騎士団小隊長ヨウカの剣

かかし仙人

文字の大きさ
3 / 5
第三章

騎士団小隊長ヨウカの剣 第三章

しおりを挟む
 翌日、長い遠征を終えたヨウカの部隊は、休暇を貰うことになった。
 にも関わらず、ヨウカの部隊は全員揃って、宿舎にある庭へと集合していた。
「さあ、できたわよ」
 ヨウカの趣味である料理を隊員達に振る舞うため、料理を作っていたのだ。
 昨日ユートと話して以来、普段の明るさを取り戻したヨウカだったが、他の隊員たちの表情はどこか暗い。
「ヨウカ、お前まさか」
「あ、ユート。昨日はありがとね。おかげ様でいつも通りの私になれたわ」
 唖然とするユート。
「副隊長、恨みますよ」
「……すまん」
 他の隊員たちが何やらぼそぼそと話しているが、気にしない。
 そんな彼らを他所に、ヨウカはご機嫌に鼻歌を歌いながら、皿に盛り付けをしていく。
「さ、ユート。あなたから食べていいわよ」
 そして、ヨウカは満面の笑みで、その皿を差し出した。
「何だ? これ」
「カレーよ」
 ヨウカがカレーと称したものは、紫色をしており、何やらマグマのようにぐつぐつと煮えたぎっていた。
 それだけでなく、とても料理とは思えない刺激臭がその場に充満していた。
 反射的に皿を受け取ってしまったユートは、その物体Xとにらめっこしていた。
「お前、これ何入れたんだ?」
「ん? 愛情かな?」
 ご機嫌な笑顔でヨウカが答えた。
 埒が明かないと思ったのか、ユートはスプーンで物体Xをすくい上げる。
 それを自らの口元へと運んだ瞬間、音を立てて崩れ去った。
「副隊長ー!」
 隊員たちの叫びがこだまする。
 そこに一人の来客が現れた。
「こ、こんにちは……」
 遠慮がちにやって来たのは、先日ワーウルフから助けた女性だった。
「さ、サーシャと申します。本日はお招き頂きありがとうございます」
 丁寧に頭を下げる。
「せっかくだから、私が呼んだのよ」
 ヨウカが経緯を簡単に説明する。
「さ、一緒に美味しくご飯を食べましょう」
「は、はい」
 その後ヨウカは、サーシャに自身の手料理を振る舞おうとしたのだが、全力で他の隊員に止められた。

 食事は結局他の隊員が作り直すことになり、楽しいひと時を過ごした後に解散することになった。
「あの……ヨウカさん……」
 そんな時に、サーシャから声をかけられた。
「ヨウカでいいわ」
「あ、はい」
「それで、何か私に用事?」
「いえ、その用事というものでもないのですが……」
 ん? とサーシャの顔を覗き込む。
「ヨウカさ……ヨウカはすごいです。みんなの中心にいて、勇気があって、強くて、私もそんな風になりたいです」
「……私は、強くなんかないよ」
 ヨウカは、サーシャに背を向け、王城の方を眺めた。
「いつもみんなに助けてもらってる。私なんて所詮飾り物の小隊長よ」
「そんなことないです!」
 ヨウカは振り返る。
「だって、私のこと助けてくれたじゃないですか」
「それは私が騎士だから……」
「それでも、誰にでもできることじゃないです。少なくとも私には……」
 サーシャはうつむく。
「サーシャ、ありがとう」
「え?」
「最近失踪事件が起きてるでしょ。それを解決できないことに責任を感じちゃってね。でも、ユートが、今できることをやればいい、って言ってくれたの。また、私同じ過ちを繰り返すところだったわ」
「そんな……私なんてお礼を言われる程のことは……」
「サーシャもそれ禁止。私なんてって言っちゃダメだよ」
「そう……ですね」
 二人は笑い合い、しばらく話を続けることにした。
 とても幸せな時間だった。
 しかし、その時間が長くは続かなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

悪役令嬢、休職致します

碧井 汐桜香
ファンタジー
そのキツい目つきと高飛車な言動から悪役令嬢として中傷されるサーシャ・ツンドール公爵令嬢。王太子殿下の婚約者候補として、他の婚約者候補の妨害をするように父に言われて、実行しているのも一因だろう。 しかし、ある日突然身体が動かなくなり、母のいる領地で療養することに。 作中、主人公が精神を病む描写があります。ご注意ください。 作品内に登場する医療行為や病気、治療などは創作です。作者は医療従事者ではありません。実際の症状や治療に関する判断は、必ず医師など専門家にご相談ください。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...