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第二章
第24話 氷の王③
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「貴様……忌々しいミレムの魔法剣士か!?」
「大正解」
ニッと白い歯を見せて笑うノア。
何ということだろう?
ミレムの魔法剣士といえば、勇者の仲間だ。勇者と同じく二百年生き続け、魔族と戦って来た人物だ。
女神ミレムの加護を受けた選ばれし戦士たち。勇者をはじめ、賢者、聖騎士が、闘士、そして魔法剣士がいた。
彼らは女神に加護を与えられ、年を取ることなく、尋常ならざる力を得た。その証として身体のどこかに聖痕と呼ばれる痣があった。
勇者はこの大陸の形でもある翼を広げたような形。首筋にその痣はあったという。
賢者は杖がX型に交差した形の痣。右腕にその痣はあっという。
聖騎士は槍がX型に交差した形。 左腕にその痣はあったという。
闘士は拳がX型に交差した形 手の甲にその痣はあったという。
魔法剣士は剣がX型に交差した形 胸の中心にその痣はあったという。
賢者と聖騎士、闘士は北将バシュドラーンと南将メルザによって倒された。
しかし魔法剣士が死んだという報告は聞いていない。ただ、僕の記憶では魔王城に乗り込んできたのは勇者一人だ。そこに魔法剣士の姿はなかった筈。
恐らく魔王城に辿り着くまでに死んだか、あるいは何かしらの形で離脱したかのどちらかだろう。
もしあの戦いで生き残っていたとしても、人間である魔法剣士がオルティスのようにずっと生きてきたとは思えない。
二百年以上生きていた勇者も魔王を倒した八十年後に老衰で死んだと言われている。
ノアは僕と同じように生まれ変わった、と思うのが妥当だろう。
いや……でも、勇者だけじゃなくて勇者の仲間まで生まれ変わるとは。
一体どうなっているんだ?
「何故、ミレムの魔法剣士と共にいる!? 魔王よ……貴様は我ら魔族を裏切ったのか!?」
氷の王が血走った目で僕を睨み付ける。
前世が勇者の仲間だって知っていたら、僕だって避けていたさ。
でもノアがいてくれたお陰で冒険者として生活ができるようになったわけで、彼との出会いに後悔はしていない……それどころか有り難く思っているよ。
魔王だったら、ノアのこと引き抜いていたかもしれないな。本当に魔王軍にいてほしい人材だもん。
結果的に僕はかつての勇者の仲間と行動を共にしているのだから、氷王が怒るのも分かるけれど、だからといって、裏切り者ねぇ。
裏切り者って……僕は何だか可笑しくなって、クスクスと笑った。
「裏切る? 僕を呪おうとしていた奴に言われたくないね」
「……何のことだか」
「惚けなくても良いよ? 身も心も縛り付ける魅了魔法を何百回もかけてきたくせに。僕は本当にうんざりしていたんだよ」
僕と氷王のやりとりにノアは片方の眉を上げて首を傾げる。
「何、お前ら知り合い?」
「うん。古くからの知り合い」
「なるほど、この魔族の男の狙いはお前だったのか。魅了の魔法をかけてたって? んなことする前に、男だったら正面突破で行けや!!」
うん、その脳筋発言、僕は嫌いじゃないな。
ノアは氷王に走り寄り、燃える剣を振り上げて斬りかかる。
氷王は氷の刃の呪文を唱える。
いくつもの刃がノアに襲いかかるが彼は向かってくる刃、一つ一つを躱し、そして叩き斬る。
その身のこなしはもはや人の領域ではない……本当に勇者の仲間だったんだな。
彼が生まれ変わりだとしたら、やはり前世の能力はそのまま現世に受け継がれているのだろう。
至近距離まで来たノアは剣を振り下ろす。
氷王は唇を噛み自身の剣でもって炎花剣を受け止めるが、氷の剣は次第に溶けてゆく。
氷王が持つ剣は決してただの氷ではない。
ドラゴンが放つ灼熱の炎でも溶けず、鉄の剣を粉々に砕くほどの破壊力もある。
氷の剣が脆いわけではない。ノアの剣がそれだけ化け物じみているのだ。
氷の剣が完全に溶けて、炎の諸刃が自分の身体に迫る前に、氷王は後ろに飛び退いた。
「氷雨!!!」
「防御魔法!!」
氷王が唱えると、無数の氷の刃の雨が降り注いでくる。
口の動きで氷雨がくると予測した僕は、奴が呪文を唱えたと同時に防御魔法をとなえていた。
半透明なドームが僕とノアを覆う。
氷雨は防御魔法の壁にぶつかり細かく砕け散った。
「サンキュ、助かった! 足手纏いなんて言ってすまない」
「……いや」
僕も君と全く同じ事思っていたので……とは言わないでおいた。勇者の仲間だと分かっていたら、僕だって彼の事を足手纏いだとは思わなかったよ。
氷雨が効かないと分かると、今度は吹雪の呪文を唱える。
雪交じりの突風が僕たちを襲う。
幸い防御魔法の結界内は吹雪から僕たちを守り穏やかなものだけど、結界の外に出たら瞬く間に吹き飛ばされるだろうな。
視界が悪くなり出したその時、空から気配がした。
ギィィィィン!!
