夜は異世界で舞う

穂祥 舞

文字の大きさ
134 / 229
12 憂惧

16

しおりを挟む
 21時を過ぎて、ぼんやりとニュースを見ていると、晶からのLINEがスマートフォンを震わせた。晴也は疲労感をもって、トークルームを開く。

「めぎつねにいなかったので驚きました。みちおさんが交代していると教えてくれましたが、」
「もしかして避けられてる???」

 2週続けて木曜に出勤しなかったのはたまたまだが、晶がそう受け止めても仕方ないだろうと思う。
 別に怒ってもいないし、故意に避けている訳でもない。それは伝えたい気がしたが、打ち込むのを迷ううちに、続けて吹き出しがやって来た。

「俺のロンドンでの舞台の話にもハルさんがショックを受けたようだとみちおさんから聞きました。だからサイラスに一緒に会おうと言ったのに」

 口をへの字に曲げたクマの絵文字が最後についていた。晴也はひとつ深呼吸して、キーパッドに指を伸ばす。既読スルーを止めれば、本当に最後になってしまうかもしれないと思うと、指先が震えた。

「サイラスさんに会っても会わなくても同じことです。最初からショウさんに私は釣り合わないと分かっていました。せめてショウさんの足を引っぱらないようにしたいです。」

 吹き出しを分けようと思い、そこまで書いて送信した。すると直ぐに返信が来た。

「どういう意味?」
「もう会わないという意味です。会社も辞めて実家に帰ることを検討しています」

 晴也は目を閉じて息を止め、送信ボタンを押した。また直ぐに新しい吹き出しがやって来る。

「今どこにいる?」

 そのひと言に晴也は震えた。晶がここに来てしまう。咄嗟とっさに嘘を打ち込んだ。

「実家です。しばらく実家から通勤することにしたので高田馬場にはいません」
「話がしたい」
「もう話すことは無いと思います」

 送信するなり電話がかかって来た。晴也は思わず叫んで、スマートフォンをベッドの上に投げ捨てる。心臓がばくばくして、息が苦しいくらいだった。
 話さない、絶対に。それは心に決めていた。声を聞けば、会いたくなるのがわかっている。晴也はベッドの上で震え続けるスマートフォンから逃れるように、箪笥から慌ててタオルと下着を出した。そしてそのまま、洗面所に飛び込んだ。
 服を脱いで浴室の扉を閉め、水栓をひねる。熱い湯を頭からかぶっているうちに、少し気持ちが落ち着いてきた。
 会社を辞めて実家に戻り、ショウさんとも会わなくなるのは、ミチルさんやママの言うように、極論なんだろうか。それがお互いのためだという俺の結論は、誤っているのか。
 晴也は風呂椅子に腰を下ろして、のろのろと髪を洗い始める。……もう嫌だ、何もかも。誰か、全てを終わらせてくれたらいいのに。
 そんなことを考えていると、勝手に涙が出てきた。まだ涙が残っているのかと不思議になる。もう……泣いても仕方がないのに。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

隣のチャラ男くん

木原あざみ
BL
チャラ男おかん×無気力駄目人間。 お隣さん同士の大学生が、お世話されたり嫉妬したり、ごはん食べたりしながら、ゆっくりと進んでいく恋の話です。 第9回BL小説大賞 奨励賞ありがとうございました。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

男の娘と暮らす

守 秀斗
BL
ある日、会社から帰ると男の娘がアパートの前に寝てた。そして、そのまま、一緒に暮らすことになってしまう。でも、俺はその趣味はないし、あっても関係ないんだよなあ。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...