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ウルスラの街に到着する

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 起き上がろうとするダン達一行。
 それをさせまいと男達が武器を手に迫ってくる。

「まあ起きなくても攻撃できますが。部分開放、模倣闘気撃オーラショット!」
 右手だけ闘気を生み出すと、先頭の男へと拳を振りぬくダン。
 プギョッ! と男が変なうめき声をあげて後ろにひっくり返る。それに呆気に取られている男達を後に、素早く起き上がると武器を構えるパーティの全員。ダンも起き上がる。
「さて? 聞かなくても襲い掛かったのは間違いはないのですから、とりあえず制圧しますか。リル、ウェンディ、ファーニは前衛、マロン、クローディアは後ろから援護、ライとリン、ポーラは馬車の近くに移動して防御態勢。キョーコさん、軽く燃やしちゃってください」
 淡々と指示を出すダン。
 男達は我に返ると、また武器を掲げて走ってきた。
 リルが両手に短剣を持ち、ウェンディは棒を構えて、ファーニは剣を構えて上体を沈めた。
 3人が弾ける様に前へと駆け出す。
 その後ろからマロンは槍を、クローディアは弓でけん制を始めた。
 馬車は3人が囲むように防御して、ミニーと御者の男をその内側に入れる。
 キョーコは炎の魔法で作った火の玉を浮かべて、ダンはポーチから投げナイフを取り出して構えた。
 最初に駆け出した3人が男達へと接敵する。男達は手に持った剣や斧などを振り回しているが、リルにはあっさりと懐に入られて足や腕などを切られていた。ウェンディはエルフで華奢だと甘く見たのか、それとも別の何かに油断したのか、脳天を打ち据えられ、顎をかち割られ、側頭部に打撃を食らって昏倒するものが出てきていた。
 そしてファーニはダンとの訓練で鍛えた、火属性の魔法を併用したを開始していた。
 瞬間的に加速する火の補助魔法、火の加速ファイアブースターという魔法だ。
 術者の後方へ急速に膨れ上がる熱気。その反動を利用するという、なんともな補助魔法をダンが知っていて、それを応用する戦闘術をファーニへと伝授したのだ。もちろんダンのオリジナルではなかった。同じように戦うを知っていたのだ。唯一の違いは得物の射程距離。
「あの人、直接ぶん殴るスタイルだったからなぁ」
 剣を縦横無尽に振り回すファーニを見てボソリと呟く。

 男達は慌てていた。
 街に忍ばせた仲間から、の護衛をしている馬車が通ると聞かされていたからだ。
 しかし蓋を開けてみれば低級冒険者などとは次元の違う、自分たちから見ればまさに化け物といっていい実力を見せられているのだ。
 襲撃早々に気づかれ、リーダーが倒された今、自分達が出来るのは死に物狂いで襲い掛かることだけだった。
 それでも獣人娘は早すぎるし、エルフは見た目以上の力を持っていた。ドワーフに至っては男達を翻弄する動きで捉えきれない。いや、動きだけなら目でも終えるが、あのドワーフ特有のゴツイ体がかなりの速度で突進を繰り返しているのだ。いかに直線的な動きだと分かっていても止められない。
 そいつらを迂回しようにも槍を持った子供――おそらくホビットや弓持ちも居て動きが防がれている。
 仮に躱せても、狙う馬車にはまだ護衛が張り付いていた。
 おまけに魔法使いの炎が周囲を照らして、またそれが攻撃にも使えるものだと思っていた。
 男達は、自分達が襲撃してはいけない相手を襲ったことを後悔していた。

