元兵士その後

ラッキーヒル・オン・イノシシ

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準備中、少し待て。と言われても運命は止まらない

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「そういえば先日ダンさん『きんにく?』とかスジ肉とか言ってたけど、前に教わった時に筋肉の事言ってなかったっけ?」
「ん? あ~、筋肉自体は知ってますよ? ただ同僚の説明がいまいち理解できてなくて……。スジがどう闘気オーラで強くなってるかの説明が、自分なりに説明出来ませんので思い出しつつ、と」
 キョーコに問われて、ダンが照れて頭を掻きながら答えた。
「筋肉自体は分かるんですよ? こう、触って確認できますから。でも闘気って目で一応見えるんですが、強くなるってのは感覚でしか知らないので、こう言葉で説明がしにくくて」
 腕や足を触りつつダンはそう言った。確かに触った感触で筋肉は分かるが、闘気で強化された筋肉は量が増えるわけではなく、また硬さも触っているのが自分自身なので、触る手が強化されるため、前と後の違いが分からない。
 そう事情を説明されたキョーコは、なるほど。と納得した。
「ところで、コレ、どこまで、走るんですか?」
「「走れるところまで」」
 広場の外周を利用してのランニング。イリアを追い立てつつのダンとキョーコだった。

 イリアの訓練開始3日目。
 ダンはその日午前中を使ってイリアを走らせていた。もちろんダンも一緒に走っている。
「しかしここまで見ているとゴーレムって優秀なんですね? こんなことなら何体か捕まえてきたら良かったような気がしてきましたよ」
「あの、ダンさん? イリアはちょっと特殊なゴーレムだから、普通のゴーレムだと無理だと思うわよ?」
 目標の周回を走り終えたキョーコがダンの呟きにツッコミを入れた。水を入れたカップを片手に、ゴリアテとゴーレムの山の前に立っている。最近の定位置らしい。
「ふむ? 特殊なゴーレム?」
 そしてようやく走り切ったイリアを見つつ、ダンは言われたことを頭で反復していた。
「そ。そこまで人に近いゴーレムは特殊なゴーレムだから。普通のゴーレムは体を鍛えるとか、たぶん必要ないからね。むやみやたらとゴーレム拾ってきちゃ駄目よ?」
 キョーコはゴーレムの山から一本の腕を持ち上げながらそう言う。
「イリアは、生体型、たんま、うげゴホ」
「ふむ? ゴーレムじゃなくてまた別の種族。と思った方がいいと?」
「その方が納得できそう。っと、コレなら接続出来るかな」
 またゴーレムの腕を持ち上げて近くに作った作業用のテーブルに乗せる。その頃にようやくイリアが復活してきた。
「それじゃ、後は持続訓練しててくださいね」
「うげぇぇ」とか聞こえてきたが了承したのだと思い、ダンは一つのマジックバッグを掴んで出かける準備をした。
「あら、ダンさんどちらに?……5番という事は食材?」
「ちょっと追加を買ってきます。それじゃあ昼過ぎまでに戻ってきますので」
 そういってダンはニアラの街へと向かっていった。
 キョーコはある程度分解したゴーレムの腕を持ってゴリアテに近づく。
「――というか、見られてないからって訓練さぼらないようにね、イリア?」
 ビクリと肩を震わせるイリアに、キョーコは自分の昔の姿を重ねた。『ああ、傍から見ると疲れてるときって演技バレやすいのね』と。

