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第二章
第23話 氷の王②
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氷王が僕の名前を執拗に聞き出そうとしていたのは、本名を聞き出し、僕に魅了の呪いをかけようとしたからだ。
人間の頃の名前が効力を得ないと分かった奴は、僕に一房の髪を求めた。本名ほどではないが、髪を使った呪いもあるにはあるからね。
氷王の魂胆が分かっていて何故髪を与えたかというと、氷王ごときに僕が呪われるわけがないと思っていたからだ。
実際魔王だった当時は奴に呪われることはなかった。呪いをかけられていたとは思うけど、奴に魅了されることは全くなかった。
格下の魔族がどんなにがんばって呪ったところで、格上の魔族をどうこうできるわけがないのだ。
奴が持っている髪の毛はあくまで前世の僕のもの。
今の僕のものとは違うから、呪いをかける拘束力はないとは思うけど。
恐らく髪の毛が僕の魂に反応したのだろう。
だから、氷の王は僕の居場所を突き止めたんだ。
「アイスドラゴンどころじゃねぇ奴がお出でなすったな」
奴の声でノアも目を覚ましたらしい。
僕は首を横に振る。
魔王だった時なら氷王など相手にもならなかった。だけど今の僕はただの人間だ。
冒険者になってからも魔力を引き出す鍛錬はしてきたし、毎日のように魔物を相手にしていたので経験値も上がった。魔王時代の勘も戻ってきているものの、前世ほどの力はまだ取り戻せていない。
それでも氷王に負けるほど落ちぶれてはいない。
僕一人なら対処できるけど、誰かを守りながら戦うとなると難しくなる。
しかしノアは何を勘違いしているのか。
「お前は此処にいろ。足手纏いになるからな」
その台詞、そっくりそのままお返ししたい。
足手纏いはお前の方だって。真っ当な人間が戦っても勝てるわけがないのだから。
僕が止める間もなく、ノアはとっとと外へ飛び出していった。
く……仕方がない。
僕は舌打ちしながらノアの後に付いていった。
「おい、コラ! 邪魔になるから下がってろ」
「邪魔にならないように後方支援する」
「くそ……!! 死んでも知らねぇぞ」
本当にお前が言っている台詞、全部僕が言いたいよ!!
今立ち向かおうとしている奴がどんな奴なのか分かっているのか!?
ノアは確かに優秀な冒険者だが、一般人が立ち向かえるような魔族じゃない。
分かっているわけないか……分かっていたら真っ当な人間なら逃げ出している筈だ。
「ほう? 余計なネズミもいるな」
凍てつく空気に溶け込むような冷ややかな声。
その人物が現れた瞬間、まるで主を出迎えるかのごとく吹雪が止んだ。
真っ白な肌、白銀の長い髪、そして鋭く輝く銀色の目。異様なほど整った顔立ちをした男はまるで雪で出来上がった人形を思わせた。
彼は僕の姿を見て面白そうに目を細める。
「これはこれは……まさか、脆弱な人間に転生しているとは」
「久しいな……コールド=ブレストーム」
コールド=ブレストーム。
別名“氷王”
デスフリード山に居を構える氷系の魔族で、僕の配下の中でも特に強い四将軍たちと互角に張り合える程の実力があった。
本来なら四将軍じゃなくて五将軍と言われていた所、氷王自身は束縛を嫌い、将軍の地位を拒否した。
だから僕と彼の関係は主と配下というよりは、依頼者と請負人のような間柄だった。
とにかく魔将軍クラスの強さを持つ魔物相手だ。
真っ当な人間が立ち向かった所で勝てるわけがないのに、ノアは僕の前に立ちはだかるように剣を構える。
なんて無謀な……と思ったのも束の間。
「剣よ、炎華の衣を纏え……炎華剣」
ノアが詠唱した瞬間、バスタードゾードは灼熱の炎に包まれた。
あの技はまさか……いや、有り得ない。
武器に魔法を纏わせることにより、魔法の威力と剣の威力の相乗効果により破壊力が数倍になる。
この技が使えるのは僕の配下でも四将ぐらいだ。
普通の人間の魔力じゃとてもじゃないけど使えない技だ。
相当な実力者であることは分かっていたけれど、まさかここまでとは思わなかった。
ノアは一体何者なんだ?
しかもノアは今まで見たこともない早さで氷の王に突進し、剣を振り上げた。
氷王も驚いたのか目を見張り、氷の剣でもってそれを受け止める。
しかし氷の刀身が溶け出しているのを見て、彼は剣を持っていない方の手を差し出し、呪文を唱える。
「吹雪」
雪を交えた突風がノアの身体を数メートル吹き飛ばす。
僕よりも後方に吹き飛ばされた彼だが、背中から落ちることなく、身体を一転させ両足で着地をする。
氷の王はさらに呪文を唱える。
「氷の刃!」
「氷の盾!」
僕はとっさに後方にいるノアの方を指さし、呪文を唱えた。
ノアの前に氷の盾が現れ、氷王が放った氷の刃に立ちはだかる。
ぶつかり合った刃と盾は砕け散った。
その破片がノアの服を切り裂いた。
幸い傷にまでは至らなかったが、ノアの上着が裂けて、胸元が露わになる。
僕は息を飲む。
ノアの胸元が光っている。 剣が交差したような形の光だ。
あれは、まさか聖痣?
勇者とその仲間たちがミレムの加護を受けたことでついた聖なる痣。
ミレムの力が発揮される時、その痣は光り輝くのだ。
「貴様……忌々しいミレムの魔法剣士か!?」
人間の頃の名前が効力を得ないと分かった奴は、僕に一房の髪を求めた。本名ほどではないが、髪を使った呪いもあるにはあるからね。
氷王の魂胆が分かっていて何故髪を与えたかというと、氷王ごときに僕が呪われるわけがないと思っていたからだ。
実際魔王だった当時は奴に呪われることはなかった。呪いをかけられていたとは思うけど、奴に魅了されることは全くなかった。
格下の魔族がどんなにがんばって呪ったところで、格上の魔族をどうこうできるわけがないのだ。
奴が持っている髪の毛はあくまで前世の僕のもの。
今の僕のものとは違うから、呪いをかける拘束力はないとは思うけど。
恐らく髪の毛が僕の魂に反応したのだろう。
だから、氷の王は僕の居場所を突き止めたんだ。
「アイスドラゴンどころじゃねぇ奴がお出でなすったな」
奴の声でノアも目を覚ましたらしい。
僕は首を横に振る。
魔王だった時なら氷王など相手にもならなかった。だけど今の僕はただの人間だ。
冒険者になってからも魔力を引き出す鍛錬はしてきたし、毎日のように魔物を相手にしていたので経験値も上がった。魔王時代の勘も戻ってきているものの、前世ほどの力はまだ取り戻せていない。
それでも氷王に負けるほど落ちぶれてはいない。
僕一人なら対処できるけど、誰かを守りながら戦うとなると難しくなる。
しかしノアは何を勘違いしているのか。
「お前は此処にいろ。足手纏いになるからな」
その台詞、そっくりそのままお返ししたい。
足手纏いはお前の方だって。真っ当な人間が戦っても勝てるわけがないのだから。
僕が止める間もなく、ノアはとっとと外へ飛び出していった。
く……仕方がない。
僕は舌打ちしながらノアの後に付いていった。
「おい、コラ! 邪魔になるから下がってろ」
「邪魔にならないように後方支援する」
「くそ……!! 死んでも知らねぇぞ」
本当にお前が言っている台詞、全部僕が言いたいよ!!
今立ち向かおうとしている奴がどんな奴なのか分かっているのか!?
ノアは確かに優秀な冒険者だが、一般人が立ち向かえるような魔族じゃない。
分かっているわけないか……分かっていたら真っ当な人間なら逃げ出している筈だ。
「ほう? 余計なネズミもいるな」
凍てつく空気に溶け込むような冷ややかな声。
その人物が現れた瞬間、まるで主を出迎えるかのごとく吹雪が止んだ。
真っ白な肌、白銀の長い髪、そして鋭く輝く銀色の目。異様なほど整った顔立ちをした男はまるで雪で出来上がった人形を思わせた。
彼は僕の姿を見て面白そうに目を細める。
「これはこれは……まさか、脆弱な人間に転生しているとは」
「久しいな……コールド=ブレストーム」
コールド=ブレストーム。
別名“氷王”
デスフリード山に居を構える氷系の魔族で、僕の配下の中でも特に強い四将軍たちと互角に張り合える程の実力があった。
本来なら四将軍じゃなくて五将軍と言われていた所、氷王自身は束縛を嫌い、将軍の地位を拒否した。
だから僕と彼の関係は主と配下というよりは、依頼者と請負人のような間柄だった。
とにかく魔将軍クラスの強さを持つ魔物相手だ。
真っ当な人間が立ち向かった所で勝てるわけがないのに、ノアは僕の前に立ちはだかるように剣を構える。
なんて無謀な……と思ったのも束の間。
「剣よ、炎華の衣を纏え……炎華剣」
ノアが詠唱した瞬間、バスタードゾードは灼熱の炎に包まれた。
あの技はまさか……いや、有り得ない。
武器に魔法を纏わせることにより、魔法の威力と剣の威力の相乗効果により破壊力が数倍になる。
この技が使えるのは僕の配下でも四将ぐらいだ。
普通の人間の魔力じゃとてもじゃないけど使えない技だ。
相当な実力者であることは分かっていたけれど、まさかここまでとは思わなかった。
ノアは一体何者なんだ?
しかもノアは今まで見たこともない早さで氷の王に突進し、剣を振り上げた。
氷王も驚いたのか目を見張り、氷の剣でもってそれを受け止める。
しかし氷の刀身が溶け出しているのを見て、彼は剣を持っていない方の手を差し出し、呪文を唱える。
「吹雪」
雪を交えた突風がノアの身体を数メートル吹き飛ばす。
僕よりも後方に吹き飛ばされた彼だが、背中から落ちることなく、身体を一転させ両足で着地をする。
氷の王はさらに呪文を唱える。
「氷の刃!」
「氷の盾!」
僕はとっさに後方にいるノアの方を指さし、呪文を唱えた。
ノアの前に氷の盾が現れ、氷王が放った氷の刃に立ちはだかる。
ぶつかり合った刃と盾は砕け散った。
その破片がノアの服を切り裂いた。
幸い傷にまでは至らなかったが、ノアの上着が裂けて、胸元が露わになる。
僕は息を飲む。
ノアの胸元が光っている。 剣が交差したような形の光だ。
あれは、まさか聖痣?
勇者とその仲間たちがミレムの加護を受けたことでついた聖なる痣。
ミレムの力が発揮される時、その痣は光り輝くのだ。
「貴様……忌々しいミレムの魔法剣士か!?」
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