36 / 116
準備中、少し待て。と言われても運命は止まらない
しおりを挟む
「そういえば先日ダンさん『きんにく?』とかスジ肉とか言ってたけど、前に教わった時に筋肉の事言ってなかったっけ?」
「ん? あ~、筋肉自体は知ってますよ? ただ同僚の説明がいまいち理解できてなくて……。スジがどう闘気で強くなってるかの説明が、自分なりに説明出来ませんので思い出しつつ、と」
キョーコに問われて、ダンが照れて頭を掻きながら答えた。
「筋肉自体は分かるんですよ? こう、触って確認できますから。でも闘気って目で一応見えるんですが、強くなるってのは感覚でしか知らないので、こう言葉で説明がしにくくて」
腕や足を触りつつダンはそう言った。確かに触った感触で筋肉は分かるが、闘気で強化された筋肉は量が増えるわけではなく、また硬さも触っているのが自分自身なので、触る手が強化されるため、前と後の違いが分からない。
そう事情を説明されたキョーコは、なるほど。と納得した。
「ところで、コレ、どこまで、走るんですか?」
「「走れるところまで」」
広場の外周を利用してのランニング。イリアを追い立てつつのダンとキョーコだった。
イリアの訓練開始3日目。
ダンはその日午前中を使ってイリアを走らせていた。もちろんダンも一緒に走っている。
「しかしここまで見ているとゴーレムって優秀なんですね? こんなことなら何体か捕まえてきたら良かったような気がしてきましたよ」
「あの、ダンさん? イリアはちょっと特殊なゴーレムだから、普通のゴーレムだと無理だと思うわよ?」
目標の周回を走り終えたキョーコがダンの呟きにツッコミを入れた。水を入れたカップを片手に、ゴリアテとゴーレムの山の前に立っている。最近の定位置らしい。
「ふむ? 特殊なゴーレム?」
そしてようやく走り切ったイリアを見つつ、ダンは言われたことを頭で反復していた。
「そ。そこまで人に近いゴーレムは特殊なゴーレムだから。普通のゴーレムは体を鍛えるとか、たぶん必要ないからね。むやみやたらとゴーレム拾ってきちゃ駄目よ?」
キョーコはゴーレムの山から一本の腕を持ち上げながらそう言う。
「イリアは、生体型、たんま、うげゴホ」
「ふむ? ゴーレムじゃなくてまた別の種族。と思った方がいいと?」
「その方が納得できそう。っと、コレなら接続出来るかな」
またゴーレムの腕を持ち上げて近くに作った作業用のテーブルに乗せる。その頃にようやくイリアが復活してきた。
「それじゃ、後は持続訓練しててくださいね」
「うげぇぇ」とか聞こえてきたが了承したのだと思い、ダンは一つのマジックバッグを掴んで出かける準備をした。
「あら、ダンさんどちらに?……5番という事は食材?」
「ちょっと追加を買ってきます。それじゃあ昼過ぎまでに戻ってきますので」
そういってダンはニアラの街へと向かっていった。
キョーコはある程度分解したゴーレムの腕を持ってゴリアテに近づく。
「――というか、見られてないからって訓練さぼらないようにね、イリア?」
ビクリと肩を震わせるイリアに、キョーコは自分の昔の姿を重ねた。『ああ、傍から見ると疲れてるときって演技バレやすいのね』と。
ニアラの街まで軽い走りで進むダン。途中、狼が出てくるもののダンの姿を見ると回れ右をして森に還っていく。良きかな良きかなと思っていると、目の前に影が出来た。
「ほ?」
「グアァァァァァ!」
両腕を上げた姿勢の熊が居た。
右手を振りかぶって殴るダン。熊が迎え撃とうと両腕を下ろしながら、さらに胴体で圧し掛かってこようとする。いや、既に白目を向いていた。つまり意識を失っているのだ。
「いや、残像ですから」
聞こえていないであろう熊に一礼して首を撥ねる。
さて食材入れとして使っているマジックバッグしか手元にない。どうするかと考えたダンは、首を腰から下げて胴体を持ち上げてニアラの街まで走ることにした。
途中、門番が悲鳴を上げたような気がしたが無事に街に入ることが出来たダンは、さらに門番から大きな荷車を借りることとなり、熊を乗せて冒険者ギルドへと向かった。
何か生暖かい目線に晒されつつ、ギルドに到着したダン。
「すみませ~ん」
ギルドのロビーに入るとダンがいつも通りに声を掛ける。
「なんだぁ? どこの田舎もんだよ」
声がした方を向くと、ダンには見覚えのない冒険者が立っていた。割と真新しい武器に防具。どうやら新人冒険者ようだ。その冒険者の周りが騒いでいる。