 結局数分も掛からずに男達を制圧したダンは、まず護衛対象へと視線を向けた。その間、男達はリル達に監視をさせている。
「とりあえず、そのは戻してくださっていいですよ?」
 ダンは御者の男へそう声を掛けた。
「……気づかれてたか。場合によっては助太刀も考えたが」
「ま、最悪はそうしてもらうこともありましたが。しかし随分な使の方が御者をやっていたんですね。ギルドって普段からそうなんですか?」
 ダンの言葉に御者をやっていた男――ギルド職員マークスは内心舌を巻いていた。
 普段は職員として仕事をしているが、本業はギルドの治安維持部隊所属だ。
 治安維持といっても大げさなものではなく、ギルド内で起こった小競り合いの仲裁や、ギルドの有事の際の攻撃要員というのが仕事内容である。
 元は中級冒険者であったマークスは今回の試験官兼ミニーの護衛役であった。
 そもそも護衛依頼という名目でウルスラへと向かってもらったが、ギルドとしてのの試験は男達盗賊の駆除であった。
 とはいえ狙って襲わせるということではなく、いかにその事態になったときに切り抜けられるかが試験として確認う内容だ。情報をばら撒いて、という事に盗賊が動かなかった場合、運も実力の内として昇格試験を合格させるつもりであった。
 まあ生き帰りの往復で盗賊たちが襲い掛かってこないのは、かなり少ない確率ではあっただろうが。
 その盗賊に襲われた場合、最悪の事態としてミニーを連れて逃げ出す役目がマークスだった。
 当然、戦闘力はギルドマスターが計画を立てる際に考慮されている。
 なるべく実力はない、ただの御者のフリをしていたのだが、ダンという青年は自分の実力を見極めたようだ。
 そういえば、ギルドマスターが出発前に言っていたな。
『たぶん、盗賊が出てきてもダン1人が片付けちまうかもな』と笑って言っていたが、正直なところマークスはダンの力量を測れなかった。中級冒険者が誰しもというわけでは無いが、マークスは闘気鑑定オーラチェックという技術を使える。具体的な数字ではないが、相手の闘気の量を測るというものだ。だが道中ダンの身体から闘気一切見えなかったので、良く分からなかったのだ。
 しかし、こっそりと戦いの様子を見ているとリーダーとしてよく戦いの場を見ている男だと思った。
「さて、とりあえずは生け捕りにしましたがどうしましょうか?」
 ダンが腕を組んで考えている。
 余裕があるならば街に連行するなりすれば、もしかしたら報奨金が出るかもしれない。だがダン達は現在護衛の最中だ。さてどうするとマークスは見ていた。
「しかたない」と腰のポーチから縄を取り出していくダン。
『あれもマジックバッグなのか!』と内心驚愕しているマークスだが、それとは反対に残念に思っていた。
 護衛対象と一緒に盗賊達を連行しようというのだろう。確かにそれもありかもしれないが、男達はかなりの大所帯、20人ちょっとは居そうだ。そんな状態を護衛対象に聞かずに実行しようとする。これはマイナス評価だなとマークスは判断した。
 そして首と両手を縛られ、それを前後同じ縄で括られた男達の列が出来上がった。
 さすがに一つ先輩冒険者としてアドバイスをしようとしたマークスは、次のダンのセリフに驚愕の表情を晒してしまった。
「それじゃあ、僕だけ彼らを連れてニアラに一回戻りますね」

 縄を右手に軽く屈伸運動をするダン。
 そこに御者の男が声を掛けてきた。
「本気なのか!?」
 本気とはなんの事だろうとダンは思った。とりあえず自分が駆けていたマジッグバックをリル達に預けつつ、一応全員に確認をした。
「僕抜けても1日くらいは任せていいですかね?」
 全員「大丈夫」と言ってくれる。
 そしてダンはミニーと御者の男に言った。
合流しますので、皆さんは先に進んでいてください」
「待て待て」と御者の男がダンを止める。
「ニアラの街まで行って、森の先の休憩地までどれだけあると思ってるんだ?」
 そういわれてダンは頭の地図と、過去に通った時の情報を足して答える。
「夜ご飯までには間に合います」
「それじゃあ、行ってきますね~」とダンはニアラへと体を向ける。
「『戦乙女の加護』解放リリース。全身強化で闘気を纏って、っと」
 グッと足を踏みしめ腰を落とすダン。
 盗賊達は今から何をするのかと困惑していた。
「それじゃあ、。行ってきます」
 そしてダンは猛烈な勢いで走り始めた。
 右手に引きずられる男達が繋がった縄を持って。
 ドドドと男達がこけたり弾んだりしながらドンドンと遠ざかっていく。
「では進みましょうか」
 ダン以外のパーティメンバーは平常運転だった。
『こいつらナニモンなんだ?』
 マークスはとんでもない奴らの試験を任されたと天を仰いだ。

 その日の昼。
 ニアラの街の西門は突如見えてきた土埃に、すわ魔物かと色めき立った。
 ボア種が団体で突撃してきたかと門番たちが外へと勢ぞろい。そのうちに違和感に気づいた。
 人である。
 土埃をあげるその先頭には人影が。人がニアラの街へと突っ込んで来ようとしていたのである。
 魔物ではないが、何かの異常事態かと更なる緊張に包まれる西門。
 よく見れば先頭の後ろにも人影が見える――ただその姿はバウンドしているように見えた。
「すみません。盗賊を捕らえてきました」
 青年はで、そういった。
 右手に掴んだ縄を差し出してくる。
「へ? 盗賊?」
 その縄の先に繋がれた男達はボロボロといった姿になっていた。全員ビクビクと痙攣している。大部分が青白い顔で空気を求める様に口を開けていた。
 とりあえずチェックで男達の犯罪歴を調べると窃盗や強奪など、たしかに盗賊のようだ。
 そういえばこの青年、見かけたことのあるような顔だな。
「おや? 君確か昨日ギルドの護衛で出た冒険者じゃなかったか?」
 別の門番が気づいた。そうだ、ギルドの馬車を護衛していた冒険者だった。
「そうなんです。なので他の者を待たせているので盗賊の引き取りお願いしてもいいですか?」
 冒険者なのにすごく丁寧な青年だ。門番たちも普段犯罪者を捕らえることはあるため、その辺りの手続きは勝手知ったるものだ。戻りたそうにしている青年に「分かった。こちらで処理しておくよ」と告げると、青年は笑顔になって「ありがとうございます。よろしくお願いします。それでは失礼しますね」と先ほどよりも早い速度で西の街道を走っていった。
 あの速さなら、途中休憩を入れて森ので仲間と合流できるだろう。
 ふと、盗賊達を見て思ったことが一つあった。
 どうしてこいつら、走ってきたんだろうな?
 門番の記憶から、バウンドしていた姿は無かったものとされていた。