 ニアラの街まで軽い走りで進むダン。途中、狼が出てくるもののダンの姿を見ると回れ右をして森に還っていく。良きかな良きかなと思っていると、目の前に影が出来た。
「ほ?」
「グアァァァァァ!」
 両腕を上げた姿勢の熊が居た。
 右手を振りかぶって殴るダン。熊が迎え撃とうと両腕を下ろしながら、さらに胴体で圧し掛かってこようとする。いや、既に白目を向いていた。つまり意識を失っているのだ。
「いや、残像ですから」
 聞こえていないであろう熊に一礼して首を撥ねる。
 さて食材入れとして使っているマジックバッグしか手元にない。どうするかと考えたダンは、首を腰から下げて胴体を持ち上げてニアラの街まで走ることにした。
 途中、門番が悲鳴を上げたような気がしたが無事に街に入ることが出来たダンは、さらに門番から大きな荷車を借りることとなり、熊を乗せて冒険者ギルドへと向かった。
 何か生暖かい目線に晒されつつ、ギルドに到着したダン。
「すみませ~ん」
 ギルドのロビーに入るとダンがいつも通りに声を掛ける。
「なんだぁ? どこの田舎もんだよ」
 声がした方を向くと、ダンには見覚えのない冒険者が立っていた。割と真新しい武器に防具。どうやら新人冒険者ようだ。その冒険者の周りが騒いでいる。
 とりあえずダンは用事を済ませようと買取りカウンターを向いた。ダニエルの姿はないが、何度か話した担当者が居るなとダンはそちらに向かう。
「おい、無視すんじゃねぇよ」
 肩を掴もうと、先程の冒険者が腕を伸ばしてきた。ダンはスルリと躱して買取りカウンターへとたどり着く。
「ども、買取りをお願いしたいんですけど」
「ちっ」と舌打ちをした冒険者はギルドを出て行った。受付の職員は「ほっ」とした顔でダンの用件を聞き始める。
「いつもの大口ですか? それなら奥に」
「いや、それが今日は別の用事でマジックバッグを持っていなかったもので……。外に置いてあるのでどうしたものかなぁ、とおも――」
「――れろ! こりゃ、俺んだ!」
 外から先程の冒険者の声が聞こえた。
「……。外ですね」
 ダンと職員が顔を見合わせて一緒になってギルドの外へと出た。
 そこでは先程の冒険者が、ダンが引いてきた荷車に乗った熊を庇う様にしている姿があった。別に野次馬に触られた程度で価値が大きく変わるわけではないのだが。
「あ~、ブラックベアー。アレって、ダンさんが狩ったヤツですよね?」
「そうなんですが……。彼、僕は知らない顔だと思ったんですが」
 熊を見ても職員はダンなら納得だという顔をしている。一方ダンは冒険者の顔にどうしても覚えがなかった。するとギルドの入り口に居るダンと職員を見て、冒険者が声を上げた。
「お、ちょうどいい! コイツの買取りを頼むぜ」
 ダンが冒険者を指さしながら職員を向く。職員は「やれやれ」と首を横に振って冒険者へと告げた。
「それはあなたが狩ったのではなく、こちらのダンさんが狩った獲物だ。欲に負けたのだろうが、今回だけは戯言だったと済ませてもいいがどうする?」
「うるせぇ! 俺が狩ったって言ってんだ! そいつが狩った? 嘘言うな、剣も持ってないヤツがどうやって狩るいうんだ! それともどこかに名前でも書いてあるのか?」
 どうも勢いだけで押し切ろうというのか、冒険者は怒鳴って自分の都合のいい事だけを言っている。
「……それ、その熊を積んである荷車。東門の備品らしいですよ? 門番連れてきましょうか?」
 言われて一気に顔が赤くなる冒険者。腰に下げた片手剣を抜いてダンへ向いた。
「うるせー! さっさと換金しろや! それとも手前が死ぬか?」
 一応、ダンは隣の職員を確認する。頷く職員に、ダンは仕方がないと右手を前へと突き出す。
「へ、わかれば――」
 それを差し出すと受け取った冒険者が声を出すが、ダンはその手をクイクイと動かした。
「時間も勿体ないから、さっさとかかってきなさい」
 その言葉に完全に頭に血が上った冒険者は剣を片手にダンへと向かって走り出した。ちなみにダンの現在の格好は武器も防具も身に着けていない、普通の人、といった風体だ。
 右手に持った剣を大きく振りかぶった冒険者は、次の瞬間ドゴン! といい音をたててギルドの入り口から打ち出されていった。ダンは片手を突き出した姿勢だ。わずかに腰を落としてはいるが、あと先程と違うのは手の向きが内側から外側を向いているくらいか。
「お見事ですダンさん」
「……。え? アレって何かの試験ですか?」
「いえ、まったくのド素人の犯行です。つい最近冒険者に成りたてのバカですよ」
 あまりな展開にダンは思わずギルドの試験か何かかと思ってしまった。
 とりあえずぶっ飛んだ冒険者は道の隅っこの方に落ちて、邪魔にならないような位置だったので放置。ダンは職員に案内されてギルドの建物を大きく迂回して熊を解体場に運ぶことが出来た。

