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大物を釣り上げる
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それから何匹かの釣り上げを成功させたダン。
しかし――
「これはダメだね。魚型の魔物じゃないよ?」
「またダメでしたか」
桟橋の上に居る職員に渡した魔物にダメ出しを受けてしまうダン。
今も渡した六本足をワキワキと動かす赤い魔物が、今回の大会では外道――つまりは対象外の魔物との認定を受けてしまったところだ。
「というか、何故に普通の魚とか捕まえないんだい? このシザークラブとか、こっちの方が捕まえるのに困難だと思うんだけど?」
「はあ、これでも見えた獲物を捕まえてるだけなんですけどね?」
『ダンよ。魚の形を覚えておるか? ホレ、ああいう形が魚みたいじゃぞ?』
頭の上のタマモがそう言っているので、視界の端に見えたその指の先を辿ってみるとそこには別の職員に獲物を渡している冒険者の姿があった。
「アレっぽい影だから捕まえてるんですけどねぇ」
「ははは。とりあえずさっき捕まえたシャークモドキは大会規定に沿ってるから認められますよ。それに外道でも魔物ですから換金も致しますし」
どうもこの祭り、年一回川に生息している魔物を間引くことも目的にしているようだ。だから冒険者ギルド主催なのだろう。
そうこうしているうちに、防具を取りに行ったメンバーも会場に戻ってきていた。
「ダンさ~ん! どんな塩梅ですか~?」
「まだまだです――よ?」
声を掛けられたダンは振り返って思わず凝視してしまった。
それぞれ手袋やブーツにレッグガードを身に着けているのはまだいい。問題は――
「なんで服は短いんですか?」
半袖のシャツや腰までの布など、腕や足の素肌の部分が多く見える服装だったのだ。
「どうせ濡れるなら短くてもいいかなぁって思って」
「う~ん? まあ自己責任で頑張ってください? たぶん皆さんなら噛み千切られることはないと思いますけど……」
ダン自身も経験の無いことなので大したアドバイスも出来ない。
しかし職員は慌てて言った。
「そんな恰好とんでもない! 小さいが『シャープエッジ』なんて呼ばれる稚魚の剣魚だって泳いでいるんだ。極力肌は晒さない方がいい!」
「――だそうです」
職員の言葉にダンが視線を向けると、それを受けたメンバーの視線がキョーコに集まる。
「え~? 大丈夫だと思うけどなぁ。……ダンさん自身はそう思わない?」
「まあ、確かに大丈夫だと思いますが」
キョーコに話を振られてダンは片足を上げてみる。水の中から抜いたズボンにはいくつかの切られたような跡があった。その内側の足には傷跡は一つもない。
職員が目を丸くしているその横でキョーコがドヤ顔でメンバーを見返した。
しかし容赦なくツッコミが入る。
「ダンさん自身の防御力と我々の防御力を同等と考えたらダメだと思いますが?」
『こやつの身体は人間ではないであろう?』
比較的常識人のウェンディとタマモのツッコミ。
「――って、僕は普通の人間ですが?」
そんなダンの抗議の声はスルーされてしまう。
「仕方ないかぁ」とキョーコは着替えを入れていた袋からズボンを取り出すと各人に手渡し始める。どうやら大会後に着る予定の衣服は持っていたらしい。
「でも腕は?」
「それはさすがに闘気で防御出来るでしょう?」
「そうですね」
「そうだなー」
「そうだよねー」
手早くズボンを穿いたメンバーが桟橋から飛び降りてくる。ちなみに職員は茫然としていた。パーティメンバー全員が闘気を纏うと言っているのだ。どう見ても後衛の魔法使い達も含まれているにも関わらず。