 森の中ではあいかわらずの警戒で進み、森を抜けた広場で今日の休息となった。
 まだ日も出ていたが、ギルドの旅程通りにここで1泊することとなった。
 テキパキと準備をするリル達一行。その中の唯一の男性のライにマークスは話しかけた。
「今いいかい?」
「ええ大丈夫ですよ。なにかありましたか?」
 ライはサニーの飼料を与えていたところだった。マークスは馬を警戒させないようにしつつ話を続ける。ちなみにマークスも馬車の馬の手入れを行っていた。
「ちょっとした雑談さ。君達のリーダーのダンって彼、何者だい?」
「ダンさんですか? まあ我々の命の恩人ですね。え、前職ですか? たしか王国軍の兵士をやっていたとか」
 元兵士。大体の強さで行けば低級から中級の冒険者と戦闘能力では変わらないだろう。だがその本質は集団戦闘にある。一人だけ突出した強さを持つものは何か役職についているものだろう。例えば部隊を纏める長など。
「なにか部隊を率いてたって?」
「いえ? そんなことは言ってなかったですね。たしか兵士って言ってたかな? ヒラってなんでしょう?」
 ライはその意味を分からずにマークスに聞いてみた。
 マークスは「いや~、分からないですね」と苦笑いしていた。
『ヒラ? あいつの強さで一番の下っ端ってことかよ! 王国軍ってそんなに強かったか?』内心は相当に動揺していたが。
「そうなんですよ。階級は全く上がらなくてですね」
「ほうほう」
「魔法適正も皆無と言われて、一番の下っ端として兵士やってました」
「ほうほ――なっ!」
「あ、ダンさんおかえりなさい」
「はいただいま」
 マークスは挨拶を交わすライとダンの横で硬直していた。まったく気配も何も感じなかったからだ。
 というかこの男、本当にこの短時間でニアラの街まで行ってきたというのか?
 だがその後ダンに見せて貰った証明書を見て、マークスは色々と規格外なこの男の実力を信じざるをえなかった。

 翌日は何の支障もなく一行は街の外壁が見える場所まで進んできた。
「皆さん、あれがウルスラの街ですよ~」
 そのまま外壁に設置された門までたどり着く。ニアラにある門と似た造りの(王国内にある街は大体同じ造りだ)門にてチェックを受け、一行は街の中へと入っていく。
 街中を馬車に併せてまとまって移動していき、これまた似た造りのギルドへと到着した。
 ミニーとダンは到着をした手続きをしに中へと入っていき、他のメンバーと御者で摘まれた荷物をギルド内へと運び入れて行った。
「さて、これで行きはOKです! 明後日にまた護衛を頼みますね~」
 ミニーはギルドの中へと姿を消していった。
 ダン達も宿を取るかと移動しようとした。
 ふと何人かが依頼の張り出されているところに居るのを見て、全員でそちらに移動した。
「何か面白い依頼でもありましたか?」
「ニアラの街とは違う依頼とかも在りまして」
「コレコレ、これなんか面白そう!」
 マロンがはしゃいで指す依頼。
 ヘビーフロッグの捕獲――
「「「却下!」」」
 女性陣の却下に「なんでだよ~、面白そうじゃん!」とブーたれるマロン。
 そんな感じでワイワイとやっている一同の中で、一人依頼を見ている者がいた。
「これ」
「ふむ? ダンジョン調査ですか」
 震える指で依頼を指し、凝視しているキョーコの様子にダンが違和感を覚える。
「これがなにかあるんですか?」
「これ! ダンジョンの名前!」
 ふむ? とダンは依頼書を読んでみた。

 遺跡型ダンジョンの調査依頼
 ダンジョンは遺跡型で街に似た構造。内部の古代語から『シンジュク』と命名。
 ランクは未定。人員募集。ギルド

「私、この名前に憶えがある!」
「ほほう?」
 ダンはキョーコの言葉に興味深そうな顔をした。
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