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依頼完了までが依頼です。と言う
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ダンは依頼の詳細をカウンターへと行って聞いてみた。
職員からの説明によればウルスラの街の北側に突如出現したダンジョン。その中の遺跡型の街並みがあり、その中でも大きな建物に『シンジュク』と読める古代語が書かれていたため、ウルスラのギルドでは暫定的に『シンジュクダンジョン』と呼んでいるらしい。
とはいえ内部の調査は進んでおらず、その調査に人手が欲しい現状ではランク分けをせずに人海戦術を取ることにギルドの方針を定めたようだ。
「まあ、我々は行けませんけどね」
「なんで!」
ダンがあっさりと却下するとキョーコは吃驚していた。
「なんで? って。それは我々が依頼の途中だからですよ?」
むしろなんで行けると思ったの? とダンはひどく真面目な顔で聞く。
「ニアラの街まで帰る我々が、ダンジョンの調査なんて何日掛かるか分からない依頼を受けられるわけないじゃありませんか」
「ぐぅ」と正論で説明されてキョーコは黙るしかなかった。
「なので依頼を受けたいなら現在の護衛依頼が終わった後ですね。今日、明日ぐらいで終わりそうな依頼なら受けても大丈夫だと思いますが」
とりあえずは宿屋の確保。
とはいえギルドの依頼なので、ギルド併設の宿屋の部屋をある程度の数は押さえておいてくれているようだ。3つ用意された部屋を適当に割り振って(ポーラとライとリンの部屋はすんなり決まったが、それ以外はなんか揉めていた。ダンは口を挟まなかったが)、荷物を置いてからギルドのロビーに再集合をする一同。
「これなんかどうです? ウシ型魔物討伐、素材の納品。数は適宜になっています」
おそらく皮と肉の確保だろう依頼を見つけたダン。レッドモウという魔物らしい。
依頼の受注処理を終わらせて、ダン達はレッドモウが居るという南を目指して移動していく。
街中を眺めながら南門を目指して歩くダン達。すると南門からダン達とは逆方向に走っていく冒険者らしき人とすれ違った。それも何人も。
はてなんだ? と思いつつも南門へとたどり着いたダン一同。
すると大門が閉ざされていて、人だけが通れる通用門が開かれていた。
不思議に思うも通用門を潜り抜けるダン達。するとそのダン達に門番達が「頑張ってくれ!」「無理だけはするんじゃないぞ!」と声を掛けてきてくれる。
なんかほっこりするなとダンは思いながら(他のメンバーは何やら緊張していたが)、通用門を潜り抜けて街の外へと出た。
見渡す限りの草がそれほど生えていない土地。むき出しの土が匂いを漂わせるそんな景色に、なにやら不思議な光景が見える。
砂塵? それに多くの足音のようなドドドという大きな音。
なんじゃらほ? とダンは軽く考えていたが、後ろの外壁の上に居た門番の声に、一同緊張が高まった。
「レッドモウの集団だー! 来るぞー!」
どうやら集団らしい。さすがに魔物行進級ではないようだ――
「おいおい数が多いぞ!? 魔物行進ぐらいまで居るんじゃないかコレ?」
明確な規定はないが100を超える魔物の集団の場合、その多くは魔物行進と記録されることが多い。
どうやら魔物行進級のようだ。
「まだ来ているのは冒険者2パーティしかいないぞ? 応援はまだなのか?」
2パーティと聞いてダンは周りを見渡した。しかしこの場にはダン達以外の姿はない。どうやら大所帯すぎて2パーティと数えられたようだ。
「ふむ? どうしましょうかね」
「どうしようか? じゃなくて、我々も避難したほうが良いのでは?」とウェンディ。
「しかし、ウシ型魔物の突進は、あれでなかなかの威力がありますからね。集団だと外壁を崩されるなんてことがザラにありますから。……よし、やりますか」
ダンはそう決心すると、ポーチから黒い厚みのある剣を取り出し、普段は被らない額当てを取り出して巻いた。屈伸運動を始めるダンにリルが声を掛ける。