とりあえずダンは用事を済ませようと買取りカウンターを向いた。ダニエルの姿はないが、何度か話した担当者が居るなとダンはそちらに向かう。
「おい、無視すんじゃねぇよ」
肩を掴もうと、先程の冒険者が腕を伸ばしてきた。ダンはスルリと躱して買取りカウンターへとたどり着く。
「ども、買取りをお願いしたいんですけど」
「ちっ」と舌打ちをした冒険者はギルドを出て行った。受付の職員は「ほっ」とした顔でダンの用件を聞き始める。
「いつもの大口ですか? それなら奥に」
「いや、それが今日は別の用事でマジックバッグを持っていなかったもので……。外に置いてあるのでどうしたものかなぁ、とおも――」
「――れろ! こりゃ、俺んだ!」
外から先程の冒険者の声が聞こえた。
「……。外ですね」
ダンと職員が顔を見合わせて一緒になってギルドの外へと出た。
そこでは先程の冒険者が、ダンが引いてきた荷車に乗った熊を庇う様にしている姿があった。別に野次馬に触られた程度で価値が大きく変わるわけではないのだが。
「あ~、ブラックベアー。アレって、ダンさんが狩ったヤツですよね?」
「そうなんですが……。彼、僕は知らない顔だと思ったんですが」
熊を見ても職員はダンなら納得だという顔をしている。一方ダンは冒険者の顔にどうしても覚えがなかった。するとギルドの入り口に居るダンと職員を見て、冒険者が声を上げた。
「お、ちょうどいい! コイツの買取りを頼むぜ」
ダンが冒険者を指さしながら職員を向く。職員は「やれやれ」と首を横に振って冒険者へと告げた。
「それはあなたが狩ったのではなく、こちらのダンさんが狩った獲物だ。欲に負けたのだろうが、今回だけは戯言だったと済ませてもいいがどうする?」
「うるせぇ! 俺が狩ったって言ってんだ! そいつが狩った? 嘘言うな、剣も持ってないヤツがどうやって狩るいうんだ! それともどこかに名前でも書いてあるのか?」
どうも勢いだけで押し切ろうというのか、冒険者は怒鳴って自分の都合のいい事だけを言っている。
「……それ、その熊を積んである荷車。東門の備品らしいですよ? 門番連れてきましょうか?」
言われて一気に顔が赤くなる冒険者。腰に下げた片手剣を抜いてダンへ向いた。
「うるせー! さっさと換金しろや! それとも手前が死ぬか?」
一応、ダンは隣の職員を確認する。頷く職員に、ダンは仕方がないと右手を前へと突き出す。
「へ、わかれば――」
それを差し出すと受け取った冒険者が声を出すが、ダンはその手をクイクイと動かした。
「時間も勿体ないから、さっさとかかってきなさい」
その言葉に完全に頭に血が上った冒険者は剣を片手にダンへと向かって走り出した。ちなみにダンの現在の格好は武器も防具も身に着けていない、普通の人、といった風体だ。
右手に持った剣を大きく振りかぶった冒険者は、次の瞬間ドゴン! といい音をたててギルドの入り口から打ち出されていった。ダンは片手を突き出した姿勢だ。わずかに腰を落としてはいるが、あと先程と違うのは手の向きが内側から外側を向いているくらいか。
「お見事ですダンさん」
「……。え? アレって何かの試験ですか?」
「いえ、まったくのド素人の犯行です。つい最近冒険者に成りたてのバカですよ」
あまりな展開にダンは思わずギルドの試験か何かかと思ってしまった。
とりあえずぶっ飛んだ冒険者は道の隅っこの方に落ちて、邪魔にならないような位置だったので放置。ダンは職員に案内されてギルドの建物を大きく迂回して熊を解体場に運ぶことが出来た。
熊の買取りを無事に終わらせたダンは食材を買い込み、また東門へと戻ってきていた。
「すみません、荷車をお借りしてしまって。非常に助かりました。これ、あの熊の肉です。皆さんで分けて食べてください」
「おお。なんか悪いねダンさん。そういや狼は最近出てこないのかい?」
「ええ。若い向こう見ずな狼以外は出てこないですね。あ、普通の人なら会えると思いますよ?」
「絶対行かないから」と笑って門番に見送られたダンは森へと向かった。
その道中で向こうから歩いてくる人を見つけた。ポーラだ。そしてその足元にまとわりついている、
「狼? にしては襲われてない?」
「あ、ダンさーん!」ポーラもダンに気づいたのか手を振ってダンを呼ぶ。足元の狼達もダンを見た。
「どうしたんですかこの子達?」
