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オーク集落を殲滅する
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ダンは最短距離と最短時間でオーガの居ると思われる小屋を襲撃。
その小屋の中で標的と思われるオーガを人命優先で自らが瞬殺する。生命力の強いオーガの絶命をしっかりと確認すると、そこで改めて小屋の中を見回した。
「……やはり増えていましたか」
そこには人の子供程の体格を持ったオーガ達が居た。
人の子供程とはいっても、このオーガ達はまだ幼生体なのだ。
いきなり自分達の住処に侵入し、自分達と同じ生き物であった親であろうオーガを殺したダンに対して、そのまだ幼くも凶悪な面構えのオーガ達は本能のままダンへと襲い掛かった。
『『『グルアアアア!!』』』
「まあ、そうなりますよね」
ダンはそう呟くと、先程と同じようにわずかに腰を落として、左腰に位置する剣の如き鞘に納められた刀――コクシン・テットウサイの鍔を鳴らす。
するとダンへと飛びかかっていた子供オーガ達は、一様に腰辺りで上下に分かたれるとその体から力を無くして勢いそのままダンを飛び越えていった。
「ぎゃああああ!!」
「ん?」
何故か聞こえてきた悲鳴にダンは振り返って確認すると、そこには何故か血まみれ臓物まみれの獣人女性が立っているのが見えた。
ダンと共にオーガが居ると思われる小屋までついてきたミカである。
小屋の入り口から顔を覗かせると同時にオーガ達の血と臓物シャワーを浴びたミカは、その匂いと突然すぎる状況にここが敵地という事も忘れて絶叫したのであった。
「う? み、か?」
「ミカ、なのか?」
だが、そのミカの悲鳴はオーガに捕らえられていた獣人女性2人の意識を呼び戻すことに成功していた。
「イチねぇ! フーねぇ! 無事なの!?」
2人の声に反応したミカは自らに掛かっている血や臓物を乱暴に払うと、小屋の中のダンを躱して床に座り込んでいる2人の姉の元へと駆け寄った。
まだマジックバッグに収納していないオーガの体を踏みつけ、飛び込むように姉たちの体に飛び込む。
「「ぐふっ」」と体力の減っている相手に出させてはいけない息を吐かせつつ、ミカは姉たちがまだ生きていてくれたことに激しく涙を流しながら無事を祝った。
「ミカさん。まだお二人の治療が済んでいませんから、お手伝いをお願い出来ますか?」
泣きじゃくるミカの肩に手をそっと置いてウェンディがそう諭す。彼女たちの腹の中の魔素を散らさない事には、まだ安全を確保したと言える状況ではない。
ミカもソレを思い出したのか、慌ててウェンディの作業を手伝い始めた。
まずウェンディの水魔法で体の汚れを(ミカごと)落とすと、以前にダンから渡された道具と同じ形の筒と革袋が合わさった道具を取り出して、その革袋の中に自分の水袋から水を注ぐと魔力を込め始めて――
「――ダンさん? いつまで見ているつもりですか?」
なぜかヒヤッとする雰囲気を纏わせたウェンディにそう言われた。
確かに作業をただ眺めているだけではしょうがないと、ダンは念のためもう一度も小屋の中の安全を確認してから小屋を出る。
『プギィィィィィィ!!』
小屋から出たタイミングで、その小屋にちょうどよく飛び込んで来ようとするオークが居た。
「ふんっ!」
『ブギィィィ……』
ダンは右拳でオークの横っ面を殴り飛ばすと、改めてオーク達の集落を見る。
簡素な木と枝と葉っぱを組み合わせて作られた小屋たちが見える。そしてそこに住んでいたであろうオーク、オーク、オーク……。
なるほどオークだらけのこの状況からすれば、10人中8、9人は『ここはオークの集落に間違いない!』と断言するであろう光景だ。
残り1人くらいは『いや、ここはオークを繁殖するための繁殖場である』とかひねくれた答えを言いそうではあるが。とはいえその1人にしたって、『ここにオーガが住み着いている!』なんてことまでは言いださないだろう。
