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4 侵食
ハルの土曜日②
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ごそごそと布団を身体から剥いで、晴也はスウェット姿のまま台所に向かう。やかんに水を入れ、コンロの上に乗せた。
コンセントに繋いでいたスマートフォンを見ると、1時間前にまた晶からメッセージが来ていた。何なんだよ、ブロックするぞ。胸の内で呟きながら、画面をスワイプする。
「おはようございます。二日酔いとかじゃないですか?」
晴也は呆れる。過保護過ぎないか。無視を決め込み、食パンをトースターに入れたものの、目が勝手にスマートフォンに行ってしまう。
「……ムカつくっ」
晴也はスマートフォンを取り上げ、大丈夫です、とヤケクソになって打ち込み、送信キーを押した。トースターがちん、と間の抜けた音を立て、晴也は湯を注いだマグカップを放置していたことを思い出す。紅茶はどす黒くなっていた。まあいい、渋い紅茶は嫌いじゃないし、ミルクティにしよう。
トーストにバターを塗りながら、あいつ何食ってんのかな、と考える。やっぱいろいろ、食事には気を遣ってるんだろうな。
はたと晴也は咀嚼を止める。何で朝からあの調子のいいくそダンサーのことを考えなきゃいけないんだよ。
よく考えたら、吉岡晶と知り合ってたったの3日しか経っていない。なのに何故こんなに、あの男に振り回されているのだろう。晴也はトーストを紅茶で流し込みながら、溜め息をつく。
これ以上引っ掻き回さないでくれ、疲れる。そう書いて送ってやったら、楽になれると思う。しかし晴也は、彼から様子を尋ねられたり、体調を気遣われたりするのが、案外気分がいいことを認めざるを得ない。会社の早川の気遣いが、明らかに迷惑なことに対し、晶のそれは何か心地良くてむず痒いことに思い至る。
そうだ。彼は友達、だった。晴也はスマートフォンを裏返しにしてテーブルに置き、自分に言い聞かせる。モブはちょっと哀しいが、少なくともセンターに立つのはミスキャストだ。舞台で人気を博すダンサーの一知人。こちらにしても自慢の知り合いということで。
晴也はヨーグルトを冷蔵庫から出して、カップのシールを剥がす。ちょっと考え込む。センターに立つのって、きっと気持ちいいんだろうな。いつも端役か、下手をすればモブの晴也は、晶を羨ましく思う。まあ、端役の場所を好んで選んだのは、自分なんだけれど。
センターに近づけば近づくほど、他人のやっかみや批判に晒され、下手をするとメンタルをやられてしまう。それはどんな小さなコミュニティでも当てはまる事実だ。
晴也は窓の外を見る。さっきの夢の水辺ほどではないが、朝日が眩しい。この土日は少し寒いが、良い天気らしい。洗濯を済ませて、掃除をし、食料品を買い出ししよう。着なくなったバイト用の服も、一度返送しなくてはいけない。やることがあれば気が紛れる。
晴也はヨーグルトの酸っぱさを楽しみながら、晶のことを考えるのを、強制終了した。
コンセントに繋いでいたスマートフォンを見ると、1時間前にまた晶からメッセージが来ていた。何なんだよ、ブロックするぞ。胸の内で呟きながら、画面をスワイプする。
「おはようございます。二日酔いとかじゃないですか?」
晴也は呆れる。過保護過ぎないか。無視を決め込み、食パンをトースターに入れたものの、目が勝手にスマートフォンに行ってしまう。
「……ムカつくっ」
晴也はスマートフォンを取り上げ、大丈夫です、とヤケクソになって打ち込み、送信キーを押した。トースターがちん、と間の抜けた音を立て、晴也は湯を注いだマグカップを放置していたことを思い出す。紅茶はどす黒くなっていた。まあいい、渋い紅茶は嫌いじゃないし、ミルクティにしよう。
トーストにバターを塗りながら、あいつ何食ってんのかな、と考える。やっぱいろいろ、食事には気を遣ってるんだろうな。
はたと晴也は咀嚼を止める。何で朝からあの調子のいいくそダンサーのことを考えなきゃいけないんだよ。
よく考えたら、吉岡晶と知り合ってたったの3日しか経っていない。なのに何故こんなに、あの男に振り回されているのだろう。晴也はトーストを紅茶で流し込みながら、溜め息をつく。
これ以上引っ掻き回さないでくれ、疲れる。そう書いて送ってやったら、楽になれると思う。しかし晴也は、彼から様子を尋ねられたり、体調を気遣われたりするのが、案外気分がいいことを認めざるを得ない。会社の早川の気遣いが、明らかに迷惑なことに対し、晶のそれは何か心地良くてむず痒いことに思い至る。
そうだ。彼は友達、だった。晴也はスマートフォンを裏返しにしてテーブルに置き、自分に言い聞かせる。モブはちょっと哀しいが、少なくともセンターに立つのはミスキャストだ。舞台で人気を博すダンサーの一知人。こちらにしても自慢の知り合いということで。
晴也はヨーグルトを冷蔵庫から出して、カップのシールを剥がす。ちょっと考え込む。センターに立つのって、きっと気持ちいいんだろうな。いつも端役か、下手をすればモブの晴也は、晶を羨ましく思う。まあ、端役の場所を好んで選んだのは、自分なんだけれど。
センターに近づけば近づくほど、他人のやっかみや批判に晒され、下手をするとメンタルをやられてしまう。それはどんな小さなコミュニティでも当てはまる事実だ。
晴也は窓の外を見る。さっきの夢の水辺ほどではないが、朝日が眩しい。この土日は少し寒いが、良い天気らしい。洗濯を済ませて、掃除をし、食料品を買い出ししよう。着なくなったバイト用の服も、一度返送しなくてはいけない。やることがあれば気が紛れる。
晴也はヨーグルトの酸っぱさを楽しみながら、晶のことを考えるのを、強制終了した。
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