19 / 116
朝チュン 同僚から聞いた残酷な言葉
しおりを挟む
ぬぼぉっと体を起こすダン。
リビングに据え付けられた窓からは朝日が差し込んでいた。
ヒュィーと甲高い声の鳥の鳴き声が聞こえる。
周りを見渡せば昨日の騒ぎに参加したメンバーが全員まだ寝ていた。
同僚から聞いた言葉が思い出される。
『隊長、朝チュンしちゃったんすか? え? 朝チュンってなんだって? 隊長みたいに流されてそのまま情事突入して、朝を迎えちゃった男の事っすよ!』
その後、ぶっ飛ばした記憶までがセットになって蘇ってくる。
やっちまった。とダンが頭を抱えた。
さっさと風呂を沸かして手早く洗い、リビングへと戻ってきたときにはライとリンの2人の姿があった。
「おはようございますダンさん」
「おはよ~さん、ダンさん」
心なしかライは疲れているようにみえるが気のせいだろうか? 代わりにリンは元気そうだ。なんかツヤツヤしているようにも見える。
「ああ、おはようございます。……えっと、その、昨日の夜のことは」
ダンが口を濁して言うが、2人はともにいい笑顔をしていた。
これ以上口を開いても墓穴を掘るだけと感じたダンは、朝食の準備をするために台所に向かった。
その頃にはリビングのあちらこちらで起き上がる影があった。
「お風呂準備してありますから入ってきてください」
ダンの声掛けにウロウロとした動きで風呂場へと向かっていく人影。
とりあえず簡単なもので朝食を作りますかと食材を取り出していくダン。
「え~、皆さんに重要なことをお知らせします」
簡単にシチューとサラダを出して朝食としたダンは、その食事が終わった段階で話を切り出した。なぜかワクワクしている雰囲気を感じたが、それを無視してダンは話を続ける。
「まず皆さん、自己診断魔法を使ってください」
その言葉に何故という顔をしながらも各々自分のステータスを見ていく。
「あの、ダンさん? コレは――あっ?」
ウェンディがステータスを開きながらダンへ質問しようとしたときに、自分のステータスの変化に気が付いた。
称号に『魔の孕み腹(ゴブリン)』が存在していなかったのだ。その代わりに別の称号があったが――
「あ、ゴブリンの字がない!」
「こっちも称号消えてる」
と女性陣が全員ワイワイと騒ぎ始めた。軽く咳払いをして注目を集めたダンが話し始めた。
「『魔の孕み腹』はマイナス称号ですが、これは時間経過とともに消えるものです。まあ、皆さんにはそれをより早く無くすための治療を続けて貰いましたが」
それに女性陣が顔を赤くして伏せる。風呂に入るたびにウェンディの持っていた道具で治療を継続していたからだ。確かにちょっと恥ずかしいかもしれないが。
「一先ず人前に出ても大丈夫な状態となりました。でも皆さんはまだ実力が足りていません。これからも訓練は継続しますので、そのつもりでいてくださいね」
そこまで言い切ったダンにウェンディからの質問が飛ぶ。
「すみません、この『愛し子の守り』ってなんですか?」
ダンは聞こえないフリをした。
それを破ったのはキョーコだった。
「そんなのダンさんがやってたようにホイホイっと」
ステータスの文字を突くように指を動かすとステータスがさらに開かれた。
『愛し子の守り』
愛しいと思った相手の子を身籠った女性に授かる祝福。流産などをしにくくなる。
その説明文を読み上げたキョーコは真っ赤な顔で押し黙った。
ダンはサッと見渡す。
ウェンディとキョーコ、マロンにクローディア、か。
ちょっとライとリンが見つめあっているのは、この際無視しておこう。
逆にリルからの視線の圧が凄い。
これだから嫌なのだ。
ダンが『戦乙女の加護』を【呪い】と言う理由が、このとんでもない称号だ。
普通、熟練の神官職であっても、子供が出来たかどうかを判別するのは難しい。しかしダンの『戦乙女の加護』という称号は神が常に見ているためか、ダンの相手をした女性の状態を把握しているようなのだ。ゆえにダンの子供が出来た女性は『加護』の範囲なのか、このとんでもない称号がつくのだ。
「え~っとですね、その、ひとまずその件は置いておきましょう?」
しかしダンは逃げることは出来なかった!
