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13章
フェリー乗り場
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玄関のチャイムがなり、蓮見がドアを開けると、一人の老人が立っている。
「看護婦さん。さっき、金髪の男の人が、あんたの事をいろいろ聞いてくるから、なんだか気味悪くて、嘘を教えておいたから。」
「えっ、それはいつですか?」
「1時間くらい前かな。」
「ありがとうございます。」
蓮見は老人にお礼を言うと、龍を探しに街を走り回った。
「看護師さん、金髪の人が探してたよ。」
別の人が蓮見に声を掛ける。
「その人は、どこへ行きました?」
「さあ。診療所の方かな。」
「ありがとうございます。」
「蓮見ちゃん、こっちにいたの? ケンちゃんについて東京に行ったって聞いたけど。」
また別の人が蓮見を呼び止めた。
「一昨日、こっちに来たんです。」
「そうだったの。さっき、金髪の人から蓮見ちゃんの事をいろいろ聞かれて、東京へ戻ってるって話しちゃった。」
「その人と、どこで話しましたか?」
「診療所の前よ。ねっ、蓮見ちゃん、あなたはレントゲンさんと一緒に東京に戻らないわね? せっかく、名前も覚えたのに。」
「私はここにいますよ。」
「良かった。その人は蓮見ちゃんが東京へ戻ったと思って、フェリー乗り場にいるかもしれないから、急いで行って。」
「ありがとうございます。」
蓮見はフェリー乗り場で、龍の姿を探したが、どこにも見当たらなかった。ずっと走ってきたせいか、息が切れて苦しくなった。蓮見は熱くなったコンクリートに座り込んだ。
「大丈夫?」
後ろから声がした。
「大丈夫です。」
蓮見が振り向くと、龍が立っている。
「龍……。」
蓮見は龍の顔を見上げる。
「ごめんな。」
龍は蓮見を抱きしめた。
「ここの人は、みんな蓮見を大事にしてくれてるんだな。俺が連れて帰ると思ったのか、ずいぶん怒られたわ。」
龍は蓮見を立たせると、乗船乗り場の待合室へ連れて行った。
「はい、これ。」
蓮見にオレンジジュースを渡した。龍が缶コーヒーに口をつける。
「突然いなくなって、びっくりした。」
「黙って出てきてごめんなさい。」
「ごめんな。俺、ちゃんと話せば良かったな。」
龍は蓮見のジュースの蓋を開けた。
「走ってきたんでしょう? ほら、飲みなよ。」
龍の優しさが、指に刺さった小さなトゲの様にチクチクと痛む。
「咲江が家に泊まっていたんだ。花屋にくる配達の奥さんが勘違いして家に来たらしくって、怖くてしばらく家に帰れないっていうから泊めたんだよ。そのうち、だんだん泊まる日が続いて、蓮見が突然来た日、咲江はやっと家に帰る事にしたんだよ。だけどな、咲江は家に泊まっただけ。蓮見が心配してる事はない。」
蓮見は黙ったままだった。
「昔の俺なら、バレなきゃいいやって隠していたかもしれないけど、話そうとすると、いろんな事を考えてしまって……。本当は、久しぶりに会えて嬉しいはずなのに、後ろめたくて蓮見を見る事が出来なくってしまってさ。一昨日はレイと会って、そんな事を話し込んでるうちに、結局帰るのが遅くなってしまった。怒ってるだろう?」
「そうだったんだ。」
蓮見は下を向いたまま。
「蓮見が家に帰って来なかった日、咲江から蓮見に謝りたいからって連絡があって、店で話してたんだよ。本当は、蓮見に会った日に話そうとしたけど、咲江も言い出せなかったって。」
龍は蓮見の手を握った。
「本当にごめんな。」
「咲江さんはもう大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。ヒサシの所に引っ越したんだよ。その配達の人の事もちゃんと区切りつけたみたいだし。咲江、麻美にずいぶん怒られたみたいだな。俺も怒られたけどさ。」
「私も麻美さんに怒られた。」
二人は久しぶりに目を合わせて笑った。
「許せなかったら、許してくれなくていいよ。」
「龍。私、もう少しここで仕事をしようと思う。」
「1年の約束は延びるのか?」
「それは約束だからね。」
「淋しいな。」
「カカオは絶対アンコールしてくれなかった。」
「アンコールがあると、次があるって思うだろう。」
「ケン。」
「ケンじゃないって。蓮見の中ではずっとケンなんだろうけど、今はケンじゃないんだよ。」
「今日は帰らなくていいの?」
