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4 侵食
ハルの土曜日①
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変な夢を見た。
霧のかかった見知らぬ場所を歩いていると、Tシャツとジーンズを身につけたショウが、一つだけ置かれている、水辺のベンチに座っているのが見えた。晴也自身は、夏にめぎつねで披露して評判の良かった、レースの袖のついた麻のワンピースを着ている。
このシチュエーションは、デートなのか。いつそんな約束をしたんだろう。晴也は微妙な不快感と、裏腹なわくわく感を持て余して足を止めた。しかしこちらを見たショウに気づかれてしまったので、仕方なく彼の方に、サンダル履きの足を運ぶ。
ショウは嬉しげににっこり笑う。嫌だな、俺が来たからってそんな顔して。てか誰にでもそんな風に営業スマイルしてるんだろ? ほら、ルーチェでもあんたを贔屓にしてる人が、男も女もいっぱいいる。
彼はゆっくり立ち上がって、無言で左腕を上げる。掌は、晴也に差し出されていた。えーっと、これは……どうしろと? 晴也は迷いながら、右手を伸ばす。晴也よりひと回り大きな、男らしい手に指が届く。
ショウは晴也の手を掴み、自分のほうに引いた。よろめきそうになりながら彼に近寄ると、その腕が腰に巻きついた。ちょい待て馬鹿、何するんだ……口から汚い言葉が出る前に、晴也の身体がふわりと浮く。バランスを崩しそうになって慌てて縋ったのは、ショウの肩だった。
こういうの見たことあるぞ。晴也は焦りながら考えを巡らせる。俺今軽くリフトされてる? 俺もしかして、手足伸ばしてポーズ決めなきゃいけない場面なのか? 助けを求めてショウを見下ろすと、彼は目を細めて笑い、何か言った。
「……するから俺に合わせて」
待てよ、ちゃんと説明しろよ! 口をぱくぱくさせていると、霧がさあっと晴れ、柔らかい陽射しが身体を包んだ。湖なのか池なのかわからないが、目の前に広がる水面がきらきらと輝き、ショウは希望に満ちたような笑顔になる。一瞬どきっとして彼に見惚れそうになったが、我に返った。
何だよこれ、ジーン・ケリーの映画かよ! やめろ、ミスキャストだって! ショウもその気になるなって、顔が近いんだよっ‼
晴也は目を開いて、数度深呼吸した。心臓がばくばくして、身体が熱い。……何ださっきのは、気持ち悪過ぎる。時計は9時を指していた。寝過ぎたせいで、あんな夢を見たに違いないと、晴也は頭を掻く。
昨夜は帰宅して、酒も醒めていたので、とっとと風呂に入った。髪を乾かして洗面所から出てくると、ショウ……晶からLINEが来ていた。
「観に来てくださったこと、LINEで繋がってくださったこと、ありがとうございました。無事帰宅したら一報ください。」
彼氏彼女気取りかと一人でムッとしながら、晴也は返信した。
「帰って風呂入りました」
「良かったです。今後ともよろしくお願いします」
すぐにメッセージが来た。だからLINEとか面倒なんだ……晴也は両腕にボディクリームを擦り込んでから、ひと言返した。
「はい。おやすみなさい」
それで会話は終了したので、水を飲んでからベッドに潜り込んだのだった。……それであの夢かよ。うざい。
霧のかかった見知らぬ場所を歩いていると、Tシャツとジーンズを身につけたショウが、一つだけ置かれている、水辺のベンチに座っているのが見えた。晴也自身は、夏にめぎつねで披露して評判の良かった、レースの袖のついた麻のワンピースを着ている。
このシチュエーションは、デートなのか。いつそんな約束をしたんだろう。晴也は微妙な不快感と、裏腹なわくわく感を持て余して足を止めた。しかしこちらを見たショウに気づかれてしまったので、仕方なく彼の方に、サンダル履きの足を運ぶ。
ショウは嬉しげににっこり笑う。嫌だな、俺が来たからってそんな顔して。てか誰にでもそんな風に営業スマイルしてるんだろ? ほら、ルーチェでもあんたを贔屓にしてる人が、男も女もいっぱいいる。
彼はゆっくり立ち上がって、無言で左腕を上げる。掌は、晴也に差し出されていた。えーっと、これは……どうしろと? 晴也は迷いながら、右手を伸ばす。晴也よりひと回り大きな、男らしい手に指が届く。
ショウは晴也の手を掴み、自分のほうに引いた。よろめきそうになりながら彼に近寄ると、その腕が腰に巻きついた。ちょい待て馬鹿、何するんだ……口から汚い言葉が出る前に、晴也の身体がふわりと浮く。バランスを崩しそうになって慌てて縋ったのは、ショウの肩だった。
こういうの見たことあるぞ。晴也は焦りながら考えを巡らせる。俺今軽くリフトされてる? 俺もしかして、手足伸ばしてポーズ決めなきゃいけない場面なのか? 助けを求めてショウを見下ろすと、彼は目を細めて笑い、何か言った。
「……するから俺に合わせて」
待てよ、ちゃんと説明しろよ! 口をぱくぱくさせていると、霧がさあっと晴れ、柔らかい陽射しが身体を包んだ。湖なのか池なのかわからないが、目の前に広がる水面がきらきらと輝き、ショウは希望に満ちたような笑顔になる。一瞬どきっとして彼に見惚れそうになったが、我に返った。
何だよこれ、ジーン・ケリーの映画かよ! やめろ、ミスキャストだって! ショウもその気になるなって、顔が近いんだよっ‼
晴也は目を開いて、数度深呼吸した。心臓がばくばくして、身体が熱い。……何ださっきのは、気持ち悪過ぎる。時計は9時を指していた。寝過ぎたせいで、あんな夢を見たに違いないと、晴也は頭を掻く。
昨夜は帰宅して、酒も醒めていたので、とっとと風呂に入った。髪を乾かして洗面所から出てくると、ショウ……晶からLINEが来ていた。
「観に来てくださったこと、LINEで繋がってくださったこと、ありがとうございました。無事帰宅したら一報ください。」
彼氏彼女気取りかと一人でムッとしながら、晴也は返信した。
「帰って風呂入りました」
「良かったです。今後ともよろしくお願いします」
すぐにメッセージが来た。だからLINEとか面倒なんだ……晴也は両腕にボディクリームを擦り込んでから、ひと言返した。
「はい。おやすみなさい」
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