「あの、ダンさん? やる、とは?」
ダンは振り返ってニッコリと笑うと全員に告げる。
「ちょっと勢いを削いできます」
外壁の上で見ていた門番は、目の前に見える光景に戦慄していた。
この街でレッドモウの突進などは見たことがある普通の光景だったが、さすがにこの数の巨大突進とも呼べる数は初めての光景だった。
おそらく初心者がレッドモウの子供に手を出したのだろうと門番は思った。
レッドモウの習性として、仲間が攻撃された際はその相手に突進するというものがある。そしてその習性が一番顕著に出るのが襲われたのが子供だった場合だ。その場合は群れ全体が襲った相手を攻撃対象に定め、さらになかなかその勢いが収まらない状態になってしまう。
小柄で弱そうに見えても、レッドモウの子供は襲ってはいけないのである。
とはいえ、すでに起こってしまったことにどうこう言ってもしょうがない。レッドモウ相手に説得など通じるはずがないのだから。
「ん? アイツ何をするつもりだ?」
ふと下を見ると、先程通用門通り抜けた冒険者達の1人が何やら準備をしている。
剣を腰だめに構えて、勢いよく前へと――
「ばっ、あいつ死ぬ気か!」
放たれた矢のごとく飛び出した冒険者。その先には1体が人の3倍以上の重さがあるレッドモウ。その集団がいるのだ。迫りくる壁。それに向かって走っていくのと同じ意味に思えた。押しつぶされる人。そんな想像が頭をよぎる。
「は?」
だから門番はその光景が信じられなかった。
壁が切り裂かれていくのだ。
「さすが、というか何といいますか」
ライが呆れたような声を上げる。
目の前には一直線に進んで行く矢に切り裂かれるような魔物達の群れが見えていた。
ダンがやったことだった。
自身の枷となる『戦乙女の加護』の無理やり解放し、ダンは手にした黒い厚みのある剣を振るいながら先へ先へと進んで行く。
『ダン流刀術・一騎掛け』
接敵した相手を躱しつつ、その相手を自分とは逆方向に切り流す。それを連続して行う。
言葉にしてしまえばそれだけの技だが、それが1体2体ではなく、多くの相手をしていることに驚異的な技術と精神力を必要とする技であった。
アーツではなく技。
アーツは世界のシステム、その恩恵を受けて自動的に繰り出されるものだ。
対してダンが使う模倣技や今の技などは、システムの恩恵を受けていない、いわば繰り出す本人が手動でやっているようなものだ。
アーツは決まった動作をすることで難易度を下げていて、逆に手動で技を繰り出すことで自由度は上がるが、闘気の調整など自分でやらなければならない難易度の高いものとなるのだ。
とは訓練の際、ダンの言っていた話である。
確かに決まった動作であの数の魔物を捌けるとは思えない。
ライはそう思いつつ、武器を構えて前へと進んだ。他の皆も前へと出る。
切り裂かれたレッドモウの大群は、それでもまだ左右に残っているのだ。外壁まで引き付けていたら挟まれて身動きが取れなくなる。というかペチャンコに押しつぶされる可能性もある。
『なんかあの人についていくと、ついこの間まで村人だったことを忘れそうだなぁ』
そんなことを思いつつ、ライ達もレッドモウへと駆け出した。
「応援に来たぞ! 開門してくれ!」
緊急事態を告げに来た冒険者から事情を聴き、大慌てで南門までやってきたのはギルドに偶々いた冒険者達だった。戦闘にはここウルスラで活躍するB級冒険者パーティ『戦槌』の姿もある。
「ったく、今日は休養日だってのになぁ」
「ぼやくな。外壁が壊れたら休養なんかしてる暇無くなるぞ?」
後ろでぼやく仲間の声を聞きながら、『戦槌』のリーダは自分の相棒となる身の丈はある戦槌を握りしめた。予備の小型戦槌も腰に備えてはあるが、開けた場所で戦うには長さのある武器でも気にせず振るえる。
とはいえ相手は怒り狂ったレッドモウ。まともに正面から受けるのは、いくら闘気を纏える上級冒険者達である自分達でも大怪我を負う可能性は捨てきれない。