「なんともツイてない依頼を引いてしまったものですね、彼女たちも」
背後の小屋の中に居る獣人姉妹の運のなさに、ダンも若干不憫さを感じていた。
ただし不憫だとは思っても、冒険者はあくまでも自己責任だ。
それぞれが自分の意志で選んだ依頼の顛末がどうなるのかは自分達で結果を出すしかない。まあ、たまにペナルティの代償としてギルドからの強制依頼なども出されることもあるが。
それにしたって自分達が招いた結果なのだから、やはり自分達で責任を負う必要がある。
「とはいえ、生きられるならそれに越したことはありませんけどね」
ダンは小屋の入り口の真ん中へ鞘を通せんぼするように地面へと突き刺すと、両手をあけて近づいてくるオークを右、左と両の拳で殴り飛ばしていく。
『プギィィィィ……』
そして一歩前へと進み出ると両腕を大きく両側へと広げる。
「さあ! ドンドン掛かってきなさい!」
「いや、オーク達にドン引きされるって、なにをやったんですかダンさん?」
マロンが『訳が分からない』といった顔でダンへと問いかける。
ダンが『待ち構えているぞ!』というようなポーズを取った後、集落内に居たオーク達が揃ってダンから離れる様に散らばり始めたのだ。
「いえ……、普通に『挑発』してみただけですけど?」
もちろんアーツの方ではない。
ダンが『挑発系』アーツなどを使った場合、恐慌、錯乱、逃走などをオーク達がしかねなかった為、ダンは小屋を出てから闘気を放つことはしていなかったりする。
では何故か? という疑問には複数の答えがあるが、一番の理由としてオーク達がダンから離れようとした原因は、ダンが『オークキラー』の称号持ちであるからだろう。
なにせゴブリンと同じくらいとは当然言わないが、オークもその数を増やす条件や環境が整ってしまうと爆発的に増える魔物なのだ。結果、ダンは兵士時代やそれ以前にも相対することが多かった。
あまりに多すぎて討伐数など数えたこともない。
それ以下の戦闘力しか持たずにオークよりも増えやすいゴブリンの場合は、もはや本能的に出会えば即座に潰してしまうので、『星の数ほどかな?』と聞かれたら答えるレベルであるが。
「はぁ……。とりあえずダンさんが居れば、ほとんどのオークは近づいてこないから、引き続きそこで立っててくださいね?」
正面から攻め込んで数多くのオークを討伐していた正面組は、突然オーク達が集落から逃走し始めるような不可思議な行動の原因を確認するべく、最も原因の可能性が高いダンのもとへマロンを向かわせたのだった。
やはりダンが原因だったことを確認したマロンは、正面組と合流するべく来た道を引き返していく。
そして十数分後。
そこかしこで聞こえていた『ブギィ』だの『ブモォォ』といったオーク達の断末魔が聞こえなくなってくると、ダンは闘気を薄く放出させて、闘気探索で集落内に居る生き残ったオークの生命力を探っていく。
「――ほぼ倒したみたいですね」
『ダンさん。こっちは終わったよ』
ダンが確認を終えるとほぼ同時に、目の前に光を反射する白い毛並みを持った大型の狼が姿を現す。
狼形態となったリルであった。
「若干、数匹は隠れているようですけどね」
『ん~?――オーク達の血と肉の臭いが強すぎて、ちょっと分かんない?』
リルは鼻をスンスンと鳴らして顔を左右に振って確認するが、辺りに広がるオーク達の残り香が強すぎて判別が出来ないようだ。
ダンは小屋の入り口に突き刺していた鞘を持ち上げるとリルに頼む。
「それじゃあ僕は残っているオークを倒してきますので、リルさんは代わりに小屋の入り口を見張っていてもらえますか?」
『分かりました。でも私必要ですかね?』
「念のためですよ」と言ってダンは闘気探索に反応があった方向へと足を進める。
そして小屋の片隅や仲間のオークの死体に紛れて隠れようとしていたオーク達を見つけ出してその全てを倒し終えると、討伐と陽動をしていた仲間達に声を掛けて倒したオーク達の回収作業を行った。
オークの肉や皮は食材や素材としての需要があるからだ。