ちなみに飛び降りた際にファーニとマロンがやや川の水を飲みこんだのはご愛敬だ。
「それで、どんな方法で捕まえるのが効率いいのかな?」
飛び込んだキョーコの言葉に全員が周りを見渡した。
「あ、ちょうど捕まえてる人がいますよ。ほら、片手を食べさせておいて、もう片手で捕まえるみたいです」
ダンが説明しながらみんなの視線を誘導する。
「ふむ? 我らはアレよりも早く捕らえることが出来るぞ。リル殿?」
「やりますかロウキさん!」
ザバザバ! と水をかき分けて更に奥に進んだリルとロウキが両手を振り上げて構えた。その姿勢のまま、じっと水中を見る。
「はっ!」
「どりゃ!」
二人は振り上げた両手を交差させるように斜め方向から水面に手を差し入れると、そのままの勢いで水中を掻くように両手を振り切り、後ろへと両手を振り上げた。
爆発するように巻き上がる水と共に、いくつかの魚影がその中に含まれているのが確認できる。
「どうです!?」
「どうじゃ!?」
『あまり他の方の迷惑になる方法をされる方は失格としますよ~』
普通に大会運営から注意された。
「それに獲物を掴めてないですしね~。とりあえず周りの方を参考にして、その方法で捕まえましょうか」
巻き上がった魚影を2つ掴んだダンが言った。他にも反応出来た数人が手の届く距離の得物を捕まえていた。
ハッとして両手を見て、がっくりと項垂れたリルとロウキであった。
それから数時間。
「う~ん? さかな、さかな……」
『……真面目にやっとるのは見ていて分かっておるが、ワザとやっておるのではと疑いたくなるレベルで外道が釣れるのぉダン』
捕まえたとダンが水中から手を抜くと、そこにはヌメヌメとした体表を持つ蛇のような獲物が居た。
「これ魚だったり――」
『せんな』
「――しませんよね~。コレも魔物かな?」
持っている手がピリピリとしていることから毒を分泌しているのかもしれない。念のためにダンは桟橋の上の職員に手にした獲物を渡してみた。
「こりゃサンダーウナギってヤツだな。毒抜きすれば珍味だよ!……外道だけど」
「はあ、そうですか」
「それより君、水から上がらなくて大丈夫かい!?」
「え?」
再度獲物を狙いに行こうとしたダンを慌てて職員が引き留めようとした。
よく見ればダン以外には数人しか川に入っている人影が見えない。
桟橋の上には職員以外に先程まで川に入っていた参加者たちが、座り込んで膝を抱えて布を被っている。口元や体はガチガチと震えているようだ。
「水に入って長時間経つと、身体が結構冷えてくるんだ。無理はやめた方がいい」
そう言われたが、ダンにはいまいち分からなかった。
なぜならダンは全く体温が低下していなかったからだ。
これはダンの過剰なまでの各種属性への耐性が影響していた。
「ゆっくり体の熱が下がるから自覚しにくいんだ。ほら、君の顔とか唇の色も――あれ?」
「とりあえずまだ動けますから頑張ってみます。まだ大会は続いてますよね?」
「え? あ、ああ。日差しが頂点に来たら終わりだから、あと1時間くらいかな。終わりにはまた太鼓を鳴らすよ」
「ん~? あの青年、途中で上がってたっけ?」とか言いながら職員は元の位置に戻っていこうとする。
「あ、すみません! ちょっと聞きたいことが」ダンがその職員を呼び止める。
「ん? どうしたんだい?」
「一つだけ確認したいことがありましてね」
『それで、こんな奥まで来てさっき話していた策を実行する気かの?』
ダンの上でタマモがぼやく。
現在ダンとタマモは会場の桟橋よりも奥、水神様を祭っているという島に誰よりも近い位置に立っていた。
「ええ、ここならば最悪誰にも迷惑は掛かりませんから」
