元兵士その後

ラッキーヒル・オン・イノシシ

文字の大きさ
33 / 116

黒狼王の頼みを聞く

しおりを挟む
『我は人化を果たしたぞ? これで話を聞いてくれるのではなかったか?』
 そういえばシンジュクダンジョンへ向かう前に、そのような約束をリルと黒狼王の間で交わしていたような。
「それってリルさんが――」
 ダンがリルに顔を向けると、リルは期待に満ちた顔でダンを見ていた。『あ、丸投げですか?』とダンは肩を落として、告げる。
「今日は夜も遅いから寝ることにします!」


 さて、ここで一つの雑談を挟むとしよう。
 僕が仲間の女性陣から(リンは除く)猛烈なアプローチを受けて屈した後、女性陣による話し合いの結果、順番が決められていた。
 何の順番かって? 男女の営みの順番だよ!
「そしてなぜここに居る? 黒い犬畜生」
 目の前にはリルと黒狼王を名乗る2人が寝間着姿で立っている。
 そしてここはダンの寝室だ。現在ダンとライは男性組として部屋を使っておらず、ライはリンとポーラと一緒の部屋を使っている。たまにポーラがダンの部屋に来ることもあるが。
 女性陣の順番にダンは一切関知していない。だから今日はリルの番だったのだろうなぁ。と遠い目をしてぼんやりと理解をしていると、その黒い色に気づいたのだ。
 リルの背に隠れるように、しかし振れる黒い尻尾はリルから飛び出してすぐに気づいた。
「この群れの主のダンさんを知るのに、一番手っ取り早い方法でしたから!」
 あの? リルさん?
『我は、その、こういった経験がなくて……』
 じゃあなんで黒狼を名乗った? 実力で一番だった? そうですか。
「失礼しま~す」
「お邪魔します」
 などと言いながらマロンやクローディアなどの面々が現れて――
「同室の人も呼びました」
 おい?
「それじゃあダンさん」
「えっと、よろしく?」
『教えてもらうとしよう』
「ほどほどに、ね?」
 4人は着ていたものを脱いで――
 ダンは思った。
 黒狼王は絶頂すると吠えるんだ、と。


「え~、とりあえず昨夜のは参考にはならないかと思います」
『そう、だな。そもそも我は牝。周りのはほぼ雄だ。その時点で主殿とは違うな』
 微妙に股をモジモジとさせて黒狼王が言う。
「そういえば名前ってないんですか?」
 今更ながらにダンが聞いた。単純に考えればブラックウルフキングか?
『我はブラックウルフで一番強いというだけで、名前はないな。神から賜る個別名ユニークネームというものは持っていない』
 神から賜るというのは、ある日唐突に自分のステータスに名前が付くことを言うのだろう。人種の称号と同じものだ。
『我もまだ名前は無いな?――なんだこの称号?』
「ではクロと名付けましょうか」
『そんな安直な。それよりも称号』
 なにやら聞いてくる黒狼王を放置して名前を考えるダン。黒狼王と呼ぶのが長くて面倒だという思惑がある。
「キング?」
「それはどうかと……、それならプリンセスでは?」
「ウルフ」
「う~ん、ウルフでルフとか?」
「それは私に被ります」
 ワイワイガヤガヤと名前の案がいくつか出るが決まらない。
「……ロウキ」
『おう?』
「狼の妃でロウキという呼び名はいかがですか?」
『なんかカッコイイぞ! 我は名前をロウキとしよう!』
 なぜかイリアの発言に黒狼王が応えて、名前が決定することとなった。