その後、訓練はしっかりと行うことと引き換えに、ダンの夜の時間は女性陣に当てられることとなった。
ライとリンは夜は決まって姿を消していた。
ダンはそんな生活が始まってすぐ、元同僚をぶちのめすことに決めた。
「うひぃ!?」
「どうした愚弟」
「いや、なんかものすごい殺気を感じて……。隊長かなぁ?」
「ふむ? 隊長の居場所を感じたなら吐いて貰おうか?」
「ちょ、サブリーダー待った、知らないから! って姉ちゃんも脅そうとしないで!」
とある任務を行っている部隊の一コマであった。
それから地獄と天国の訓練が開始から1か月が立った。
全員訓練でボロボロとなった服装で、しかしその顔は晴れやかなものであった。
「それじゃあ、街へと向かいます。っとその前に」
ダンは大きな袋を持ってくると地面へと下ろした。更にログハウスに立てかける様に置かれたモノの覆いを取り払った。
「「「おお」」」
それは簡易な革鎧が人数分と、それぞれが練習していた武器の鉄製の物が置かれていた。
各々がソレを手にしていく。
「鎧は簡易的な胴体だけのものです。それと武器の方ですが」
マロンが「おお!?」と武器と一緒に倒れた。ドシンッ! と重そうな音が響いてくる。
武器は鉄の輝きを持った黒い武器であった。
「え~、武器は黒鉄鋼で出来ています。鉄よりも重いですから気を付けてくださいね」
全員、武器を恐る恐る持っていく。一番軽いウェンディとキョーコの杖ですら、訓練で使っていた物よりも重たく感じるほどだ。
それでも訓練で鍛えた体はその武器を持つことに支障はなかった。マロンを覗いて。
「う~、どれか一つだけなのダンさん?」
練習した武器はどれをとってもマロンにとって外せない武器だった。そんなマロンにダンは一つの道具を差し出した。
3と刺繍されたマジックバッグだ。
「マロンさんにはこちらも渡しておきますね。まだ使っていなかったバッグです」
そういって渡されたバッグにマロンは小躍りをして、一つ一つの武器をバッグへとしまっていく。
「ずるい」という面々に、ダンは「まあまあ」と抑える様に言った。
そんなこんながあったが、全員武装を済ませるとダンの前に並んだ。
「では、街に向かって進みま~す。各自警戒を怠らないように」
そしてダン達一行は街へと進み始めた。
結界越しに見る森と、実際に入る森はまた違った雰囲気を持っていた。
ダンは先頭、リルが殿を歩く一行は左右の森に警戒をして進む。
ライとリンがダンとリルよりも内側に入って、その手に持った槍をいつでも振り回せるように構えていた。さらに内側にファーニとマロン。一番内側にポーラとクローディア、ウェンディにキョーコといった隊列だ。
一見すると理想的な隊列に見えるが周りは森だ。どこからでも敵が飛び出してくる環境なのは間違いない。
そして森には、
「狼型魔物確認!」
群れで襲ってくる狼型の魔物が居るのだ。
集団先頭を得意とする狼は、相手の弱点となるところを突いてくるという習性がある。つまりは弱そうな相手を狙うのだ。
狼達が真っ先に狙うのは――
「げ、やっぱりコッチか」
「ふふ、案の定ですね」
キョーコやウェンディだった。
近くに居るとはいえ、距離を置いて歩いていた隊列は間延びをしている状態だ。そしてその2人の内近くに居るクローディアは弓を持っている。弓を持った相手は近づけば怖くないと学習していた狼は、その距離を一気に詰める。ポーラは近接装備だったが、それでも杖を持った弱い相手を殺す時間はある。
狼達は一撃離脱でキョーコとウェンディだけを狙ったのだ。
先頭の口が大きく開かれてウェンディを狙った。
するとウェンディがその手を回した。
ガッ! と音を立てて下から衝撃が走る。開いた口が強制的に閉じられた。挟まる舌に激痛。
「あらあら」と目の前の獲物が体を回すと、今度は横っ面に強烈な打撃が加えられた。
ほぼ時間差なくキョーコへと襲い掛かった狼は、その口から棒を差し込まれて一息で絶命した。体の3分の2を棒で刺し貫かれた形だ。