『分かっておるだろうから突っ込む気も起きんが……。ワシここに居るからの!?』
タマモのツッコミを横に打っちゃり、ダンは静かに息を吐いて集中力を高める。
「『戦乙女の加護』解放」
解放した闘気を押さえつけて、ダンはアーツの発動を意識する。
かなり特殊なアーツで、専門にしている特殊な職業の者でなければ、その性質は使う者の特性が顕著に表れる。
ダンはそこまでこのアーツを使い込んでいるわけではないので、その性質は以前に使った時と全く同じであろうと見当をつけていた。
『ぬ? お主にしては妙に繊細な気の使い方じゃな?』
「……それじゃあ、気を引き締めてくださいね」
『なんじゃと?』
ダンの発言に背筋が震えたタマモ。
『ちょ、お主何を――』
「アーツ。タウント!」
ダンを起点として、ダンの前面に扇状に放たれる闘気。
その性質は一言で言えば、
『俺より強いヤツは掛かってこい!』
と訴えるものであった。
『おっと、ここで参加者の方がタウントを使っ――え?』
川の水面が激しく波打つ。それを作るのは小さなサイズの魔物達。
バシャバシャ! と波打ったかと思いきや、その波が一気に川の中心へと逃げるように移動していく。
そして一瞬の空白が場に染み渡ったかと思った次の瞬間、
川の奥から水面を割りつつ進む水柱がダンへと目掛けて進んできた!
『あ、あの水柱の速度! まさか川の王か!?』
水中をすさまじい速度で進んでくる魚影。
「ダンさん!」
仲間の誰かの悲鳴のような声が聞こえてくる。
「……やっぱりこうなりましたか」
『ダン! お主知っててやったのか?』
「たぶん、こうなるだろうなぁ。とは」
以前、任務の際にやむを得ず魔物の群れを誘導しようとタウントを使用した時も、その群れのボスが出てくる事態となったことがあった。その事を大団長に相談したところ、自分のタウントはちょっと普通のものとは違うことを教えて貰った。
『いや、ソレちょっとか?』
「その代わりに格下すぎる相手には逃げられちゃうんですけどね? っと、もう来そうですよ」
もう水面を切り裂く水柱は目前に迫っていた。
『どうする気じゃダン?』
「え? 釣り上げる予定ですよ?」
腰を落として、両手を軽く前に突き出す。
それ目掛けて突っ込んでくる水柱下の魚影。
『ま、まじかぁぁぁぁぁ!?』
「闘気を巡らせて……、はぁッ!」
頭上で狼狽えるタマモを放置して、ダンは闘気を循環させた体一つで魚影と衝突した。
ドンッ! と大きな音と水面をダンと魚影を中心に広がる波。
ダンはその場を動くことなく、魚影の突進の勢いを全て受け止めていた。
「お、こいつまだ動きますね」
ダンに抑え込まれた頭を胴体ごと揺さぶり押さえつけから逃れると、その魚影はダンから距離を取った場所の水面からジャンプした。
『キーー!』
飛び上がったザ・魚型魔物と呼べるシルエット。その口から水の魔力で作られた水レーザーが放たれる。
ダンは左手の甲に闘気を集めて、それで水レーザーの軌道を逸らす。
逸らされた水レーザーが水面に着弾すると高い水しぶきが上がった。
水の中では自由に動けた魔物も、空中に居る間は自由には動けなかった。
徐々にダンへと近づいていく魔物。
「加減して、破壊しないように……。とりゃ!」
右拳を軽く握り、ダンなりに威力を押さえたパンチを相手の鼻先にぶち当てた。
バコーン! と殴られて空中を横に流れていく魔物。バッシャーン! と水面に落ちると、プカーとその身体が水面に浮き上がった。
「やった! 原型を保ちましたよタマモ!」
『心配するのそっちかい!……はぁ。とはいえ、お見事じゃな』
ザブザブと水をかき分けて魔物に近づいたダン。さすがに大きい魔物だったし、既に気絶か死んでいるので両手で胴体を掴むと高々と持ち上げた。
