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黒狼王の頼みを聞く
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『我は人化を果たしたぞ? これで話を聞いてくれるのではなかったか?』
そういえばシンジュクダンジョンへ向かう前に、そのような約束をリルと黒狼王の間で交わしていたような。
「それってリルさんが――」
ダンがリルに顔を向けると、リルは期待に満ちた顔でダンを見ていた。『あ、丸投げですか?』とダンは肩を落として、告げる。
「今日は夜も遅いから寝ることにします!」
さて、ここで一つの雑談を挟むとしよう。
僕が仲間の女性陣から(リンは除く)猛烈なアプローチを受けて屈した後、女性陣による話し合いの結果、順番が決められていた。
何の順番かって? 男女の営みの順番だよ!
「そしてなぜここに居る? 黒い犬畜生」
目の前にはリルと黒狼王を名乗る2人が寝間着姿で立っている。
そしてここはダンの寝室だ。現在ダンとライは男性組として部屋を使っておらず、ライはリンとポーラと一緒の部屋を使っている。たまにポーラがダンの部屋に来ることもあるが。
女性陣の順番にダンは一切関知していない。だから今日はリルの番だったのだろうなぁ。と遠い目をしてぼんやりと理解をしていると、その黒い色に気づいたのだ。
リルの背に隠れるように、しかし振れる黒い尻尾はリルから飛び出してすぐに気づいた。
「この群れの主のダンさんを知るのに、一番手っ取り早い方法でしたから!」
あの? リルさん?
『我は、その、こういった経験がなくて……』
じゃあなんで黒狼王を名乗った? 実力で一番だった? そうですか。
「失礼しま~す」
「お邪魔します」
などと言いながらマロンやクローディアなどの面々が現れて――
「同室の人も呼びました」
おい?
「それじゃあダンさん」
「えっと、よろしく?」
『教えてもらうとしよう』
「ほどほどに、ね?」
4人は着ていたものを脱いで――
ダンは思った。
黒狼王は絶頂すると吠えるんだ、と。
「え~、とりあえず昨夜のは参考にはならないかと思います」
『そう、だな。そもそも我は牝。周りのはほぼ雄だ。その時点で主殿とは違うな』
微妙に股をモジモジとさせて黒狼王が言う。
「そういえば名前ってないんですか?」
今更ながらにダンが聞いた。単純に考えればブラックウルフキングか?
『我はブラックウルフで一番強いというだけで、名前はないな。神から賜る個別名というものは持っていない』
神から賜るというのは、ある日唐突に自分のステータスに名前が付くことを言うのだろう。人種の称号と同じものだ。
『我もまだ名前は無いな?――なんだこの称号?』
「ではクロと名付けましょうか」
『そんな安直な。それよりも称号』
なにやら聞いてくる黒狼王を放置して名前を考えるダン。黒狼王と呼ぶのが長くて面倒だという思惑がある。
「キング?」
「それはどうかと……、それならプリンセスでは?」
「ウルフ」
「う~ん、ウルフでルフとか?」
「それは私に被ります」
ワイワイガヤガヤと名前の案がいくつか出るが決まらない。
「……ロウキ」
『おう?』
「狼の妃でロウキという呼び名はいかがですか?」
『なんかカッコイイぞ! 我は名前をロウキとしよう!』
なぜかイリアの発言に黒狼王が応えて、名前が決定することとなった。
「では改めてロウキ。まずはその状態でブラックウルフに言い聞かせることは出来ますか?」
『やってみよう。ウオオオオーン!』
広場の結界から一歩外へでたロウキとダンは、ロウキが森へと吠えたまましばらく待った。
「……来ないですね?」
『いや、そんなはず――来た!』
若干冷や汗を流していたロウキはその耳で足音を聞くと、ピョンと飛び跳ねてそちらを向いた。
6頭のブラックウルフがこちらに向かってくる。
『よしよ~し』と手を広げたロウキ。だがブラックウルフ達は、そのロウキを見て戸惑いを見せていた。
『うむ? どうした?』
最終的に2頭は困惑。4頭は牙を見せて唸り声を上げ始めた。
「これ、人化していると認識出来ないのでは?」とダンの言葉に、『おお、そうだったか』と人化を解くロウキ。もとの大きな黒狼状態に戻るが、それでも4頭は唸る。いや吠え始めた。
その様子を見ていたポーラがポツリと言った。
「群れのトップと認められてない。偽物と疑われてる」
ガガーンと狼顔でロウキがあんぐりとした顔になってしまった。