オーク肉に関しては『好き嫌い』というか、『受け付ける受け付けない』人達が居るので、扱っている店によっては『豚肉』と銘打って売りに出している店もあるとか。
『ゴブリンだったら討伐した証として魔石を引っこ抜いて燃やすのになぁ』とオークを掴んではマジックバッグに放り込むといった単調作業に、やや思考をそらしつつも回収を完遂させたダンは、ひとまずオークの繁殖をしていたと目される小屋へと向かった。
2つ並んで建てられている小屋の前にはライとルフとアレックスが並んで立っていた。
「お疲れ様です。……生存者は居ましたか?」
ダンが声を掛けると3人ともダンを見てコクリと頷いた。そしてルフが口を開いて答える。
「生存者は2つの小屋で5人だった。――助からなかった者は一先ず、私の収納魔法で預かっている」
「助かります」とダンが答える。
通常であればアンデッド化を防ぐために、その場で火を使って遺体を焼いた上で土に埋めるしか方法は無い。
しかしマジックバッグなどの特殊な収納に遺体をしまうとアンデッド化はしないと言われている。
もっとも収納容量が小さなものであってもかなり高額な魔法具のため、ほとんどの冒険者は前述したとおりにその場で火葬をすることが基本的である。
ルフも生存者がいなかった場合であれば『小屋ごと燃やす』という選択肢を取っていたかもしれないが、少なくとも5人は命に別状はなかったので、生存者の心情を鑑みて他の遺体を収納魔法へとしまったのであった。
「で? なぜに外へ?」
「いや、さすがに『男』は今は入れませんよダンさん」
苦笑しながらライが言う。アレックスも同意するように頷いていた。
「しかし体内の魔素への治療は?」
「それならば既に私が終わらせた」
ドヤ顔でルフが言う。胸を逸らして自慢げではあるが、その顔の片方の頬に赤い手形が付いているのが見える。チョイチョイとダンが自分の頬を指差して目線で他の2人に問いかけるが、2人は微妙に目線を外して回答を避けようとしていた。
「どうした? 虫歯かダン?」
ダンのその様子に当のルフが問いかける。
ダンもどう答えたものかと逡巡していると、小屋の1つから顔を覗かせた人物が居た。
「――ひとまず落ち着きました。あら? ダンがここにいるということは、そちらも片が付いたのですか?」
「おお、エミリー。いやな、ダンが虫歯を抉らせたようでな?」
チョイチョイとダンの動きを真似するルフ。それを見て「ああ」と得心したエミリーが答えた。
「大丈夫でしょう。いくら治療とはいえ、女性の体を弄ったわけでもないでしょうから」
エミリーの冷ややかな目線と言葉に、ダンはおおよその事情を理解した。
「では僕は向こうの様子を見てきますので」
スチャっと片手を上げて速足で立ち去るダン。
「ちょ!? 誤解されるような説明はしないでくれないかエミリー!? おーい、ダンー! 私は治療しかしてないからなー!」
立ち去るダンへと声を掛け続けるルフ。その横で事情を知っている男2人は笑いを堪えた様な、何とも言い難い表情をしていた。
オーガの居た小屋へと戻ってきたダン。ウェンディの治療が一先ず終わったのかを確認するため、小屋の入り口から中の様子をそっと覗き見た。
「おお、さすがフェンリル様~!」
「我らの偉大なる先祖さま!」
何故か獣人姉妹に囲まれて崇められているリルがそこに居た。
そっとその場から離れ、目元を指で押さえる。そして何かに気づいたように顔を上げて手の平を打った。
「そうか幻覚か!」
「違いますよダンさん」
そう言って小屋から出てきたウェンディにそうツッコミを受ける。
ダンも自分の目を疑った訳ではない。ただの逃避しただけである。
「えーっと? 何がどうしたの?」
「私も良くは分からなかったんですが、彼女たちは狼系獣人だったようで、彼女たちの里では『フェンリル信仰』をしていたのが関係しているそうです」
『フェンリル信仰』と言われて、ダンが思い浮かべたのは大きな体格の白銀の狼が人々から崇められながらも大あくびをかましている姿であった。
