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異常進化種? と戦う
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ミズチの胴体を半分覆うナニカ。
いやミズチの尻尾側から食らいついて、その胴体を半分飲み込んでいるナニカがそこに居た。
「ミズチ!……そのままだと食われますよ?」
しかしダンは『なにやってるんだ?』と言わんばかりの視線を送っていた。
ミズチの体格と力強さならば抜け出せると踏んでの発言。実際冷静な状態のミズチであれば、その体を大きく力強く動かせば抜け出すことが可能だった。
だがその当人は、
『うわ~ん、キモチわるいよ~! 助けてダン~!』
自分の体が半分とは言え、丸呑み状態になったことによる感触からパニックを起こしていた。
「いや、ワーム相手に……。アレ? ワームってあんな腕みたいなの生えてましたっけ?」
ダンは目の前に居る相手の形状に首を傾げていた。
一方、祭りの終了を見守っていた大会会場でもパニックが起きていた。
「うわ~! 水神様が襲われてる~!」
先程までミズチを水神様が降臨された。と浮かれていた街の人々が、その水神様と認識したミズチがナニカに襲われている場面を見たのだ。
水神様の存在はおとぎ話程度にしか認識していなかった人々が、その伝説ともいえる話の中だけの存在であった水神様(と思っている存在)が現れたことで街の安泰を思っていた中での出来事である。
普通にパニック案件だった。
「あれって何?」
「すこし遠目ですが……。ワームと呼ばれる魔物、でしょうか?」
割と落ち着いて状況を冷静に観察しているのはダンの仲間達だった。
先程ダンがミズチに食われたときと比べれば雲泥の差の落ち着きっぷり。
「ワーム……。え、あれミミズの化け物なの? デカすぎだし、口元凶悪すぎじゃない? 昔見たことある『モンゴリアンデスワーム』の想像図に匹敵するわよ?」
「その『もんごりあんですわーむ』? というワームは知りませんが、おそらくは遠目にも目を持たない、そしてあの形状から推測するとワームの1種であると思います」
自身の知識と照らし合わせてウェンディがそう言った。
ワーム
とりあえずデカイミミズである。
種類によっては『〇〇イーター』等の〇〇の部分に鉱物の名前が入る亜種も存在し、地中を食べつつ移動する、まあやはり手っ取り早い説明はデカイミミズである。
地中に存在する種であるため、ほとんどは目が退化しており、嗅覚や感覚器に伝わる振動を目安に目標へと向かう性質を持つ。
「というかミズチになぜ食いついたのかしら?」
「基本ワーム種は本能のままに生きてますから、ミズチから美味しそうなナニカを感じたんじゃないでしょうか?」
「ふ~ん? というかミズチは精霊族だって言ってなかったっけ? 精霊族の体が美味しそうってこと?」
皆が沈黙して思い出していた。
精霊族は生命力が形作った存在。それが「美味しそうなナニカ」を感じたワームに襲われている。
という事は……、
「あれ? つまり生きてる相手を食うってこと?」
「特に生命力が強く感じる相手をって事ですね。……ん~?」
ゴクンゴクンと聞こえそうな脈動する体に、徐々に飲み込まれていくミズチ。そしてワームの居る場所に一番近くに居る相手は――
「「「やばい、ダンさんが次の標的になる!」」」
ようやく慌て始めたメンバーが急いで準備を始めた。
その頃ダンはもはや顔近くまで飲み込まれたミズチを見ていた。
そのミズチを飲み込んでいるワームは口の近くに生やした腕のような器官を操り、ミズチの体を自身の体内へと押し込もうとしていた。
「ミズチ~、そのままだと本当に食べられちゃいますよ~?」
『うう、ダ、ン……』
ミズチに声を掛けるものの、帰ってくる返事がもはや弱弱しく元気が無い。