『我が一番強いのに!』
ガウガウと言い聞かせるようにロウキが吠えると、若干委縮したようになるが、それでも狼達の態度は変わらなかった。
「もしかして……、匂い?」
リルが何かに気づいたようだ。
『匂い? 我は何も果実など食してないが?』
「ダンさん、試しに前に出て貰えますか?」
リルの言葉にダンはロウキと並ぶように前へと出る。すると狼達はダンへと顔を向け――腹を出して服従の姿勢を見せた。
「どうなってるんでしょ、これ?」
ダンも呆れたように指をさす。
「ダンさんが群れの一番ってこと? なんかそんな雰囲気」
『えええ? 我じゃないの?』
ポーラの指摘にロウキが情けない声を上げる。するとポーラも結界の外に出てきて、2頭の狼の前にしゃがみ込んだ。目と目で何かを訴える人と狼。
「たぶん分かった」
「今のでですか?」
ダンはポーラの発言に疑わし気に言った。
「ロウキがダンさんに負けたのが分かったから、ダンさんを一番としたみたい? そんな雰囲気」
『負けたは負けたが、それは以前にもあったことだが?』
「なんかダンさんの匂いがするって、ロウキの身体から」
ビシリと硬直するダンとロウキ。
『リ、リル殿? これは』
ロウキから訴えられるような視線を受けて、リルはテヘと舌を出しながら右手で頭を掻く。
「匂い付けのつもりが、匂い付けられちゃったね」
『リル殿ぉ⁉』
嘆いたロウキが、こうなったらと狼の姿のままダンへと体を擦り付ける。モフリモフリと尻尾も使ってダンの身体に巻き付いた。
『どうだお前たち、我の匂いの方がつよ――おお?』
ロウキの身体はダンへと抱えられて持ち上げられた。
「ちょっとくすぐったいんですが?……ロウキさん? どうしました?」
返事が無いのと、体がピクピクと震えだしたロウキに、ダンは思わず声を掛ける。
『……それ、だ、めぇぇ』
なぜかロウキはぐったりと力が抜けたようにダラリとしていた。
それからロウキがすぐさま戻るとも思えずに、ダンはポーラに仲介を頼みながらブラックウルフ達へと説得を試みていた。
どうも困惑していた2頭が雄で、4頭が牝。そしてグループのリーダーは2頭の方で若干大きい個体が父親のようだった。
「つまりどういうこと?」
「雄の方は森の狼一番のロウキがダンさんの匂いをさせて困惑。4頭はロウキに嫉妬? とかそんな感情みたい」
「ふむ? それで肝心な人を襲わないという件に関しては?」
「伝えるけど、守るかどうかは分からないみたい」
ダンはそう言ったポーラと狼の顔を見る。どちらも真剣な顔をしていた。というか『やっぱり』とダンは思っていたが。
出発前にダンが言った通りの返事が返ってきただけ。
「狩る相手に狩られる危険はつきもの」
ただそれを理解していない若い個体も多いというそれだけの話だ。
「一応、ロウキ――黒狼王が負けた相手もいると伝えるみたい」
「ふむふむ……。ところで話は変わるんですが、ポーラさん、魔物の言葉ってわかるんですか?」
そのダンの問いかけに首を傾げて少し考えるポーラ。
「魔物、というか動物なら目を見れば? たぶんダンさんでも分かる」
『いや分かりませんよ』とダンは心の中でツッコミを入れる。そしてライとリンを見た。2人も苦笑いを浮かべている。
逆にポーラは『なんで分からないの?』と言いたげに、頬を膨らませてダンを見ていた。
「ポーラさん。自分のステータスに『テイマー』とか入っていませんでした?」
そう聞かれたポーラは自己診断魔法の魔法を使った。
「――それは無いけど、『心通わせる者』って称号増えた」
『称号。そういえば我も称号が増えたぞ、『種族を超えるもの』と『負け狼』の2つだ。なんなのだこれは?』
「それは詳細を見ると分かる。名前を意識する」
意識が戻ったロウキの言葉にポーラが応える。そして判明する称号効果。
『心通わせる者』
相手の気持ちをおおよそで理解しあえる者。お互い落ち着いていることが条件。
『種族を超えるもの』
種族名が変化したものに贈られる称号。
『負け狼』
狼の矜持を失った者に送られる称号。舐められる。
『ひどすぎる! 我は矜持を失っていない!』
ロウキはそう言ったが、リルとマロンとクローディアはそっと視線を外した。昨夜のロウキを見ていたから。
「とは言えロウキの願いは叶えるのが難し――いや待てよ?」
ダンはふと目の前を左右に移動するソレを見た。そしてワシッと掴む。
ロウキが悲鳴を上げた。
『主! いきなり尻尾を掴まないでくれ!』
見事な毛並みの尻尾を見るダン。