「そんな事、心配しなくていいから。」
「ここ、誰も見てないよ。」
蓮見は龍を見つめた。
「わかったよ。」
龍は顔を近づける。
「ねぇ、歌って。お願い。」
「はあ?」
「1回だけ、ケンの声聞いたら、もうケンって呼ばないから。」
龍は周りを見た。
「ほら、誰もいないでしょう?」
「あれ?」
龍が入口を見る。
「蓮見ちゃん、探したよ。」
東子が蓮見の肩に手を置いた。
「はじめまして。あら、本当に芸能人みたいな彼氏ね。」
「診療所の看護師さん。」
蓮見は立ち上がり龍に東子を紹介する。
「はじめまして。」
龍も立ち上がり東子に挨拶をした。
「東子さん、昨日はごちそうさまでした。楽しかったです。」
東子にお礼を言った。
「また来てちょうだい。ジジが喜ぶから。今度は耳元でもう100になったからって言ってやってね。」
龍が蓮見の顔を覗く。
「ババに会いに行く魔法の言葉よ。」
東子はそう言って笑った。
「蓮見ちゃん、これ、食べて。」
東子はケーキを持ってきた。
「うちの人が、蓮見ちゃんに食べさせてやってくれって、今朝、買ってきたの。昨日、本当はもう少し食べたかったんじゃないかって言い出して。」
龍は笑いながら
「どこへ行っても、ケーキに困らないんだな。」
蓮見にそう言った。
「彼氏さんも、一緒に食べるでしょう? フェリー乗場にいるみたいだって聞いて、すぐに東京に帰るのかなって思ってたんだけど、帰らないで、こっちに泊まるのよね?」
「2、3日泊まりますよ。」
蓮見は驚いて龍の顔を見た。
「それなら、蓮見ちゃん。原田先生がくる日までお休みにしてたんだから、ゆっくりするといいよ。それとね、蓮見ちゃんの彼氏さんは大工だって聞いたから、ちょっとお願いしたいことがあるんだけど。」
「俺は大工ではないですけど、なんですか?」
「お風呂場と台所を直したいのよ。ちょっと見てくれない?」
「いいですよ。」
「良かった。家に案内するから、ついてきて。」
龍は東子の家の他にも、何軒かの家を見てきた様だった。蓮見の部屋に来たのは、夕日が半分沈みかけた頃だった。
「これ。」
龍は黄色いフリージアの花束を蓮見に渡した。
「さっき、診療所に届いたんだって。」
「何かな?」
蓮見は花束を受け取ると、咲江からの手紙が入っていた。
蓮見へ
元気にしてる?
すごく嫌な思いをさせちゃったね。ごめんなさい。
私と龍は何もないよ、安心して。
前に、親切な配達の人がいるって話したでしょう。
その人の奥さんが、私を不倫相手だと勘違いして、家にきたの。
それから家に帰るのが怖くてね、龍の家に逃げた。
龍の家を選んだのは、私の家から遠いから、奥さんが追ってこないと思ってね。
最初は1日だけって思ってたけど、一人で家にいるのが怖くて、結局、1週間泊めてもらった。
でも、本当に何もなかったよ。信じて。
今はね、龍と同じバンドだった人と暮らしてる。彼はお節介なくらい親切にしてくれる。
龍はすごくかっこいいね。
本当はね、1週間、とても楽しかった。
だけど龍の心の中には蓮見しか住んでないってよくわかった。
こっちにはいつ帰ってくるの?
また、蓮見と話したいな。
咲江
「龍と相談して決めたの?」
「咲江が一人で決めたんだろう。」
「キレイだね。」
蓮見は花束に顔を近づける。蓮見の顔が黄色い花に照らされると、龍は朝日に照らされた蓮見の事を思い出した。
龍は蓮見の隣りに並ぶと、そっと蓮見の手を握った。
「俺の事、大工って紹介したのか?」
「ごめん、家を建てる人って言ったから、そう思ったのかも。」
「来週から、いくつか仕事ができたから、時々来るよ。」
「本当!」
龍は、部屋の隅にある段ボールを見つけた。
「なぁ、この段ボール。」
龍が段ボールに入っている青い手袋を見た。
「龍がくれた手袋だね。」
「蓮見が手袋をなくさなかったら、会うこともなかったんだよな。」
「ナオさんが、Tシャツを替えなかったら、会うこともなかったんだね。」
「もしかして、これ、みんな捨てようとしてたの?」
「見えないところにしまおうと思ってた。そのうち捨てるかもしれないし、また見る日がくるかもしれないって思って。」
「髪、切ったんだね。」
龍は蓮見の髪を触る。
「うん。」
「本当は、もう会わないつもりだったんだろう。」
「……。」
髪を触っていた手に蓮見が自分の手を重ねる。
「辛い話しになると思ったら、龍に会いたくなかった。」
「咲江と俺が付き合ってると思ってたのか。」
「咲江さん、キレイだし。私なんか……。」