剣と剣がぶつかり合う。
氷王は蒼い蝙蝠の翼を広げ、空からノアに斬りかかってきた。
しかし僕と同様気配を読んでいたノアは、バスタードゾードでそれを受け止める。
氷王は舌打ちをして翼を羽ばたかせ後ろへ飛び退いた。
「大炎華」
僕が呪文を唱えると、氷王の身体が瞬く間に炎に包まれる。
空に炎の大輪の花が咲く。
悪いがお前には此処で死んで貰う。僕は平穏な暮らしを望んでいるんだ。
僕を呪いで束縛しようとしているお前の存在は邪魔者以外何者でもないからね。
このまま炎の華と共に氷の王が燃え尽きるかと思ったけれど。
不意に氷の王の身体が光りはじめた。
……ぞくっと背筋に悪寒が走る。
この感じ、前世でも覚えがある。
大炎華に降り注ぐ氷雨。
先ほどよりも数倍もの威力がある無数の氷の粒を浴び、大炎華がみるみる小さくなり、やがて消えて行く。
炎の中から現れた氷王は、己の両手を見て感極まった声を上げる。
「おおおおお……みなぎる力……これがあの方の……」
あの方?
氷王があの方と呼ぶような存在はこの世には――いや、この世のものじゃない奴が干渉してきたんだ。
この押しつぶされそうな威圧感。人間相手には有り得ない、その場にいるだけで心が押しつぶされるような感覚に囚われる。
そんな空気を作り出す存在は人ではない。
「邪神アレム……」
「大正解」
ニッと白い歯を見せて笑うノア。
何ということだろう?
ミレムの魔法剣士といえば、勇者の仲間だ。勇者と同じく二百年生き続け、魔族と戦って来た人物だ。
女神ミレムの加護を受けた選ばれし戦士たち。勇者をはじめ、賢者、聖騎士が、闘士、そして魔法剣士がいた。
彼らは女神に加護を与えられ、年を取ることなく、尋常ならざる力を得た。その証として身体のどこかに聖痕と呼ばれる痣があった。
勇者はこの大陸の形でもある翼を広げたような形。首筋にその痣はあったという。
賢者は杖がX型に交差した形の痣。右腕にその痣はあっという。
聖騎士は槍がX型に交差した形。 左腕にその痣はあったという。
闘士は拳がX型に交差した形 手の甲にその痣はあったという。
魔法剣士は剣がX型に交差した形 胸の中心にその痣はあったという。
賢者と聖騎士、闘士は北将バシュドラーンと南将メルザによって倒された。
しかし魔法剣士が死んだという報告は聞いていない。ただ、僕の記憶では魔王城に乗り込んできたのは勇者一人だ。そこに魔法剣士の姿はなかった筈。
恐らく魔王城に辿り着くまでに死んだか、あるいは何かしらの形で離脱したかのどちらかだろう。
もしあの戦いで生き残っていたとしても、人間である魔法剣士がオルティスのようにずっと生きてきたとは思えない。
二百年以上生きていた勇者も魔王を倒した八十年後に老衰で死んだと言われている。
ノアは僕と同じように生まれ変わった、と思うのが妥当だろう。
いや……でも、勇者だけじゃなくて勇者の仲間まで生まれ変わるとは。
一体どうなっているんだ?
