夜は異世界で舞う

穂祥 舞

文字の大きさ
141 / 229
13 破壊、そして

7

しおりを挟む
 晴也が店にピザと焼きおにぎりを持って出ると、おおっ、と店内に拍手が起きた。すっかり酒が醒めた晴也は、皆酔っているから、洒落にならない痴話喧嘩を笑いにしてくれたのだと感じた。気恥ずかしさを押し込めつつテーブルを一つずつ回って謝り、男女問わず客に慰められる。

「その後のことを聞きに来るよ」
「仲直りしててくれることを祈るわ」

 ママは晴也が派手に話題を提供してしまったことを心配したが、ルーチェに晶のダンスを観に行った人たち以外は、皆随分長く店に居てくれたので、そこは喜んでいた。
 23時を過ぎ、最後の客たちが名残惜しげに去ると、ホステス全員でひと息つく。

「ハルちゃんのプライベートの犠牲の上に今日の売り上げは成立したな」

 ママの言葉に、晴也はもう一度すみません、と頭を下げた。

「ハルちゃんが身バレしなかったらいいんだけど」
「いいですよ、もうバレて困るのは父くらいしかいませんから」

 麗華は麦茶を飲みながら、溜め息混じりに言う。

「ハルちゃんは勇気があるなあ、俺も彼女に店に来てもらおうかな……」
「いいんじゃないか、ハルちゃんの場合は明里さんがより納得してくれた感あったし」

 美智生の言葉に麗華は頷く。婚約者にもうひとりの自分の姿を見て欲しいという風に心が動くのは、健全だと晴也も思う。

「ああでも、俺ももう少しハルちゃんの気持ちを汲むべきだったわ……優弥もあの日以来、ハルちゃんとショウのこと心配してたんだよなぁ」

 美智生に言われて、晴也は首を横に振った。

「いいんです、ずっと自分の中でくすぶってた問題が表に出ただけです」
「でも彼全然引かなかったな、悪いけど面白い」

 麗華に言われて、晴也も自分が何に気を揉んでいたのかわからなくなってきていた。あまりに思いきり晶の頬を叩いて、全部頭の中から飛んで行ってしまったようだった。

「もっと信じてあげたらいいんじゃないかな、彼のことも自分のことも」
「そうそう、俺は今夜は遠慮するけど経過報告頼むよ」

 皆に言われながら、晴也はテーブルを拭く。晶に強引に約束させられてしまったが、これから一体何を話せばいいのかわからない。他所の店で、明里もいることだし、あまりぎゃあぎゃあ言い合いになるのもまずい。
 麗華と美智生が上がり、晴也はルーチェのショーが終わる時間まで、月末の締めの作業をするママを手伝うことにした。給与計算をするママの邪魔にならないよう、酒を含めた食材の在庫の確認をする。

「ハルちゃんはこういうことも昼間するのか?」
「基本しないですけど、総務や庶務の棚卸しの手伝いをしたことがあるので」

 量も多くないし、会社の備品をカウントするのに比べたら随分楽だった。

「ハルちゃん、昼の仕事の転職を考えるなら言ってくれ、多少力になれると思う……これはショウさんとの間とは別の話なんだろ?」

 ママに言われて、晴也はお菓子の袋を数える手を止める。

「……はい、ありがとうございます……部署を変わればマシかなとは思うんですが」

 この店では晴也と晶が男同士で痴話喧嘩をすることを、当たり前のように受け止めてもらえる。しかし一般社会はそうではない。晴也が女装趣味とおかしな性的指向を持つ人物として、引かれるのが現実だ。
 あっという間に40分ほど経ち、ママの戸締まりを見守ってから、晴也はルーチェに明里を迎えに行った。彼女は一緒に行っためぎつねの客とすっかり打ち解けたらしく、店の入り口の階段を、話しながら上がって来た。

「お兄ちゃんお疲れさま、私たちだけ楽しんでごめんね」

 一緒に出てきた男女にハルちゃんなの? と驚かれた。当然だ、可愛らしいホステスがぼさっとした陰気な男に変貌したのだから。彼らは晶の舞台の感想を口々に述べる。

「彼氏カッコよかったぁ、痺れた」
「ほっぺたについた手の形が隠せなかったみたいだけど」

 あ、そうですか、と晴也は苦笑した。不思議なことに、普段の姿に戻ってしまうと、気の利いた言葉が出て来なくなってしまう。
 ぞろぞろと連れ立って駅に向かい、皆におやすみと挨拶して別れてから、朝まで営業する喫茶店に入る。明里は興奮が醒めないのか、この寒いのにアイスコーヒーを頼んだ。晴也は温かいダージリンティーをオーダーする。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。

もう一度言って欲しいオレと思わず言ってしまったあいつの話する?

藍音
BL
ある日、親友の壮介はおれたちの友情をぶち壊すようなことを言い出したんだ。 なんで?どうして? そんな二人の出会いから、二人の想いを綴るラブストーリーです。 片想い進行中の方、失恋経験のある方に是非読んでもらいたい、切ないお話です。 勇太と壮介の視点が交互に入れ替わりながら進みます。 お話の重複は可能な限り避けながら、ストーリーは進行していきます。 少しでもお楽しみいただけたら、嬉しいです。 (R4.11.3 全体に手を入れました) 【ちょこっとネタバレ】 番外編にて二人の想いが通じた後日譚を進行中。 BL大賞期間内に番外編も完結予定です。

処理中です...