元兵士その後

ラッキーヒル・オン・イノシシ

文字の大きさ
61 / 116

大会は終了したけど……

しおりを挟む
 ダンは声が聞こえてきた後ろを振り返る。
 案の定そこにはミズチが居て、水面から体を伸ばしてダンへと近寄ってきていた。
「もう少しだと思うので、ちょっと待っててくださいね?」

『じゃあ、ちょっと
 アングリと口を開けると、ダンの肩辺りへと噛みつくミズチ。
 チュルルル~と音をたてながら、ダンの中のナニカが吸われていく感覚がきた。
「だから待てと言ったでしょう?」
 そんなミズチの顔面に裏拳をぶち当てて川へと送り返した。

「ふぅ。あ、続きお願いしますね」
 ダンに促されて実況者が意識を取り戻したかのように司会を続ける。
『え、え~、では優勝者のダンさんには後に金貨1枚を贈らせていただくと共に、素手釣り大会優勝者を称えてのを送らせていただきま~す』
「え? 権利書?」
『ダン氏は外部からの参加者ですから説明させていただくと、この祭りの主旨として大河の魔物を間引くのですが、昔は水神様の島から街までの間の大河は比較的安全に魚を釣ることが出来たそうで、それに倣って安全確保に最も貢献した人を水神様に例えようと、だいたい3年くらい前から行われるようになりました~』
「なんですかその微妙に新しい風習みたいなのは? 3年?」
 なにやら胡散臭い説明をされたような顔でダンが聞き返した。
『え~、とりあえず今日から1年はダン氏にこの街のの役職を送られます~』
「いや待って? 話が急展開し過ぎで分からないんですけど……、名誉街長?」
『それでは島の権利書を前回優勝者から引き継ぎを行います』
「???」
 もはやダンのツッコミが聞こえないのか、ダンだけが疑問符を大量に浮かべた表情で立っていた。
『後で詳しい事情は話します~。では』
 そういってダンの目の前に現れたのは、先程の釣り具部門優勝者と言われていたウラージミルという冒険者だった。その彼が手にした巻物をダンへと突き出す。
「来年は俺が優勝者だ!」
 キラーンと歯を輝かせてサムズアップするウラージミル。

 あまりの展開にダンが『あの親指圧し折ったら、僕の話聞いてくれますかね?』とか考えていたが。

『それでは大会終了の締めとして、水神様の島までの防御網を引き直ししたいと思います』
 確かに間引いたのにそのままでは魔物が入ってきてしまうから当然の処置だな。とダンは自分の傍らに大王ツナを下ろしてその成り行きを見守ろうとした。
『それでは優勝者の方、よろしくお願いいたします』
「え?」


「そうですか……。水神様の島の権利書を持っている人が、その権利で島に上陸して、島の方から網を引っ張るんですね……」
 ちなみに現在は島と街の間の大河は魔物が間引かれている状況。魔物がウヨウヨしているわけではないので比較的素直に島へと泳いでたどり着ける。
「これ優勝者が損をしてるんじゃないですか!?」
 ダンが荒ぶっていると拡声された声が聞こえてくる。
『島にあるちょっと細いヒモを手繰り寄せる様に引っ張ってください~!』

「なんか騙されてる」と文句を言いつつ、ダンは言われたとおりに島にある細めのを掴み上げると、ぐいぐいと引っ張り始めた。
 しばらくロープを引っ張っていると、どんどんと負荷が重くなってくる。
『あ、コレ鍛錬にいいかも』とかやや横に逸れた感想を思いつつ、段々と太さを増していくロープを引っ張っていく。ふと手元の延長戦上を見れば、朝大会が始まるときに街に巻き上げられた防御網とやらが島まで引っ張られてくる様子が見える。
『そのくらいで大丈夫です~! 反対側もおねがいしま~す』
「は~い。……たしかに素手で釣り上げる。その優勝者ならロープを引くのもお手の物なんだろうけどなぁ」

