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第四章
第50話 皇室図書館
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皇室図書館。
ゼムベルトの正式な婚約者になったことで、僕はそこへ出入りすることが許されるようになった。
正式な婚約者じゃなかった場合は、かなり長いこと手続きがいるらしい。
貴重な文献も保管されているみたいだからね。
読みたい本は山ほどあるが、まずはやはり魔王と勇者の戦いのことが書かれている本を片っ端から集めてみた。
その殆どは脚色されたものばかりで、勇者はお姫様と結婚してハッピーエンドやら、魔法剣士が女性で、しかも勇者と結婚するという話まである。ノアがこの本を読んだらどんな気持ちになるのかな? 怒って本を破るか、いや、彼のことだから爆笑しそうだな。
お、この本は比較的史実に忠実な内容みたいだな。
苦楽を共にした仲間を失った勇者。
忠実だった配下を失った魔王。
最終決戦はこの二人の戦いだった……うん、僕の記憶の通りだ。
激しい戦いは山を消し、大地を焼き、嵐を呼び寄せた……嵐を呼んだ覚えはないけど、大体は合っている。
魔王は勇者がかぶっていた冑を剣で弾き飛ばした。
その時現れた勇者の顔に見蕩れた魔王は油断をして勇者の剣にかかった……って、何なんだ、それは!?
いくら相手が美麗な男だったとしても、敵に見蕩れて油断してやられるような僕ではない。失礼極まりないな。
まぁ、実際勇者と魔王の戦いを見てきた人間なんていないわけだから、皆憶測で物語を書くよね。でも酷い……僕はそんなに間抜けな理由で倒れるはずがないのに。
僕は大きな溜息をついて、最後の一冊となったボロボロの書物を手に取る。
あれ……これは、初代皇帝が監修しているものなのか。
初代皇帝といえば、イベルドの養子でもあった人物だ。
今までの中では一番信憑性が高そうだな。
【勇者は仲間を失い、魔王は忠実な部下を失った。共に大事なものを失った者同士、憎しみはぶつかり合い、戦いは三日三晩続いた。魔王城の周辺は山脈に囲まれていたが、ぶつかり合った魔法の衝撃で山は吹き飛び、平らな大地が現れた。その大地も業火によって焼き尽くされ、ついに勇者と魔王の周りには何もなくなってしまった】
その文章は前世、魔王と戦った時の光景をまざまざと思い出させた。そうだ、あの時、強大な魔法がぶつかり合い、山脈だった城の周りは平らな大地に変わった。何もなくなった場所で僕と勇者は剣を交わし……そして。
【最終的に剣と剣の攻防戦が続いた。魔王が勇者の冑を剣で弾いた時、勇者は初めてその壮麗な顔を露わにした。魔王がその時何を思ったのか、自ら剣を捨てた。そして勇者のひと突きにより絶命をした】
何を思ったのか僕も知りたいところだけど、書いている人だって僕の心が読めるわけじゃない。ましてや現場にいたわけじゃないだろうし。
【魔王を倒した勇者の旅は終わらなかった。最愛の者を失った勇者は憎しみにかられ、復讐を誓った。戦いの元凶である邪神アレムを倒す為に、あらゆる経験を積み重ね、尋常ならざる力を会得した。そして邪神が住む異次元の城へ単身乗り込み、邪神の使いを皆殺しにし、ついには邪神アレムの首を切り落とした】
最愛の者を失った?
勇者には愛する人がいたのか?
……胸が苦しい。苦しくて息ができない。
この書物だって、初代皇帝が監修していたとはいえ、後世に書かれた創作だ。
イベルドに愛する人がいたのかどうかは、本当の所は分からない。
だけど、もし本当にいたら?
もし、ゼムベルトが勇者としての記憶が蘇ったら、その最愛の人のことも思い出すのだろう。
邪神と同様、彼は僕を憎むことになるのかもしれない。
……。
……。
……分かっている。きっと幸せは長くは続かない。
最愛の人がいたにしろ、いなかったにしろ、前世、僕は勇者と敵対した魔王だ。勇者にとっては憎しみの対象でしか有り得ない。
でも、許されるのであれば、少しでも長くゼムベルトの側にいられたら、と願わずにはいられない。
「どうした?ジュノ……泣きそうな顔をして」
自室に戻り、椅子に腰掛けぼうっと窓の景色を眺めていた僕は、ゼムベルトが部屋に入って来たことにも気づいていなかった。
優しいその声に、また涙がにじんでくる。
いつまでそんな風に優しい声を掛けてくれるのだろう? その綺麗なディーププルーの瞳は、いつしか憎しみに彩られるのかもしれない。そう考えると僕はとてつもなく怖くなる。
椅子から立ち上がった僕はゼムベルトに歩み寄り、背中に手を回した。
「お願い……僕を抱いて」
「ジュノ?」
「僕をめちゃくちゃにしてほしい。いっそのこと殺して欲しいんだ」
「君を殺せるわけがないだろう? だけど、めちゃくちゃにする、という願いは叶えられるかもしれない」
ゼムベルトはふっと不敵な笑みを浮かべ、僕を抱え上げる。
冒険者として鍛えている今、僕の身体は決して貧弱じゃない。身長も成人男性の平均170は優に超えている。
けれども彼は軽々と僕の身体を抱えている。
そのまま寝台の上に運ばれ、僕は押し倒された。
ゼムベルトの正式な婚約者になったことで、僕はそこへ出入りすることが許されるようになった。
正式な婚約者じゃなかった場合は、かなり長いこと手続きがいるらしい。
貴重な文献も保管されているみたいだからね。
読みたい本は山ほどあるが、まずはやはり魔王と勇者の戦いのことが書かれている本を片っ端から集めてみた。
その殆どは脚色されたものばかりで、勇者はお姫様と結婚してハッピーエンドやら、魔法剣士が女性で、しかも勇者と結婚するという話まである。ノアがこの本を読んだらどんな気持ちになるのかな? 怒って本を破るか、いや、彼のことだから爆笑しそうだな。
お、この本は比較的史実に忠実な内容みたいだな。
苦楽を共にした仲間を失った勇者。
忠実だった配下を失った魔王。
最終決戦はこの二人の戦いだった……うん、僕の記憶の通りだ。
激しい戦いは山を消し、大地を焼き、嵐を呼び寄せた……嵐を呼んだ覚えはないけど、大体は合っている。
魔王は勇者がかぶっていた冑を剣で弾き飛ばした。
その時現れた勇者の顔に見蕩れた魔王は油断をして勇者の剣にかかった……って、何なんだ、それは!?
いくら相手が美麗な男だったとしても、敵に見蕩れて油断してやられるような僕ではない。失礼極まりないな。
まぁ、実際勇者と魔王の戦いを見てきた人間なんていないわけだから、皆憶測で物語を書くよね。でも酷い……僕はそんなに間抜けな理由で倒れるはずがないのに。
僕は大きな溜息をついて、最後の一冊となったボロボロの書物を手に取る。
あれ……これは、初代皇帝が監修しているものなのか。
初代皇帝といえば、イベルドの養子でもあった人物だ。
今までの中では一番信憑性が高そうだな。
【勇者は仲間を失い、魔王は忠実な部下を失った。共に大事なものを失った者同士、憎しみはぶつかり合い、戦いは三日三晩続いた。魔王城の周辺は山脈に囲まれていたが、ぶつかり合った魔法の衝撃で山は吹き飛び、平らな大地が現れた。その大地も業火によって焼き尽くされ、ついに勇者と魔王の周りには何もなくなってしまった】
その文章は前世、魔王と戦った時の光景をまざまざと思い出させた。そうだ、あの時、強大な魔法がぶつかり合い、山脈だった城の周りは平らな大地に変わった。何もなくなった場所で僕と勇者は剣を交わし……そして。
【最終的に剣と剣の攻防戦が続いた。魔王が勇者の冑を剣で弾いた時、勇者は初めてその壮麗な顔を露わにした。魔王がその時何を思ったのか、自ら剣を捨てた。そして勇者のひと突きにより絶命をした】
何を思ったのか僕も知りたいところだけど、書いている人だって僕の心が読めるわけじゃない。ましてや現場にいたわけじゃないだろうし。
【魔王を倒した勇者の旅は終わらなかった。最愛の者を失った勇者は憎しみにかられ、復讐を誓った。戦いの元凶である邪神アレムを倒す為に、あらゆる経験を積み重ね、尋常ならざる力を会得した。そして邪神が住む異次元の城へ単身乗り込み、邪神の使いを皆殺しにし、ついには邪神アレムの首を切り落とした】
最愛の者を失った?
勇者には愛する人がいたのか?
……胸が苦しい。苦しくて息ができない。
この書物だって、初代皇帝が監修していたとはいえ、後世に書かれた創作だ。
イベルドに愛する人がいたのかどうかは、本当の所は分からない。
だけど、もし本当にいたら?
もし、ゼムベルトが勇者としての記憶が蘇ったら、その最愛の人のことも思い出すのだろう。
邪神と同様、彼は僕を憎むことになるのかもしれない。
……。
……。
……分かっている。きっと幸せは長くは続かない。
最愛の人がいたにしろ、いなかったにしろ、前世、僕は勇者と敵対した魔王だ。勇者にとっては憎しみの対象でしか有り得ない。
でも、許されるのであれば、少しでも長くゼムベルトの側にいられたら、と願わずにはいられない。
「どうした?ジュノ……泣きそうな顔をして」
自室に戻り、椅子に腰掛けぼうっと窓の景色を眺めていた僕は、ゼムベルトが部屋に入って来たことにも気づいていなかった。
優しいその声に、また涙がにじんでくる。
いつまでそんな風に優しい声を掛けてくれるのだろう? その綺麗なディーププルーの瞳は、いつしか憎しみに彩られるのかもしれない。そう考えると僕はとてつもなく怖くなる。
椅子から立ち上がった僕はゼムベルトに歩み寄り、背中に手を回した。
「お願い……僕を抱いて」
「ジュノ?」
「僕をめちゃくちゃにしてほしい。いっそのこと殺して欲しいんだ」
「君を殺せるわけがないだろう? だけど、めちゃくちゃにする、という願いは叶えられるかもしれない」
ゼムベルトはふっと不敵な笑みを浮かべ、僕を抱え上げる。
冒険者として鍛えている今、僕の身体は決して貧弱じゃない。身長も成人男性の平均170は優に超えている。
けれども彼は軽々と僕の身体を抱えている。
そのまま寝台の上に運ばれ、僕は押し倒された。
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