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しおりを挟む「それは、確かに恐ろしいでしょうね」
香月もフロウティアから聞きながら、淡々と返す。自分の身に起こっていないので、いまいち実感が湧かなかった。
けれども、雷が目の前に落ちるのは相当怖い出来事だろう。
「まぁ、それは一回目で、警告です。あまりにも目に余るようであれば、天罰が下ります」
フロウティアは天罰について詳しくは語らなかった。けれど、警告で落雷ならば、行先は......と想像してしまう。そして、きっと、それは間違っていないのだろうと思う。
フロウティアもそれ以上は香月に伝えない。必要ないと判断したのだろう。呼び捨てが許されているのだから、許されない者の行く末など気にする必要がないと。
おっとりと微笑みながら、何かを含ませるような様子を見せるフロウティアは、やはり見た目通りの人物ではないようだ。教会を取り纏める立場にいる人なのだから、それが当たり前なのかもしれない。
「カツキ様には関係ない事ですので、お忘れください。それよりも、お疲れでしょう?ゆっくりと寛いでいただけるように手配していますので、ご案内致します」
フロウティアからの提案に香月は反射的にお礼を言った。
「あ、ありがとうございます」
リローズからは教えられているとはいえ、いきなり人が増えるのだ。準備はそれなりに大変だっただろう。想像に難くない。そう考えて自然と生じた感謝を告げたのだが。
再び歩もうとしていたフロウティアは立ち止まる。つられて、香月も歩みを止める形になった。
「カツキ様、私に敬語は不要です。勿論、この教会へ勤める者にもです」
フロウティアはそう言うが、香月がはい、と素直に頷けるかといえば難しい。
今までそういう環境に居なかった訳では無いが、それには家族がいて、香月自信が生じる義務を果たした上で、享受していい権利だと思っていたから。
何も成さぬ自分がこの神殿という場所で、教会に仕える人を意のままに使えるか、というと違うと思う。たとえ、主神であるリローズの加護があろうとも。
「それは私が愛し子だからですか?」
「愛し子であり、リローズ様より名前を赦されているのです。貴女様にはその権利がございます」
ただの愛し子であればここまでではないということか。
フロウティアに引き下がる様子は無い。
「カツキ様、ご理解頂けましたか?カツキ様は愛し子の中でも、一際特別な存在なのです」
フロウティアは香月に言っている様で、視線は別にある。フロウティアの言葉はまるで、周りに控えている教会の人間たちへ言い聞かせているようにも聞こえた。いや、実際そうなんだろう。フロウティアは香月に返事を求めていなかった。
「さぁ、参りましょう」
香月、ヴィレム、教会の人々を見回した後、フロウティアは神殿の中へ向かう。促されるまま、香月はフロウティアの後ろをついて行った。
香月がフロウティアと話している間、ヴィレムは一言も話さなかった。香月の腕の中で大人しくしていた。眠っているのかと様子を伺えば、紅い瞳と目が合う。
「どうしたの、カツキ?」
「ううん、ヴィレムに癒されてただけ」
歩きながらヴィレムに癒されていると、教会の目の前まで到着した。建物はとても大きく、造りは香月がいた世界にもとても似ている。
フロウティアが閉められていた扉を開け、固定し中へと進む。香月も先導されながら、ついて行く。
中は不思議な空気に満ちていた。今まで澄んだ空気、という存在を肌で感じ取る機会はあまり無かった。しかし、ここはとても空気が澄み渡り清涼である。そして、懐かしさも感じる。
高い天井は色んな色のガラスが嵌め込まれている。太陽によって様々な色の光が混じり合い、降り注ぎ、空間を彩る。神秘的な空気と共によく馴染んでいた。
上手く言い表せないが、酷く安堵した。危険に晒されていないが、まるで今までが危ない場所にいたかのように、この場所が、雰囲気が安心できた。神聖な場所であると実感した。
入ってすぐは、どうやら礼拝堂のような場所だった。一番奥には祭壇らしきものが見える。飾れているのは十字架ではなく、太陽と月、そして花を模したもの。
確かにそれは、リローズを思わせた。色彩もそうだが、話をした彼女は正にそんな雰囲気を醸し出していた。太陽のように輝き、月のように見守り、花のように香月を癒したのだから。全てを投げ出してもいいかと、諦めていた自分を奮闘させ、期待させ、生きさせる選択をさせた。
多少強引なところもあったが、今のところこの世界に来て後悔は無い。可愛らしいヴィレムも傍にいる。
「カツキ様、これよりお部屋にご案内致しますが、何かご入用のものはございますか?」
フロウティアにたずねられ、香月は迷わず言った。
「何か食べる物を」
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