ぶっちゃけリルの親の姿である。
「……まあ、既に時間も夜になろうとしていますからね。とりあえず全員集合して、寝床を確保してここで1泊しましょうか」
突入が夕方過ぎということもあり、見上げる空は星が瞬く夜空へと変わっていた。
なにやら感極まったような雰囲気がある元オーガの小屋を見ながらダンはそう告げた。
その小屋の中で標的と思われるオーガを人命優先で自らが瞬殺する。生命力の強いオーガの絶命をしっかりと確認すると、そこで改めて小屋の中を見回した。
「……やはり増えていましたか」
そこには人の子供程の体格を持ったオーガ達が居た。
人の子供程とはいっても、このオーガ達はまだ幼生体なのだ。
いきなり自分達の住処に侵入し、自分達と同じ生き物であった親であろうオーガを殺したダンに対して、そのまだ幼くも凶悪な面構えのオーガ達は本能のままダンへと襲い掛かった。
『『『グルアアアア!!』』』
「まあ、そうなりますよね」
ダンはそう呟くと、先程と同じようにわずかに腰を落として、左腰に位置する剣の如き鞘に納められた刀――コクシン・テットウサイの鍔を鳴らす。
するとダンへと飛びかかっていた子供オーガ達は、一様に腰辺りで上下に分かたれるとその体から力を無くして勢いそのままダンを飛び越えていった。
「ぎゃああああ!!」
「ん?」
何故か聞こえてきた悲鳴にダンは振り返って確認すると、そこには何故か血まみれ臓物まみれの獣人女性が立っているのが見えた。
ダンと共にオーガが居ると思われる小屋までついてきたミカである。
小屋の入り口から顔を覗かせると同時にオーガ達の血と臓物シャワーを浴びたミカは、その匂いと突然すぎる状況にここが敵地という事も忘れて絶叫したのであった。
「う? み、か?」
「ミカ、なのか?」
だが、そのミカの悲鳴はオーガに捕らえられていた獣人女性2人の意識を呼び戻すことに成功していた。
「イチねぇ! フーねぇ! 無事なの!?」
2人の声に反応したミカは自らに掛かっている血や臓物を乱暴に払うと、小屋の中のダンを躱して床に座り込んでいる2人の姉の元へと駆け寄った。
まだマジックバッグに収納していないオーガの体を踏みつけ、飛び込むように姉たちの体に飛び込む。
「「ぐふっ」」と体力の減っている相手に出させてはいけない息を吐かせつつ、ミカは姉たちがまだ生きていてくれたことに激しく涙を流しながら無事を祝った。
「ミカさん。まだお二人の治療が済んでいませんから、お手伝いをお願い出来ますか?」
泣きじゃくるミカの肩に手をそっと置いてウェンディがそう諭す。彼女たちの腹の中の魔素を散らさない事には、まだ安全を確保したと言える状況ではない。
ミカもソレを思い出したのか、慌ててウェンディの作業を手伝い始めた。
まずウェンディの水魔法で体の汚れを(ミカごと)落とすと、以前にダンから渡された道具と同じ形の筒と革袋が合わさった道具を取り出して、その革袋の中に自分の水袋から水を注ぐと魔力を込め始めて――
「――ダンさん? いつまで見ているつもりですか?」
なぜかヒヤッとする雰囲気を纏わせたウェンディにそう言われた。
確かに作業をただ眺めているだけではしょうがないと、ダンは念のためもう一度も小屋の中の安全を確認してから小屋を出る。
『プギィィィィィィ!!』
小屋から出たタイミングで、その小屋にちょうどよく飛び込んで来ようとするオークが居た。
「ふんっ!」
『ブギィィィ……』
ダンは右拳でオークの横っ面を殴り飛ばすと、改めてオーク達の集落を見る。
簡素な木と枝と葉っぱを組み合わせて作られた小屋たちが見える。そしてそこに住んでいたであろうオーク、オーク、オーク……。
なるほどオークだらけのこの状況からすれば、10人中8、9人は『ここはオークの集落に間違いない!』と断言するであろう光景だ。
残り1人くらいは『いや、ここはオークを繁殖するための繁殖場である』とかひねくれた答えを言いそうではあるが。とはいえその1人にしたって、『ここにオーガが住み着いている!』なんてことまでは言いださないだろう。