その狼はよく見かける大きな体ではない。というか顔も含めて幼い狼達だった。
「ロウキさんのとこに来た狼達の子供みたいです。なんか懐かれたので散歩にきました」
そう言ったポーラの腰には剣と盾が吊ってある。対してダンは無手だ。一応腰のポーチには武器がしまってあるとはいえ、それを出してすらいないのはある意味異常なのだが、ポーラはいつものことと平常運転で対応する。
そしてチビ狼達は見知らぬダンからポーラを守ろうというのだろうか、その小さな体を震わせて唸り声をあげていた。
「ほう? 中々に気骨のありそうな子達ですね」
「ダメだよ? この人は私の旦那様。仲間よ。めっ!」
ポーラの言葉にチビ狼達の敵意が薄れる。薄れたが――
「ポーラさん? その説明はちょっと」
「へ? なにか問題ありましたか?」
そうあっけらかんと言われてしまったダンは、言葉に詰まって何も言えなくなってしまった。
そのままポーラと連れ立って森の奥へと歩いて行った。
一方、ニアラの街の下町の酒場で一人の男が飲んでいた。
「くっそ! せっかく村から出てきて冒険者になったっていうのに」
ダンにぶっ飛ばされた冒険者だった。あの後意識を取り戻したものの、職員の前で堂々と嘘を言ったことから冒険者ギルドに入りづらかった男は、逃げるようにこの下町の酒場に入って酒を飲んでいた。
「おや? 冒険者の方ですかな?」
そんな男に声を掛けてくる人物がいた。
酒に酔っていた男は声を掛けてきた人物を見る。フード付きのマントを着ている、若い男か? 酔って焦点の合わない男はそれでも体を起こして相手を見る。
「そうだよ、俺は冒険者になったんだ!」
「そうですか、冒険者の方でしたら一つ依頼をしたいのですが」
そういって男はコトリとテーブルに何かを置いた。
トロンとした目で冒険者がソレを見る。店内の薄明りの光も弾くソレ。
「き!」
大声を上げる冒険者の口がそっと手で防がれる。酔っぱらった頭では理解出来なかったが、それは鮮やかすぎる身のこなしの技だった。
そして男は冒険者が落ち着いたとみて手を放し告げる。
「これは前金です。成功すればもう一枚差し上げましょう。いかがです?」
目の前に置かれた手にしたこともないモノに、冒険者は考えることなく頷くのであった。
「ん? あ~、筋肉自体は知ってますよ? ただ同僚の説明がいまいち理解できてなくて……。スジがどう闘気で強くなってるかの説明が、自分なりに説明出来ませんので思い出しつつ、と」
キョーコに問われて、ダンが照れて頭を掻きながら答えた。
「筋肉自体は分かるんですよ? こう、触って確認できますから。でも闘気って目で一応見えるんですが、強くなるってのは感覚でしか知らないので、こう言葉で説明がしにくくて」
腕や足を触りつつダンはそう言った。確かに触った感触で筋肉は分かるが、闘気で強化された筋肉は量が増えるわけではなく、また硬さも触っているのが自分自身なので、触る手が強化されるため、前と後の違いが分からない。
そう事情を説明されたキョーコは、なるほど。と納得した。
「ところで、コレ、どこまで、走るんですか?」
「「走れるところまで」」
広場の外周を利用してのランニング。イリアを追い立てつつのダンとキョーコだった。
イリアの訓練開始3日目。
ダンはその日午前中を使ってイリアを走らせていた。もちろんダンも一緒に走っている。
「しかしここまで見ているとゴーレムって優秀なんですね? こんなことなら何体か捕まえてきたら良かったような気がしてきましたよ」
「あの、ダンさん? イリアはちょっと特殊なゴーレムだから、普通のゴーレムだと無理だと思うわよ?」
目標の周回を走り終えたキョーコがダンの呟きにツッコミを入れた。水を入れたカップを片手に、ゴリアテとゴーレムの山の前に立っている。最近の定位置らしい。
「ふむ? 特殊なゴーレム?」
そしてようやく走り切ったイリアを見つつ、ダンは言われたことを頭で反復していた。
「そ。そこまで人に近いゴーレムは特殊なゴーレムだから。普通のゴーレムは体を鍛えるとか、たぶん必要ないからね。むやみやたらとゴーレム拾ってきちゃ駄目よ?」
キョーコはゴーレムの山から一本の腕を持ち上げながらそう言う。
「イリアは、生体型、たんま、うげゴホ」
「ふむ? ゴーレムじゃなくてまた別の種族。と思った方がいいと?」
「その方が納得できそう。っと、コレなら接続出来るかな」
