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閑話 ダンが王都を出てから
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その日もいつも通りの書類仕事。
割と真面目ではないと思っていた自分が、実はクランで一番真面目だったのだと気づかされてから早20年は過ぎようとしていた。クラン全体が『もう冒険を止めて落ち着こうか』となった時に王都の軍への募集があったのだ。前任の団長はホビットだったが、それでも軍団としての集団を纏めていた手腕の持ち主だった。
『君が入ってくれてホントに良かったよ。これで安心して余生を王都で送れるね』
あのホビット族の男の顔は忘れない。たまに飲み会をするときには決まって言う。
『いつか秘書として採用してやるから覚悟して待ってやがれ』
そんなこんなで書類仕事が全業務といっても過言ではない大団長という職務。
そこに居るドワーフの男は実質的な王国軍のトップであった。
「そういやアイツはどこまで行ったんだ?」
数日前に唐突に表れて辞表を置いていった人種の青年を思い出す。
第1軍団の皆にも好かれて、たまに一緒に任務もしたことのある青年。第2軍団の貴族共の中に居て、鼻持ちならない態度のヤツラばかりの中でも自分の信念を曲げずに、亜人と人種を分けて考えることなく、時に陽気に、時に恐ろしさを感じるほどの修羅をその身に秘めた青年。
ぼんやりと記憶を思い出していたドワーフの男は、唐突にドアをノックされて開く扉を見た。
「どういう訳ですか大団長殿! 我が軍団の一人から除隊者が出たなどと!」
人種にしては大柄な男がドカドカと入ってくる。
「……ワシ、許可出したっけ? 第2軍団長のボスコ殿?」
大団長たるドワーフの男の皮肉にも応えず、ボスコと呼ばれた男が大団長の席に近づいてくる。
「しかも、除隊願いを大団長が受けたというではありませんか! ウチの軍団の人材の事なのに」
「王国軍の総括は大団長だ。越権行為とか言いたそうだが、何か問題か?」
さすがに大団長から威圧感が放たれ、ボスコはその勢いを引っ込めた。
だが、まだ続ける。
「しかし、彼は外回りの任務の中核だったのだ! それが抜けてしまったのは我が第2軍団としても任務続行に支障が――」
「その事か。それについては王家からお達しが届いてきている。コレを読め」
ボスコの言葉を遮って、一束の書類を机の上に置く。ボスコがソレを手に取ってみた。
「第3軍の設立?」
「そちらの第2軍から幾人か、それと輜重部隊からと治療師も選出して、遊撃という位置づけの軍団。まあ規模としては部隊といったところか。それを作るという計画だ」
その言葉にボスコは先程の勢いを完全に消して、逆にほくそ笑むように笑った。
「そうですか、ぐふふ、ならば――」
「ちなみに王家の肝いりだからな? 人員は向こうで選ぶみたいだぞ?」
そう言われると顔を顰めるボスコ。『お前、腹芸は出来そうにないな』と大団長は思った。
「……まあウチから出る人員ならば安心ですな。この部隊に外回りの任務を任せると」
なにが安心できるか分からないが、大団長は面倒くさかったので頷いた。
外回りの任務などという言葉を使っているが、本来は第1軍が王都防衛、第2軍は王国としての土地を守るのが任務なのだ。それをボスコという男は「ウチの任務ではない!」と公言して、王都周辺の街しか守っていない。それよりも外にある街や村を守る任務を『外回り』と称しているのだ。
「だから一人抜けても大丈夫だろ?」
その言葉に満足したのか、完全に浮かれたボスコは大団長室を後にした。
後に残された大団長が溜め息をつく。
「あら、疲れた?」
「……居るなら居るって言えよ」
唐突に聞こえる声に、どこか安心したように大団長が応える。
部屋の隅、そこからにじみ出る様にエルフの女性が出てきた。第1軍団副団長。そして大団長の妻だ。
「それにしても一人抜けても大丈夫。ねぇ?」
先程大団長が強調した言葉を繰り返す。その強調する部分が若干違っていた。
「俺の意見じゃ大丈夫なんて言えるかよ。ダンが1人抜けただけで戦力はガタ落ちだ。アイツほど優秀な攻撃役兼盾役なんて世界中探しても少ねぇだろ?」
竜相手に尻込みせず、逆に鼻先に躊躇なく突っ込んでいくあの姿に、大団長は思い出すと年甲斐もなくワクワクと興奮を抑えることが出来なかったものだ。