「うえぇ、棒がヌルヌル」
棒を振るって狼を投げ飛ばしたキョーコが、自身の武器の惨状に涙目となった。
狼型魔物は自分たちの連携が通じなかった相手に、攻撃を躊躇ってしまった。そもそも弱い個体を狙ったはず。司令塔の狼は一番後方からそれを見て、『ヴォフ!』と合図をだす。
狼達は一斉に包囲陣形へと動いて、次の掛け声と共に一斉に襲い掛かった。複数同時攻撃だ。
しかしクローディアは、包囲陣形を取るためにいったん離れた狼を端から狙い撃ちしていった。
ポーラも手にした槍で狼たちをけん制している。
攻めあぐねた司令塔の狼は、その狭まった視界で飛んでくる人物を身落としてしまった。
「らぁぁあ!」
赤い髪のその女は、まさに飛ぶような横っ飛びの跳躍で司令塔の狼へと接近してきた。その速度はあまりにも早く、狼は2つの剣線を受けて首を落とされた。
残った狼が独自に判断して攻めてくる。狙いはクローディア。弓を構えた人間だ。
迫る狼に気づいたクローディアが、素早く腰の武器を引き抜こうとする。その間に緑の影が走りこんだ。
「ウチを忘れて貰っちゃ困るぜぃ。ムキー小さいからって見落としたとかって言うなよ!」
なぜかマロンが自分自身で怒っていた。素早くバッグから出した武器は鉄鞭とボーラだ。近づいてきていた狼の鼻先を打つように鉄鞭を振るい、まだ距離がある狼の足へとボーラを投げつける。
それぞれが怯んだが、それで狼達の突進が止まるわけでは無い。
「ナイスアシスト」とクローディアの矢が放たれなければ。
ダンは問題なく魔物の相手を出来ている一同に感心していた。一応、こういった場合の対処も訓練はしたが、実戦は今日が初めてだったのだ。
「あ、違うか?」とダンは昨日の記憶を思い返していた。
「それでは最終試練を行います」
昨日、午前中の訓練を自習としてダンが森に入っていき、昼に戻ってきて全員にそう告げた。
急なことに全員困惑していたが、ダンの言葉を信じて結界の外へと一歩進み出た。
そこには何やら布が被せられた塊があった。
「では皆さん、武器の準備はいいですか?」一応言われて木製の武器を持ってきていた一同。
「では1人づつ、この魔物と戦ってください」
そういってダンが布をはぎ取った瞬間、ダンとリルを除く全員の表情が硬くなった。
ゴブリン。
憎しみの対象がそこに居た。
全員が一気に駆け足で詰め寄る。
ダンはその手前に落ちる様にゴブリンを投げていく。拘束を解いて。
その後、全員が木製の武器でゴブリンを滅多打ちにしていく様子をダンは見ていた。
そして頃合いを見て声を掛ける。
「みなさん。ゴブリンは死んでますよ?」
その言葉に、全員ハッと正気に戻って泣き崩れてしまった。
とりあえずゴブリンに対して体が強張ることはなさそうだと思った。問題はどう慰めようか、ということにダンは苦心した。
「アレを越えられない人も居ましたからねぇ」
トラウマというやつだ。ゴブリンに襲われたという記憶が蘇り、体が動かなくなってしまうことも過去にはあったことだ。
そうこう考えているうちに狼は全て狩られたようだ。
「とりあえずコレに入れてください」とダンは4と刺繍されたバッグを差し出す。そういやコレにゴブリン詰めたんだっけ? と思いながら近くに居たライへと渡した。
ライとリンは他の魔物の襲撃を警戒していたが、「とりあえず大丈夫だよ」とダンに言われて狼の回収へと向かった。
「ふむ」と言ってダンは後ろの気配へと手刀を繰り出す。すると風景からにじみ出る様にトカゲ型の魔物が首を無くした姿で現れた。
「ほ~、姿を見えなくする魔物か。始めてみたな。とりあえずしまっておこう」
ダンは自分用の2番バッグに魔物をしまった。
狼達を回収し終えたライたちが隊列を戻したのを見て、ダン達は街へと向かった。
その後1回の狼型の襲撃だけで、ダン達は街にたどり着いた。
リビングに据え付けられた窓からは朝日が差し込んでいた。
ヒュィーと甲高い声の鳥の鳴き声が聞こえる。
