神々の愛し子

アイリス

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シュリクロンに、父親の目を抉らせた。



その事実が、香月に大きな衝撃を与える。




(そんな、まさか......)




否定したい気持ちが湧き上がるが、周りの反応やこれまでの流れからも否定する要素が見つけられず。そして、結局、ドゥームの言ったことは真実であると突きつけられる。




(私が関わって、ここまで大事になってしまった......)




必ず後悔するとわかっていた。




香月が関われればどんなことも大事になってゆく。



それはこれまでの人生経験から心得ていた。



元の世界でも同じだった。香月が関われれば良いことも悪いことも、規模が大きくて手に負えなくなる。



幸い、香月の周りは有能だった。両親は会社を経営していた為、ある程度のことは勝手に解決されていった。きっと香月が知り得ていることよりも多くの事が成されているだろう。目の届かないところでも処理されていたはずだ。



年の離れた兄や姉も同じく有能で、周りの人間と共に香月を可愛がり、そして囲っていた。



ある程度の自由のもと、選別された人間と過ごす毎日は愉しく、楽で、窮屈さを感じながらも逃げそうと思わない境を、絶妙に理解している采配だった。




周りが守り、尽くしてくれていても、どうしてもどうにもならない事は一定数あり、その度に香月は心が疲弊していた。香月が直接的に関わりがなくとも責められることもあった。



例であげるなら痴情のもつれが一番多いかもしれない。香月が異性と付き合ったことは一度もない。兄と姉が認める人間がいなかったのだ。そして二人の護りを掻い潜り、香月に手を出すような命知らずはいなかった。それほど徹底されていた。




だが人の気持ちとはどうにもならないもので。香月に一目惚れしたから追いかけてくる者。これはストーカーっぽく、周りを徘徊する程度でまだマシな方だ。もっと酷いのは彼氏、もしくは彼女が香月に想いを寄せ捨てられたからと復讐にくる者がいた。



香月にはどうしようもない案件だ。同性に至っては香月の理解の範疇を超えていた。否定する気は無いが、理解できるかは別の問題だ。そういう対象であったり、信仰の対象だったりと理由は様々だった。




でもそんな人生を歩んできた香月は、慎重に行動する癖がついている。




自分から人に関わるのはできるだけ慎重に、そして関わりすぎないよう心掛けていた。




だからフロウティアのあまり人と関わらないようにされていた対応は香月にとって有り難いことだった。ヴィレムとフロウティアがいて、そこにシュリクロンが加わり。シュリクロンとも仲良くなって、過ごせたら。それでよかったのに。




色んな経験、体験をしたいと言ったけど、それは一人寂しくするのではなく信頼できる者と共にしたかった。




できるなら、本当に色んなことをしたいと考えてしまって旅行に行くのを先延ばしにしてしまった。こんなことになるなら教会には少し寄るだけで滞在せず、ヴィレムと旅に出ればよかったと思う。




教会に身を寄せるのが合理的で安全であったとしても、拒めばよかった。そうすれば少なくとも、シュリクロンが父親の目玉を抉りとる事態にはならなかったはずだ。




そう、香月にとって彼の刑を執行したのがシュリクロンであったのが問題だった。シュリクロンは父親をとても愛していたはずだ。あれだけ酷い態度と暴言を吐かれても反撃することなく言いなりになっていたのは、恐怖も含まれていただろう。だがきっとそれだけじゃなくて、愛もあったはずだ。無ければ、もっと早く確実に縁は切れていただろう。彼女は愛し子なんだから。




それがわかるから、香月は心が苦しい。




シュリクロンではない、シュリクロンを見上げる。




涙のたまる瞳を向けられ、シュリクロンの中にいるリローズは狼狽する。




「香月!?なんで泣いてるの、どうしたの、どこか痛いの?」



リローズはドゥームを押しのけて香月に駆け寄り、質問をしながら身体中を検分する。



頭から始まり、首、胴、腰、脚をくまなく見終えて目立った外傷が腕にあるのを見て直ぐに癒す。



「ほら、香月怪我は治ったわよ、他に痛いところはある?それともすぐさまドゥームを、片付けましょうか?怖いことはもう無いわ、ね?だから、泣き止んで頂戴。香月の涙はとても美しくて、飾って眺めていたいくらいだけどやっぱり直に会ってるんだもの、笑顔が見たいわ。ねぇ、どうか香月、わたくしに笑顔をくれないかしら?」




リローズはいっきに捲し立てる。



早口で並べられた言葉に香月は目を瞬かせる。




香月はリローズが述べた言葉に、口を噤む。突っみこどころが満載すぎてどこから言葉をかければいいのかわからない。



とにかくリローズが香月を好き過ぎるのは理解した。



あと涙を飾って眺めるってなんだ。と思う。だがすぐに喋れない。



色んな感情が荒波のように渦巻き、とりあえず落ち着くことにつとめる。




少し落ち着いて、香月はリローズに苦笑を浮かべる。




「ありがとう、リローズ。シュリクロンが刑を執行したって知って動揺したけど、気が紛れたわ」



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