「なんともツイてない依頼を引いてしまったものですね、彼女たちも」
背後の小屋の中に居る獣人姉妹の運のなさに、ダンも若干不憫さを感じていた。
ただし不憫だとは思っても、冒険者はあくまでも自己責任だ。
それぞれが自分の意志で選んだ依頼の顛末がどうなるのかは自分達で結果を出すしかない。まあ、たまにペナルティの代償としてギルドからの強制依頼なども出されることもあるが。
それにしたって自分達が招いた結果なのだから、やはり自分達で責任を負う必要がある。
「とはいえ、生きられるならそれに越したことはありませんけどね」
ダンは小屋の入り口の真ん中へ鞘を通せんぼするように地面へと突き刺すと、両手をあけて近づいてくるオークを右、左と両の拳で殴り飛ばしていく。
『プギィィィィ……』
そして一歩前へと進み出ると両腕を大きく両側へと広げる。
「さあ! ドンドン掛かってきなさい!」
「いや、オーク達にドン引きされるって、なにをやったんですかダンさん?」
マロンが『訳が分からない』といった顔でダンへと問いかける。
ダンが『待ち構えているぞ!』というようなポーズを取った後、集落内に居たオーク達が揃ってダンから離れる様に散らばり始めたのだ。
「いえ……、普通に『挑発』してみただけですけど?」
もちろんアーツの方ではない。
ダンが『挑発系』アーツなどを使った場合、恐慌、錯乱、逃走などをオーク達がしかねなかった為、ダンは小屋を出てから闘気を放つことはしていなかったりする。
では何故か? という疑問には複数の答えがあるが、一番の理由としてオーク達がダンから離れようとした原因は、ダンが『オークキラー』の称号持ちであるからだろう。
なにせゴブリンと同じくらいとは当然言わないが、オークもその数を増やす条件や環境が整ってしまうと爆発的に増える魔物なのだ。結果、ダンは兵士時代やそれ以前にも相対することが多かった。
あまりに多すぎて討伐数など数えたこともない。
それ以下の戦闘力しか持たずにオークよりも増えやすいゴブリンの場合は、もはや本能的に出会えば即座に潰してしまうので、『星の数ほどかな?』と聞かれたら答えるレベルであるが。
「はぁ……。とりあえずダンさんが居れば、ほとんどのオークは近づいてこないから、引き続きそこで立っててくださいね?」
正面から攻め込んで数多くのオークを討伐していた正面組は、突然オーク達が集落から逃走し始めるような不可思議な行動の原因を確認するべく、最も原因の可能性が高いダンのもとへマロンを向かわせたのだった。
やはりダンが原因だったことを確認したマロンは、正面組と合流するべく来た道を引き返していく。
そして十数分後。
そこかしこで聞こえていた『ブギィ』だの『ブモォォ』といったオーク達の断末魔が聞こえなくなってくると、ダンは闘気を薄く放出させて、闘気探索で集落内に居る生き残ったオークの生命力を探っていく。
「――ほぼ倒したみたいですね」
『ダンさん。こっちは終わったよ』
ダンが確認を終えるとほぼ同時に、目の前に光を反射する白い毛並みを持った大型の狼が姿を現す。
狼形態となったリルであった。
「若干、数匹は隠れているようですけどね」
『ん~?――オーク達の血と肉の臭いが強すぎて、ちょっと分かんない?』
リルは鼻をスンスンと鳴らして顔を左右に振って確認するが、辺りに広がるオーク達の残り香が強すぎて判別が出来ないようだ。
ダンは小屋の入り口に突き刺していた鞘を持ち上げるとリルに頼む。
「それじゃあ僕は残っているオークを倒してきますので、リルさんは代わりに小屋の入り口を見張っていてもらえますか?」
『分かりました。でも私必要ですかね?』
「念のためですよ」と言ってダンは闘気探索に反応があった方向へと足を進める。
そして小屋の片隅や仲間のオークの死体に紛れて隠れようとしていたオーク達を見つけ出してその全てを倒し終えると、討伐と陽動をしていた仲間達に声を掛けて倒したオーク達の回収作業を行った。
オークの肉や皮は食材や素材としての需要があるからだ。