「この毛を使ってお守りでも作ってみますか?」
ダンの突拍子もない発言に、全員「え?」と声を上げた。
それからダン達はニアラの街のギルドへと足を運んだ。
「あ、ダンさんおはようございます! さっそくウルスラの街へ向かいますか?」
「それはまた後日。今日は冒険者登録をするメンバーと、一つ商品を勧めに来ました」
ミニーの挨拶と同時の依頼を受け流して、ダンはイリアとロウキの2人を押し出し、ひとつのモノを取り出してカウンターへと置いた。
「新顔さんですね~。……イリアさんとロウキさん。ダンさんの仲間だと間違いはなさそうですが、一応義務なので後で実技試験を受けていただきますね? それで、商品でしたか?」
受付の用紙に名前と戦闘方法を記載して渡す。それを見てミニーが書類を確認し終えるとダンの差し出したモノを見た。
「お守り? 手作りっぽいですね。これって何か効果があるんですか?」
「はい、まだ確認途中ですが、死の森のブラックウルフに襲われにくくなります」
「え?」と呆けた顔をしたミニーはダンを見た。特に変化の見えない普通の顔。ミニーはダンが立ちの悪い嘘や冗談を言わないのを知っている。(ただし質の悪くない嘘や冗談は、割と会話に挟む性格だというのも知っているが)
それにしてもこれは?
「どういったモノなんですか、コレ?」
「お守りというか、中に入っている毛の匂いが重要ですね」
言われてミニーはお守りを自分の鼻に近づけた。確かに獣臭がする。
「この匂いで寄ってこないと?」
「デメリットとして、他の熊系とかには襲われやすくなりますが」
「検証出来ないし、死んじゃいますよ! あまり死の森に入る冒険者が居ないとはいえ、ギルドが焚きつける訳にも行きませんから!」
『なに? 森に入る冒険者が居ない? どういうことだ娘?』
ミニーの言葉にロウキが反応する。
「ミニーと言います。じゃなくて、ダンさん以外の冒険者は、あまり死の森に入らないってことですよ。とても素材の為に入る場所とは言い難いですから」
『主? これはどういうことだ?』
「やっぱりか」という表情のダン。薄々気づいていたが、ニアラの街の冒険者が好き好んで死の森に入るとも思っていなかった。つまり森のブラックウルフを狩っていたのは、
「僕達しか居なかった、と。でも襲い掛かってきたら身を守って当然ですよね? ということは、今までの狼達は狩られても仕方なかったかと」
「今朝の件で、ある程度解決したかもしれませんし」とダンが言う。
『~~~はぁ。確かに血気盛んな若造どもも減ったことだし、今後はダン達が積極的に狩ることをしなければ極端に数が減ることもない、か。これも自然の理ということか』
ロウキの尻尾から取った毛を使ったお守りはダン達の仲間内で使うこととし、イリアとロウキはその後無事に冒険者登録をすることが出来た。
『ところで我の願いは叶ったのか?』
「まあ、基本方針は変わりませんでしたが、ロウキの匂いに気づいて寄ってくるのは減ったわけですから、とりあえず叶ったのでは?」
「というか」とダンは寝室にて目の前の相手に聞く。
「なぜここに居る? ロウキ」
『あの後、皆に話を聞いて、我も『愛し子の守り』が欲しくなった!』
「そんな願いは聞いてない!」
そういえばシンジュクダンジョンへ向かう前に、そのような約束をリルと黒狼王の間で交わしていたような。
「それってリルさんが――」
ダンがリルに顔を向けると、リルは期待に満ちた顔でダンを見ていた。『あ、丸投げですか?』とダンは肩を落として、告げる。
「今日は夜も遅いから寝ることにします!」
さて、ここで一つの雑談を挟むとしよう。
僕が仲間の女性陣から(リンは除く)猛烈なアプローチを受けて屈した後、女性陣による話し合いの結果、順番が決められていた。
何の順番かって? 男女の営みの順番だよ!
「そしてなぜここに居る? 黒い犬畜生」
目の前にはリルと黒狼王を名乗る2人が寝間着姿で立っている。
そしてここはダンの寝室だ。現在ダンとライは男性組として部屋を使っておらず、ライはリンとポーラと一緒の部屋を使っている。たまにポーラがダンの部屋に来ることもあるが。
女性陣の順番にダンは一切関知していない。だから今日はリルの番だったのだろうなぁ。と遠い目をしてぼんやりと理解をしていると、その黒い色に気づいたのだ。
リルの背に隠れるように、しかし振れる黒い尻尾はリルから飛び出してすぐに気づいた。
「この群れの主のダンさんを知るのに、一番手っ取り早い方法でしたから!」
あの? リルさん?