そんなことを考えていると、南門がゆっくりと開き始めた。
そして冒険者達が一斉に門の外へと広がっていく。
「「「は?」」」
そこにはおびただしい程のレッドモウ達が居た。
ただし、そのほとんどは打倒されている姿だった。何頭かは自分たちの元居た場所へと逃げる様に、街から離れていく姿が確認できた。
「あ、おつかれさまです」
戦槌を両手で持ったまま固まっていた男に声が掛かる。
ビクリとしてそちらを見ると、そこには荒い息を吐きながらも魔法を停滞させて、戦場を見据えた赤髪の女魔法使いが居た。なぜか持っている棒に赤いものが付いているように見えたが、目の前の赤さに目が残像でも残したのだろう。
「れ、レッドモウ達は?」
それだけを絞り出すように聞く男。
「とりあえず撃退はしましたけど。……これってこの街の日常的にあることじゃないですよね?」
自分の中で間違いないことを確信しつつ、キョーコは、おそらく応援に来てくれたであろう冒険者へと聞いてみた。
「あ、ああ。たまにはあるが、ここまでの規模はそう多くはない。……って、君達だけなのか!? 誰か犠牲者は出ていないのか?」
呆けた感じで返事をした男は、ハッと気を取り直してキョーコへと聞いてきた。
「犠牲者っていうか、疲労者? は居ますね」
はははと苦笑いをするキョーコ。
そんな中、その場に近づく人影があった。
「さて、困りました。……おお! ギルドからの応援ですか?」
ダンである。汗をかいてはいたが、その体に傷らしきものは一切なかった。強いて言うなら服の裾などに若干綻びが見えるくらいだったが。
「ああ、そうだが。応援といってもな」
何を手伝う? と動くものが見えないこの場を見て、男は口を引きつらせながら聞いた。そんな男にダンは首を傾げながら聞く。
「え? 回収の応援に来てくれたのでは?」
そういったダンのセリフに、男は「それしかやることがなさそうだな」と高ぶった気持ちが急降下したのを感じながら呟くしかなかった。
「ダンさん! もう、どこに行ってたんですか? 探してたのに」
ギルドに戻ってきたダンにミニーが駆け寄ってくる。はて出発は明後日のはずだが、何か緊急で日程変更だろうか? とダンは若干身構えた。上官から日程の急な変更を申し付けられた時の記憶と重なったからだ。
「え~と? 今日にでもニアラの街に出発ですか?」
そのダンの言葉にミニーが怒る。
「そんなわけないじゃないですか! この街にレッドモウの魔物行進が近づいているんですよ!? 街を見捨てて冒険者が逃げるわけには行きません!」
それはさっきのアレの事だろうか? それならば――
「大丈夫だ嬢ちゃん、ソレは片が付いたよ」
と後ろから男の声がする。ダンはそれが先ほど合流した男の声だと分かった。
「はあ、そこまでの騒ぎになったんですか? 外壁は最悪、破壊されたかもしれませんが?」
ダンは軽く言うが、開拓地の街の外壁が破壊された場合、パニックになるのは確実だ。ダンは外壁が破壊されて、その復旧まで力を貸したことはあったが、その後の街の雰囲気などは知らずに王都へと引き上げることが普通だったので良く分からなかったのだ。
『あの街では外壁を直してる間は、皆がニコニコとしていたもんでしたが』
「片が付いたってことは、無事に討伐できたんですね」
「ああ、討伐は終わってたぜ」
「討伐は、な」と遠い目をする男。
なぜかギルドの外を向いているその視線に疑問符を浮かべるミニー。ダンは後ろに居たメンバーに声を掛ける。
「とりあえず、後の処理はギルドでやっていただけるようなので、我々は一足早いですが休むとしましょうか?」と呼びかけると、口々に「賛成」と言ってギルド併設の宿へと向かった。
そんなダン達の後姿を不思議そうな顔で見送ったミニー。
「とりあえず街の危機は無事に去ったんですね。よかったぁ」
安堵の表情を浮かべるミニー。それに対して『戦槌』のリーダーは無情にも告げる。
「いや、ギルド職員はこれからが本番だがな?」
何やら分からないといった表情のミニー。コロコロと良く変わる表情だ。
