夜は異世界で舞う

穂祥 舞

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9 結花

12

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「……どうしたらいい?」

 変な沈黙が耐え難かったのと、本当にどうすればいいのかわからないので、恥を忍んで晴也は尋ねた。晶はとろけた声で言う。

「……てかハルさんがその気になってくれてるってだけでいきそう」
「真面目に質問してるんだが」
「うん、物理的な刺激は多少必要かな」

 言ってから晶はうーん、と唸る。

「ハルさんにしてもらうのは恥ずかしい」

 晴也は呆れて、いつもの調子で口調を強めた。

「俺に散々恥ずい思いをさせといてそれかよ」
「確かに、ほんのさっきまでそうして欲しかったんだけど」

 別に晴也だって、他人のものなど見たくも触りたくもない。晶だから辛うじて、なのだ。

「じゃあハルさん、背中から抱いてて」

 晶はもぞもぞと寝返りを打ち、晴也に背を向ける。

「それで腰のあたりに腕を回してよ、してもらってる感出ない?」
「知るか」

 晶の発想はやはり変態チックな気がしたが、晴也は言われた通りに、彼の身体に手を回す。広くてしっかりした背中は、抱きつくと安心感があって心地良かった。
 やがて晶がごそごそし出し、大胆にも下半身素っ裸になってしまった。薄暗くてあまり見えないとは言え、晴也のほうが照れてしまう。小さな摩擦音が聞こえて来た。

「これヤバい、たぶんすぐいく」

 晶はぽそっと言いながら、小さなサイドテーブルの上に左手を伸ばす。ティッシュの箱があることに晴也は初めて気づく。
 たまに湿った音が混じる小さな摩擦音と、少しずつ大きくなる晶の呼吸音を聞くのは、居てはいけない場所で秘密の行為を盗み見している好奇心と罪悪感が半端なかった。晴也は胸をどきどきさせながら、さっき一方的におもちゃにされたことに対し、報復してやろうと思いつく。晶の背中にべったりくっついたまま上半身をじりじりとずり上げ、黒い髪に半分隠れた彼のうなじを標的に定める。

「……あ」

 自分のものをしごくことに集中しているらしい晶の声が洩れた。すかさず晴也はうなじに唇をくっつけてやった。晶の身体がびくんと震えた。

「あっ! ハルさん、何して……うっ」

 晶の悶える声は晴也の気持ちを煽った。場所を変えて口づけすると、ああっ、と何とも色っぽい声を上げてくれる。

「どうしたら気持ちいいんだ?」

 晴也は耳の後ろで囁く。答えを待たずに耳たぶを軽く噛んでみると、晶は喘いだ。

「ああっ、そんなことしたら、ハルさん……」
「どうなるんだよ、手が留守になってるぞ、剥けるまでしごけよ」

 晴也は意地悪な気持ちになってきて、服の裾から手を入れ、引き締まった腹を撫でてみた。贅肉ひとつついていないそこは、硬いが温かくて、触れていると心地良かった。晶は思わずといった風に前屈みになり、掠れた声で言う。

「ハルさんから言葉責めとゆる愛撫とかマジパラダイス……」

 こいつほんとに変態だな。晴也は可笑しくなる。摩擦音が大きくなり、晶の呼吸が乱れると、晴也まで変な気分になってきた。

「ハルさん、お願いだ」

 晶は喘ぎながら言う。彼の顔が見えないのは残念だった。きれいな顔が快感に歪むのを見たいのに。

「何?」

 熱くなった耳の後ろに唇の先を触れさせながら、晴也は訊き返す。

「嘘でいいから……俺が好きだって言って」

 馬鹿かこいつは。何で俺が嘘をつく必要がある、嫌いな奴にちんこをしごかせる訳ないだろうが。晴也は晶の肩に腕を巻きつけ、背後から覆いかぶさり熱を持った頬に口づけた。晶はうあっ、と震えた声を上げる。

「ショウさんが好きだ、嘘じゃない」
「あ……あっ……!」

 晶の身体がびくっと大きく震えた。腰が揺れるのが伝わってくる。晴也は腕に抱いている男を愛おしく思い、拘束する力を強める。どうしてそんな気持ちになったのか、自分でもわからなかった。
 晶は自分のものをティッシュ越しに握りしめたまま、肩で息をする。晴也が彼の額に手をやると、うっすら汗ばんでいた。晴也の好きな匂いが立ち昇り、ちょっとうっとりしてしまう。

「ああ……ハルさんに犯された感すげぇ……」

 晶は荒い息の下から意味のわからないことを口走った。おまえが俺を犯したならまだしも、と晴也は彼の肩にしがみついたまま、胸の内で突っ込む。
 晴也が腕を解くと、晶は自分で後始末をして、満足そうに溜め息をついた。

「こんなの初めてだ、幸せ過ぎるオナニー……」
「良かったな、ちょっと意味わかんねぇけど」

 晶は晴也を肩越しに振り返り、服を手早く身に着けてからごそごそと寝返りを打つ。そして晴也の顔をじっと見つめた。

「ハルさんは夢魔だ」
「むま?」
「人の夢の中に忍び込んできてエロい夢を見せる……今夜は遂に実体化した」

 要するに晶の夢には夜な夜な晴也が出てくるらしい。夢の中とは言え、何をされているかわかったもんじゃない。

「何か知らないけど、おまえが実体化させたんじゃないのか?」
「そうだ、夢の幻より余程エロかった!」

 言うなり晶は晴也を抱きしめてくる。変な奴だ。もう晴也はそんな風にされてもびっくりしなかった。

「俺の可愛い夢魔……」

 晴也は晶の肌の温もりと匂いに陶然となりそうな自分に気づいて、密かに照れる。そしてすぐに眠くなってきた。久しぶりに思いきりいってしまったからだろう。晶も満足感が高かったのか、今にも寝てしまいそうな半目になっていた。
 このまま眠ってしまい朝を迎えたら、きっと幸せだろうと晴也は思う。自分を包み込んでいる男の顔を見つめながら、それを望んでいる自分を、晴也は見出していた。唇に軽く口づけされ、素直に嬉しくなる。ゆっくりと深呼吸すると、自分のものでない呼吸音と柔らかく溶け合い、独りでないという安心感と喜びが身体の深いところから湧きあがった。
 キモチヨクテ、イトオシイ。そうなのか、こんな気持ちになるから、世の中の人たちは恋をして、その相手と触れ合いたいと思うのか。晴也は納得しながら、厚みのある身体にそっと腕を回し、その温もりに溺れて目を閉じた。
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