「では改めてロウキ。まずはその状態でブラックウルフに言い聞かせることは出来ますか?」
『やってみよう。ウオオオオーン!』
 広場の結界から一歩外へでたロウキとダンは、ロウキが森へと吠えたまましばらく待った。
「……来ないですね?」
『いや、そんなはず――来た!』
 若干冷や汗を流していたロウキはその耳で足音を聞くと、ピョンと飛び跳ねてそちらを向いた。
 6頭のブラックウルフがこちらに向かってくる。
『よしよ~し』と手を広げたロウキ。だがブラックウルフ達は、そのロウキを見て戸惑いを見せていた。
『うむ? どうした?』
 最終的に2頭は困惑。4頭は牙を見せて唸り声を上げ始めた。
「これ、人化していると認識出来ないのでは?」とダンの言葉に、『おお、そうだったか』と人化を解くロウキ。もとの大きな黒狼状態に戻るが、それでも4頭は唸る。いや吠え始めた。
 その様子を見ていたポーラがポツリと言った。
「群れのと認められてない。偽物と疑われてる」
 ガガーンと狼顔でロウキがあんぐりとした顔になってしまった。
『我が一番強いのに!』
 ガウガウと言い聞かせるようにロウキが吠えると、若干委縮したようになるが、それでも狼達の態度は変わらなかった。
「もしかして……、匂い?」
 リルが何かに気づいたようだ。
『匂い? 我は何も果実など食してないが?』
「ダンさん、試しに前に出て貰えますか?」
 リルの言葉にダンはロウキと並ぶように前へと出る。すると狼達はダンへと顔を向け――腹を出して服従の姿勢を見せた。
「どうなってるんでしょ、これ?」
 ダンも呆れたように指をさす。
「ダンさんが群れの一番ってこと? なんかそんな雰囲気」
『えええ? 我じゃないの?』
 ポーラの指摘にロウキが情けない声を上げる。するとポーラも結界の外に出てきて、2頭の狼の前にしゃがみ込んだ。目と目で何かを訴える人と狼。
「たぶん分かった」
「今のでですか?」
 ダンはポーラの発言に疑わし気に言った。
「ロウキがダンさんに負けたのが分かったから、ダンさんを一番としたみたい? そんな雰囲気」
『負けたは負けたが、それは以前にもあったことだが?』
「なんかダンさんの匂いがするって、ロウキの身体から」
 ビシリと硬直するダンとロウキ。
『リ、リル殿? これは』
 ロウキから訴えられるような視線を受けて、リルはテヘと舌を出しながら右手で頭を掻く。
「匂い付けのつもりが、匂いね」
『リル殿ぉ⁉』
 嘆いたロウキが、こうなったらと狼の姿のままダンへと体を擦り付ける。モフリモフリと尻尾も使ってダンの身体に巻き付いた。
『どうだお前たち、我の匂いの方がつよ――おお?』
 ロウキの身体はダンへと抱えられて持ち上げられた。
「ちょっとくすぐったいんですが?……ロウキさん? どうしました?」
 返事が無いのと、体がピクピクと震えだしたロウキに、ダンは思わず声を掛ける。
『……それ、だ、めぇぇ』
 なぜかロウキはぐったりと力が抜けたようにダラリとしていた。

 それからロウキがすぐさま戻るとも思えずに、ダンはポーラに仲介を頼みながらブラックウルフ達へと説得を試みていた。
 どうも困惑していた2頭が雄で、4頭が牝。そしてグループのリーダーは2頭の方で若干大きい個体が父親のようだった。
「つまりどういうこと?」
「雄の方は森の狼一番のロウキがダンさんの匂いをさせて困惑。4頭はロウキに嫉妬? とかそんな感情みたい」
「ふむ? それで肝心な人を襲わないという件に関しては?」
「伝えるけど、守るかどうかは分からないみたい」
 ダンはそう言ったポーラと狼の顔を見る。どちらも真剣な顔をしていた。というか『やっぱり』とダンは思っていたが。
 出発前にダンが言った通りの返事が返ってきただけ。
「狩る相手に狩られる危険はつきもの」
 ただそれを理解していない若い個体も多いというそれだけの話だ。
「一応、ロウキ――黒狼王が負けた相手もいると伝えるみたい」
「ふむふむ……。ところで話は変わるんですが、ポーラさん、魔物の言葉ってわかるんですか?」
 そのダンの問いかけに首を傾げて少し考えるポーラ。
「魔物、というか動物なら目を見れば? たぶんダンさんでも分かる」
『いや分かりませんよ』とダンは心の中でツッコミを入れる。そしてライとリンを見た。2人も苦笑いを浮かべている。
 逆にポーラは『なんで分からないの?』と言いたげに、頬を膨らませてダンを見ていた。
「ポーラさん。自分のステータスに『テイマー』とか入っていませんでした?」
 そう聞かれたポーラは自己診断魔法セルフステータスチェックの魔法を使った。
「――それは無いけど、『心通わせる者』って称号増えた」
『称号。そういえば我も称号が増えたぞ、『種族を超えるもの』と『負け狼』の2つだ。なんなのだこれは?』
「それは詳細を見ると分かる。名前を意識する」
 意識が戻ったロウキの言葉にポーラが応える。そして判明する称号効果。