その表情が『ギルド職員も総出でレッドモウ達の解体作業に従事する』と伝えられ、絶望するまでそう時間は掛からなかった。
職員からの説明によればウルスラの街の北側に突如出現したダンジョン。その中の遺跡型の街並みがあり、その中でも大きな建物に『シンジュク』と読める古代語が書かれていたため、ウルスラのギルドでは暫定的に『シンジュクダンジョン』と呼んでいるらしい。
とはいえ内部の調査は進んでおらず、その調査に人手が欲しい現状ではランク分けをせずに人海戦術を取ることにギルドの方針を定めたようだ。
「まあ、我々は行けませんけどね」
「なんで!」
ダンがあっさりと却下するとキョーコは吃驚していた。
「なんで? って。それは我々が依頼の途中だからですよ?」
むしろなんで行けると思ったの? とダンはひどく真面目な顔で聞く。
「ニアラの街まで帰る我々が、ダンジョンの調査なんて何日掛かるか分からない依頼を受けられるわけないじゃありませんか」
「ぐぅ」と正論で説明されてキョーコは黙るしかなかった。
「なので依頼を受けたいなら現在の護衛依頼が終わった後ですね。今日、明日ぐらいで終わりそうな依頼なら受けても大丈夫だと思いますが」
とりあえずは宿屋の確保。
とはいえギルドの依頼なので、ギルド併設の宿屋の部屋をある程度の数は押さえておいてくれているようだ。3つ用意された部屋を適当に割り振って(ポーラとライとリンの部屋はすんなり決まったが、それ以外はなんか揉めていた。ダンは口を挟まなかったが)、荷物を置いてからギルドのロビーに再集合をする一同。
「これなんかどうです? ウシ型魔物討伐、素材の納品。数は適宜になっています」
おそらく皮と肉の確保だろう依頼を見つけたダン。レッドモウという魔物らしい。
依頼の受注処理を終わらせて、ダン達はレッドモウが居るという南を目指して移動していく。
街中を眺めながら南門を目指して歩くダン達。すると南門からダン達とは逆方向に走っていく冒険者らしき人とすれ違った。それも何人も。
はてなんだ? と思いつつも南門へとたどり着いたダン一同。
すると大門が閉ざされていて、人だけが通れる通用門が開かれていた。
不思議に思うも通用門を潜り抜けるダン達。するとそのダン達に門番達が「頑張ってくれ!」「無理だけはするんじゃないぞ!」と声を掛けてきてくれる。
なんかほっこりするなとダンは思いながら(他のメンバーは何やら緊張していたが)、通用門を潜り抜けて街の外へと出た。
見渡す限りの草がそれほど生えていない土地。むき出しの土が匂いを漂わせるそんな景色に、なにやら不思議な光景が見える。
砂塵? それに多くの足音のようなドドドという大きな音。
なんじゃらほ? とダンは軽く考えていたが、後ろの外壁の上に居た門番の声に、一同緊張が高まった。
「レッドモウの集団だー! 来るぞー!」
どうやら集団らしい。さすがに魔物行進級ではないようだ――
「おいおい数が多いぞ!? 魔物行進ぐらいまで居るんじゃないかコレ?」
明確な規定はないが100を超える魔物の集団の場合、その多くは魔物行進と記録されることが多い。
どうやら魔物行進級のようだ。
「まだ来ているのは冒険者2パーティしかいないぞ? 応援はまだなのか?」
2パーティと聞いてダンは周りを見渡した。しかしこの場にはダン達以外の姿はない。どうやら大所帯すぎて2パーティと数えられたようだ。
「ふむ? どうしましょうかね」
「どうしようか? じゃなくて、我々も避難したほうが良いのでは?」とウェンディ。
「しかし、ウシ型魔物の突進は、あれでなかなかの威力がありますからね。集団だと外壁を崩されるなんてことがザラにありますから。……よし、やりますか」
ダンはそう決心すると、ポーチから黒い厚みのある剣を取り出し、普段は被らない額当てを取り出して巻いた。屈伸運動を始めるダンにリルが声を掛ける。
「あの、ダンさん? やる、とは?」
ダンは振り返ってニッコリと笑うと全員に告げる。
「ちょっと勢いを削いできます」
外壁の上で見ていた門番は、目の前に見える光景に戦慄していた。