周りを見渡せば昨日の騒ぎに参加したメンバーが全員まだ寝ていた。
同僚から聞いた言葉が思い出される。
『隊長、朝チュンしちゃったんすか? え? 朝チュンってなんだって? 隊長みたいに流されてそのまま情事突入して、朝を迎えちゃった男の事っすよ!』
その後、ぶっ飛ばした記憶までがセットになって蘇ってくる。
やっちまった。とダンが頭を抱えた。
さっさと風呂を沸かして手早く洗い、リビングへと戻ってきたときにはライとリンの2人の姿があった。
「おはようございますダンさん」
「おはよ~さん、ダンさん」
心なしかライは疲れているようにみえるが気のせいだろうか? 代わりにリンは元気そうだ。なんかツヤツヤしているようにも見える。
「ああ、おはようございます。……えっと、その、昨日の夜のことは」
ダンが口を濁して言うが、2人はともにいい笑顔をしていた。
これ以上口を開いても墓穴を掘るだけと感じたダンは、朝食の準備をするために台所に向かった。
その頃にはリビングのあちらこちらで起き上がる影があった。
「お風呂準備してありますから入ってきてください」
ダンの声掛けにウロウロとした動きで風呂場へと向かっていく人影。
とりあえず簡単なもので朝食を作りますかと食材を取り出していくダン。
「え~、皆さんに重要なことをお知らせします」
簡単にシチューとサラダを出して朝食としたダンは、その食事が終わった段階で話を切り出した。なぜかワクワクしている雰囲気を感じたが、それを無視してダンは話を続ける。
「まず皆さん、自己診断魔法を使ってください」
その言葉に何故という顔をしながらも各々自分のステータスを見ていく。
「あの、ダンさん? コレは――あっ?」
ウェンディがステータスを開きながらダンへ質問しようとしたときに、自分のステータスの変化に気が付いた。
称号に『魔の孕み腹(ゴブリン)』が存在していなかったのだ。その代わりに別の称号があったが――
「あ、ゴブリンの字がない!」
「こっちも称号消えてる」
と女性陣が全員ワイワイと騒ぎ始めた。軽く咳払いをして注目を集めたダンが話し始めた。
「『魔の孕み腹』はマイナス称号ですが、これは時間経過とともに消えるものです。まあ、皆さんにはそれをより早く無くすための治療を続けて貰いましたが」
それに女性陣が顔を赤くして伏せる。風呂に入るたびにウェンディの持っていた道具で治療を継続していたからだ。確かにちょっと恥ずかしいかもしれないが。
「一先ず人前に出ても大丈夫な状態となりました。でも皆さんはまだ実力が足りていません。これからも訓練は継続しますので、そのつもりでいてくださいね」
そこまで言い切ったダンにウェンディからの質問が飛ぶ。
「すみません、この『愛し子の守り』ってなんですか?」
ダンは聞こえないフリをした。
それを破ったのはキョーコだった。
「そんなのダンさんがやってたようにホイホイっと」
ステータスの文字を突くように指を動かすとステータスがさらに開かれた。
『愛し子の守り』
愛しいと思った相手の子を身籠った女性に授かる祝福。流産などをしにくくなる。
その説明文を読み上げたキョーコは真っ赤な顔で押し黙った。
ダンはサッと見渡す。
ウェンディとキョーコ、マロンにクローディア、か。
ちょっとライとリンが見つめあっているのは、この際無視しておこう。
逆にリルからの視線の圧が凄い。
これだから嫌なのだ。
ダンが『戦乙女の加護』を【呪い】と言う理由が、このとんでもない称号だ。
普通、熟練の神官職であっても、子供が出来たかどうかを判別するのは難しい。しかしダンの『戦乙女の加護』という称号は神が常に見ているためか、ダンの相手をした女性の状態を把握しているようなのだ。ゆえにダンの子供が出来た女性は『加護』の範囲なのか、このとんでもない称号がつくのだ。
「え~っとですね、その、ひとまずその件は置いておきましょう?」
しかしダンは逃げることは出来なかった!