「釣り上げましたよ~!」
『おいしそ~、いただきま~す』
急にダンを覆う影が出来たかと思うと、パクリと掲げた魔物ごとダンの上半身が食べられた。
しかし――
「これはダメだね。魚型の魔物じゃないよ?」
「またダメでしたか」
桟橋の上に居る職員に渡した魔物にダメ出しを受けてしまうダン。
今も渡した六本足をワキワキと動かす赤い魔物が、今回の大会では外道――つまりは対象外の魔物との認定を受けてしまったところだ。
「というか、何故に普通の魚とか捕まえないんだい? このシザークラブとか、こっちの方が捕まえるのに困難だと思うんだけど?」
「はあ、これでも見えた獲物を捕まえてるだけなんですけどね?」
『ダンよ。魚の形を覚えておるか? ホレ、ああいう形が魚みたいじゃぞ?』
頭の上のタマモがそう言っているので、視界の端に見えたその指の先を辿ってみるとそこには別の職員に獲物を渡している冒険者の姿があった。
「アレっぽい影だから捕まえてるんですけどねぇ」
「ははは。とりあえずさっき捕まえたシャークモドキは大会規定に沿ってるから認められますよ。それに外道でも魔物ですから換金も致しますし」
どうもこの祭り、年一回川に生息している魔物を間引くことも目的にしているようだ。だから冒険者ギルド主催なのだろう。
そうこうしているうちに、防具を取りに行ったメンバーも会場に戻ってきていた。
「ダンさ~ん! どんな塩梅ですか~?」
「まだまだです――よ?」
声を掛けられたダンは振り返って思わず凝視してしまった。
それぞれ手袋やブーツにレッグガードを身に着けているのはまだいい。問題は――
「なんで服は短いんですか?」
半袖のシャツや腰までの布など、腕や足の素肌の部分が多く見える服装だったのだ。
「どうせ濡れるなら短くてもいいかなぁって思って」
「う~ん? まあ自己責任で頑張ってください? たぶん皆さんなら噛み千切られることはないと思いますけど……」
ダン自身も経験の無いことなので大したアドバイスも出来ない。
しかし職員は慌てて言った。
「そんな恰好とんでもない! 小さいが『シャープエッジ』なんて呼ばれる稚魚の剣魚だって泳いでいるんだ。極力肌は晒さない方がいい!」
「――だそうです」
職員の言葉にダンが視線を向けると、それを受けたメンバーの視線がキョーコに集まる。
「え~? 大丈夫だと思うけどなぁ。……ダンさん自身はそう思わない?」
「まあ、確かに大丈夫だと思いますが」
キョーコに話を振られてダンは片足を上げてみる。水の中から抜いたズボンにはいくつかの切られたような跡があった。その内側の足には傷跡は一つもない。
職員が目を丸くしているその横でキョーコがドヤ顔でメンバーを見返した。
しかし容赦なくツッコミが入る。
「ダンさん自身の防御力と我々の防御力を同等と考えたらダメだと思いますが?」
『こやつの身体は人間ではないであろう?』
比較的常識人のウェンディとタマモのツッコミ。
「――って、僕は普通の人間ですが?」
そんなダンの抗議の声はスルーされてしまう。
「仕方ないかぁ」とキョーコは着替えを入れていた袋からズボンを取り出すと各人に手渡し始める。どうやら大会後に着る予定の衣服は持っていたらしい。
「でも腕は?」
「それはさすがに闘気で防御出来るでしょう?」
「そうですね」
「そうだなー」
「そうだよねー」
手早くズボンを穿いたメンバーが桟橋から飛び降りてくる。ちなみに職員は茫然としていた。パーティメンバー全員が闘気を纏うと言っているのだ。どう見ても後衛の魔法使い達も含まれているにも関わらず。
ちなみに飛び降りた際にファーニとマロンがやや川の水を飲みこんだのはご愛敬だ。
「それで、どんな方法で捕まえるのが効率いいのかな?」