どっかの馬鹿が竜の巣の若い竜を挑発して、王都近隣まで引っ張ってきてしまったのは大事件だった。
「アレ以降、ウチの第1軍団に『黒い騎士』が在籍してることになってるんだからな」
王都近隣まで来てしまった竜相手に第2軍団が向かったが鎧袖一触。さっさかと王都まで引き返してきた第2軍と入れ替わりに、第1軍の精鋭たる大団長とかつてのクランメンバー。そしてダンの人員で王都西の大平原にて竜を迎え撃ったのだ。その際にダンは王国軍支給装備ではなく、自前の装備を持ち出して戦場へと立った。
「あれこそバケモノの戦いってヤツだったよな」
ダンは先陣をきって竜へと肉薄し、その顔面に剣を叩きつけてからほぼ一手に竜の気を引き付けていたのだ。竜と人のサイズの違いなんぞ気にした様子もなく、ダンは死力を振り絞って戦っていた。
最後に食われながらも、逆に口を破壊したときなんて鳥肌が立ったものだ。
「それで? ダン坊の代わりって、誰になるのかしら?」
興味はダンの後任になる人物らしい自分の妻に、大団長は机から先程とは別の書類を出す。
「既に人事は確定してる。言ったろ? 王家の肝いりだって」
そしてエルフの女性は書類に目を走らせて気づく。
「あら? ココって……」
その気づいた箇所を指で示すエルフ女性。大団長はニヤリと笑った。
「そういうこと。それに他の面子も実はダンの弟子らしいぜ」
そこには最近冒険者として名前が挙がってきた者達の名前があった。
王国軍に在籍していながらも、冒険者として登録しているのは違法ではない。むしろ多数の者が登録しているくらいだ。第2軍くらいだろう、登録者が少ないのは。
王国軍として仕事をしていないオフの時間で小遣い稼ぎに魔物を狩る、薬草等の素材を集めてくるなど王国の利益に繋がることから兼業冒険者は推奨しているくらいだ。
「たしか『剣姫』『雷弓』『城壁』『聖女』『走槍』だっけ? 随分とすごいメンバーが居るみたいじゃない。ってそうじゃなくて、ココよココ。どうしてこの名前が載ってるのよ?」
「ん? あ~、除隊願いは受け取っただけだ」
ニヤリと笑う大団長。それにエルフ女性の冷たい目線が刺さる。
「……それ、ダン坊が知ったらどういう反応するかしら?」
「……ヤバい、か?」
大団長の頬に一筋の汗が流れていた。
割と真面目ではないと思っていた自分が、実はクランで一番真面目だったのだと気づかされてから早20年は過ぎようとしていた。クラン全体が『もう冒険を止めて落ち着こうか』となった時に王都の軍への募集があったのだ。前任の団長はホビットだったが、それでも軍団としての集団を纏めていた手腕の持ち主だった。
『君が入ってくれてホントに良かったよ。これで安心して余生を王都で送れるね』
あのホビット族の男の顔は忘れない。たまに飲み会をするときには決まって言う。
『いつか秘書として採用してやるから覚悟して待ってやがれ』
そんなこんなで書類仕事が全業務といっても過言ではない大団長という職務。
そこに居るドワーフの男は実質的な王国軍のトップであった。
「そういやアイツはどこまで行ったんだ?」
数日前に唐突に表れて辞表を置いていった人種の青年を思い出す。
第1軍団の皆にも好かれて、たまに一緒に任務もしたことのある青年。第2軍団の貴族共の中に居て、鼻持ちならない態度のヤツラばかりの中でも自分の信念を曲げずに、亜人と人種を分けて考えることなく、時に陽気に、時に恐ろしさを感じるほどの修羅をその身に秘めた青年。
ぼんやりと記憶を思い出していたドワーフの男は、唐突にドアをノックされて開く扉を見た。
「どういう訳ですか大団長殿! 我が軍団の一人から除隊者が出たなどと!」
人種にしては大柄な男がドカドカと入ってくる。
「……ワシ、許可出したっけ? 第2軍団長のボスコ殿?」
大団長たるドワーフの男の皮肉にも応えず、ボスコと呼ばれた男が大団長の席に近づいてくる。
「しかも、除隊願いを大団長が受けたというではありませんか! ウチの軍団の人材の事なのに」
「王国軍の総括は大団長だ。越権行為とか言いたそうだが、何か問題か?」
さすがに大団長から威圧感が放たれ、ボスコはその勢いを引っ込めた。
だが、まだ続ける。
「しかし、彼は外回りの任務の中核だったのだ! それが抜けてしまったのは我が第2軍団としても任務続行に支障が――」