 実際、例年は優勝者以下上位者を複数島に送り、優勝者を除くメンバーが川の中でロープを引くのを手伝って、島の上で優勝者が引くという方法を行っていた。ただしその方法では川の中に居る者達が、いくら間引いたとはいえ残った魔物の襲撃を受けて怪我をしていたりしていたのだった。
 ただ今回優勝者のダンは並々ならぬ怪力の持ち主(大王ツナは普通1人では持ち上がらない)だったことから、大会職員がアドリブでダン1人を島に送ったのだ。
 ダメだったら従来の方法に戻せばいいや。くらいの気持ちで。

 うんしょ、うんしょとロープを引っ張るダン。そんな思惑があることを知らずに反対側の防衛網も引き直すことに成功した。
『ねえねえ、な~に?』
 唐突に聞こえてきた声に振り返るとミズチがダンの懐を覗いていた。
 ソレと言われた物を取り出すダン。
『う~ん? ボクのウチと同じ匂いがする~』
 そう言ったミズチの言葉に、ダンは自身が手にしているソレを見た。

 水神様の島の権利書。

「もしやと思いましたが、これってアレに似てますよね」
 契約の巻物。
 タマモの居た土地契約の巻物とそっくりなソレを広げてみる。
 書いてある文面に多少の差はあるものの、ダンが以前に見た契約の巻物とほぼ同じような内容が書かれている。そしてここだけが違った。
「やっぱり」
 そこには『ミズチ』の名前が書かれている。

「とすると、これも王家からの流出? いや、街長が元々持ってたって言ってたような?……これは詳しく話を聞かないと分からんな」
 手にした契約の巻物の出自を考えて、後で大会関係者に詳しい話を聞くしかないと結論付けたダン。そこに首を傾げて(体ごとの)いたミズチが聞いてきた。
『ん~、ダンが今度の契約者なの?』
「その言い方だと、ミズチは以前の契約者の方を知っているんですか?」
『うん。、ボクのウチと契約していたおじさんが居たことは知ってるよ~?』
 ミズチの言い回しを読み解けば、まだ精霊族としての体を持っていない時の知識として知っているらしかった。
『それでおじさんが来なくなってからしばらくして、ボクのウチがなっちゃったんだよね~』
「住み難くなった?……ということは、その頃から外を出歩いて魔物を食べてたってことですか?」
 精霊が住み難くなった。ということは自然界の生命力が豊富に湧かなくなったということか?
『ううん、それは最近だよ~。住み難くなった頃は、まだ周りがおいしかったんだ~』
 周りがおいしい。ちょっと言葉がアレだが、まだ周辺の生命力が豊富にあったということだろうか?
『それで、契約する?』
「まあ契約するくらいならいいですよ」
 軽い口調でミズチに言われて、ダンも軽い気持ちで返答する。
『それじゃあ、契約するね~』
 ミズチの声と共に契約の巻物が宙に浮かび、巻物が開かれる。そこには今いる島と街の一部、おそらく桟橋辺りの地図が浮かび上がっていた。
 その浮かび上がった地図の島の辺りにミズチの鼻先がつけられると、契約の巻物が光を帯びる。
『僕はミズチ~。契約はダンとするよ~』
 そう言うと契約の巻物がひときわ強い光を放ってから、ひとりでに巻き直ってダンの手に戻ってきた。
『それとダンには祠にも力を込めて貰いたいんだ~』
 ミズチがそう言いつつ顔を向けた先には島に唯一ある建物の祠があった。流れ的にタマモの所の結界と同じものかとダンがそちらへと歩み寄った。
 それは人の背丈と同じ大きさの木で出来た祠があった。そこにダンが手を伸ばす。

『キュルルルアァ!?』
 唐突に聞こえてきたミズチの悲鳴にダンが振り返る。そこにはミズチの胴体を半分覆っているが居た。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

処理中です...