オーク肉に関しては『好き嫌い』というか、『受け付ける受け付けない』人達が居るので、扱っている店によっては『豚肉』と銘打って売りに出している店もあるとか。
『ゴブリンだったら討伐した証として魔石を引っこ抜いて燃やすのになぁ』とオークを掴んではマジックバッグに放り込むといった単調作業に、やや思考をそらしつつも回収を完遂させたダンは、ひとまずオークの繁殖をしていたと目される小屋へと向かった。
2つ並んで建てられている小屋の前にはライとルフとアレックスが並んで立っていた。
「お疲れ様です。……生存者は居ましたか?」
ダンが声を掛けると3人ともダンを見てコクリと頷いた。そしてルフが口を開いて答える。
「生存者は2つの小屋で5人だった。――助からなかった者は一先ず、私の収納魔法で預かっている」
「助かります」とダンが答える。
通常であればアンデッド化を防ぐために、その場で火を使って遺体を焼いた上で土に埋めるしか方法は無い。
しかしマジックバッグなどの特殊な収納に遺体をしまうとアンデッド化はしないと言われている。
もっとも収納容量が小さなものであってもかなり高額な魔法具のため、ほとんどの冒険者は前述したとおりにその場で火葬をすることが基本的である。
ルフも生存者がいなかった場合であれば『小屋ごと燃やす』という選択肢を取っていたかもしれないが、少なくとも5人は命に別状はなかったので、生存者の心情を鑑みて他の遺体を収納魔法へとしまったのであった。
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苦笑しながらライが言う。アレックスも同意するように頷いていた。
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ダンのその様子に当のルフが問いかける。
ダンもどう答えたものかと逡巡していると、小屋の1つから顔を覗かせた人物が居た。
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「おお、エミリー。いやな、ダンが虫歯を抉らせたようでな?」
チョイチョイとダンの動きを真似するルフ。それを見て「ああ」と得心したエミリーが答えた。
「大丈夫でしょう。いくら治療とはいえ、女性の体を弄ったわけでもないでしょうから」
エミリーの冷ややかな目線と言葉に、ダンはおおよその事情を理解した。
「では僕は向こうの様子を見てきますので」
スチャっと片手を上げて速足で立ち去るダン。
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立ち去るダンへと声を掛け続けるルフ。その横で事情を知っている男2人は笑いを堪えた様な、何とも言い難い表情をしていた。
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「おお、さすがフェンリル様~!」
「我らの偉大なる先祖さま!」
何故か獣人姉妹に囲まれて崇められているリルがそこに居た。
そっとその場から離れ、目元を指で押さえる。そして何かに気づいたように顔を上げて手の平を打った。
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「違いますよダンさん」
そう言って小屋から出てきたウェンディにそうツッコミを受ける。
ダンも自分の目を疑った訳ではない。ただの逃避しただけである。
「えーっと? 何がどうしたの?」
「私も良くは分からなかったんですが、彼女たちは狼系獣人だったようで、彼女たちの里では『フェンリル信仰』をしていたのが関係しているそうです」
『フェンリル信仰』と言われて、ダンが思い浮かべたのは大きな体格の白銀の狼が人々から崇められながらも大あくびをかましている姿であった。
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