ダンはミズチの自力脱出がもはや困難だと確認すると、ワームの元へと歩いていく。
ミズチを飲み込んだワーム。つまりミズチが居た水場である川の中だ。
ジャブジャブとまだ足が着く、膝丈くらいの水深まで川の中へと入っていくダン。その時点でワームの胴体に手が届くことを考えると、自分の立っているところよりも更に下からワームは出てきているのだろう。
先程からミズチを飲み込んでもワームの口の位置が見えている高さが変わらないのは、地面の下にまだ隠れている胴体があるからだろう。
「とりあえずミズチにはまだ聞きたいこともあるんです。返してもらいますよ? 『戦乙女の加護』解放」
ダンから立ち昇る闘気。ワームはそれに気づいたのかミズチを飲み込んだ姿勢のまま、その胴体をビクリと震わせた。
それは本能で餌が増えたと感じたからか。
実際は捕食者と非捕食者の立場が違うのだが。
ダンはワームが言葉を理解しているはずもないかと、右手を思いっきり引くと闘気を拳に纏わせて、全身に闘気を循環させ始めた。
そして一息吐く。
「吐・き・出・せぇぇぇぇ!」
全身を生かした右ボディーブローをワームへと突き刺した。
弾力が感じられるワームの皮にダンの右腕がのめりこんでいく。
『ギュアアアアアアアアアアア!』
ダンの腕を起点に体が折れ曲がったワームが、苦痛からか悲鳴のような声を上げて、飲み込んでいたミズチの体を吐き出しながら体液をぶちまけた。
ズルリとワームの口から飛び出したミズチは、そのまま川に落ちる。ピクリとも動かずにそのまま川の流れに乗って体が流れ始めた。
さすがに放置するとまずいと思ったダンだが、目の前のワームはまだ存命。さすがに無視してミズチを追うわけにはいかなかった。
「ダンさん、応援に来ました!」
どうしようと考えていたダンにリルの声が聞こえてきた。目だけを動かしてそちらを見れば、フル装備をしている仲間達の姿が川から上がってくるところだった。
「ちょうどいい皆さん! ミズチを街まで引っ張っていってもらえますか?」
「そんな! 私たちも何人かはワーム討伐を手伝いますよ!?」
ミズチを連れて離れていろというダンの言葉に、非難の声があがった。
せっかくここまで来たのにダンの手伝いも出来ずに帰れない。
ダンは手伝うといった仲間を目を丸くして見返した。
「え? それは助かりますけど――。結構、体液まみれになりそうですよ?」
そう言われて全員の視線がダンへと集中する。
既にダンは先程ミズチを救出した際に吐き出された体液を浴びていた。
ヌルヌルのグチャグチャだった。
「「「――ライさん、ダンさんは任せた!」」」
「えー!?」
そういうと打ち合わせでもしていたかの如く、ミズチの身体を全員で囲むと街まで泳ぎ始めていた。
宣言通りにライ1人をその場に残して。
「……あー、ライさんも向こう手伝ってきてもいいですよ?」
「いえ、ウチのにも「任せた」と言われてしまいましたから……。サクッと討伐してしまいましょう、ダンさん!」
その時ライの目に若干の涙が見えた気がしたが、ダンはそれに気づかなかった事にしてワームへと向き直った。
ライは片手に槍、反対に盾と腰に剣のいつものスタイルだ。
「とりあえずライさんは槍でけん制してください。場合によっては槍は突き刺して剣で攻撃。ワームは体全体に筋が走ってますから、それに沿ったように切れば深く切ることが出来ます」
「了解です!」
そう言いつつダンも自身のポーチから武器を取り出す。ダンの武器は大きなハンマーだった。
「僕はコイツの全身を叩きまくって、コイツの皮を柔らかくしますよ」
そしてハンマーを両手で構えると思いっきりフルスイングした。
バチン! と弾力のある張り詰めた皮を叩いたような音がした。
まだまだと更に右に左にとハンマーをワームの胴体へとぶち当てていくダン。
ワームも負けじとダンへとその口を向けて、一気にダンを飲み込もうと急接近する。
「させるか! アーツ『シールドバッシュ』!」