飛び込んだキョーコの言葉に全員が周りを見渡した。
「あ、ちょうど捕まえてる人がいますよ。ほら、片手を食べさせておいて、もう片手で捕まえるみたいです」
ダンが説明しながらみんなの視線を誘導する。
「ふむ? 我らはアレよりも早く捕らえることが出来るぞ。リル殿?」
「やりますかロウキさん!」
ザバザバ! と水をかき分けて更に奥に進んだリルとロウキが両手を振り上げて構えた。その姿勢のまま、じっと水中を見る。
「はっ!」
「どりゃ!」
二人は振り上げた両手を交差させるように斜め方向から水面に手を差し入れると、そのままの勢いで水中を掻くように両手を振り切り、後ろへと両手を振り上げた。
爆発するように巻き上がる水と共に、いくつかの魚影がその中に含まれているのが確認できる。
「どうです!?」
「どうじゃ!?」
『あまり他の方の迷惑になる方法をされる方は失格としますよ~』
普通に大会運営から注意された。
「それに獲物を掴めてないですしね~。とりあえず周りの方を参考にして、その方法で捕まえましょうか」
巻き上がった魚影を2つ掴んだダンが言った。他にも反応出来た数人が手の届く距離の得物を捕まえていた。
ハッとして両手を見て、がっくりと項垂れたリルとロウキであった。
それから数時間。
「う~ん? さかな、さかな……」
『……真面目にやっとるのは見ていて分かっておるが、ワザとやっておるのではと疑いたくなるレベルで外道が釣れるのぉダン』
捕まえたとダンが水中から手を抜くと、そこにはヌメヌメとした体表を持つ蛇のような獲物が居た。
「これ魚だったり――」
『せんな』
「――しませんよね~。コレも魔物かな?」
持っている手がピリピリとしていることから毒を分泌しているのかもしれない。念のためにダンは桟橋の上の職員に手にした獲物を渡してみた。
「こりゃサンダーウナギってヤツだな。毒抜きすれば珍味だよ!……外道だけど」
「はあ、そうですか」
「それより君、水から上がらなくて大丈夫かい!?」
「え?」
再度獲物を狙いに行こうとしたダンを慌てて職員が引き留めようとした。
よく見ればダン以外には数人しか川に入っている人影が見えない。
桟橋の上には職員以外に先程まで川に入っていた参加者たちが、座り込んで膝を抱えて布を被っている。口元や体はガチガチと震えているようだ。
「水に入って長時間経つと、身体が結構冷えてくるんだ。無理はやめた方がいい」
そう言われたが、ダンにはいまいち分からなかった。
なぜならダンは全く体温が低下していなかったからだ。
これはダンの過剰なまでの各種属性への耐性が影響していた。
「ゆっくり体の熱が下がるから自覚しにくいんだ。ほら、君の顔とか唇の色も――あれ?」
「とりあえずまだ動けますから頑張ってみます。まだ大会は続いてますよね?」
「え? あ、ああ。日差しが頂点に来たら終わりだから、あと1時間くらいかな。終わりにはまた太鼓を鳴らすよ」
「ん~? あの青年、途中で上がってたっけ?」とか言いながら職員は元の位置に戻っていこうとする。
「あ、すみません! ちょっと聞きたいことが」ダンがその職員を呼び止める。
「ん? どうしたんだい?」
「一つだけ確認したいことがありましてね」
『それで、こんな奥まで来てさっき話していた策を実行する気かの?』
ダンの上でタマモがぼやく。
現在ダンとタマモは会場の桟橋よりも奥、水神様を祭っているという島に誰よりも近い位置に立っていた。
「ええ、ここならば最悪誰にも迷惑は掛かりませんから」
『分かっておるだろうから突っ込む気も起きんが……。ワシここに居るからの!?』
タマモのツッコミを横に打っちゃり、ダンは静かに息を吐いて集中力を高める。