 熊の買取りを無事に終わらせたダンは食材を買い込み、また東門へと戻ってきていた。
「すみません、荷車をお借りしてしまって。非常に助かりました。これ、あの熊の肉です。皆さんで分けて食べてください」
「おお。なんか悪いねダンさん。そういや狼は最近出てこないのかい?」
「ええ。以外は出てこないですね。あ、普通の人なら会えると思いますよ?」
「絶対行かないから」と笑って門番に見送られたダンは森へと向かった。
 その道中で向こうから歩いてくる人を見つけた。ポーラだ。そしてその足元にまとわりついている、
「狼? にしては襲われてない?」
「あ、ダンさーん!」ポーラもダンに気づいたのか手を振ってダンを呼ぶ。足元の狼達もダンを見た。
「どうしたんですかこの子達?」
 その狼はよく見かける大きな体ではない。というか顔も含めて幼い狼達だった。
「ロウキさんのとこに来た狼達の子供みたいです。なんか懐かれたので散歩にきました」
 そう言ったポーラの腰には剣と盾が吊ってある。対してダンは無手だ。一応腰のポーチには武器がしまってあるとはいえ、それを出してすらいないのはある意味異常なのだが、ポーラはいつものことと平常運転で対応する。
 そしてチビ狼達は見知らぬダンからポーラを守ろうというのだろうか、その小さな体を震わせて唸り声をあげていた。
「ほう? 中々に気骨のありそうな子達ですね」
「ダメだよ? この人は私の旦那様。仲間よ。めっ!」
 ポーラの言葉にチビ狼達の敵意が薄れる。薄れたが――
「ポーラさん? その説明はちょっと」
「へ? なにか問題ありましたか?」
 そうあっけらかんと言われてしまったダンは、言葉に詰まって何も言えなくなってしまった。
 そのままポーラと連れ立って森の奥へと歩いて行った。

 一方、ニアラの街の下町の酒場で一人の男が飲んでいた。
「くっそ! せっかく村から出てきて冒険者になったっていうのに」
 ダンにぶっ飛ばされた冒険者だった。あの後意識を取り戻したものの、職員の前で堂々と嘘を言ったことから冒険者ギルドに入りづらかった男は、逃げるようにこの下町の酒場に入って酒を飲んでいた。
「おや? 冒険者の方ですかな?」
 そんな男に声を掛けてくる人物がいた。
 酒に酔っていた男は声を掛けてきた人物を見る。フード付きのマントを着ている、若い男か? 酔って焦点の合わない男はそれでも体を起こして相手を見る。
「そうだよ、俺は冒険者になったんだ!」
「そうですか、冒険者の方でしたら一つ依頼をしたいのですが」
 そういって男はコトリとテーブルに何かを置いた。
 トロンとした目で冒険者がソレを見る。店内の薄明りの光も弾くソレ。
「き!」
 大声を上げる冒険者の口がそっと手で防がれる。酔っぱらった頭では理解出来なかったが、それは鮮やかすぎる身のこなしの技だった。
 そして男は冒険者が落ち着いたとみて手を放し告げる。
「これは前金です。成功すればもう一枚差し上げましょう。いかがです?」
 目の前に置かれた手にしたこともないモノに、冒険者は考えることなく頷くのであった。
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