神々の愛し子

アイリス

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そしてその勘は当たっていた。



「カツキっ!無事!?」




獣の姿の時と同じ声で、ヴィレムは香月の名前を呼ぶ。



ヴィレムは安堵した様子を滲ませて、駆け寄ろうとしたがすぐそばにドゥームがいることを確認して足を止める。



ドゥームの姿を凝視した後、ヴィレムはドゥームに問いかける。



「ドゥーム様、そろそろ限界でしょ」



ヴィレムは崩れ掛けの壁に軽やかに座り、ドゥームを見て愉快そうである。



『あぁ、そうだな。だからこそ邪魔しないでほしかったが』



ドゥームは低く唸り、すかさずヴィレムの言葉に同意を示す。



「そんな配慮、するわけないでしょ?」



ヴィレムは軽やかな笑みを浮かべて、速攻で断る。ヴィレムはドゥームに対する配慮など必要ないと心底、思っている。



ドゥームが香月を狙わないなら考える余地はあるが、香月を狙うなら数秒すら二人っきりにする気は無い。あまりにも危険すぎる。




「それで、今回はもう諦めるってことでいいのかな?」




『口惜しいが、仕方ない』



ドゥームは残念そうに表情を曇らせる。




『流石に、この身体で複数人相手に戦うのは難しい』



ドゥームは自らの体を眺め、眉を下げた。




「そうだろうね、神の器に相応しい人間であっても長時間宿すのがやっと。それなのにただの人間を無理矢理、器として使ってもせいぜい保って数分だろうし」




ヴィレムの説明に香月は、ドゥームが器としているのはシュリクロンの父親だと思い出す。



彼が器に相応しい人間かどうかを香月が知る術は無い。だが、最も相応しい人間はシュリクロンだと述べていたことから、最高の条件でないことは察することができる。



器に適した人間であるフロウティアがリローズを宿した後は疲弊していたことを考えば、負荷は多大であることか予想できる。あの時と状況も条件も異なるが、負担になるのは間違いない。




『跡形もなく使い切るのであれば、あと数分はここへ留まれるだろうが』




「そこまですれば、神格を落としかねないもの。しないわよね?」




後ろから現れたシュリクロンに続きを言われ、ドゥームは口を噤んだ。



身体はシュリクロンだが、口調がいつもと違う。雰囲気も異なる。多分、いや絶対にリローズが宿っているだろう。




『リローズ、君にしては遅かったね』



シュリクロンの姿だが、中身はリローズだとわかっているドゥームは、そばに降り立ったこの世界を統べる女神に挑むような物言いをする。



「わざわざ分厚い結界を張ってまで二人きりなりたかったんでしょう?邪魔したら悪いと思ってね。気を遣ってあげたのよ、感謝して頂戴?それに結界に力を注いでいる間は大掛かりな魔法は使えないから安全だもの。......ねぇ、不便でしょう、器に適さない人間の身体でこの世に降り立つのは?」




同じく挑発するように言い放つリローズ。リローズは器に適した、いわば最高にあう身体でこの場に顕現している。ドゥームと力比べすれば圧倒的に有利なんだろう。




『あぁ、不便だね。こんなにも脆く、力を制限されるなんて』




リローズに同意するドゥームに香月は目を見開く。



ドゥームはあの体で使う魔法は制限が掛かっている、というのか。



香月と話している時は結界に力をいれ、大掛かりな魔法を使用出来なかったのはわかる。でも、ヴィレムと戦っている時は手加減をしているようには見えなかった。



香月から見たあの戦いは、秒速で繰り広げられる魔法合戦だった。お互いに無詠唱の為、どんな魔法を使うのか放たれるまでわからない難易度の高い戦い。



そもそもドゥームの全力を見たことないので、今の戦いとドゥームの本気と比較しようにもできないが。



だが彼は神だ。この、世界に連なる神でなくても、神なのだ。あれくらいが全力のわけなかった。



彼はあの体で、出せる力を以て香月たちを相手していたにすぎない。リローズとの会話でそれが明かされる。




「じゃあ、今、圧倒的に不利だとわかっているでしょう?」



リローズは目を眇め、ドゥームに圧力をかけるように、言含めるようにたずねる。ドゥームも言われずとも理解しているはずだ。



『そうだね、圧倒的に不利だ。君にヴィレム、そこに香月が加わる。俺はこれから袋叩きにされるんだろう?』




ドゥームは腕を組み、面白そうに三人を順に見ていき嘆息する。



ドゥームは三人からいっせいに攻撃される己を嘆きながら、戯るような態度だった。




「そうね、それもいいわ。体の持ち主諸共、わたくしが消し去ってあげましょうか」



リローズは穏やかな微笑みを絶やさず、物騒なことを告げる。




『恐ろしい女神だ、自分の統べる世界の人間を容易く消すとは。それも、目を抉らせた娘の身体に入りながらというのが末恐ろしいことだ』




「香月に無礼を働いのよ、寛容になる必要を感じないわ」




『あぁ、なるほど。それでか』




リローズの性格を知りえているからこそ、ドゥームが宿っているからといえども、消し去るなどと提案するのはリローズにしては珍しい。そう考えたドゥームだったが香月と関わりがあったなら、納得できる。よほど、腹に据えかねる何かがあったんだろうと察した。




(いや、それより今のどういうこと?目を抉らせた娘って、まさか、刑の執行者はシュリクロン?)



香月はリローズとドゥームの会話を耳にしながら自らが辿り着く答えに背筋を凍らせる。まさか、と思う。しかし、ドゥームが嘘を話す必要がない。



それは、つまり。




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