またゴーレムの腕を持ち上げて近くに作った作業用のテーブルに乗せる。その頃にようやくイリアが復活してきた。
「それじゃ、後は持続訓練しててくださいね」
「うげぇぇ」とか聞こえてきたが了承したのだと思い、ダンは一つのマジックバッグを掴んで出かける準備をした。
「あら、ダンさんどちらに?……5番という事は食材?」
「ちょっと追加を買ってきます。それじゃあ昼過ぎまでに戻ってきますので」
そういってダンはニアラの街へと向かっていった。
キョーコはある程度分解したゴーレムの腕を持ってゴリアテに近づく。
「――というか、見られてないからって訓練さぼらないようにね、イリア?」
ビクリと肩を震わせるイリアに、キョーコは自分の昔の姿を重ねた。『ああ、傍から見ると疲れてるときって演技バレやすいのね』と。
ニアラの街まで軽い走りで進むダン。途中、狼が出てくるもののダンの姿を見ると回れ右をして森に還っていく。良きかな良きかなと思っていると、目の前に影が出来た。
「ほ?」
「グアァァァァァ!」
両腕を上げた姿勢の熊が居た。
右手を振りかぶって殴るダン。熊が迎え撃とうと両腕を下ろしながら、さらに胴体で圧し掛かってこようとする。いや、既に白目を向いていた。つまり意識を失っているのだ。
「いや、残像ですから」
聞こえていないであろう熊に一礼して首を撥ねる。
さて食材入れとして使っているマジックバッグしか手元にない。どうするかと考えたダンは、首を腰から下げて胴体を持ち上げてニアラの街まで走ることにした。
途中、門番が悲鳴を上げたような気がしたが無事に街に入ることが出来たダンは、さらに門番から大きな荷車を借りることとなり、熊を乗せて冒険者ギルドへと向かった。
何か生暖かい目線に晒されつつ、ギルドに到着したダン。
「すみませ~ん」
ギルドのロビーに入るとダンがいつも通りに声を掛ける。
「なんだぁ? どこの田舎もんだよ」
声がした方を向くと、ダンには見覚えのない冒険者が立っていた。割と真新しい武器に防具。どうやら新人冒険者ようだ。その冒険者の周りが騒いでいる。
とりあえずダンは用事を済ませようと買取りカウンターを向いた。ダニエルの姿はないが、何度か話した担当者が居るなとダンはそちらに向かう。
「おい、無視すんじゃねぇよ」
肩を掴もうと、先程の冒険者が腕を伸ばしてきた。ダンはスルリと躱して買取りカウンターへとたどり着く。
「ども、買取りをお願いしたいんですけど」
「ちっ」と舌打ちをした冒険者はギルドを出て行った。受付の職員は「ほっ」とした顔でダンの用件を聞き始める。
「いつもの大口ですか? それなら奥に」
「いや、それが今日は別の用事でマジックバッグを持っていなかったもので……。外に置いてあるのでどうしたものかなぁ、とおも――」
「――れろ! こりゃ、俺んだ!」
外から先程の冒険者の声が聞こえた。
「……。外ですね」
ダンと職員が顔を見合わせて一緒になってギルドの外へと出た。
そこでは先程の冒険者が、ダンが引いてきた荷車に乗った熊を庇う様にしている姿があった。別に野次馬に触られた程度で価値が大きく変わるわけではないのだが。
「あ~、ブラックベアー。アレって、ダンさんが狩ったヤツですよね?」
「そうなんですが……。彼、僕は知らない顔だと思ったんですが」
熊を見ても職員はダンなら納得だという顔をしている。一方ダンは冒険者の顔にどうしても覚えがなかった。するとギルドの入り口に居るダンと職員を見て、冒険者が声を上げた。
「お、ちょうどいい! コイツの買取りを頼むぜ」
ダンが冒険者を指さしながら職員を向く。職員は「やれやれ」と首を横に振って冒険者へと告げた。
「それはあなたが狩ったのではなく、こちらのダンさんが狩った獲物だ。欲に負けたのだろうが、今回だけは戯言だったと済ませてもいいがどうする?」
「うるせぇ! 俺が狩ったって言ってんだ! そいつが狩った? 嘘言うな、剣も持ってないヤツがどうやって狩るいうんだ! それともどこかに名前でも書いてあるのか?」
どうも勢いだけで押し切ろうというのか、冒険者は怒鳴って自分の都合のいい事だけを言っている。
「……それ、その熊を積んである荷車。東門の備品らしいですよ? 門番連れてきましょうか?」
言われて一気に顔が赤くなる冒険者。腰に下げた片手剣を抜いてダンへ向いた。
「うるせー! さっさと換金しろや! それとも手前が死ぬか?」