それを横からライが盾を構えつつ突進して弾き飛ばす。
「上手いですよ!……あれ、槍は?」
称賛の声を掛けた相手が槍ではなく剣を持っていることに気づいたダンが聞いた。するとライは苦笑いをしながらワームを持っている剣で指し示した。
そこに目を向けるとワームの胴体に一本の槍が刺さっていた。
「ちょっと深すぎて抜けなくなりました」
「あ~、あるある。無理に回収しようとしなくていいですよ」
槍を使っているとよくあることに、ダンもウンウンと頷きながら「しょうがない」と賛同した。
『ギュルアアアアアアアア!』
一方ぶっ飛ばされたワームが今度はライに目標を定めて突進する。
「おやおや、僕を無視していいのかなぁ? おまけにそんなに胴体を晒してしまって?」
ダンはハンマーへと闘気を注ぎ込んで、思いっきり体を捻りこむ。
ライが接触の寸前で体を動かして、盾をワームの口の端へと叩きつける。ワームは自身の突進する力を利用された攻撃に、その身体が一瞬その場に留まった。
「いきますよ~! アーツ『インパクトウェーブ』!」
ダンは力を貯めたハンマーをワームの胴体に打ち込んだ。するとハンマーに貯められた闘気がワームの全身を伝っていく。
バンバンバン! と連続してワームの胴体から打撃音と、そのたびごとにワームの胴体がくの字に曲がっていく。
アーツ『インパクトウェーブ』は打ち込んだ衝撃を相手の全身に伝達させるアーツである。
込める闘気の量によっては全身にいき渡る前にアーツが終了することもあるが、そこはダンが込めた闘気の量。きっちりとワームの全身にいき渡って――
バンバンバン!
「あれ?」
バンバンバンバンバン!
茫然としているダンの目の前で、ダンが打ち込んだ衝撃が最初に打ち込んだ箇所まで戻ってきて――
ドバンッ!
集中した衝撃がワームを横方向へと弾き飛ばした。
「さすがダンさん!」
「え? コレってこんなアーツでしたっけ?」
ライの称賛の声を聞きつつ、ダンは手にしたハンマーへと目を向けつつ首を傾げた。
実際『インパクトウェーブ』というアーツの挙動ではなかったのだが、そこはダンの込めた闘気が尋常ではない量だったために起きた現象である。
さらに言えばダンのアーツの使い方も一般的ではないことが原因だったりする。
普通、アーツはシステムの恩恵を受けて発動するものなので、アーツによって使われる闘気の量も最低限からある程度の量まで管理されるのだ。
しかしダンは半分マニュアルのように、自分で闘気を込めてからアーツを発動しているので、その威力や挙動がおかしなことになっていたりする。
「ま、いっか」
発動すればいいやというダンと、そもそもアーツに精通している人物でもいなければ受けることのないツッコミ不在の自体。
ダンのアーツが色々とおかしいことが突っ込まれる日はまだまだ先であった。
「そろそろ筋も緩んできたと思いますから、ここからは剣で攻撃しますよ! でも素材惜しいことになりますから、基本は頭部に集中攻撃です!」
「分かりましたダンさん!」
そしてダンはポーチから剣を取り出して構える。ライも剣と盾を構えて二人は並び立つとワームへと向き合った。
ワームはダンから受けた衝撃から立ち直ると大きく口を開けて二人の方を向いた。口元近くの腕のような部分も二人へと向ける。そして一気に突撃してきた。
「回避は最小限! 相手の勢いも利用して攻撃します!」
ライは盾を構えると、それをわずかに傾けて半歩体を横にずらす。ワームの胴体は躱して、口元から伸びる腕のような部分も盾で受け流しつつ、剣をワームの皮へと突き立てて切り裂いた。
一方ダンはまだ鞘に収まったままの剣を大上段へと構えると、突進してきたワームの胴体を跳び越えた。
そして跳んだ勢いを利用して前方回転をし、その勢いで鞘をワームへと突き立てる。ワームの勢いと自身の勢いで、ワームの胴体の上を高速で縦回転していく。
