今宵貴方と見る月は ~あきとかなnext 〜 《あきとかな後日談集》

穂祥 舞

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暁斗のお留守番

11月2日 22:10

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2024年11月⑤

 昨夜ほど酔わなかった(最後は皆で松葉を激励して解散した)暁斗が帰宅したのは21時過ぎで、京都にいる奏人から、ホテルに戻ったとLINEが来たのは22時を少し回った頃だった。学会の1次懇親会がお開きになった後、京都の歓楽街、木屋町に連れて行かれていたらしい。

『豆谷先生は知ってたけど、他の先生もみんなお酒弱くて。同じ方向のホテルに戻るのに、タクシーに分乗させるのが大変だった涙』

 豆谷とは奏人の大学生時代の担当教官で、奏人はアメリカから戻った後、国内の研究者界隈に人脈をつくるためにも、この先生の世話になっている。今回の学会の分科会発表も、本来は豆谷の枠だったのだが、彼が夏に忙しいことが今年度初めからわかっていたので、ちょうどいいと言われて奏人が代打に立つことになった。
 LINEを読んで、あらあら、と暁斗は思わずひとりごちた。奏人はざるである上に、かつての副業柄、そんな場面にも慣れている。とはいえ、酔っ払った年配の先生方を、よく知らない土地のタクシーでさばくのは大変だっただろう。

『お疲れさま、奏人さんは明日発表なのに』
『僕はいいけど、みんな無事ホテルに戻れたか心配。外国人の先生方は、まだ少し遊びたいとか言うし、もう河原町に置いてきた。。。』

 哲学の偉い先生たちも、旅先で酒が入ると、愚痴飲み会の後のサラリーマンとさして変わらないらしい。暁斗も酔っ払いを無事帰宅させるのに骨を折ることが多いが、こういう時、面倒見が良かったり酒に強かったりするのは損なのではないかと思ってしまう。

『奏人さんも早く休んで』

 暁斗はそう送信したが、本当のところはもう少し奏人とやりとりしたかった。でも奏人は明日大切な仕事を控えているから、我慢する。
 すると少し間を置き、話が続けられそうな返事が来た。

『暁斗さんは今夜はテニス部の人たちと会ってたんだっけ?』

 微笑する奏人が画面の向こうにいるのが感じられ、暁斗はちょっと嬉しくなりつつ、すぐに返した。

『うん、いつもの面子で。そこそこいい年して注文する食べ物が片山さんより不健康だから、みんなの将来を危ぶんだ』
『笑。片山先輩は身体が資本だから、アスリートみたいなものだしね』

 奏人が居ないからといって、二晩続けて居酒屋で飲んでいる自分も大概なのだが。暁斗は勝手に反省した。

『同窓会に奏人さんを連れてこいってまた念押しされた』
『僕は別にお邪魔してもいいけど、暁斗さんが嫌なんでしょ笑』
『いやいや、テニス部野蛮だし奏人さんには合わないかなと』

 酔って奏人に粗野な振る舞いをする馬鹿者がいそうな気がすることは否定できないし、暁斗の学生時代の間抜けな話を奏人に暴露されそうなのも微妙だ。

『今日会ってた3人の皆様は大丈夫っぽいじゃん』
『まあね』

 松葉の息子の話をちらっとしたくなったが、極めてプライベートなことなので控えておく。

『子どもの未来はみんな心配なんだなって、子無しの田辺と語らって帰ってきたよ』
『僕たちが経験してきた理不尽の中で解消されつつあるものは沢山あるけど、貧富の差が開いてぎすぎすした社会になりそうだもんね』

 ふと暁斗は、施設と自宅を往き来する木崎杏奈の顔を思い浮かべた。施設で彼女が親しくしていた上級生を引き取ったのは、レズビアンのカップルだったし、杏菜がもし同性愛者だったとしても、暁斗は松葉のように嘆きはしないだろう。性的指向が理由で、本人が当たる壁はあるかもしれないが、だからこそ特に家族は、最大の理解者であるのが理想だ。
 壁の時計をちらっと見て、もう奏人は休んだほうがいいだろうと思う。今回の出張で彼にとって一番大切なのは、明日だからだ。

『帰ってきたらまたいろいろ話す。ネタ溜めとくので』
『わかった。ではおやすみなさい』

 やはり暁斗は少しがっかりしたが、そこは大人になり、明日頑張って、と送信した。「ぺこり」という文字と、頭を下げる猫のスタンプが返ってきた。
 やり取りが終わってしまうと、いきなり時計の針の進みがゆっくりになった気がした。明日が休みなだけに、秋の夜長が殊更寂しく沁みる。
 すぐに風呂に入ってベッドに横になった暁斗は、涼しくなったね、と言って身体を寄せてくる奏人を、こんな時に限って不意に思い出す。ひとつ溜め息をつき、奏人が大事にしているゴールデンレトリバーのぬいぐるみを引き寄せて、腕に抱いて寝た。

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