夜は異世界で舞う

穂祥 舞

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13 破壊、そして

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 晴也は泣く泣く、晶からの電話を着信拒否し、LINEをブロックした。こんなことで彼が納得するとは到底思えなかったが、逆ギレして見捨ててくれたらいいと思った。「めぎつねとD5」のトークルームは予想に反して静かだったが、美智生が昼休みに個人的にメッセージをよこした。

「ショウがハルちゃんからブロックと着拒されたって発狂寸前だ、何でこんなことになった?」

 晴也は静かな喫茶店でコーヒーに口をつけながら、心の中のセンサーの感度が鈍ってきていることを自覚していた。そんなのもうどうでもいいでしょう、と危うく打ち込みそうになってしまう。

「あの人が本来いるべき場所に戻るのを邪魔したくないだけです」

 晶の名を出すことさえ嫌だった。美智生はわからん、と首を傾げるウサギのスタンプを送ってきた。

「どうしてハルちゃんが邪魔になる?」
「外国で仕事をするのに、後ろ髪を引かれるような気持ちになって欲しくないですし、その時になって俺もキツい思いをしたくないです」

 美智生は食い下がってくる。

「ハルちゃんの言ってることは根拠のない憶測でしかないよ」
「根拠は無くないですよ、もうロンドンの舞台に出ると決まってるようですから」
「向こうに行って二度と戻らないなんて言ってないんだろ?」

 晴也は溜め息をついて、席を立った。昼休みが終わる時間だ。美智生に返事をしないまま、喫茶店を出て会社のビルに戻る。
 営業課の部屋に戻ると、早川に呼び止められた。最近彼は外回りが続いていて、まともに顔を見るのはあの日以来だった。

「福原、悪かった……こんなことになるとは思わなかった」

 晴也は白けた気持ちのまま、淡々と答える。

「なってしまったものは仕方ないですね、もう俺みたいな後輩が二度と出ないようにしてください」

 早川は晴也の口調に何か感じたのか、やや血の気の引いたような顔になった。

「会社を辞めるなんて言わないだろうな」
「辞めようと思ってますよ」
「おまえが辞めることはないだろう」

 まだわかっていないのか。晴也の気持ちが尖った。

「何言ってるかわかんないですよ早川さん、あなたがあの人と俺のことをネタにして広めたんでしょ? あなたのせいなんです、あなたの軽口のせいで俺は居づらくなったから辞めるんです」

 早川は明らかに青ざめた。

「俺はおまえにおかしなことに首を突っ込んで欲しくなかっただけなんだ、俺はあいつのせいだと思ってる」
「じゃあ一生そう思っててください、例えそうだったとしてもあなたがあの人と俺の関係を他人に言いふらす理由にはならない、違いますか?」

 声の大きさがコントロールできなかった。早川が言葉を失ったのをいいことに、晴也はその場を離れる。午後から内勤の予定の社員は皆戻っていたが、2人を見て見ぬ振りをしていた。
 久保は仕事を休んでいた。彼は晴也にきちんと謝罪しておらず、そのことを含めて、昨日人事から再度絞られたという噂だった。それが堪えたのだろうか、だとしたら案外惰弱な奴だ。4月になったらこの件を理由に異動させられる可能性もあるのに。
 俺が辞めてしまわなくても、異動希望を出せばいいのか。晴也はキーボードを叩きながら考えた。……もはやどうでも良かったが。
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