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しおりを挟むドゥームはリローズに言うだけ言って時間切れになり、姿を消す。それは蝋燭が溶けるような様子で身体がどろっと無くなってゆく。しかし醜悪さは全く感じず、空気に同化するような様で、刹那の出来事だった。
次の瞬間にはドゥームの姿はなく、元の身体の持ち主の容貌へと変わる。
ゴロンと力なく倒れている姿をリローズが確認する。命に別状はないようだ。
目以外に身体的な損傷も特にないようだ。時間が経ったからか、先程まで出血があった場所も今は止まり乾いてきている。
執行後、処置されず連れてこられ、更に無理矢理神を宿したので何かしらあるかと思ったが、そういう症状もなく、だが疲れから数日は眠ったままになるだろうというのはリローズの見立てだ。
「まぁ、体は教会で預かることになるわね」
「それって、さっきドゥームと話していた事が関係する?」
「そうね、関係ありすぎるわよ、香月。もちろん、貴女も」
「え?私?」
「あそこまでドゥームが感情を露わにしていたのよ、香月の魂に関係する案件なのよねぇ」
憂鬱そうな気だるげな表情でリローズは吐き出す。
「香月も関わりがあるから説明したいんだけど、流石にこのまま話を続けるのもね......」
リローズは荒れきった香月の部屋を見回す。
リローズが苦笑を浮かべ言葉を濁すくらいには部屋の有り様は酷かった。
壁は壊れ、抉れ、備え付けられていた家具類も全て破壊されている。もちろん寝室も同じような感じで、香月の部屋は部屋として過ごせる機能を失っていた。
「確かに、この場所でこれ以上話を聞いても落ち着いて聞けないね」
リローズの意見に香月も同意する。
「そうでしょう?片付けさせるから、その間は別の部屋に待機しておきましょ」
リローズはそう言うと魔法を使い、すぐに移動した。
移動した場所はフロウティアの部屋だった。
「まぁ、皆さま、酷い姿ですね」
突然部屋に現れたリローズ、香月、ヴィレムの姿を目にしてフロウティアは言った。だが驚いている様子は無く、事情は既に知っているのだろう。
リローズはあまり汚れていないが、あの部屋に現れた瞬間から埃は被っているので多少は服が汚れてしまっいる。香月とヴィレムは言うまでもなく色んなところが汚れている。服も破けたり、穴があいている箇所もある。ヴィレムに至ってはまだ傷が残っているところもあった。
「まずは着替えを済ませましょうか?」
有無を言わせぬ雰囲気でフロウティアは机を指さす。そこには予め予想されていたのだろう、しっかり3人分の着替えが並べられている。
リローズ用のシュリクロンのサイズのドレス、香月用のドレス、ヴィレム人型用の洋服一式。
フロウティアに促されるまま、三人はそれぞれ着替えれる場所も準備されており、各々が服に袖を通す。
その間にフロウティアはお茶の準備を済ませており、別のテーブルには紅茶と軽食が置いてある。
準備万端である。こんな時間であるにもかかわらず、相変わらずフロウティアは有能であった。
「夜中ですが、まだ、眠れないでしょう?お茶と軽食をご用意しておりますのでお召し上がりください」
「わぁ、フロウティア、ありがとう」
「カツキ様、ご無事で何よりです」
「今回も何とか......リローズとヴィレムのお陰だよ。二人が居なかったら、無事では済まなかったと思う」
ちらりと香月はヴィレムを見る。人型だから見慣れない。
ヴィレムはとても美しい少年だった。幼さの残る顔立ちで、しかし、身長は低くない。むしろ高い。香月よりも少し目線は上にある。髪は白く、瞳は紅い。その配色は神獣の時と変わらず。
声も一緒だった。香月を案じる声、焦りを含む声。あの状況で説明する時間なんて無かった、けれど直感で言われずともヴィレムだと思った。契約者だからなのか、関係ないのかはわからないが。
「カツキ......この姿はどう?」
ヴィレムは不安そうな表情で、若干震える声で香月にたずねる。
たずねられた香月のほうが戸惑う。
質問の意図もわからないし、不安がる意味もわからない。
(どういうこと!?この姿はどう、ってどういうこと!?どう返事するのが正解!?)
香月は言葉につまる。考えが纏まらない。
その間にヴィレムは香月を眺めながら表情を曇らせる。
そして香月の沈黙が長引く程に、瞳に涙を溜める。
遂にはポロポロ涙を零す。
「ヴィレム!?どうしたの、泣かないで?なんで泣いたの?答えが遅いから!?ヴィレムの姿、可愛いし、かっこいいと思うよ!?でもね、質問の意図がわからなくてね、考えてたの!!」
香月はヴィレムに近寄り、涙を拭い、捲し立てる。
この遣り取りに、既視感を覚えながらも敢えて知らないふりをする。
(これって、さっきリローズが私にしたやつ......!!)
涙を拭う動作まで同じだ。
(......いや、考えないでおこう。それよりもヴィレムよ)
「......カツキ、ありがとう!!この姿も好きってことだよね?」
「え、あぁ、うん、そうだね?」
ヴィレムは涙を引っ込め、笑顔で香月に確認する。問われ、頷いた。確かに嫌いじゃない。
ヴィレムが嬉しそうなので深く掘り下げるのはやめておくことにした。
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