その後、訓練はしっかりと行うことと引き換えに、ダンの夜の時間は女性陣に当てられることとなった。
ライとリンは夜は決まって姿を消していた。
ダンはそんな生活が始まってすぐ、元同僚をぶちのめすことに決めた。
「うひぃ!?」
「どうした愚弟」
「いや、なんかものすごい殺気を感じて……。隊長かなぁ?」
「ふむ? 隊長の居場所を感じたなら吐いて貰おうか?」
「ちょ、サブリーダー待った、知らないから! って姉ちゃんも脅そうとしないで!」
とある任務を行っている部隊の一コマであった。
それから地獄と天国の訓練が開始から1か月が立った。
全員訓練でボロボロとなった服装で、しかしその顔は晴れやかなものであった。
「それじゃあ、街へと向かいます。っとその前に」
ダンは大きな袋を持ってくると地面へと下ろした。更にログハウスに立てかける様に置かれたモノの覆いを取り払った。
「「「おお」」」
それは簡易な革鎧が人数分と、それぞれが練習していた武器の鉄製の物が置かれていた。
各々がソレを手にしていく。
「鎧は簡易的な胴体だけのものです。それと武器の方ですが」
マロンが「おお!?」と武器と一緒に倒れた。ドシンッ! と重そうな音が響いてくる。
武器は鉄の輝きを持った黒い武器であった。
「え~、武器は黒鉄鋼で出来ています。鉄よりも重いですから気を付けてくださいね」
全員、武器を恐る恐る持っていく。一番軽いウェンディとキョーコの杖ですら、訓練で使っていた物よりも重たく感じるほどだ。
それでも訓練で鍛えた体はその武器を持つことに支障はなかった。マロンを覗いて。
「う~、どれか一つだけなのダンさん?」
練習した武器はどれをとってもマロンにとって外せない武器だった。そんなマロンにダンは一つの道具を差し出した。
3と刺繍されたマジックバッグだ。
「マロンさんにはこちらも渡しておきますね。まだ使っていなかったバッグです」
そういって渡されたバッグにマロンは小躍りをして、一つ一つの武器をバッグへとしまっていく。
「ずるい」という面々に、ダンは「まあまあ」と抑える様に言った。
そんなこんながあったが、全員武装を済ませるとダンの前に並んだ。
「では、街に向かって進みま~す。各自警戒を怠らないように」
そしてダン達一行は街へと進み始めた。
結界越しに見る森と、実際に入る森はまた違った雰囲気を持っていた。
ダンは先頭、リルが殿を歩く一行は左右の森に警戒をして進む。
ライとリンがダンとリルよりも内側に入って、その手に持った槍をいつでも振り回せるように構えていた。さらに内側にファーニとマロン。一番内側にポーラとクローディア、ウェンディにキョーコといった隊列だ。
一見すると理想的な隊列に見えるが周りは森だ。どこからでも敵が飛び出してくる環境なのは間違いない。
そして森には、
「狼型魔物確認!」
群れで襲ってくる狼型の魔物が居るのだ。
集団先頭を得意とする狼は、相手の弱点となるところを突いてくるという習性がある。つまりは弱そうな相手を狙うのだ。
狼達が真っ先に狙うのは――
「げ、やっぱりコッチか」
「ふふ、案の定ですね」
キョーコやウェンディだった。
近くに居るとはいえ、距離を置いて歩いていた隊列は間延びをしている状態だ。そしてその2人の内近くに居るクローディアは弓を持っている。弓を持った相手は近づけば怖くないと学習していた狼は、その距離を一気に詰める。ポーラは近接装備だったが、それでも杖を持った弱い相手を殺す時間はある。
狼達は一撃離脱でキョーコとウェンディだけを狙ったのだ。
先頭の口が大きく開かれてウェンディを狙った。
するとウェンディがその手を回した。
ガッ! と音を立てて下から衝撃が走る。開いた口が強制的に閉じられた。挟まる舌に激痛。
「あらあら」と目の前の獲物が体を回すと、今度は横っ面に強烈な打撃が加えられた。
ほぼ時間差なくキョーコへと襲い掛かった狼は、その口から棒を差し込まれて一息で絶命した。体の3分の2を棒で刺し貫かれた形だ。