「何故、ミレムの魔法剣士と共にいる!? 魔王よ……貴様は我ら魔族を裏切ったのか!?」
氷の王が血走った目で僕を睨み付ける。
前世が勇者の仲間だって知っていたら、僕だって避けていたさ。
でもノアがいてくれたお陰で冒険者として生活ができるようになったわけで、彼との出会いに後悔はしていない……それどころか有り難く思っているよ。
魔王だったら、ノアのこと引き抜いていたかもしれないな。本当に魔王軍にいてほしい人材だもん。
結果的に僕はかつての勇者の仲間と行動を共にしているのだから、氷王が怒るのも分かるけれど、だからといって、裏切り者ねぇ。
裏切り者って……僕は何だか可笑しくなって、クスクスと笑った。
「裏切る? 僕を呪おうとしていた奴に言われたくないね」
「……何のことだか」
「惚けなくても良いよ? 身も心も縛り付ける魅了魔法を何百回もかけてきたくせに。僕は本当にうんざりしていたんだよ」
僕と氷王のやりとりにノアは片方の眉を上げて首を傾げる。
「何、お前ら知り合い?」
「うん。古くからの知り合い」
「なるほど、この魔族の男の狙いはお前だったのか。魅了の魔法をかけてたって? んなことする前に、男だったら正面突破で行けや!!」
うん、その脳筋発言、僕は嫌いじゃないな。
ノアは氷王に走り寄り、燃える剣を振り上げて斬りかかる。
氷王は氷の刃の呪文を唱える。
いくつもの刃がノアに襲いかかるが彼は向かってくる刃、一つ一つを躱し、そして叩き斬る。
その身のこなしはもはや人の領域ではない……本当に勇者の仲間だったんだな。
彼が生まれ変わりだとしたら、やはり前世の能力はそのまま現世に受け継がれているのだろう。
至近距離まで来たノアは剣を振り下ろす。
氷王は唇を噛み自身の剣でもって炎花剣を受け止めるが、氷の剣は次第に溶けてゆく。
氷王が持つ剣は決してただの氷ではない。
ドラゴンが放つ灼熱の炎でも溶けず、鉄の剣を粉々に砕くほどの破壊力もある。
氷の剣が脆いわけではない。ノアの剣がそれだけ化け物じみているのだ。
氷の剣が完全に溶けて、炎の諸刃が自分の身体に迫る前に、氷王は後ろに飛び退いた。
「氷雨!!!」
「防御魔法!!」
氷王が唱えると、無数の氷の刃の雨が降り注いでくる。
口の動きで氷雨がくると予測した僕は、奴が呪文を唱えたと同時に防御魔法をとなえていた。
半透明なドームが僕とノアを覆う。
氷雨は防御魔法の壁にぶつかり細かく砕け散った。
「サンキュ、助かった! 足手纏いなんて言ってすまない」
「……いや」
僕も君と全く同じ事思っていたので……とは言わないでおいた。勇者の仲間だと分かっていたら、僕だって彼の事を足手纏いだとは思わなかったよ。
氷雨が効かないと分かると、今度は吹雪の呪文を唱える。
雪交じりの突風が僕たちを襲う。
幸い防御魔法の結界内は吹雪から僕たちを守り穏やかなものだけど、結界の外に出たら瞬く間に吹き飛ばされるだろうな。
視界が悪くなり出したその時、空から気配がした。
ギィィィィン!!
剣と剣がぶつかり合う。
氷王は蒼い蝙蝠の翼を広げ、空からノアに斬りかかってきた。
しかし僕と同様気配を読んでいたノアは、バスタードゾードでそれを受け止める。
氷王は舌打ちをして翼を羽ばたかせ後ろへ飛び退いた。
「大炎華」
僕が呪文を唱えると、氷王の身体が瞬く間に炎に包まれる。
空に炎の大輪の花が咲く。
悪いがお前には此処で死んで貰う。僕は平穏な暮らしを望んでいるんだ。
僕を呪いで束縛しようとしているお前の存在は邪魔者以外何者でもないからね。
このまま炎の華と共に氷の王が燃え尽きるかと思ったけれど。
不意に氷の王の身体が光りはじめた。
……ぞくっと背筋に悪寒が走る。
この感じ、前世でも覚えがある。
大炎華に降り注ぐ氷雨。
先ほどよりも数倍もの威力がある無数の氷の粒を浴び、大炎華がみるみる小さくなり、やがて消えて行く。
炎の中から現れた氷王は、己の両手を見て感極まった声を上げる。
「おおおおお……みなぎる力……これがあの方の……」
あの方?
氷王があの方と呼ぶような存在はこの世には――いや、この世のものじゃない奴が干渉してきたんだ。
この押しつぶされそうな威圧感。人間相手には有り得ない、その場にいるだけで心が押しつぶされるような感覚に囚われる。
そんな空気を作り出す存在は人ではない。
「邪神アレム……」
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