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第三章
第49話 ノアの家族達
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ノアの実父、フォレストロード伯爵とその息子たちが登場したのは、三日後のことだった。
元々遠方の領地を治めているフォレストロード家は、社交界に出ることは滅多になく、前回の社交界も顔を出していなかった。
フォレストロード家は代々戦闘能力が高い家系らしく、ノアの兄弟たちは軍人として活躍しているそうだ。二人の兄弟は今まで魔界と人界の境目であるクレスター山脈の麓の警備に当たっていたらしいが、ノアが見つかったことを聞きつけ持ち場を仲間に預けて、父親と共に登城してきたらしい。
ゼムベルトの計らいで、ノアとオルティスが再会した応接の間で家族の面会と相成ったのだけど、何故か他人の家族の再会に僕が居合わせることになってしまった。
というのもノアが両手を合わせて僕に頼み込んできたのだ。
「頼む!! ジュノ、家族との再会が怖いから一緒にいてくれ」
「は?」
「久しぶりすぎる再会に、何が起きるか全然想像が付かねぇんだ」
顔を真っ青にするノアに僕は首を傾げる。
魔王軍を蹴散らしていた、ミレムの魔法剣士の生まれ変わりが何を言っているんだ?
家出して、怒られるのが怖いってこと? 子供か!
「どうせならオルティスと一緒にいればいいじゃないか。紹介も兼ねて」
「俺だって最初はそうしたかったさ。だけどあいつも忙しくてさ、ここに来るのが遅くなるって言っていたんだ。あいつが来るまででいいから、俺と一緒にいてくれ」
一体何なんだ?、その怯えようは。
よくそんな怖い家族に対して家出できたよね。それだけオルティスに会いたかったってことなのだろうけど。
そういうわけで、僕はノアと共に応接の間でフォレストロード家の人々が来るのを待っていた。
程なくしてドアの向こう、革靴の足音がいくつか聞こえてきてぴたりと泊まった。
ノックが響き、僕が「どうぞ」と促した。
重厚な扉が開かれ、入って来たのは巨人三体。
人と表現にするにはあまりにもデカい。まさに巨人なのだ。
まるで三つの壁がこっちに迫ってきているような感覚だ、彼らはまず僕の前に歩み出て跪いた。
「ジュノーム様が我が息子をここまで導いてくださったと伺っております。本当にありがとうございます」
「い、いや、僕は何も」
フィレストロード伯爵は目を潤ませて僕を見上げている……な、何か、凄く暑苦しいな。
とにかくフォレストロード伯爵とその息子たちは、身長は二メートル近くある長身、両腕は丸太のように太い。全身の筋肉ははち切れんばかりに隆々としていて、どこからどうみても規格外の巨体だった。
「遠くからよく来てくれたね。心置きなく家族との再会を果たして欲しい」
「「「ありがとうございます」」」
まるでシンクロしたように声をそろえて礼を言うフォレストロード家の人々。
彼らは立ち上がると足早にノアの元に近づいた。
三人の巨人はこぞってノアに抱きついた。
「ノアリスぅぅぅぅぅぅ!!!」
「心配したんだぞっっ!? お前が冒険者としてちゃんとやっていけているのか」
「こんな……こんな……ちっちゃな身体で、よく無事で……父さんは、父さんは嬉しすぎるぞぉぉぉ!!」
ちっちゃい身体とは言うけど、ノアも背丈は180近くあって平均身長以上の高さはあるんだけどね。
この人たちに比べたら大抵の人たちはちっちゃくなるだろ。
成る程ね、ノアが恐れるわけだ。
感極まった家族に抱きつかれ圧死させられる可能性が高いもんな。
「いい加減にしろぉぉぉぉ!! 衝撃波魔法!」
ノアは堪り兼ねて呪文を唱えた。
すると何かに弾かれたかのように三つの巨体は軽く吹っ飛んで、方々の壁にぶつかる。
さすがは勇者の仲間。
そう簡単に圧死させられることはなかったか。