「その事か。それについては王家からお達しが届いてきている。コレを読め」
ボスコの言葉を遮って、一束の書類を机の上に置く。ボスコがソレを手に取ってみた。
「第3軍の設立?」
「そちらの第2軍から幾人か、それと輜重部隊からと治療師も選出して、遊撃という位置づけの軍団。まあ規模としては部隊といったところか。それを作るという計画だ」
その言葉にボスコは先程の勢いを完全に消して、逆にほくそ笑むように笑った。
「そうですか、ぐふふ、ならば――」
「ちなみに王家の肝いりだからな? 人員は向こうで選ぶみたいだぞ?」
そう言われると顔を顰めるボスコ。『お前、腹芸は出来そうにないな』と大団長は思った。
「……まあウチから出る人員ならば安心ですな。この部隊に外回りの任務を任せると」
なにが安心できるか分からないが、大団長は面倒くさかったので頷いた。
外回りの任務などという言葉を使っているが、本来は第1軍が王都防衛、第2軍は王国としての土地を守るのが任務なのだ。それをボスコという男は「ウチの任務ではない!」と公言して、王都周辺の街しか守っていない。それよりも外にある街や村を守る任務を『外回り』と称しているのだ。
「だから一人抜けても大丈夫だろ?」
その言葉に満足したのか、完全に浮かれたボスコは大団長室を後にした。
後に残された大団長が溜め息をつく。
「あら、疲れた?」
「……居るなら居るって言えよ」
唐突に聞こえる声に、どこか安心したように大団長が応える。
部屋の隅、そこからにじみ出る様にエルフの女性が出てきた。第1軍団副団長。そして大団長の妻だ。
「それにしても一人抜けても大丈夫。ねぇ?」
先程大団長が強調した言葉を繰り返す。その強調する部分が若干違っていた。
「俺の意見じゃ大丈夫なんて言えるかよ。ダンが1人抜けただけで戦力はガタ落ちだ。アイツほど優秀な攻撃役兼盾役なんて世界中探しても少ねぇだろ?」
竜相手に尻込みせず、逆に鼻先に躊躇なく突っ込んでいくあの姿に、大団長は思い出すと年甲斐もなくワクワクと興奮を抑えることが出来なかったものだ。
どっかの馬鹿が竜の巣の若い竜を挑発して、王都近隣まで引っ張ってきてしまったのは大事件だった。
「アレ以降、ウチの第1軍団に『黒い騎士』が在籍してることになってるんだからな」
王都近隣まで来てしまった竜相手に第2軍団が向かったが鎧袖一触。さっさかと王都まで引き返してきた第2軍と入れ替わりに、第1軍の精鋭たる大団長とかつてのクランメンバー。そしてダンの人員で王都西の大平原にて竜を迎え撃ったのだ。その際にダンは王国軍支給装備ではなく、自前の装備を持ち出して戦場へと立った。
「あれこそバケモノの戦いってヤツだったよな」
ダンは先陣をきって竜へと肉薄し、その顔面に剣を叩きつけてからほぼ一手に竜の気を引き付けていたのだ。竜と人のサイズの違いなんぞ気にした様子もなく、ダンは死力を振り絞って戦っていた。
最後に食われながらも、逆に口を破壊したときなんて鳥肌が立ったものだ。
「それで? ダン坊の代わりって、誰になるのかしら?」
興味はダンの後任になる人物らしい自分の妻に、大団長は机から先程とは別の書類を出す。
「既に人事は確定してる。言ったろ? 王家の肝いりだって」
そしてエルフの女性は書類に目を走らせて気づく。
「あら? ココって……」
その気づいた箇所を指で示すエルフ女性。大団長はニヤリと笑った。
「そういうこと。それに他の面子も実はダンの弟子らしいぜ」
そこには最近冒険者として名前が挙がってきた者達の名前があった。
王国軍に在籍していながらも、冒険者として登録しているのは違法ではない。むしろ多数の者が登録しているくらいだ。第2軍くらいだろう、登録者が少ないのは。
王国軍として仕事をしていないオフの時間で小遣い稼ぎに魔物を狩る、薬草等の素材を集めてくるなど王国の利益に繋がることから兼業冒険者は推奨しているくらいだ。
「たしか『剣姫』『雷弓』『城壁』『聖女』『走槍』だっけ? 随分とすごいメンバーが居るみたいじゃない。ってそうじゃなくて、ココよココ。どうしてこの名前が載ってるのよ?」
「ん? あ~、除隊願いは受け取っただけだ」
ニヤリと笑う大団長。それにエルフ女性の冷たい目線が刺さる。
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