『我は、その、こういった経験がなくて……』
じゃあなんで黒狼王を名乗った? 実力で一番だった? そうですか。
「失礼しま~す」
「お邪魔します」
などと言いながらマロンやクローディアなどの面々が現れて――
「同室の人も呼びました」
おい?
「それじゃあダンさん」
「えっと、よろしく?」
『教えてもらうとしよう』
「ほどほどに、ね?」
4人は着ていたものを脱いで――
ダンは思った。
黒狼王は絶頂すると吠えるんだ、と。
「え~、とりあえず昨夜のは参考にはならないかと思います」
『そう、だな。そもそも我は牝。周りのはほぼ雄だ。その時点で主殿とは違うな』
微妙に股をモジモジとさせて黒狼王が言う。
「そういえば名前ってないんですか?」
今更ながらにダンが聞いた。単純に考えればブラックウルフキングか?
『我はブラックウルフで一番強いというだけで、名前はないな。神から賜る個別名というものは持っていない』
神から賜るというのは、ある日唐突に自分のステータスに名前が付くことを言うのだろう。人種の称号と同じものだ。
『我もまだ名前は無いな?――なんだこの称号?』
「ではクロと名付けましょうか」
『そんな安直な。それよりも称号』
なにやら聞いてくる黒狼王を放置して名前を考えるダン。黒狼王と呼ぶのが長くて面倒だという思惑がある。
「キング?」
「それはどうかと……、それならプリンセスでは?」
「ウルフ」
「う~ん、ウルフでルフとか?」
「それは私に被ります」
ワイワイガヤガヤと名前の案がいくつか出るが決まらない。
「……ロウキ」
『おう?』
「狼の妃でロウキという呼び名はいかがですか?」
『なんかカッコイイぞ! 我は名前をロウキとしよう!』
なぜかイリアの発言に黒狼王が応えて、名前が決定することとなった。
「では改めてロウキ。まずはその状態でブラックウルフに言い聞かせることは出来ますか?」
『やってみよう。ウオオオオーン!』
広場の結界から一歩外へでたロウキとダンは、ロウキが森へと吠えたまましばらく待った。
「……来ないですね?」
『いや、そんなはず――来た!』
若干冷や汗を流していたロウキはその耳で足音を聞くと、ピョンと飛び跳ねてそちらを向いた。
6頭のブラックウルフがこちらに向かってくる。
『よしよ~し』と手を広げたロウキ。だがブラックウルフ達は、そのロウキを見て戸惑いを見せていた。
『うむ? どうした?』
最終的に2頭は困惑。4頭は牙を見せて唸り声を上げ始めた。
「これ、人化していると認識出来ないのでは?」とダンの言葉に、『おお、そうだったか』と人化を解くロウキ。もとの大きな黒狼状態に戻るが、それでも4頭は唸る。いや吠え始めた。
その様子を見ていたポーラがポツリと言った。
「群れのトップと認められてない。偽物と疑われてる」
ガガーンと狼顔でロウキがあんぐりとした顔になってしまった。
『我が一番強いのに!』
ガウガウと言い聞かせるようにロウキが吠えると、若干委縮したようになるが、それでも狼達の態度は変わらなかった。
「もしかして……、匂い?」
リルが何かに気づいたようだ。
『匂い? 我は何も果実など食してないが?』
「ダンさん、試しに前に出て貰えますか?」
リルの言葉にダンはロウキと並ぶように前へと出る。すると狼達はダンへと顔を向け――腹を出して服従の姿勢を見せた。
「どうなってるんでしょ、これ?」
ダンも呆れたように指をさす。
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「たぶん分かった」
「今のでですか?」
ダンはポーラの発言に疑わし気に言った。
「ロウキがダンさんに負けたのが分かったから、ダンさんを一番としたみたい? そんな雰囲気」
『負けたは負けたが、それは以前にもあったことだが?』
「なんかダンさんの匂いがするって、ロウキの身体から」
ビシリと硬直するダンとロウキ。
『リ、リル殿? これは』
ロウキから訴えられるような視線を受けて、リルはテヘと舌を出しながら右手で頭を掻く。
「匂い付けのつもりが、匂い付けられちゃったね」
『リル殿ぉ⁉』
嘆いたロウキが、こうなったらと狼の姿のままダンへと体を擦り付ける。モフリモフリと尻尾も使ってダンの身体に巻き付いた。
『どうだお前たち、我の匂いの方がつよ――おお?』
ロウキの身体はダンへと抱えられて持ち上げられた。
「ちょっとくすぐったいんですが?……ロウキさん? どうしました?」
返事が無いのと、体がピクピクと震えだしたロウキに、ダンは思わず声を掛ける。
『……それ、だ、めぇぇ』
なぜかロウキはぐったりと力が抜けたようにダラリとしていた。
それからロウキがすぐさま戻るとも思えずに、ダンはポーラに仲介を頼みながらブラックウルフ達へと説得を試みていた。
