屋使う? と彼に訊く。
「あ、じゃあ使います」
「テスト前だからあまり歌い過ぎるなよ」
咲真はその先生を知らなかったが、彼は咲真がピアニストだと知っているようで、ピアノの鍵を片山ではなく咲真に手渡し、その場から去った。
「ほなここで話そか」
2人して椅子を引き、咲真はレストランのコンサートの話をざっくりと片山に話して聞かせた。彼は興味を示す。
「へぇ、どんな曲がいいんだ?」
「共演者と丸かぶりせんと、ジャンル関係なく誰でも知ってそうなやつかな……ディナータイムやし、食事の邪魔になったらあかん」
「でも平坦な曲で退屈させてもダメだろ、なかなか難しいな」
片山がそう反応すると思い、咲真は曲集を持参していた。常々咲真が男声で聴いてみたいと思っているものである。
「ジブリの主題歌集? 見せて」
曲集を渡してやると、片山はページをぱらぱらと繰る。
「グリーでメドレーをやったことあるんだ、みんなソロを歌いたがって大変だった」
高校時代、グリークラブに入っていたと、咲真は片山から聞いていた。彼の微笑には、懐かしさが混じっている。
音が止んでチャイムが鳴ると、華やかな男女がお疲れさまです、と言いながら扉から出てくる。ピアニストにも派手な者はいるが、声楽界隈のキラキラ感は、かなり独特である。咲真は歌手たちに圧倒されつつ、何となく顔を知るだけの彼らを見送り、友達と呼ぶべきか、仲間と呼ぶべきか、ちょっとよくわからない連れを待つ。
目指す相手は、あちらから声をかけてきてくれた。
「お待たせ、急ぎの話って?」
「お疲れ、美味しいバイトの話持って来たで」
「えっ、密かに薬運んだりさせられるやつ?」
関西人顔負けの返しをしてくる片山は、Tシャツにジーンズというラフ過ぎるいでたちである。その後ろに、片山とは対照的にパリッとシャツを着て、耳にピアスを光らせる小洒落た背の高い男がいた。確か声楽専攻1年のホープと噂される……誰やったっけ。咲真が思い出せないでいると、その男が咲真を何やら警戒混じりの目で見つつ、片山に問うた。
「この人誰?」
「器楽専攻の松本」
片山が答えると、小洒落た男が咲真を見下ろす形で、値踏みするのがわかった。ハンサムやけど微妙に感じ悪いやっちゃな、と思う。
「あ、大阪出身のピアニスト? 片山ってマジで誰とでも友達になるなぁ」
やっと思い出した。この男の名は塚山天音。この大学の学部を首席で卒業して、コンクールに出れば3位以内に必ず入る期待のテノール。しかし、大阪出身と言われたのが気に入らないし、片山に対する言い草が、何やら嫉妬深い執着男の彼女への嫌味のようで、咲真の神経を軽く逆撫でする。彼は片山の一体何なのだろう。
それを察してくれた訳でもないのだろうが、想定外に片山は塚山に冷たく応じた。
「うん、少なくともおまえよりは友達だな」
笑顔で毒を吐いた片山の横で、塚山はショックを受けたように目を剥いた。
やば、おもろい。咲真が笑いを堪えていると、塚山はやや不機嫌そうにすたすたと去ってしまった。片山の後から出てきた先生が、部屋使う? と彼に訊く。
「あ、じゃあ使います」
「テスト前だからあまり歌い過ぎるなよ」
咲真はその先生を知らなかったが、彼は咲真がピアニストだと知っているようで、ピアノの鍵を片山ではなく咲真に手渡し、その場から去った。
「ほなここで話そか」
2人して椅子を引き、咲真はレストランのコンサートの話をざっくりと片山に話して聞かせた。彼は興味を示す。
「へぇ、どんな曲がいいんだ?」
「共演者と丸かぶりせんと、ジャンル関係なく誰でも知ってそうなやつかな……ディナータイムやし、食事の邪魔になったらあかん」
「でも平坦な曲で退屈させてもダメだろ、なかなか難しいな」
片山がそう反応すると思い、咲真は曲集を持参していた。常々咲真が男声で聴いてみたいと思っているものである。
「ジブリの主題歌集? 見せて」
曲集を渡してやると、片山はページをぱらぱらと繰る。
「グリーでメドレーをやったことあるんだ、みんなソロを歌いたがって大変だった」
高校時代、グリークラブに入っていたと、咲真は片山から聞いていた。彼の微笑には、懐かしさが混じっている。
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