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第5話 最高の食卓

36「最高の晩餐」

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「いらっしゃーい。お待ちしてました!」

 ──翌日。
 店の前まで出てきていたおっちゃんが笑顔で出迎えてくれる。

「ささ、どうぞ。もう準備は出来てますので、お入りください」

 昨日このおっちゃんからの緊急の依頼を無事クリアした俺達は、その時たまたま手に入れたヨミーマウスを使ってのフルコースを、依頼のお礼として振る舞ってもらうことになっていた。

 俺が魔王軍幹部を撃退したと勘違いされたり、あるいはキノコに驚かされたりと色々なことがありすぎた一日だったが、せっかくなので今夜はすっかり忘れてこの世界の三大珍味とやらを堪能したいと思う。

「ヨミーマウスを中心に、最高の料理とアルコールドリンクをご用意させていただいております」

 店の中へと案内しながら俺たち四人に語っていく店主のおっちゃん。
 やがて席に案内されると飲み物を問われた。どこの世界でも定番の流れのようだ。

「私は緑茶で」
「僕はシルベルにしようかな」
「パリパーリー!」
「俺もそれで」

 シルベル? パリパーリー? なんだそれは。

「二人ともパリパーリーはいいけど大丈夫? 明日は朝からクエストに行く予定だけど」
「大丈夫だ。俺は強いからな」
「私も! こう見えて強いんだから!」
「そ、そう。ならいいけど」

 あ、あった。上にアルコールドリンクって書いてるからお酒のことだろうか。
 よく見たら他にもよく分からないものばっかり。というかそもそもチューハイとかハイボールとかそういう概念が無さそうな感じだ。

「よーし、エルヴァ! どっちが飲めるか勝負しよ!」
「おっ望むところだ。無理して吐くなよ?」

 てかお前らよくよく考えてみれば未成年だろ。
 あれか、この世界は関係ない感じなのか。

「ねえミスト、お酒って何歳から飲めるの?」
「オサケ?」

 おっ、これやらかしたやつだ。
 というか、アルコールドリンクって書いておいてお酒はアウトとか。さすがに罠だろ。

「あ、アルコールドリンク……」
「ああ、13歳だけど。知らなかったの?」

 13歳ってこっちじゃ中学生とかか。そんな時期から飲めちゃうのかよ。
 というか、聞いたはいいがどうしよう。これ知らないのって普通に変だよな。

「もしかして、ミラちゃんって外の国から来た人?」

 お、妙案じゃないかそれ。採用しよう。

「そ、そうなの。だから気になっちゃって」
「だから色々知らなかったんだね」
「そ、そう! だからこれからもいっぱい教えてくれると嬉しい」
「もちろん。なんでも聞いて」

 ああ、やっぱコイツ聖人だわ。是非頼りにさせてもらおう。

「お先にお飲み物です。もうすぐお料理をお持ちいたします」

 店員が四本のドリンクを持ってくる。ソフトドリンクは俺だけだ。

「ミラちゃん飲まないの?」
「う、うん。飲めないから……」

 正確には飲んだことがないだけだが、飲めないことにしておいた方が素直に通るだろう。

「そっかぁ……でもでももう飲めるかもしれないから一口飲んでみない!? パリパーリー美味しいよ!」
「ま、待て。殺す気か。飲めない奴にいきなりパリパーリー勧めんな」

 チャラ男並の軽さで勧めるシルヴィアと、冷静に静止するエルヴァ。
 そんなにパリパーリー強いんですか。二人とも本当に明日大丈夫ですか。

「えー。エルヴァのビビりー!」
「お前が無責任なだけだろ。というか乾杯しようぜ」
「そうだね、乾杯!」
「「「かんぱーい!」」」

 一瞬また何か始まる気がしたが大丈夫だったようで、グラスの当たる音を響かせると俺は二口ほどお茶を口に運ぶ。
 ミストも同じく二口ほど喉を通らせている。
 だが、気になるのは前の二人。

「ぷは! やっぱりパリパーリーは美味しいなあ!」
「だな。やっぱパリパーリーだわ」

 既に六、七割ほどグラスを空にした二人が幸せそうに呟いているが……。

「ねね、ミスト。私おさ……アルコールドリンクは一気飲みするとよく酔うって聞いたんだけど」
「そうだね。弱い人はあんまり勢いよく飲まない方がいいと思うよ」

 やっぱり、俺の知識は間違ってなかったらしい。しかも空きっ腹に酒って奴だろこれ。

「パリパーリーって強いんだよね?」
「けっこう強いね。僕も飲めなくはないけど、次の日の朝に予定が入ってたら避けたいね」

 名前からしてパリピって感じだもんな。

「二人はおさ……アルコールドリンク強いの?」
「さあ……僕もこのメンツでは初めてだから……」

 ……。

「店員さん! パリパーリー二本!」
「おっ気が利くな」

「……大丈夫かな」
「さあ……」


 ◇


 結論から言おう。
 ヨミーマウスはめちゃくちゃ美味かった。
 ステーキで出てきたのだが、もうそこらの牛肉なんぞ比べ物にならない。
 食ったことがないので比べることは出来ないが、多分神戸牛や松坂牛とかあのへんにも負けないと思う。
 やはり空気の読めないセインがヨミーマウスが来る直前に目覚めてギャーギャーと騒ぎ散らしてはくれたが、もうそんなことくらいどうだっていいと思える美味さであった。
 その他の料理も美味いものばかりで、もうそれはそれは最高な気分だ。

「ミラちゃんごめんね、背負わせちゃって」
「ううん、仕方ないよ」

 この二人が酔い潰れさえしなければ完璧だったのだが……。
 結局パリパーリーというお酒をグビグビいったエルヴァとシルヴィアは、終盤にはバッタリといって、シルヴィアに至ってはそれはそれはもう女の子らしくない状態になっていた。
 これはシルヴィアの名誉にも関わるので極力忘れようと思う。
 そんな訳で、エルヴァはほろ酔いのミストに、シルヴィアはシラフの俺に背負われてのご帰宅である。

「これって明日、大丈夫かな」
「ポーションがあるけど、面倒にはなるだろうね」

 ミスト曰く二日酔い用のポーションがあるらしい。
 だが、俺は今後とも酒には気を付けようと、心の底からそう思った。
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