この街でレッドモウの突進などは見たことがある普通の光景だったが、さすがにこの数の巨大突進とも呼べる数は初めての光景だった。
おそらく初心者がレッドモウの子供に手を出したのだろうと門番は思った。
レッドモウの習性として、仲間が攻撃された際はその相手に突進するというものがある。そしてその習性が一番顕著に出るのが襲われたのが子供だった場合だ。その場合は群れ全体が襲った相手を攻撃対象に定め、さらになかなかその勢いが収まらない状態になってしまう。
小柄で弱そうに見えても、レッドモウの子供は襲ってはいけないのである。
とはいえ、すでに起こってしまったことにどうこう言ってもしょうがない。レッドモウ相手に説得など通じるはずがないのだから。
「ん? アイツ何をするつもりだ?」
ふと下を見ると、先程通用門通り抜けた冒険者達の1人が何やら準備をしている。
剣を腰だめに構えて、勢いよく前へと――
「ばっ、あいつ死ぬ気か!」
放たれた矢のごとく飛び出した冒険者。その先には1体が人の3倍以上の重さがあるレッドモウ。その集団がいるのだ。迫りくる壁。それに向かって走っていくのと同じ意味に思えた。押しつぶされる人。そんな想像が頭をよぎる。
「は?」
だから門番はその光景が信じられなかった。
壁が切り裂かれていくのだ。
「さすが、というか何といいますか」
ライが呆れたような声を上げる。
目の前には一直線に進んで行く矢に切り裂かれるような魔物達の群れが見えていた。
ダンがやったことだった。
自身の枷となる『戦乙女の加護』の無理やり解放し、ダンは手にした黒い厚みのある剣を振るいながら先へ先へと進んで行く。
『ダン流刀術・一騎掛け』
接敵した相手を躱しつつ、その相手を自分とは逆方向に切り流す。それを連続して行う。
言葉にしてしまえばそれだけの技だが、それが1体2体ではなく、多くの相手をしていることに驚異的な技術と精神力を必要とする技であった。
アーツではなく技。
アーツは世界のシステム、その恩恵を受けて自動的に繰り出されるものだ。
対してダンが使う模倣技や今の技などは、システムの恩恵を受けていない、いわば繰り出す本人が手動でやっているようなものだ。
アーツは決まった動作をすることで難易度を下げていて、逆に手動で技を繰り出すことで自由度は上がるが、闘気の調整など自分でやらなければならない難易度の高いものとなるのだ。
とは訓練の際、ダンの言っていた話である。
確かに決まった動作であの数の魔物を捌けるとは思えない。
ライはそう思いつつ、武器を構えて前へと進んだ。他の皆も前へと出る。
切り裂かれたレッドモウの大群は、それでもまだ左右に残っているのだ。外壁まで引き付けていたら挟まれて身動きが取れなくなる。というかペチャンコに押しつぶされる可能性もある。
『なんかあの人についていくと、ついこの間まで村人だったことを忘れそうだなぁ』
そんなことを思いつつ、ライ達もレッドモウへと駆け出した。
「応援に来たぞ! 開門してくれ!」
緊急事態を告げに来た冒険者から事情を聴き、大慌てで南門までやってきたのはギルドに偶々いた冒険者達だった。戦闘にはここウルスラで活躍するB級冒険者パーティ『戦槌』の姿もある。
「ったく、今日は休養日だってのになぁ」
「ぼやくな。外壁が壊れたら休養なんかしてる暇無くなるぞ?」
後ろでぼやく仲間の声を聞きながら、『戦槌』のリーダは自分の相棒となる身の丈はある戦槌を握りしめた。予備の小型戦槌も腰に備えてはあるが、開けた場所で戦うには長さのある武器でも気にせず振るえる。
とはいえ相手は怒り狂ったレッドモウ。まともに正面から受けるのは、いくら闘気を纏える上級冒険者達である自分達でも大怪我を負う可能性は捨てきれない。
そんなことを考えていると、南門がゆっくりと開き始めた。
そして冒険者達が一斉に門の外へと広がっていく。
「「「は?」」」
そこにはおびただしい程のレッドモウ達が居た。
