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だいたい篠原は午後9時辺りから身体が空いているようなので、三喜雄は時計を確認してから、メッセージアプリを開く。彼のところにも牧野から連絡があったらしい。
舞台が広いので、もう少し大きく動いてもいいかもしれないという話が一段落すると、篠原が振ってきた。
『ところで俺たち何着て歌うの?』
彼の出した話題を、全く意識していなかったことに三喜雄は気づく。これは何気に、舞台上で大切だ。
『牧野先生、中学生に海の生きものの恰好をさせたいって言ってたから、俺たちもそれに準ずるのでは』
『マジ? あまりに恥ずかしいカッコは断固拒否』
篠原の言う恥ずかしい恰好とはどのレベルを指すのだろうか。学部生時代、文化祭で女装やアニメキャラのコスプレをして歌ったことがある三喜雄は、それ以上に恥ずかしいのはもう裸しかないと思っているので、大概の恰好なら許せそうな気がする。
『グレーと黒の全身タイツに、頭にいるかやくじらをつけた帽子をかぶる』
三喜雄が試しにそう送ってみると、失神したネコのスタンプがまず返ってきた。
『無い』
『そう?』
『だって片山くんの先生と友達来るんだろ? 俺も家族来るかもしれないし』
あ、そうだな。北島さんががっかりするし、国見先生から呆れられそう。
三喜雄は篠原の言葉に、受け狙いはやめようと考え直した。
『タキシードでよくない? シルバーならいるかっぽいけど、篠原くん持ってる?』
『それならいい。シルバーは無いけど、レンタルする』
これも辻井と牧野に希望を伝えるということで、話がまとまった。そこで三喜雄は、さっきからもやもやしているので、プロになりたいと考えているのかどうかを篠原にずばりと訊いてみた。
『なりたいかと尋ねられたら、なりたいと答える。留学したら、あちらに残っても帰国しても、周りがプロと見なすから』
篠原の言う通りだと思った。彼の現在の目標は、古楽を学ぶためにヨーロッパに渡ることだ。
『カナダのホストマザーに、ソリストとしての俺の歌を聴いてほしい。これもプロにならないと叶えられないと思う』
『具体的な夢があってうらやましい』
三喜雄は篠原に返す。素直な思いだった。今の自分の気持ちを突き詰めると、知らない歌をできるだけ沢山歌ってみたいだけで、大学院が一番そうさせてくれるから選んだのかもしれない。
今度は篠原が尋ねてきた。
『片山くんはプロになりたくないの?』
『なれると思ってない』
『そうなの?』
『だからプロ目指してるみんなと一緒に授業受けてたら、たまにしんどい』
つい正直に返信したことを、三喜雄は軽く後悔した。こんな愚痴を篠原に言っても仕方ないのに。少し間が開いて、返事が来た。
『たぶん片山くんより歌えない人もプロ目指してるから、なれないかもとか今思わなくてよくない?』
篠原の言葉は忌憚ないが、そういう発想はなかったので、ちょっと面白かった。彼のメッセージが続く。
『なれるかどうかじゃなくて、なりたいかどうかも大事だと思うんだけど』
もっともである。三喜雄は少し考えて、今の自分に一番近い言葉を選ぶ。
『歌い続けたいとは思ってる、でもそれだけかも。それでお金とか要らないというか』
舞台が広いので、もう少し大きく動いてもいいかもしれないという話が一段落すると、篠原が振ってきた。
『ところで俺たち何着て歌うの?』
彼の出した話題を、全く意識していなかったことに三喜雄は気づく。これは何気に、舞台上で大切だ。
『牧野先生、中学生に海の生きものの恰好をさせたいって言ってたから、俺たちもそれに準ずるのでは』
『マジ? あまりに恥ずかしいカッコは断固拒否』
篠原の言う恥ずかしい恰好とはどのレベルを指すのだろうか。学部生時代、文化祭で女装やアニメキャラのコスプレをして歌ったことがある三喜雄は、それ以上に恥ずかしいのはもう裸しかないと思っているので、大概の恰好なら許せそうな気がする。
『グレーと黒の全身タイツに、頭にいるかやくじらをつけた帽子をかぶる』
三喜雄が試しにそう送ってみると、失神したネコのスタンプがまず返ってきた。
『無い』
『そう?』
『だって片山くんの先生と友達来るんだろ? 俺も家族来るかもしれないし』
あ、そうだな。北島さんががっかりするし、国見先生から呆れられそう。
三喜雄は篠原の言葉に、受け狙いはやめようと考え直した。
『タキシードでよくない? シルバーならいるかっぽいけど、篠原くん持ってる?』
『それならいい。シルバーは無いけど、レンタルする』
これも辻井と牧野に希望を伝えるということで、話がまとまった。そこで三喜雄は、さっきからもやもやしているので、プロになりたいと考えているのかどうかを篠原にずばりと訊いてみた。
『なりたいかと尋ねられたら、なりたいと答える。留学したら、あちらに残っても帰国しても、周りがプロと見なすから』
篠原の言う通りだと思った。彼の現在の目標は、古楽を学ぶためにヨーロッパに渡ることだ。
『カナダのホストマザーに、ソリストとしての俺の歌を聴いてほしい。これもプロにならないと叶えられないと思う』
『具体的な夢があってうらやましい』
三喜雄は篠原に返す。素直な思いだった。今の自分の気持ちを突き詰めると、知らない歌をできるだけ沢山歌ってみたいだけで、大学院が一番そうさせてくれるから選んだのかもしれない。
今度は篠原が尋ねてきた。
『片山くんはプロになりたくないの?』
『なれると思ってない』
『そうなの?』
『だからプロ目指してるみんなと一緒に授業受けてたら、たまにしんどい』
つい正直に返信したことを、三喜雄は軽く後悔した。こんな愚痴を篠原に言っても仕方ないのに。少し間が開いて、返事が来た。
『たぶん片山くんより歌えない人もプロ目指してるから、なれないかもとか今思わなくてよくない?』
篠原の言葉は忌憚ないが、そういう発想はなかったので、ちょっと面白かった。彼のメッセージが続く。
『なれるかどうかじゃなくて、なりたいかどうかも大事だと思うんだけど』
もっともである。三喜雄は少し考えて、今の自分に一番近い言葉を選ぶ。
『歌い続けたいとは思ってる、でもそれだけかも。それでお金とか要らないというか』
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