鞘のまま攻撃したのは武器にある程度の重さが欲しかったためだ。そもそもダンの剣の鞘はそれ自体が武器として使える。新たに作られたばかりの鞘の耐久力もついでに確認していたりする。
ワームの胴体が見えている範囲をある程度切り進んだダンがワームの胴体を蹴り距離を取った。
ライも深追いせずに盾を構えたまま距離を取った。
『グアアアアアアアア!』
「あ~、怒ってるんですかね?」
「それは怪我させられたら怒るんじゃないですか?」
呑気にワームを間に挟みながらお互いの見解を伝えるダンとライ。
そうしているとワームがその口を向けた――ダンに。
「それじゃあそろそろ決着つけますか。ライさんは油断せずに離れててください」
そう言ったダンが鞘のグリップから刀の柄へと手を持ち替える。そして刀を抜いた。
右手で柄を持ち、左手は刀身の背に添わせるように構える。
ワームが一気にダンへと肉薄した。
「しかし攻撃が単調ですね」
そう言ったダンの姿はワームの口をすり抜けた。いや、その姿はすぐに消えた。本当のダン自身はワームの上に乗っていた。ダンは最小限の動作で残像を残して躱していたのだ。
そして構えていた刀の切っ先をワームへと突き刺すと両腕に力を籠める。
「ワーム系相手の解体技『背開き』!」
そしてダンはワームの胴体の上を思いっきり走り抜けた。
走り抜ける間は差し込んだ切っ先がほぼ一定の深さを維持するように注意しつつ、素早くワームの胴体上を移動していく。
ちなみに余談であるが相手が蛇系魔物の場合は『腹開き』となる。骨の形とか何か理由があるようだが、ダンは詳しくは知らなかった。
全身を切り開かれる痛みにワームがのたうち回るが、ダンはその不安定となる胴体も器用に走り抜けた。そして地面から出ている終着点へとたどり着く。
「ふぅ、さすがにここまで切られれば――」
ダンの言葉が言い切られる前に、ワームがその身体を地面へと横たえた。
「さすがに死にますよね」
「お疲れ様ですダンさん」
そういってダンが置いていった鞘を持ってきてくれたライから鞘を受け取る。が、さすがにダンはライの顔を見て噴き出してしまった。
「なにか?」
「いや、ワームの体液が酷いことになってるなぁ。って」
「いや、それ言ったらダンさんも酷いですよ?」
指摘されて顔を触るとベチャリと手に触れるものがあった。
「あ~、とりあえずワームも引っ張っていって街に帰りますか」
「……そうですね」
そして二人はワームの死骸を掴み、川を泳ぎながら(ライはどちらかと言えば川底を飛び跳ねつつ)街へと帰還した。
いやミズチの尻尾側から食らいついて、その胴体を半分飲み込んでいるナニカがそこに居た。
「ミズチ!……そのままだと食われますよ?」
しかしダンは『なにやってるんだ?』と言わんばかりの視線を送っていた。
ミズチの体格と力強さならば抜け出せると踏んでの発言。実際冷静な状態のミズチであれば、その体を大きく力強く動かせば抜け出すことが可能だった。
だがその当人は、
『うわ~ん、キモチわるいよ~! 助けてダン~!』
自分の体が半分とは言え、丸呑み状態になったことによる感触からパニックを起こしていた。
「いや、ワーム相手に……。アレ? ワームってあんな腕みたいなの生えてましたっけ?」
ダンは目の前に居る相手の形状に首を傾げていた。
一方、祭りの終了を見守っていた大会会場でもパニックが起きていた。
「うわ~! 水神様が襲われてる~!」
先程までミズチを水神様が降臨された。と浮かれていた街の人々が、その水神様と認識したミズチがナニカに襲われている場面を見たのだ。
水神様の存在はおとぎ話程度にしか認識していなかった人々が、その伝説ともいえる話の中だけの存在であった水神様(と思っている存在)が現れたことで街の安泰を思っていた中での出来事である。
普通にパニック案件だった。
「あれって何?」
「すこし遠目ですが……。ワームと呼ばれる魔物、でしょうか?」
割と落ち着いて状況を冷静に観察しているのはダンの仲間達だった。
先程ダンがミズチに食われたときと比べれば雲泥の差の落ち着きっぷり。
「ワーム……。え、あれミミズの化け物なの? デカすぎだし、口元凶悪すぎじゃない? 昔見たことある『モンゴリアンデスワーム』の想像図に匹敵するわよ?」
「その『もんごりあんですわーむ』? というワームは知りませんが、おそらくは遠目にも目を持たない、そしてあの形状から推測するとワームの1種であると思います」
自身の知識と照らし合わせてウェンディがそう言った。
ワーム
とりあえずデカイミミズである。
種類によっては『〇〇イーター』等の〇〇の部分に鉱物の名前が入る亜種も存在し、地中を食べつつ移動する、まあやはり手っ取り早い説明はデカイミミズである。
地中に存在する種であるため、ほとんどは目が退化しており、嗅覚や感覚器に伝わる振動を目安に目標へと向かう性質を持つ。
「というかミズチになぜ食いついたのかしら?」
「基本ワーム種は本能のままに生きてますから、ミズチから美味しそうなナニカを感じたんじゃないでしょうか?」
「ふ~ん? というかミズチは精霊族だって言ってなかったっけ? 精霊族の体が美味しそうってこと?」
皆が沈黙して思い出していた。
精霊族は生命力が形作った存在。それが「美味しそうなナニカ」を感じたワームに襲われている。
という事は……、
「あれ? つまり生きてる相手を食うってこと?」
「特に生命力が強く感じる相手をって事ですね。……ん~?」
ゴクンゴクンと聞こえそうな脈動する体に、徐々に飲み込まれていくミズチ。そしてワームの居る場所に一番近くに居る相手は――
「「「やばい、ダンさんが次の標的になる!」」」
ようやく慌て始めたメンバーが急いで準備を始めた。
その頃ダンはもはや顔近くまで飲み込まれたミズチを見ていた。
そのミズチを飲み込んでいるワームは口の近くに生やした腕のような器官を操り、ミズチの体を自身の体内へと押し込もうとしていた。
「ミズチ~、そのままだと本当に食べられちゃいますよ~?」
『うう、ダ、ン……』
ミズチに声を掛けるものの、帰ってくる返事がもはや弱弱しく元気が無い。
ダンはミズチの自力脱出がもはや困難だと確認すると、ワームの元へと歩いていく。
ミズチを飲み込んだワーム。つまりミズチが居た水場である川の中だ。
ジャブジャブとまだ足が着く、膝丈くらいの水深まで川の中へと入っていくダン。その時点でワームの胴体に手が届くことを考えると、自分の立っているところよりも更に下からワームは出てきているのだろう。
先程からミズチを飲み込んでもワームの口の位置が見えている高さが変わらないのは、地面の下にまだ隠れている胴体があるからだろう。
「とりあえずミズチにはまだ聞きたいこともあるんです。返してもらいますよ? 『戦乙女の加護』解放」
ダンから立ち昇る闘気。ワームはそれに気づいたのかミズチを飲み込んだ姿勢のまま、その胴体をビクリと震わせた。
それは本能で餌が増えたと感じたからか。
実際は捕食者と非捕食者の立場が違うのだが。
ダンはワームが言葉を理解しているはずもないかと、右手を思いっきり引くと闘気を拳に纏わせて、全身に闘気を循環させ始めた。
そして一息吐く。
「吐・き・出・せぇぇぇぇ!」
全身を生かした右ボディーブローをワームへと突き刺した。
弾力が感じられるワームの皮にダンの右腕がのめりこんでいく。
『ギュアアアアアアアアアアア!』
ダンの腕を起点に体が折れ曲がったワームが、苦痛からか悲鳴のような声を上げて、飲み込んでいたミズチの体を吐き出しながら体液をぶちまけた。
ズルリとワームの口から飛び出したミズチは、そのまま川に落ちる。ピクリとも動かずにそのまま川の流れに乗って体が流れ始めた。
さすがに放置するとまずいと思ったダンだが、目の前のワームはまだ存命。さすがに無視してミズチを追うわけにはいかなかった。
「ダンさん、応援に来ました!」
どうしようと考えていたダンにリルの声が聞こえてきた。目だけを動かしてそちらを見れば、フル装備をしている仲間達の姿が川から上がってくるところだった。
「ちょうどいい皆さん! ミズチを街まで引っ張っていってもらえますか?」
「そんな! 私たちも何人かはワーム討伐を手伝いますよ!?」
ミズチを連れて離れていろというダンの言葉に、非難の声があがった。
せっかくここまで来たのにダンの手伝いも出来ずに帰れない。
ダンは手伝うといった仲間を目を丸くして見返した。
「え? それは助かりますけど――。結構、体液まみれになりそうですよ?」
そう言われて全員の視線がダンへと集中する。
既にダンは先程ミズチを救出した際に吐き出された体液を浴びていた。
ヌルヌルのグチャグチャだった。
「「「――ライさん、ダンさんは任せた!」」」
「えー!?」
そういうと打ち合わせでもしていたかの如く、ミズチの身体を全員で囲むと街まで泳ぎ始めていた。
宣言通りにライ1人をその場に残して。
「……あー、ライさんも向こう手伝ってきてもいいですよ?」
「いえ、ウチのにも「任せた」と言われてしまいましたから……。サクッと討伐してしまいましょう、ダンさん!」
その時ライの目に若干の涙が見えた気がしたが、ダンはそれに気づかなかった事にしてワームへと向き直った。
ライは片手に槍、反対に盾と腰に剣のいつものスタイルだ。
「とりあえずライさんは槍でけん制してください。場合によっては槍は突き刺して剣で攻撃。ワームは体全体に筋が走ってますから、それに沿ったように切れば深く切ることが出来ます」
「了解です!」
そう言いつつダンも自身のポーチから武器を取り出す。ダンの武器は大きなハンマーだった。
「僕はコイツの全身を叩きまくって、コイツの皮を柔らかくしますよ」
そしてハンマーを両手で構えると思いっきりフルスイングした。
バチン! と弾力のある張り詰めた皮を叩いたような音がした。
まだまだと更に右に左にとハンマーをワームの胴体へとぶち当てていくダン。
ワームも負けじとダンへとその口を向けて、一気にダンを飲み込もうと急接近する。
「させるか! アーツ『シールドバッシュ』!」
それを横からライが盾を構えつつ突進して弾き飛ばす。
「上手いですよ!……あれ、槍は?」
称賛の声を掛けた相手が槍ではなく剣を持っていることに気づいたダンが聞いた。するとライは苦笑いをしながらワームを持っている剣で指し示した。
そこに目を向けるとワームの胴体に一本の槍が刺さっていた。
「ちょっと深すぎて抜けなくなりました」
「あ~、あるある。無理に回収しようとしなくていいですよ」
槍を使っているとよくあることに、ダンもウンウンと頷きながら「しょうがない」と賛同した。
『ギュルアアアアアアアア!』
一方ぶっ飛ばされたワームが今度はライに目標を定めて突進する。
「おやおや、僕を無視していいのかなぁ? おまけにそんなに胴体を晒してしまって?」
ダンはハンマーへと闘気を注ぎ込んで、思いっきり体を捻りこむ。
ライが接触の寸前で体を動かして、盾をワームの口の端へと叩きつける。ワームは自身の突進する力を利用された攻撃に、その身体が一瞬その場に留まった。
「いきますよ~! アーツ『インパクトウェーブ』!」
ダンは力を貯めたハンマーをワームの胴体に打ち込んだ。するとハンマーに貯められた闘気がワームの全身を伝っていく。
バンバンバン! と連続してワームの胴体から打撃音と、そのたびごとにワームの胴体がくの字に曲がっていく。
アーツ『インパクトウェーブ』は打ち込んだ衝撃を相手の全身に伝達させるアーツである。
込める闘気の量によっては全身にいき渡る前にアーツが終了することもあるが、そこはダンが込めた闘気の量。きっちりとワームの全身にいき渡って――
バンバンバン!
「あれ?」
バンバンバンバンバン!
茫然としているダンの目の前で、ダンが打ち込んだ衝撃が最初に打ち込んだ箇所まで戻ってきて――
ドバンッ!