「ったく、ジュノが一緒に居ればちょっとは落ち着いた態度で接してくれるかと思ったのによ。父さんも兄さんたちも場所をわきまえてくれよっっ」
あ、そういう言う理由で僕を側に置いたのね。別に家族に怒られるのが怖かったわけじゃなくて、暑苦しい家族に迫られることを恐れていたわけだ……まぁ、気持ちは分かるけど。
衝撃波をくらい壁に激突した父親と兄たちは、けろっとして立ち上がっている。見かけ通り身体も相当頑丈だな。
それにしても本当に大きい。巨人族じゃないかってくらいに。
まぁ、こんな巨体の家系でノアみたいな子供が生まれたら、異常なほど過保護になってしまうのも無理はないな。
僕の実家と違って、もの凄く愛されているみたいだけど……ノアにとって、その愛はちょっと重そうだね。
フォレストロード伯爵は一度咳払いをし、気持ちを落ち着かせてから、真剣な表情をノアに向けた。
「それでお前が探していた運命の伴侶は見つかったのか?」
家族には運命の人を探していることは話していたみたいだね。運命の人を探したいから冒険者になると言われたら、家族としては反対するだろうね。会えるかどうか分からない人間を探し続けるなんて無謀も良いところだからな。
「ああ、見つかったよ」
ノアが嬉しそうに頷くと、フォレストロード伯爵は「そうか」と頷いてから、止めどなく流れている涙をハンカチで拭く。
タイミングが良いことに、その直後ドアのノックが響き渡った。
オルティスが来たみたいだな。
フォレストロード家の人々は、部屋に入って来たのがこの国の大魔導師であり、また代々の皇帝に仕える国の要の存在でもあるオルティスだと分かり、反射的に気を付けの姿勢を取り、シンクロしたかのように跪く。
「顔を上げて、それから立ってください。今日はあなた方にご挨拶をするためにこちらに伺いました」
「ご挨拶とは」
「あなた方の大切なご子息を頂くご挨拶です」
「は――――!?」
にこやかに笑って頭を下げるオルティスに、フォレストロード家の人々は驚きのあまり、目がまん丸になる。本当は絶叫をあげたい程驚いているのだろうけど、さすがは軍人。その気持ちを何とか堪えている。
額にもの凄い汗を掻いているけど。
「俺、オルティスと一緒になることになったから、よろしく」
そんな家族とは裏腹にかるーい挨拶をするノア。
フォレストロード伯爵は顔を真っ青にする。
「の、ノアリス……代々皇帝に仕えし大魔導師様を呼び捨てにするとは」
「フォレストロード卿、かまいませんよ。私とノアは生涯を共にすると誓い合った身です。家族に対して敬語は不要です」
「ノアが大魔導師様の伴侶?」
「左様でございます」
あまりのことにしばらく声が出ないフォレストロード家の人々だったけれど、やがて一足先に落ち着きを取り戻した伯爵が、深々と頭を下げた。
「ふつつかな息子でございますが、我が息子が大魔導師様のご寵愛を賜ることは、我が家にとってこの上ない誉れ。何卒、何卒、よろしくお願い申し上げます」
「あ、あの……大魔導師様、弟は口が悪いですが良い子ですから」
「大魔導師様であれば、弟の人生も安泰……とても安堵いたしました!!」
兄弟たちも声をそろえ、オルティスに対してひれ伏す。
代々皇帝に仕えているってことは、下手したら皇帝よりも権力を持っている存在でもあるからね。
彼らが恐れ戦くのも無理はない。
だけど二人の仲は概ね祝福されているってことでいいのかな?
特に兄二人は小声で「でかしたぞ!!ノアリス」「さすがは俺の可愛い弟だ!!」って呟いているし。帝国の影のNo.1と親戚になれて嬉しさが隠せないみたいだしね。
ノアは家族に愛されているな。
暑苦しそうではあるけど、僕としては羨ましいよ。
前世でも今世でも僕は人から愛されるってことがなかったから。
……。
……。
……いや、違う。
誰にも愛されなかったわけじゃない。
『アシェラ、愛している』
まざまざと耳にかかる熱い吐息まで思い出してしまう。
あの言葉を僕に囁いたのは誰だった?
今、とても大切なパズルのピースを見つけたような気がしたのに、それはすぐに見失ってしまった。
元々遠方の領地を治めているフォレストロード家は、社交界に出ることは滅多になく、前回の社交界も顔を出していなかった。
フォレストロード家は代々戦闘能力が高い家系らしく、ノアの兄弟たちは軍人として活躍しているそうだ。二人の兄弟は今まで魔界と人界の境目であるクレスター山脈の麓の警備に当たっていたらしいが、ノアが見つかったことを聞きつけ持ち場を仲間に預けて、父親と共に登城してきたらしい。
ゼムベルトの計らいで、ノアとオルティスが再会した応接の間で家族の面会と相成ったのだけど、何故か他人の家族の再会に僕が居合わせることになってしまった。
というのもノアが両手を合わせて僕に頼み込んできたのだ。
「頼む!! ジュノ、家族との再会が怖いから一緒にいてくれ」
「は?」
「久しぶりすぎる再会に、何が起きるか全然想像が付かねぇんだ」
顔を真っ青にするノアに僕は首を傾げる。
魔王軍を蹴散らしていた、ミレムの魔法剣士の生まれ変わりが何を言っているんだ?
家出して、怒られるのが怖いってこと? 子供か!
「どうせならオルティスと一緒にいればいいじゃないか。紹介も兼ねて」
「俺だって最初はそうしたかったさ。だけどあいつも忙しくてさ、ここに来るのが遅くなるって言っていたんだ。あいつが来るまででいいから、俺と一緒にいてくれ」
一体何なんだ?、その怯えようは。
よくそんな怖い家族に対して家出できたよね。それだけオルティスに会いたかったってことなのだろうけど。
そういうわけで、僕はノアと共に応接の間でフォレストロード家の人々が来るのを待っていた。
程なくしてドアの向こう、革靴の足音がいくつか聞こえてきてぴたりと泊まった。
ノックが響き、僕が「どうぞ」と促した。
重厚な扉が開かれ、入って来たのは巨人三体。
人と表現にするにはあまりにもデカい。まさに巨人なのだ。
まるで三つの壁がこっちに迫ってきているような感覚だ、彼らはまず僕の前に歩み出て跪いた。
「ジュノーム様が我が息子をここまで導いてくださったと伺っております。本当にありがとうございます」
「い、いや、僕は何も」
フィレストロード伯爵は目を潤ませて僕を見上げている……な、何か、凄く暑苦しいな。
とにかくフォレストロード伯爵とその息子たちは、身長は二メートル近くある長身、両腕は丸太のように太い。全身の筋肉ははち切れんばかりに隆々としていて、どこからどうみても規格外の巨体だった。
「遠くからよく来てくれたね。心置きなく家族との再会を果たして欲しい」
「「「ありがとうございます」」」
まるでシンクロしたように声をそろえて礼を言うフォレストロード家の人々。
彼らは立ち上がると足早にノアの元に近づいた。
三人の巨人はこぞってノアに抱きついた。
「ノアリスぅぅぅぅぅぅ!!!」
「心配したんだぞっっ!? お前が冒険者としてちゃんとやっていけているのか」
「こんな……こんな……ちっちゃな身体で、よく無事で……父さんは、父さんは嬉しすぎるぞぉぉぉ!!」
ちっちゃい身体とは言うけど、ノアも背丈は180近くあって平均身長以上の高さはあるんだけどね。
この人たちに比べたら大抵の人たちはちっちゃくなるだろ。
成る程ね、ノアが恐れるわけだ。
感極まった家族に抱きつかれ圧死させられる可能性が高いもんな。
「いい加減にしろぉぉぉぉ!! 衝撃波魔法!」
ノアは堪り兼ねて呪文を唱えた。
すると何かに弾かれたかのように三つの巨体は軽く吹っ飛んで、方々の壁にぶつかる。
さすがは勇者の仲間。
そう簡単に圧死させられることはなかったか。
「ったく、ジュノが一緒に居ればちょっとは落ち着いた態度で接してくれるかと思ったのによ。父さんも兄さんたちも場所をわきまえてくれよっっ」
あ、そういう言う理由で僕を側に置いたのね。別に家族に怒られるのが怖かったわけじゃなくて、暑苦しい家族に迫られることを恐れていたわけだ……まぁ、気持ちは分かるけど。
衝撃波をくらい壁に激突した父親と兄たちは、けろっとして立ち上がっている。見かけ通り身体も相当頑丈だな。
それにしても本当に大きい。巨人族じゃないかってくらいに。
まぁ、こんな巨体の家系でノアみたいな子供が生まれたら、異常なほど過保護になってしまうのも無理はないな。
僕の実家と違って、もの凄く愛されているみたいだけど……ノアにとって、その愛はちょっと重そうだね。
フォレストロード伯爵は一度咳払いをし、気持ちを落ち着かせてから、真剣な表情をノアに向けた。
「それでお前が探していた運命の伴侶は見つかったのか?」
家族には運命の人を探していることは話していたみたいだね。運命の人を探したいから冒険者になると言われたら、家族としては反対するだろうね。会えるかどうか分からない人間を探し続けるなんて無謀も良いところだからな。
「ああ、見つかったよ」
ノアが嬉しそうに頷くと、フォレストロード伯爵は「そうか」と頷いてから、止めどなく流れている涙をハンカチで拭く。
タイミングが良いことに、その直後ドアのノックが響き渡った。
オルティスが来たみたいだな。
フォレストロード家の人々は、部屋に入って来たのがこの国の大魔導師であり、また代々の皇帝に仕える国の要の存在でもあるオルティスだと分かり、反射的に気を付けの姿勢を取り、シンクロしたかのように跪く。
「顔を上げて、それから立ってください。今日はあなた方にご挨拶をするためにこちらに伺いました」
「ご挨拶とは」
「あなた方の大切なご子息を頂くご挨拶です」
「は――――!?」
にこやかに笑って頭を下げるオルティスに、フォレストロード家の人々は驚きのあまり、目がまん丸になる。本当は絶叫をあげたい程驚いているのだろうけど、さすがは軍人。その気持ちを何とか堪えている。
額にもの凄い汗を掻いているけど。
「俺、オルティスと一緒になることになったから、よろしく」
そんな家族とは裏腹にかるーい挨拶をするノア。
フォレストロード伯爵は顔を真っ青にする。
「の、ノアリス……代々皇帝に仕えし大魔導師様を呼び捨てにするとは」
「フォレストロード卿、かまいませんよ。私とノアは生涯を共にすると誓い合った身です。家族に対して敬語は不要です」
「ノアが大魔導師様の伴侶?」
「左様でございます」
あまりのことにしばらく声が出ないフォレストロード家の人々だったけれど、やがて一足先に落ち着きを取り戻した伯爵が、深々と頭を下げた。
「ふつつかな息子でございますが、我が息子が大魔導師様のご寵愛を賜ることは、我が家にとってこの上ない誉れ。何卒、何卒、よろしくお願い申し上げます」
「あ、あの……大魔導師様、弟は口が悪いですが良い子ですから」
「大魔導師様であれば、弟の人生も安泰……とても安堵いたしました!!」
兄弟たちも声をそろえ、オルティスに対してひれ伏す。
代々皇帝に仕えているってことは、下手したら皇帝よりも権力を持っている存在でもあるからね。
彼らが恐れ戦くのも無理はない。
だけど二人の仲は概ね祝福されているってことでいいのかな?
特に兄二人は小声で「でかしたぞ!!ノアリス」「さすがは俺の可愛い弟だ!!」って呟いているし。帝国の影のNo.1と親戚になれて嬉しさが隠せないみたいだしね。
ノアは家族に愛されているな。
暑苦しそうではあるけど、僕としては羨ましいよ。
前世でも今世でも僕は人から愛されるってことがなかったから。
……。
……。
……いや、違う。
誰にも愛されなかったわけじゃない。
『アシェラ、愛している』
まざまざと耳にかかる熱い吐息まで思い出してしまう。
あの言葉を僕に囁いたのは誰だった?
今、とても大切なパズルのピースを見つけたような気がしたのに、それはすぐに見失ってしまった。
応援ありがとうございます!
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