元兵士その後

ラッキーヒル・オン・イノシシ

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厄介事が舞い込む

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 あの後、さらりと報告したことで冒険者ギルドの追究を回避できるかと思ったダンだが、案の定ギルド職員に捕まってギルドマスター室まで連行された。
「……すまんがもう一度頼む。狂王の塔は?」
「いや~、ダンジョン化が解除されたら崩壊しまして。なんとか脱出しようとしたんですが、あとわずかの所で生き埋めになりそうになりましてね……。
 眉間にシワと寄せ、それを懸命に指で解そうとするギルドマスターに、ダンは事実を告げる。
 これ以上ないほどのきちんとした答えだ。

「お前は何を言っているんだ?」
 明らかに理解の範疇を越えたダンの証言に、もはや表情を作る余裕すらなくなったギルドマスター(初老の男性。おそらく現役時は魔法職)は真顔でダンに聞き返す。
「え? 事実ですが」
 問われたダンも普通の顔で返す。ダンとしては嘘を言ったつもりはないのだから。
 ギルドマスターはコツコツと指で机を叩きながら、吐き出すように言った。

「百歩譲ってという報告ならまだ信じよう。だがとはどういう意味だ? 狂王の塔は外観からして5階はある建造物だぞ? 魔法でも使ったのか?」
「いえ、闘気オーラで粉砕しながら、塔のほぼ全てをぶっ飛ばしました」

 もはやギルドマスターは目の前の青年が狂ってるとしか思えなかった。しかし報告が上がった以上、ギルドとしてダンジョンがどうなったのか確認をしなければならない。

「……分かった。それではダンジョンの確認に別の冒険者を派遣するから、2、3日は滞在していてくれるか?」
 当然1冒険者の言葉をそのまま鵜呑みにするわけにもいかず、ダンジョンの有無を確認する方法として最も多くとられている『別の冒険者に確認させる』ことを承諾する。
 有益なダンジョンや害しかないダンジョンなどどのようなダンジョンであっても、その存在を確認するのは必須だからである。
 地域の魔物分布や周辺環境がダンジョンが無くなったとともに大幅に変わることもあるからだ。
 ましてそのダンジョンが長年討伐されずに残り続けた、曰くつきの狂王の塔ともなれば本来は1月掛けても調査をするべきである。
 しかし今回は狂王の塔がどうなったかを確認するために、現地まで最短で人員を向かわせることに決めた。

「分かっていると思うが、虚偽の申請だった場合は降格あるいは剥奪もあるからな?」
「ええ。承知しています」
 念を押すようにダンへと言ったギルドマスターであるが、そのダンはどこ吹く風といった感じで堪えた様子はない。あまりに落ち着きすぎているダンに『こいつ本当にダンジョン攻略したのでは?』と思ったギルドマスター。しかし勘で物事を決める訳にもいかないので、自分への戒めを含めて咳払いをする。

「んん。……とりあえず依頼を受けるにしても、あまり街から離れるでないぞ?」
 もしも虚偽だった場合はしかるべき処置をする必要があるからだ。
「了解しました。……それじゃあ僕はこの辺で」
 これ以上の話は無いのを目線で確認したダンは、座っていた椅子から立ち上がりギルドマスター室を後にした。


 新たに冒険者カードを申請している同行者達が試験を受けているはずだと、ギルドの修練場を目指して歩くダン。
 立地条件や土地の面積などから屋外型か地下の屋内型とそこは各ギルドで違っているのだが、ここボッカの冒険者ギルドの建物としての規模から屋外型の修練場が作られていると予想した。
「おや、もう皆さん試験は終わったので?」
 そこでは仲間達が思い思いの格好で休んでいるのが、修練場に入ったダンにも見えた。

「あ、ダンさんおかえり~。ここのギルドマスターはなんだって?」
「一応基本に忠実に、ダンジョンの確認をしてくるって話に落ち着きました」
 そしてダンも適当なところに腰を下ろした。
「それで今は――ロマリアさん? 体調は普段通りに戻ったんでしょうか」
 試験官と思わしき比較的若い(それでもダンよりは年上の)男が相対しているのはイリアを成長させたような存在。ロマリアだった。

 ダンは横で腕を組み仁王立ちしているイリアへ尋ねてみた。
「ん。ここ数日の食料摂取の具合からして、問題は無いと判断しました」
「……それで、誰かロマリアさんにを教えてあげたんですか? 使っているのは杖みたいですが」
「それも抜かりなく。ウェンディに頼んでおきましたから」
 撲殺大好きエルフウェンディに教えを請うたロマリアの様子を見てみる。