一応、ダンは隣の職員を確認する。頷く職員に、ダンは仕方がないと右手を前へと突き出す。
「へ、わかれば――」
それを差し出すと受け取った冒険者が声を出すが、ダンはその手をクイクイと動かした。
「時間も勿体ないから、さっさとかかってきなさい」
その言葉に完全に頭に血が上った冒険者は剣を片手にダンへと向かって走り出した。ちなみにダンの現在の格好は武器も防具も身に着けていない、普通の人、といった風体だ。
右手に持った剣を大きく振りかぶった冒険者は、次の瞬間ドゴン! といい音をたててギルドの入り口から打ち出されていった。ダンは片手を突き出した姿勢だ。わずかに腰を落としてはいるが、あと先程と違うのは手の向きが内側から外側を向いているくらいか。
「お見事ですダンさん」
「……。え? アレって何かの試験ですか?」
「いえ、まったくのド素人の犯行です。つい最近冒険者に成りたてのバカですよ」
あまりな展開にダンは思わずギルドの試験か何かかと思ってしまった。
とりあえずぶっ飛んだ冒険者は道の隅っこの方に落ちて、邪魔にならないような位置だったので放置。ダンは職員に案内されてギルドの建物を大きく迂回して熊を解体場に運ぶことが出来た。
熊の買取りを無事に終わらせたダンは食材を買い込み、また東門へと戻ってきていた。
「すみません、荷車をお借りしてしまって。非常に助かりました。これ、あの熊の肉です。皆さんで分けて食べてください」
「おお。なんか悪いねダンさん。そういや狼は最近出てこないのかい?」
「ええ。若い向こう見ずな狼以外は出てこないですね。あ、普通の人なら会えると思いますよ?」
「絶対行かないから」と笑って門番に見送られたダンは森へと向かった。
その道中で向こうから歩いてくる人を見つけた。ポーラだ。そしてその足元にまとわりついている、
「狼? にしては襲われてない?」
「あ、ダンさーん!」ポーラもダンに気づいたのか手を振ってダンを呼ぶ。足元の狼達もダンを見た。
「どうしたんですかこの子達?」
その狼はよく見かける大きな体ではない。というか顔も含めて幼い狼達だった。
「ロウキさんのとこに来た狼達の子供みたいです。なんか懐かれたので散歩にきました」
そう言ったポーラの腰には剣と盾が吊ってある。対してダンは無手だ。一応腰のポーチには武器がしまってあるとはいえ、それを出してすらいないのはある意味異常なのだが、ポーラはいつものことと平常運転で対応する。
そしてチビ狼達は見知らぬダンからポーラを守ろうというのだろうか、その小さな体を震わせて唸り声をあげていた。
「ほう? 中々に気骨のありそうな子達ですね」
「ダメだよ? この人は私の旦那様。仲間よ。めっ!」
ポーラの言葉にチビ狼達の敵意が薄れる。薄れたが――
「ポーラさん? その説明はちょっと」
「へ? なにか問題ありましたか?」
そうあっけらかんと言われてしまったダンは、言葉に詰まって何も言えなくなってしまった。
そのままポーラと連れ立って森の奥へと歩いて行った。
一方、ニアラの街の下町の酒場で一人の男が飲んでいた。
「くっそ! せっかく村から出てきて冒険者になったっていうのに」
ダンにぶっ飛ばされた冒険者だった。あの後意識を取り戻したものの、職員の前で堂々と嘘を言ったことから冒険者ギルドに入りづらかった男は、逃げるようにこの下町の酒場に入って酒を飲んでいた。
「おや? 冒険者の方ですかな?」
そんな男に声を掛けてくる人物がいた。
酒に酔っていた男は声を掛けてきた人物を見る。フード付きのマントを着ている、若い男か? 酔って焦点の合わない男はそれでも体を起こして相手を見る。
「そうだよ、俺は冒険者になったんだ!」
「そうですか、冒険者の方でしたら一つ依頼をしたいのですが」
そういって男はコトリとテーブルに何かを置いた。
トロンとした目で冒険者がソレを見る。店内の薄明りの光も弾くソレ。
「き!」
大声を上げる冒険者の口がそっと手で防がれる。酔っぱらった頭では理解出来なかったが、それは鮮やかすぎる身のこなしの技だった。
そして男は冒険者が落ち着いたとみて手を放し告げる。
「これは前金です。成功すればもう一枚差し上げましょう。いかがです?」
目の前に置かれた手にしたこともないモノに、冒険者は考えることなく頷くのであった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる