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第二章
第25話 魔王と邪神
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「邪神アレム……」
僕の呟きに、ノアがギョッとする。
「邪神アレムだと? おいおい、そいつははるか昔に勇者に滅ぼされたぞ」
「え……そうなのかっ?」
「何だよ、そんなことも知らないのか? 子供の教科書にも載っているぐらいなのに」
僕は学校に行っていたわけじゃないから詳しいことは知らないけれど、生まれ育ったアーネルシア王国は争いに関する話を一切教科書に載せなかったみたいだ。
使い古した兄の教科書を読んだ限り、人族と魔族の戦についても、勇者が邪な者たちを倒し、平和をもたらしたという一行がさらっと書かれているだけ。
まさか邪神アレムまで勇者に倒されていたなんて。
勇者は……神を倒すほどの力をつけたのか?
いや、だけどこの気配は間違いなくアレムのもの。
僕は氷王を見上げる。
先ほどから彼の蝙蝠の翼は広がったまま動いていない。
彼は飛んでいるのではなく、浮いているのだ
浮遊魔法は僕も得意だけど、邪神は魔法を使うまでもなく浮くことができる。僕たちが歩くことができるのと同じぐらい当たり前なことなのだ。
【久しいな…アシェラ=レイ=デュークウェル】
その声が放たれた瞬間、凍てついた空気が震えたような気がした。
アシェラは魔導師だった頃の僕の名前。氷の王が僕のフルネームを知るはずがない。
僕自身、前世の自分の名前を忘れていて、今フルネームで呼ばれてようやく思い出したくらいだ。氷王ではない何者かが、僕に話しかけてきているのだ。
生まれ変わってから忘れてしまったことは多々あるけれど、この禍々しくも威圧的な声は忘れたくても忘れられない。
心に直接響くこの声は、間違いなく邪神アレムのもの。
ノアは先ほど、アレムは勇者の手によって倒されたと言っていた。それは本当だとして、何故、氷王の身体を媒体に邪神アレムの声が聞こえるのか?
僕は邪神に問いかける。
「何故、貴方がここに?」
【お前も既に知っているだろう? 我は勇者に滅ぼされた。しかし魂だけは滅びず、勇者の手によって封印されていた。長い間、狭い瓶の中に閉じ込められ、何百年もの間地中に埋まっていたわ】
「……」
勇者も邪神の魂までは消滅させることができなかったのか。
ただの瓶だったら神の魂を封印することなど不可能だ。恐らくその瓶はミレム神が用意したアイテムか何かなのだろう。
【我を封印していた瓶を、この氷王が掘り起こして、封印を解いたのだ。最初は魔王を蘇らせるのが目的だったようだが、お前が転生していると分かると我に別の願い事をしてきた】
「別の願い事?」
【この男の願いは、貴様を芸術品として永遠に手元に置くこと。その願いと引き換えに、我はこの男の身体を頂いた】
そう告げたと同時に氷王は……いや氷王に取り憑依した邪神アレムは、僕に向かって手を差し出した。
何か仕掛けてくる、と思ったその時、いつの間にか岩穴の頂きに登っていたノアがジャンプをし、空に浮いている氷王……じゃなくて、アレムに斬りかかっていた。
あの馬鹿……!!
今の相手は氷王じゃなくて、神なんだぞ!?
氷王に憑いた邪神アレムはニヤッと笑って、それまで僕に向けられていた掌をノアの方に向けた。
吹雪
神は声には出さずとも、少し念じただけで上級魔法を繰り出すことができるらしい。
突然襲ってくる猛吹雪。
先ほど氷王が唱えていた吹雪とは威力が桁違いだ。
直接魔法を食らっていない僕でも、防御魔法を唱えてやっと耐えられるくらいだ。
魔法が直撃したノアは衝撃波のような猛吹雪をもろに食らうことになる。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
両手をクロスして身構え、堪えようとするノアだけどその身体はあっけなく吹き飛ばされる。
ノアの身体はまるで紙でできた人形のように山の彼方へと飛んで行く。
ミレムの魔法剣士がこうも簡単に退けられるなんて。
多分、ノアはもうここに戻って来ることはないだろう。もし無傷で、こちらに戻ってくる体力が残っていたとしても、ここに来るまでかなりの時間がかかるだろう。
そしてアレムは今度こそ標的を僕に定める。
大氷華
本当に一瞬のことだった。
目の前が真っ白になって、身体が凍り付いたように動かなくなる。
そして僕の周りには、巨大な氷の華が咲きはじめる。
僕は華の中心、花托の中にいた。
厳密に言うと花托の形をした氷の檻だ。
僕は邪神アレムの手によって氷の華の中に閉じ込められてしまったのだ。
僕の呟きに、ノアがギョッとする。
「邪神アレムだと? おいおい、そいつははるか昔に勇者に滅ぼされたぞ」
「え……そうなのかっ?」
「何だよ、そんなことも知らないのか? 子供の教科書にも載っているぐらいなのに」
僕は学校に行っていたわけじゃないから詳しいことは知らないけれど、生まれ育ったアーネルシア王国は争いに関する話を一切教科書に載せなかったみたいだ。
使い古した兄の教科書を読んだ限り、人族と魔族の戦についても、勇者が邪な者たちを倒し、平和をもたらしたという一行がさらっと書かれているだけ。
まさか邪神アレムまで勇者に倒されていたなんて。
勇者は……神を倒すほどの力をつけたのか?
いや、だけどこの気配は間違いなくアレムのもの。
僕は氷王を見上げる。
先ほどから彼の蝙蝠の翼は広がったまま動いていない。
彼は飛んでいるのではなく、浮いているのだ
浮遊魔法は僕も得意だけど、邪神は魔法を使うまでもなく浮くことができる。僕たちが歩くことができるのと同じぐらい当たり前なことなのだ。
【久しいな…アシェラ=レイ=デュークウェル】
その声が放たれた瞬間、凍てついた空気が震えたような気がした。
アシェラは魔導師だった頃の僕の名前。氷の王が僕のフルネームを知るはずがない。
僕自身、前世の自分の名前を忘れていて、今フルネームで呼ばれてようやく思い出したくらいだ。氷王ではない何者かが、僕に話しかけてきているのだ。
生まれ変わってから忘れてしまったことは多々あるけれど、この禍々しくも威圧的な声は忘れたくても忘れられない。
心に直接響くこの声は、間違いなく邪神アレムのもの。
ノアは先ほど、アレムは勇者の手によって倒されたと言っていた。それは本当だとして、何故、氷王の身体を媒体に邪神アレムの声が聞こえるのか?
僕は邪神に問いかける。
「何故、貴方がここに?」
【お前も既に知っているだろう? 我は勇者に滅ぼされた。しかし魂だけは滅びず、勇者の手によって封印されていた。長い間、狭い瓶の中に閉じ込められ、何百年もの間地中に埋まっていたわ】
「……」
勇者も邪神の魂までは消滅させることができなかったのか。
ただの瓶だったら神の魂を封印することなど不可能だ。恐らくその瓶はミレム神が用意したアイテムか何かなのだろう。
【我を封印していた瓶を、この氷王が掘り起こして、封印を解いたのだ。最初は魔王を蘇らせるのが目的だったようだが、お前が転生していると分かると我に別の願い事をしてきた】
「別の願い事?」
【この男の願いは、貴様を芸術品として永遠に手元に置くこと。その願いと引き換えに、我はこの男の身体を頂いた】
そう告げたと同時に氷王は……いや氷王に取り憑依した邪神アレムは、僕に向かって手を差し出した。
何か仕掛けてくる、と思ったその時、いつの間にか岩穴の頂きに登っていたノアがジャンプをし、空に浮いている氷王……じゃなくて、アレムに斬りかかっていた。
あの馬鹿……!!
今の相手は氷王じゃなくて、神なんだぞ!?
氷王に憑いた邪神アレムはニヤッと笑って、それまで僕に向けられていた掌をノアの方に向けた。
吹雪
神は声には出さずとも、少し念じただけで上級魔法を繰り出すことができるらしい。
突然襲ってくる猛吹雪。
先ほど氷王が唱えていた吹雪とは威力が桁違いだ。
直接魔法を食らっていない僕でも、防御魔法を唱えてやっと耐えられるくらいだ。
魔法が直撃したノアは衝撃波のような猛吹雪をもろに食らうことになる。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
両手をクロスして身構え、堪えようとするノアだけどその身体はあっけなく吹き飛ばされる。
ノアの身体はまるで紙でできた人形のように山の彼方へと飛んで行く。
ミレムの魔法剣士がこうも簡単に退けられるなんて。
多分、ノアはもうここに戻って来ることはないだろう。もし無傷で、こちらに戻ってくる体力が残っていたとしても、ここに来るまでかなりの時間がかかるだろう。
そしてアレムは今度こそ標的を僕に定める。
大氷華
本当に一瞬のことだった。
目の前が真っ白になって、身体が凍り付いたように動かなくなる。
そして僕の周りには、巨大な氷の華が咲きはじめる。
僕は華の中心、花托の中にいた。
厳密に言うと花托の形をした氷の檻だ。
僕は邪神アレムの手によって氷の華の中に閉じ込められてしまったのだ。
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