 防御行動がやや多いようにも見えるが試験官の動きに反応出来ているし、何よりもしっかりと相手を見ることが出来ているようであった。
「アレって防御主体なのは、まず防御から教えたからですかね?」
「生存優先で教えをお願いしました。最悪誰かが駆けつけるまで持てば、その後は駆けつけた仲間と協力して対処できると思いましたから」

 カンカンカン! と木を打ち付ける音が聞こえる。
 試験官の木剣とロマリアの持つ杖が打ち合っている音だ。
 そしてしばらく打ち合っていると、試験官が「よし終了!」とロマリアに声を掛ける。
 その声掛けを待ってましたとばかりに、ロマリアは足から崩れ落ちる様に地面へと座り込んだ。

「君も最低限の戦闘は出来るようだね。大丈夫、合格さ。……正直、前の4人が、思わず力が入ってしまったけども」
 試験官がロマリアにそう告げる。
『はて?』
 ダンは試験を受けたメンバーを見回した。

 ルフ、アレックス、エミリー、サニー……
「……サニーは?」
「? 私は事しか知らない」
 ダンに問われたサニーが猛烈な勢いの蹴りを放った。腰を入れたり、回転して等ではない。跳ねるような動きで、一切の予備動作を入れずに一気に後方へ足が延ばされる蹴りであった。
 まさに馬の蹴りである。
 ダンはサニーの後ろに伸びた足の反動は、地面に残ったもう一本の足で相殺しているのを見た。目立ちにくいが、残った軸足のつま先が地面に若干差し込まれるようなコンパクトな前蹴りを放っていたのだ。
 つまり一瞬体が宙に浮いているのだが、馬の時の体幹が生かされているのか上体の位置が変わっていないので、ただ凄まじい後ろ蹴りを放っただけにしか常人には見えないだろう。

「え? 試験官の人コレを食らったんですか?」
「一応、防御はしてたみたいでしたが……」
「アレを」とライが指さす方を見れば金属製の小盾が地面に落ちていた。

「ロマリアさんの前にサニーが試験を受けたんですが、その後から試験官の人は左手を空けてましたね」
「サニー。試験なんだからやり過ぎちゃダメ」
「んん~……。分かった。それなりの力でヤル」
 ポーラのお叱りにサニーはバツが悪そうな顔をして言った。次は無いし、おそらくサニーはアレでも手加減していたような雰囲気があった。

「ちょうどいい。ダン、私と模擬戦をしてくれないか?」
 試験官が戦闘能力の有無を確認し終えて、その結果を受付に伝えるために修練場を後にすると、アレックスがダンに対してそんな提案をした。
「模擬戦ですか? まあ構いませんけども」
 なにやらワタワタと後ろで動きがあるようだが、ダンはアレックスの申し出を受けることにした。
 ダンが承諾した事を聞いたアレックスは立ち上がってダンと向かい合った。しかしダンと向かい合って立つアレックスのその手には何も握られておらず無手であった。
「え~っと?」
「久々に技巧を凝らす相手と戦って、少々この身が熱くなってしまってな。なに、で構わないから手合わせをしてほしくてね」
「ふむ、ね」
 パキパキッと音がすると、アレックスの手に氷で作られた片手剣と盾が作られた。

「今代の剣の一族のを見てみたいの、さ!」と、言葉と同時にダンへと突っ込んでくるアレックス。盾を構えて突き出すように間合いを詰めてきた。
「ほむほむ」と何かを咀嚼するように口を動かし思案していたダンは、その攻撃を武器ポーチから木刀を抜き出すと氷で作られた盾の中心に真っすぐ突きを打ち込んだ。

「とっさの攻撃にしては強い! だが」
 氷を容易く突き破ったダンの木刀は、普通なら盾の持ち手を貫いたであろうがそこは氷魔法で作られた盾。アレックスは持ち手を瞬時に分解して、盾を空中に残したままその盾に隠れる様にして剣を下段から振り上げた。
「氷がついたままでは、まともに剣も振るえまい?」
 確かにダンの木刀はアレックスの盾を貫いたままであり、重り、そして余計な荷物と見えた事だろう。