集中した衝撃がワームを横方向へと弾き飛ばした。
「さすがダンさん!」
「え? コレってこんなアーツでしたっけ?」
ライの称賛の声を聞きつつ、ダンは手にしたハンマーへと目を向けつつ首を傾げた。
実際『インパクトウェーブ』というアーツの挙動ではなかったのだが、そこはダンの込めた闘気が尋常ではない量だったために起きた現象である。
さらに言えばダンのアーツの使い方も一般的ではないことが原因だったりする。
普通、アーツはシステムの恩恵を受けて発動するものなので、アーツによって使われる闘気の量も最低限からある程度の量まで管理されるのだ。
しかしダンは半分マニュアルのように、自分で闘気を込めてからアーツを発動しているので、その威力や挙動がおかしなことになっていたりする。
「ま、いっか」
発動すればいいやというダンと、そもそもアーツに精通している人物でもいなければ受けることのないツッコミ不在の自体。
ダンのアーツが色々とおかしいことが突っ込まれる日はまだまだ先であった。
「そろそろ筋も緩んできたと思いますから、ここからは剣で攻撃しますよ! でも素材惜しいことになりますから、基本は頭部に集中攻撃です!」
「分かりましたダンさん!」
そしてダンはポーチから剣を取り出して構える。ライも剣と盾を構えて二人は並び立つとワームへと向き合った。
ワームはダンから受けた衝撃から立ち直ると大きく口を開けて二人の方を向いた。口元近くの腕のような部分も二人へと向ける。そして一気に突撃してきた。
「回避は最小限! 相手の勢いも利用して攻撃します!」
ライは盾を構えると、それをわずかに傾けて半歩体を横にずらす。ワームの胴体は躱して、口元から伸びる腕のような部分も盾で受け流しつつ、剣をワームの皮へと突き立てて切り裂いた。
一方ダンはまだ鞘に収まったままの剣を大上段へと構えると、突進してきたワームの胴体を跳び越えた。
そして跳んだ勢いを利用して前方回転をし、その勢いで鞘をワームへと突き立てる。ワームの勢いと自身の勢いで、ワームの胴体の上を高速で縦回転していく。
鞘のまま攻撃したのは武器にある程度の重さが欲しかったためだ。そもそもダンの剣の鞘はそれ自体が武器として使える。新たに作られたばかりの鞘の耐久力もついでに確認していたりする。
ワームの胴体が見えている範囲をある程度切り進んだダンがワームの胴体を蹴り距離を取った。
ライも深追いせずに盾を構えたまま距離を取った。
『グアアアアアアアア!』
「あ~、怒ってるんですかね?」
「それは怪我させられたら怒るんじゃないですか?」
呑気にワームを間に挟みながらお互いの見解を伝えるダンとライ。
そうしているとワームがその口を向けた――ダンに。
「それじゃあそろそろ決着つけますか。ライさんは油断せずに離れててください」
そう言ったダンが鞘のグリップから刀の柄へと手を持ち替える。そして刀を抜いた。
右手で柄を持ち、左手は刀身の背に添わせるように構える。
ワームが一気にダンへと肉薄した。
「しかし攻撃が単調ですね」
そう言ったダンの姿はワームの口をすり抜けた。いや、その姿はすぐに消えた。本当のダン自身はワームの上に乗っていた。ダンは最小限の動作で残像を残して躱していたのだ。
そして構えていた刀の切っ先をワームへと突き刺すと両腕に力を籠める。
「ワーム系相手の解体技『背開き』!」
そしてダンはワームの胴体の上を思いっきり走り抜けた。
走り抜ける間は差し込んだ切っ先がほぼ一定の深さを維持するように注意しつつ、素早くワームの胴体上を移動していく。
ちなみに余談であるが相手が蛇系魔物の場合は『腹開き』となる。骨の形とか何か理由があるようだが、ダンは詳しくは知らなかった。
全身を切り開かれる痛みにワームがのたうち回るが、ダンはその不安定となる胴体も器用に走り抜けた。そして地面から出ている終着点へとたどり着く。
「ふぅ、さすがにここまで切られれば――」
ダンの言葉が言い切られる前に、ワームがその身体を地面へと横たえた。
「さすがに死にますよね」
「お疲れ様ですダンさん」
そういってダンが置いていった鞘を持ってきてくれたライから鞘を受け取る。が、さすがにダンはライの顔を見て噴き出してしまった。
「なにか?」
「いや、ワームの体液が酷いことになってるなぁ。って」
「いや、それ言ったらダンさんも酷いですよ?」
指摘されて顔を触るとベチャリと手に触れるものがあった。
「あ~、とりあえずワームも引っ張っていって街に帰りますか」
「……そうですね」
そして二人はワームの死骸を掴み、川を泳ぎながら(ライはどちらかと言えば川底を飛び跳ねつつ)街へと帰還した。
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何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
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