ただし、そのほとんどは打倒されている姿だった。何頭かは自分たちの元居た場所へと逃げる様に、街から離れていく姿が確認できた。
「あ、おつかれさまです」
戦槌を両手で持ったまま固まっていた男に声が掛かる。
ビクリとしてそちらを見ると、そこには荒い息を吐きながらも魔法を停滞させて、戦場を見据えた赤髪の女魔法使いが居た。なぜか持っている棒に赤いものが付いているように見えたが、目の前の赤さに目が残像でも残したのだろう。
「れ、レッドモウ達は?」
それだけを絞り出すように聞く男。
「とりあえず撃退はしましたけど。……これってこの街の日常的にあることじゃないですよね?」
自分の中で間違いないことを確信しつつ、キョーコは、おそらく応援に来てくれたであろう冒険者へと聞いてみた。
「あ、ああ。たまにはあるが、ここまでの規模はそう多くはない。……って、君達だけなのか!? 誰か犠牲者は出ていないのか?」
呆けた感じで返事をした男は、ハッと気を取り直してキョーコへと聞いてきた。
「犠牲者っていうか、疲労者? は居ますね」
はははと苦笑いをするキョーコ。
そんな中、その場に近づく人影があった。
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ダンである。汗をかいてはいたが、その体に傷らしきものは一切なかった。強いて言うなら服の裾などに若干綻びが見えるくらいだったが。
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何を手伝う? と動くものが見えないこの場を見て、男は口を引きつらせながら聞いた。そんな男にダンは首を傾げながら聞く。
「え? 回収の応援に来てくれたのでは?」
そういったダンのセリフに、男は「それしかやることがなさそうだな」と高ぶった気持ちが急降下したのを感じながら呟くしかなかった。
「ダンさん! もう、どこに行ってたんですか? 探してたのに」
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「え~と? 今日にでもニアラの街に出発ですか?」
そのダンの言葉にミニーが怒る。
「そんなわけないじゃないですか! この街にレッドモウの魔物行進が近づいているんですよ!? 街を見捨てて冒険者が逃げるわけには行きません!」
それはさっきのアレの事だろうか? それならば――
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と後ろから男の声がする。ダンはそれが先ほど合流した男の声だと分かった。
「はあ、そこまでの騒ぎになったんですか? 外壁は最悪、破壊されたかもしれませんが?」
ダンは軽く言うが、開拓地の街の外壁が破壊された場合、パニックになるのは確実だ。ダンは外壁が破壊されて、その復旧まで力を貸したことはあったが、その後の街の雰囲気などは知らずに王都へと引き上げることが普通だったので良く分からなかったのだ。
『あの街では外壁を直してる間は、皆がニコニコとしていたもんでしたが』
「片が付いたってことは、無事に討伐できたんですね」
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「討伐は、な」と遠い目をする男。
なぜかギルドの外を向いているその視線に疑問符を浮かべるミニー。ダンは後ろに居たメンバーに声を掛ける。
「とりあえず、後の処理はギルドでやっていただけるようなので、我々は一足早いですが休むとしましょうか?」と呼びかけると、口々に「賛成」と言ってギルド併設の宿へと向かった。
そんなダン達の後姿を不思議そうな顔で見送ったミニー。
「とりあえず街の危機は無事に去ったんですね。よかったぁ」
安堵の表情を浮かべるミニー。それに対して『戦槌』のリーダーは無情にも告げる。
「いや、ギルド職員はこれからが本番だがな?」
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