どうも困惑していた2頭が雄で、4頭が牝。そしてグループのリーダーは2頭の方で若干大きい個体が父親のようだった。
「つまりどういうこと?」
「雄の方は森の狼一番のロウキがダンさんの匂いをさせて困惑。4頭はロウキに嫉妬? とかそんな感情みたい」
「ふむ? それで肝心な人を襲わないという件に関しては?」
「伝えるけど、守るかどうかは分からないみたい」
ダンはそう言ったポーラと狼の顔を見る。どちらも真剣な顔をしていた。というか『やっぱり』とダンは思っていたが。
出発前にダンが言った通りの返事が返ってきただけ。
「狩る相手に狩られる危険はつきもの」
ただそれを理解していない若い個体も多いというそれだけの話だ。
「一応、ロウキ――黒狼王が負けた相手もいると伝えるみたい」
「ふむふむ……。ところで話は変わるんですが、ポーラさん、魔物の言葉ってわかるんですか?」
そのダンの問いかけに首を傾げて少し考えるポーラ。
「魔物、というか動物なら目を見れば? たぶんダンさんでも分かる」
『いや分かりませんよ』とダンは心の中でツッコミを入れる。そしてライとリンを見た。2人も苦笑いを浮かべている。
逆にポーラは『なんで分からないの?』と言いたげに、頬を膨らませてダンを見ていた。
「ポーラさん。自分のステータスに『テイマー』とか入っていませんでした?」
そう聞かれたポーラは自己診断魔法の魔法を使った。
「――それは無いけど、『心通わせる者』って称号増えた」
『称号。そういえば我も称号が増えたぞ、『種族を超えるもの』と『負け狼』の2つだ。なんなのだこれは?』
「それは詳細を見ると分かる。名前を意識する」
意識が戻ったロウキの言葉にポーラが応える。そして判明する称号効果。
『心通わせる者』
相手の気持ちをおおよそで理解しあえる者。お互い落ち着いていることが条件。
『種族を超えるもの』
種族名が変化したものに贈られる称号。
『負け狼』
狼の矜持を失った者に送られる称号。舐められる。
『ひどすぎる! 我は矜持を失っていない!』
ロウキはそう言ったが、リルとマロンとクローディアはそっと視線を外した。昨夜のロウキを見ていたから。
「とは言えロウキの願いは叶えるのが難し――いや待てよ?」
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ロウキが悲鳴を上げた。
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ダンの突拍子もない発言に、全員「え?」と声を上げた。
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それにしてもこれは?
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「お守りというか、中に入っている毛の匂いが重要ですね」
言われてミニーはお守りを自分の鼻に近づけた。確かに獣臭がする。
「この匂いで寄ってこないと?」
「デメリットとして、他の熊系とかには襲われやすくなりますが」
「検証出来ないし、死んじゃいますよ! あまり死の森に入る冒険者が居ないとはいえ、ギルドが焚きつける訳にも行きませんから!」
『なに? 森に入る冒険者が居ない? どういうことだ娘?』
ミニーの言葉にロウキが反応する。
「ミニーと言います。じゃなくて、ダンさん以外の冒険者は、あまり死の森に入らないってことですよ。とても素材の為に入る場所とは言い難いですから」
『主? これはどういうことだ?』
「やっぱりか」という表情のダン。薄々気づいていたが、ニアラの街の冒険者が好き好んで死の森に入るとも思っていなかった。つまり森のブラックウルフを狩っていたのは、
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「今朝の件で、ある程度解決したかもしれませんし」とダンが言う。
『~~~はぁ。確かに血気盛んな若造どもも減ったことだし、今後はダン達が積極的に狩ることをしなければ極端に数が減ることもない、か。これも自然の理ということか』
ロウキの尻尾から取った毛を使ったお守りはダン達の仲間内で使うこととし、イリアとロウキはその後無事に冒険者登録をすることが出来た。
『ところで我の願いは叶ったのか?』
「まあ、基本方針は変わりませんでしたが、ロウキの匂いに気づいて寄ってくるのは減ったわけですから、とりあえず叶ったのでは?」
「というか」とダンは寝室にて目の前の相手に聞く。
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