「『戦乙女の加護』解放」
解放した闘気を押さえつけて、ダンはアーツの発動を意識する。
かなり特殊なアーツで、専門にしている特殊な職業の者でなければ、その性質は使う者の特性が顕著に表れる。
ダンはそこまでこのアーツを使い込んでいるわけではないので、その性質は以前に使った時と全く同じであろうと見当をつけていた。
『ぬ? お主にしては妙に繊細な気の使い方じゃな?』
「……それじゃあ、気を引き締めてくださいね」
『なんじゃと?』
ダンの発言に背筋が震えたタマモ。
『ちょ、お主何を――』
「アーツ。タウント!」
ダンを起点として、ダンの前面に扇状に放たれる闘気。
その性質は一言で言えば、
『俺より強いヤツは掛かってこい!』
と訴えるものであった。
『おっと、ここで参加者の方がタウントを使っ――え?』
川の水面が激しく波打つ。それを作るのは小さなサイズの魔物達。
バシャバシャ! と波打ったかと思いきや、その波が一気に川の中心へと逃げるように移動していく。
そして一瞬の空白が場に染み渡ったかと思った次の瞬間、
川の奥から水面を割りつつ進む水柱がダンへと目掛けて進んできた!
『あ、あの水柱の速度! まさか川の王か!?』
水中をすさまじい速度で進んでくる魚影。
「ダンさん!」
仲間の誰かの悲鳴のような声が聞こえてくる。
「……やっぱりこうなりましたか」
『ダン! お主知っててやったのか?』
「たぶん、こうなるだろうなぁ。とは」
以前、任務の際にやむを得ず魔物の群れを誘導しようとタウントを使用した時も、その群れのボスが出てくる事態となったことがあった。その事を大団長に相談したところ、自分のタウントはちょっと普通のものとは違うことを教えて貰った。
『いや、ソレちょっとか?』
「その代わりに格下すぎる相手には逃げられちゃうんですけどね? っと、もう来そうですよ」
もう水面を切り裂く水柱は目前に迫っていた。
『どうする気じゃダン?』
「え? 釣り上げる予定ですよ?」
腰を落として、両手を軽く前に突き出す。
それ目掛けて突っ込んでくる水柱下の魚影。
『ま、まじかぁぁぁぁぁ!?』
「闘気を巡らせて……、はぁッ!」
頭上で狼狽えるタマモを放置して、ダンは闘気を循環させた体一つで魚影と衝突した。
ドンッ! と大きな音と水面をダンと魚影を中心に広がる波。
ダンはその場を動くことなく、魚影の突進の勢いを全て受け止めていた。
「お、こいつまだ動きますね」
ダンに抑え込まれた頭を胴体ごと揺さぶり押さえつけから逃れると、その魚影はダンから距離を取った場所の水面からジャンプした。
『キーー!』
飛び上がったザ・魚型魔物と呼べるシルエット。その口から水の魔力で作られた水レーザーが放たれる。
ダンは左手の甲に闘気を集めて、それで水レーザーの軌道を逸らす。
逸らされた水レーザーが水面に着弾すると高い水しぶきが上がった。
水の中では自由に動けた魔物も、空中に居る間は自由には動けなかった。
徐々にダンへと近づいていく魔物。
「加減して、破壊しないように……。とりゃ!」
右拳を軽く握り、ダンなりに威力を押さえたパンチを相手の鼻先にぶち当てた。
バコーン! と殴られて空中を横に流れていく魔物。バッシャーン! と水面に落ちると、プカーとその身体が水面に浮き上がった。
「やった! 原型を保ちましたよタマモ!」
『心配するのそっちかい!……はぁ。とはいえ、お見事じゃな』
ザブザブと水をかき分けて魔物に近づいたダン。さすがに大きい魔物だったし、既に気絶か死んでいるので両手で胴体を掴むと高々と持ち上げた。
「釣り上げましたよ~!」
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