「うえぇ、棒がヌルヌル」
棒を振るって狼を投げ飛ばしたキョーコが、自身の武器の惨状に涙目となった。
狼型魔物は自分たちの連携が通じなかった相手に、攻撃を躊躇ってしまった。そもそも弱い個体を狙ったはず。司令塔の狼は一番後方からそれを見て、『ヴォフ!』と合図をだす。
狼達は一斉に包囲陣形へと動いて、次の掛け声と共に一斉に襲い掛かった。複数同時攻撃だ。
しかしクローディアは、包囲陣形を取るためにいったん離れた狼を端から狙い撃ちしていった。
ポーラも手にした槍で狼たちをけん制している。
攻めあぐねた司令塔の狼は、その狭まった視界で飛んでくる人物を身落としてしまった。
「らぁぁあ!」
赤い髪のその女は、まさに飛ぶような横っ飛びの跳躍で司令塔の狼へと接近してきた。その速度はあまりにも早く、狼は2つの剣線を受けて首を落とされた。
残った狼が独自に判断して攻めてくる。狙いはクローディア。弓を構えた人間だ。
迫る狼に気づいたクローディアが、素早く腰の武器を引き抜こうとする。その間に緑の影が走りこんだ。
「ウチを忘れて貰っちゃ困るぜぃ。ムキー小さいからって見落としたとかって言うなよ!」
なぜかマロンが自分自身で怒っていた。素早くバッグから出した武器は鉄鞭とボーラだ。近づいてきていた狼の鼻先を打つように鉄鞭を振るい、まだ距離がある狼の足へとボーラを投げつける。
それぞれが怯んだが、それで狼達の突進が止まるわけでは無い。
「ナイスアシスト」とクローディアの矢が放たれなければ。
ダンは問題なく魔物の相手を出来ている一同に感心していた。一応、こういった場合の対処も訓練はしたが、実戦は今日が初めてだったのだ。
「あ、違うか?」とダンは昨日の記憶を思い返していた。
「それでは最終試練を行います」
昨日、午前中の訓練を自習としてダンが森に入っていき、昼に戻ってきて全員にそう告げた。
急なことに全員困惑していたが、ダンの言葉を信じて結界の外へと一歩進み出た。
そこには何やら布が被せられた塊があった。
「では皆さん、武器の準備はいいですか?」一応言われて木製の武器を持ってきていた一同。
「では1人づつ、この魔物と戦ってください」
そういってダンが布をはぎ取った瞬間、ダンとリルを除く全員の表情が硬くなった。
ゴブリン。
憎しみの対象がそこに居た。
全員が一気に駆け足で詰め寄る。
ダンはその手前に落ちる様にゴブリンを投げていく。拘束を解いて。
その後、全員が木製の武器でゴブリンを滅多打ちにしていく様子をダンは見ていた。
そして頃合いを見て声を掛ける。
「みなさん。ゴブリンは死んでますよ?」
その言葉に、全員ハッと正気に戻って泣き崩れてしまった。
とりあえずゴブリンに対して体が強張ることはなさそうだと思った。問題はどう慰めようか、ということにダンは苦心した。
「アレを越えられない人も居ましたからねぇ」
トラウマというやつだ。ゴブリンに襲われたという記憶が蘇り、体が動かなくなってしまうことも過去にはあったことだ。
そうこう考えているうちに狼は全て狩られたようだ。
「とりあえずコレに入れてください」とダンは4と刺繍されたバッグを差し出す。そういやコレにゴブリン詰めたんだっけ? と思いながら近くに居たライへと渡した。
ライとリンは他の魔物の襲撃を警戒していたが、「とりあえず大丈夫だよ」とダンに言われて狼の回収へと向かった。
「ふむ」と言ってダンは後ろの気配へと手刀を繰り出す。すると風景からにじみ出る様にトカゲ型の魔物が首を無くした姿で現れた。
「ほ~、姿を見えなくする魔物か。始めてみたな。とりあえずしまっておこう」
ダンは自分用の2番バッグに魔物をしまった。
狼達を回収し終えたライたちが隊列を戻したのを見て、ダン達は街へと向かった。
その後1回の狼型の襲撃だけで、ダン達は街にたどり着いた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる