前世魔王だった僕は、前世勇者だった男に求婚されたので逃げ出しました

榎村まこと

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終章

第69話 勇者対邪神①

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 ゴゴゴゴゴゴゴッッッ!!! 


 僕が全ての記憶を思い出したと同時に、大きな地震が新魔王城を襲った。
 予想外の出来事に、シキ……じゃなくて、シキに憑いたアレムが目を見開く。
 魔王城謁見の間の床に魔法陣が浮かび上がる。
 あれは……転移魔法の魔法陣?
 魔法陣の中心には、ゼムベルトとオルティス、そしてノアが立っていた。

「ジュノ、迎えにきたぞ」
「ゼム……何故ここに来た!? 弱っているとはいえ、相手は邪神だ。危険だというのに」
「邪神が危険? かつて俺にボロボロにやられた低級の神ごとき、俺の相手じゃない」
「え――――」

 ゼムベルトの言葉に、僕は息を飲む。
 まるでかつて邪神と戦ったことがあるかのような口ぶりだ。
 アレムが苦々しい表情を浮かべ、悔しげに呟く。

「く……勇者イベルドの記憶を取り戻したか」
「ああ、我が妻が魔族の軍勢と共に消えたという報告を聞いてな。自分の無力さを呪った瞬間、前世の記憶が蘇った」

 ゼムベルトは以前にも増して不遜な笑みを浮かべていた。
 確かに彼の身体からは、とてつもない力を感じる。アレム以上の圧も身体にビンビン伝わってくる。
 何なんだ ?                    
 前世、彼と戦ってきた時も、凄い力を感じ取っていたけれど、ここまでの圧はなかった。
 今の彼の強さは神の領域だ。
 でも、だからといってわざわざ僕を助けに来るなんて。

「さすがにここまで転移するのは骨が折れましたね。魔力が空になりましたよ……」

 転移魔法を使ったのはオルティスなのだろう。無理もない。人族が住む人界の範囲内でも遠くであれば半分以上の魔力を消費するんだ。魔界となると相当な魔力を消費する筈。
 僕もよく軍勢をここまで運べたものだ。
 魔族の軍勢もろとも自分を転移させた僕の力は、それだけ規格外なのだ。
 その時、謁見の間に衛兵であろう魔物達がなだれ込んできた。
 ノアが大剣をかまえ、オルティスに問う。

「オルティス、魔力0でも戦えそうか?」
「魔力の回復薬を飲むまでもないですね。雑魚相手に魔力は不要です」

 オルティスが剣を振るった瞬間、風の刃が生じ衛兵のグループを一掃する。
 風の刃は魔法ではなく、彼が持つ魔剣の作用だ。
 振るうだけで相手を切り裂く風の刃が生まれる。
 一方ノアは、力任せに新手の衛兵たちを次々と叩き斬る。
 衛兵はこちらにも襲い掛かってきたので、僕は手の平を前に差し出し呪文を唱える。

炎花ファイアルト


 控えめな魔法にしておいたけれど、すくなくとも僕の周囲にいる魔物達はあっというまに消し炭にかわった。

「呪文を唱える時のジュノも美しいな」
「いちいち僕を褒めすぎだ。君は」
「勇者の記憶を思い出してから、ますますジュノが愛しくなった」
「……? ? ?」

 記憶を思い出したのに、僕のことが愛しい? 
 僕は魔王だよ? 
 君と何日も戦い続けた、あの憎き魔王なんだよ? 
 それに君には会いたい人がいるんじゃなかったのか? 
 魔王を倒したら、会いたい人に会える……そう信じて二百年間も勇者として戦って来たんだろ? 
 だけど、その問いかけを口に出すことはできない。
 今、ゼムベルトとアレムは向かい合っているからだ。

異次元転移ディルファエレメスト

 ゼムベルトが呪文を唱えた瞬間、彼の姿とアレム姿がこの場から消えた。
 まさか二人は別の場所に移動したのか?
 だけどゼムベルトが唱えていた呪文は、普通の転移魔法とは違っていた。
 神の領域に到達した勇者と邪神アレムがまともにぶつかり合えば、僕らは巻き添えをくうことになる。
 だから別の場所に移動したのだろう。

 だけどこの世にあの二人が争える場所があるとは思えない。
 もしかしたら別次元の空間で戦っている可能性がある。
 そういえば、この指輪は番である魔石の居場所を教えてくれるって言っていたよな? 異次元でもそれが通用するかわからないけれど、僕は魔石に意識を集中してみることにする。

「衛兵たちは片付けたぞ。ジュノ、イベルドはどこへ行ったんだ?」
「静かにしろ。今、捜索中だ」

 僕は目を閉じて神経を集中させている所に、空気を読まない馬鹿……いやノアが声をかけてきた。
 オルティスがノアの肩をぽんと叩いてから、代わりに説明をする。

「皇室の秘宝、番の指輪は指輪の魔石を通して相手の居所を教えてくれるアイテムです」
「居所を教える? そういえば、イベルドの奴も、ジュノがいなくなったと分かったとたん、世界地図を広げて何の躊躇もなく此処にジュノがいるって言っていたな」
「ええ、指輪を通してジュノーム様の場所を知ったのだと思います。殿下は私の頭の中に直接、この場所の映像を送ってきました。おかげで初めての場所にもかかわらず容易にここに転移することが出来ました」

 脳内に映像を送る芸当なんて……本当に神の領域だ。
 ゼムベルト自身も転移魔法を使えただろうけど、邪神との戦いに備え魔力の浪費を控えるべきだと、オルティスが諭したんだろうな。見たわけじゃないけど、そんなやり取りがあったんじゃないかって思われる。
 ああ、今は余計な事を考えずに集中しよう。
 ゼムベルトは今、どこにいるのか。
 魔石よ、彼の居場所を僕に伝えて欲しい。
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