『心通わせる者』
 相手の気持ちをおおよそで理解しあえる者。お互い落ち着いていることが条件。

『種族を超えるもの』
 種族名が変化したものに贈られる称号。

『負け狼』
 狼の矜持を失った者に送られる称号。舐められる。

『ひどすぎる! 我は矜持を失っていない!』
 ロウキはそう言ったが、リルとマロンとクローディアはそっと視線を外した。昨夜のロウキを見ていたから。
「とは言えロウキの願いは叶えるのが難し――いや待てよ?」
 ダンはふと目の前を左右に移動するを見た。そしてワシッと掴む。
 ロウキが悲鳴を上げた。
『主! いきなり尻尾を掴まないでくれ!』
 見事な毛並みの尻尾を見るダン。
「この毛を使ってお守りでも作ってみますか?」
 ダンの突拍子もない発言に、全員「え?」と声を上げた。

 それからダン達はニアラの街のギルドへと足を運んだ。
「あ、ダンさんおはようございます! さっそくウルスラの街へ向かいますか?」
「それはまた後日。今日は冒険者登録をするメンバーと、一つを勧めに来ました」
 ミニーの挨拶と同時の依頼を受け流して、ダンはイリアとロウキの2人を押し出し、ひとつのモノを取り出してカウンターへと置いた。
「新顔さんですね~。……イリアさんとロウキさん。ダンさんの仲間だと間違いはなさそうですが、一応義務なので後で実技試験を受けていただきますね? それで、商品でしたか?」
 受付の用紙に名前と戦闘方法を記載して渡す。それを見てミニーが書類を確認し終えるとダンの差し出したモノを見た。
「お守り? 手作りっぽいですね。これって何か効果があるんですか?」
「はい、まだ確認途中ですが、
「え?」と呆けた顔をしたミニーはダンを見た。特に変化の見えない普通の顔。ミニーはダンが立ちの悪い嘘や冗談を言わないのを知っている。(ただし質の悪くない嘘や冗談は、割と会話に挟む性格だというのも知っているが)
 それにしてもこれは?
「どういったモノなんですか、コレ?」
「お守りというか、中に入っているが重要ですね」
 言われてミニーはお守りを自分の鼻に近づけた。確かに獣臭がする。
「この匂いで寄ってこないと?」
「デメリットとして、他の熊系とかには襲われやすくなりますが」
「検証出来ないし、死んじゃいますよ! あまり死の森に入る冒険者が居ないとはいえ、ギルドが焚きつける訳にも行きませんから!」
『なに? 森に入る冒険者が居ない? どういうことだ娘?』
 ミニーの言葉にロウキが反応する。
「ミニーと言います。じゃなくて、ダンさん以外の冒険者は、あまり死の森に入らないってことですよ。とても素材の為に入る場所とは言い難いですから」
『主? これはどういうことだ?』
「やっぱりか」という表情のダン。薄々気づいていたが、ニアラの街の冒険者が好き好んで死の森に入るとも思っていなかった。つまり森のブラックウルフを狩っていたのは、
「僕達しか居なかった、と。でも襲い掛かってきたら身を守って当然ですよね? ということは、今までの狼達は狩られても仕方なかったかと」
で、ある程度解決したかもしれませんし」とダンが言う。
『~~~はぁ。確かに血気盛んな若造どもも減ったことだし、今後はダン達が積極的に狩ることをしなければ極端に数が減ることもない、か。これも自然の理ということか』
 ロウキの尻尾から取った毛を使ったお守りはダン達の仲間内で使うこととし、イリアとロウキはその後無事に冒険者登録をすることが出来た。

『ところで我の願いは叶ったのか?』
「まあ、基本方針は変わりませんでしたが、ロウキの匂いに気づいて寄ってくるのは減ったわけですから、とりあえず叶ったのでは?」
「というか」とダンは寝室にて目の前の相手に聞く。
「なぜここに居る? ロウキ」
『あの後、皆に話を聞いて、我も『愛し子の守り』が欲しくなった!』
「そんな願いは聞いてない!」
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

処理中です...