 それは確かに致命的なミスに見えた。
 

「ふっ!」
 そんな氷で出来た重しが付いたまま、ダンは木刀を振り上げるとその木刀を一気に下へと振り下ろした。
 。と形容してもいいような氷が付いた木刀が地面すれすれまで振り下ろされた。当然木刀よりも横に飛び出ている氷が先に地面へとぶつかる。
 ある程度は踏み固められている地面にぶつかり、氷で出来た盾は叩きつけられた衝撃で無数の散弾となって飛び散った。

 その一連のダンの行動は、既に構えていたアレックスが氷の剣を振り上げるよりも先に、ダンの持つ木刀が地面へと振り下ろされていた。
 つまりダンの剣が早すぎるのだ。
 咄嗟に振り上げる予定の氷の剣を盾代わりにして、アレックスは飛び散る氷の散弾を後ろに下がりながら受けていく。

「これならどうでしょう?」
 更に一歩前に出ながら木刀を十字に振るうダン。横切りは氷の剣の腹で受け、縦切りは身を捻じりつつ氷の剣の上を滑らせるように受け切った。
 さらにダンが斜め切りも加えて、縦横無尽にアレックスへと斬撃を加えていった。

 ガキンガキンガキン! と連続で響き渡る剣戟音。

 最初とは正反対に、ダンが前に出てアレックスが後退するように変わってきた。
 なんとかダンの剣を捌くことが出来るようになると、アレックスはニヤリと笑みを浮かべた。
「ようやく慣れてきたよ。さて、次はこっちのば――」
「うん。それじゃあしてみますか」
「は?」

 ガキガキガキガキッ! と聞こえてきた音のサイクルが早まった。

 ようやくダンの速度に追いついたかと思えば、さらにそのダンのギアが1段上がったのだ。アレックスは必死に氷の剣を振るって追いすがる。
「まだいけるか?」
「いやいやいや! 待つんだ、ダン!」
 不穏な言葉を発するダンにアレックスの腰が引けると同時に、パァーン! とアレックスの氷の剣がその形状を保てずに四散した。
 氷の霧となって修練場に飛び散る魔法剣。
 その様子は、先程から妙な音がするなと修練場に戻ってきていた試験官も目撃していた。

「魔法剣を維持できなくなったな。この勝負はダンの勝ちだ!」
 ダンとアレックスの戦いを見守っていたルフがそう告げた。
「――この程度の出来事で魔法の維持が出来なくなっているとは……。これは実戦の勘を早急に取り戻さなければいけませんな」

 本来アレックスの使っている魔法剣はその形を常に維持し続けるように魔法を構築しているのだが、今回はダンの剣速に驚いてしまいその構築が乱れた隙をダンの木刀が打ち据えて粉砕した形となったのだ。
 通常であれば罅や細かい傷などを常に修復しながら戦うのが魔法剣の理想だ。理論的にはいつまでも折れることがないのが魔法剣である。
 とはいえそこは人が使う魔法なので、こうした気持ちが動揺した場合などは魔法構築の維持を失敗することもあるので、より実践的に使うとなればに本物の剣を使うなどの工夫をする必要がある。
 今回は軽い手合わせだとアレックスが思ったこともあり、その全てを魔法の氷で作った魔法剣を使用した。ちなみに今回使った盾も分類上は一応、魔法剣である。

 ダンは上段に構えていた木刀をゆっくりと下ろした。
「……まだ何か隠し玉があるかと思っていたんですが、本当に模擬戦だったんですね? 『勝負あり』の声が掛からなければ、頭をかち割りそうでしたよ」
「いやいや~……。え!? 本気で残念そうな顔をしてる??」
 ダンの言葉にアレックスが狼狽した様子を見せていた。

 実際、ダン自身は模擬戦なら『半殺しまでならOK』な認識を持っている。これが仲間達がダンと模擬戦をしたがらない理由だ。
 ほどほどで戦いたいならダン相手には『訓練したい』と言うのが正解だ。
 模擬戦の場合、最悪は致命傷ぐらいの攻撃を容赦なく振るうのだ。

 アレックスが改めて剣の一族が(この場合、正解はダンの教育をしたダンの両親が)ヤバイという認識を持ちながら、予想よりも『肝も冷やした』クールダウンを終えて全員でギルドの受付のあるホールへと戻った。

「助けてくれ!」
 ホールへ戻ったダン達が聞いた第一声がソレであった。
 そこには妙に曲がった片腕を押さえつつ、血だらけの獣人の女性が受付に嘆願している姿がそこにあった。
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