レターレ・カンターレ

穂祥 舞

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2 初顔合わせ

2-①

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 東京に出てきて以来半年間個人レッスンを受けている、国見くにみ康平こうへいからの指導も受けて、三喜雄は「恋するくじら」の譜面をひと通り読んだ。国見は三喜雄の北海道の師・藤巻の3学年先輩で、何語の歌曲でも、またオペラアリアも歌えるオールマイティな歌手だったが、50代前半で舞台から降りた。以降指導一筋で、藤巻と比べると厳格な指導者だ。
 三喜雄と同じハイバリトンの国見は、この曲を引退直前に舞台に上げたと教えてくれた。まだ三喜雄が国見とそんなに打ち解けていないこともあり、現役時代の話を具体的に彼の口から聞くのは初めてだった。

「いい曲をもらったね……作曲の平田あゆみさんはソルフェージュの教材も作ってる人だから、無茶な音形は無いし、メロディラインに乗って伸び伸び歌えばいい」

 確かにそのようだった。三喜雄の苦手な、現代曲のとっつきにくさが無い。国見はそう言っておきながら、さりげなく釘を刺すことも忘れない。

「ただし歌詞がお客さんに聴こえないと全く意味がないよ、発音はしっかりとね」

 テノールとの相性もポイントだと国見は言った。音質が合えば、ハーモニーをつくる部分がとても美しく、大げさな演技をしなくても、テノールの「いるか」とバリトンの「くじら」が気の合う友人同士であることが伝わるという。
 これまで国見は、三喜雄が誰かと演奏すると話してもいろいろ尋ねてこなかったのだが、珍しく共演者について興味を示した。

「どんな歌手が来るのかな?」

 想定外の問いかけに、え? と三喜雄は思わず言った。

「俺と一緒で院の1年目で、モーツァルトとか古い目の曲が得意なんだそうです」

 辻井から教えられた通りに三喜雄は伝えた。国見は微笑して頷く。

「じゃあ片山くんと合いそうだな」
「……だったらいいなと思ってます」

 三喜雄も古い時代の曲のほうが好きだし、得意だ。何となく楽しい気分になって、答えた。札幌の師匠の許を離れ、国見に習い始めて初めて打ち解けて話せた気がする。
 国見は手帳を開いた。

「12月に立川の老人ホームって言った?」
「はい、名目はクリスマスコンサートなんだそうです」

 国見は弟子の本番の日をチェックしていた。外部の客を呼んでいいのか、辻井に確認しようと三喜雄は思った。
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