龍は花束を見つめた。
「咲江、花を使って話しをしてくるなんて、ずるいよな。」
「これ、なんて花だろう。」
「ヒヨコってよく言ってるから、この色を選んだんだろう。」
蓮見の背中を抱いた龍。
「蓮見、俺に寄りかかりなよ。」
そう言って、蓮見の体をきつく抱きしめた。
「あのね。」
「何?」
「何回こうしても、ドキドキするね。」
蓮見は龍の腕に顔をつけた。
「初恋かよって、レイが笑ってた。」
「レイさんは昔のまま。」
「あいつは女にモテることしか考えてないから。蓮見はレイと話してて、よく落ちなかったね。」
「王子様みたいだもん。夢の中の人。」
二人は笑った。
「好きだよ。」
「私も。」
龍は蓮見の唇にゆっくり近づいてキスをした。唇が離れると
「風呂、一緒に入るろうか?」
そう龍は言った。
「また、それ。」
「何回目でいいよが出るんだよ。」
「龍がおじいちゃんになった頃かな。」
「それって一人で風呂に入れなくなった時って事か?」
「髪の毛も洗ってあげるよ。」
龍は自分の髪を触っている蓮見の腕を掴んだ。
「ごめんな。俺のせいで。」
「私こそ、ごめん。」
「1年って長いな。」
龍が下を向くと、蓮見は顔を覗き込んだ。
「泣いてるの?」
「泣くわけないだろう、何言ってんだよ。」
「龍。私に寄りかかってもいいよ。」
蓮見はそう言った。
龍が全身で蓮見に寄り掛かると、蓮見は崩れてしまった。
「ぜんぜんダメじゃないか。」
「龍、力入れたでしょう?」
倒れた蓮見の横に並び、龍は蓮見の体を引き寄せる。
龍に近付いた蓮見は、目を閉じた龍にキスをした。
「看護婦さん。さっき、金髪の男の人が、あんたの事をいろいろ聞いてくるから、なんだか気味悪くて、嘘を教えておいたから。」
「えっ、それはいつですか?」
「1時間くらい前かな。」
「ありがとうございます。」
蓮見は老人にお礼を言うと、龍を探しに街を走り回った。
「看護師さん、金髪の人が探してたよ。」
別の人が蓮見に声を掛ける。
「その人は、どこへ行きました?」
「さあ。診療所の方かな。」
「ありがとうございます。」
「蓮見ちゃん、こっちにいたの? ケンちゃんについて東京に行ったって聞いたけど。」
また別の人が蓮見を呼び止めた。
「一昨日、こっちに来たんです。」
「そうだったの。さっき、金髪の人から蓮見ちゃんの事をいろいろ聞かれて、東京へ戻ってるって話しちゃった。」
「その人と、どこで話しましたか?」
「診療所の前よ。ねっ、蓮見ちゃん、あなたはレントゲンさんと一緒に東京に戻らないわね? せっかく、名前も覚えたのに。」
「私はここにいますよ。」
「良かった。その人は蓮見ちゃんが東京へ戻ったと思って、フェリー乗り場にいるかもしれないから、急いで行って。」
「ありがとうございます。」
蓮見はフェリー乗り場で、龍の姿を探したが、どこにも見当たらなかった。ずっと走ってきたせいか、息が切れて苦しくなった。蓮見は熱くなったコンクリートに座り込んだ。
「大丈夫?」
後ろから声がした。
「大丈夫です。」
蓮見が振り向くと、龍が立っている。
「龍……。」
蓮見は龍の顔を見上げる。
「ごめんな。」
龍は蓮見を抱きしめた。
「ここの人は、みんな蓮見を大事にしてくれてるんだな。俺が連れて帰ると思ったのか、ずいぶん怒られたわ。」
龍は蓮見を立たせると、乗船乗り場の待合室へ連れて行った。
「はい、これ。」
蓮見にオレンジジュースを渡した。龍が缶コーヒーに口をつける。
「突然いなくなって、びっくりした。」
「黙って出てきてごめんなさい。」
「ごめんな。俺、ちゃんと話せば良かったな。」
龍は蓮見のジュースの蓋を開けた。
「走ってきたんでしょう? ほら、飲みなよ。」
龍の優しさが、指に刺さった小さなトゲの様にチクチクと痛む。
「咲江が家に泊まっていたんだ。花屋にくる配達の奥さんが勘違いして家に来たらしくって、怖くてしばらく家に帰れないっていうから泊めたんだよ。そのうち、だんだん泊まる日が続いて、蓮見が突然来た日、咲江はやっと家に帰る事にしたんだよ。だけどな、咲江は家に泊まっただけ。蓮見が心配してる事はない。」
蓮見は黙ったままだった。
「昔の俺なら、バレなきゃいいやって隠していたかもしれないけど、話そうとすると、いろんな事を考えてしまって……。本当は、久しぶりに会えて嬉しいはずなのに、後ろめたくて蓮見を見る事が出来なくってしまってさ。一昨日はレイと会って、そんな事を話し込んでるうちに、結局帰るのが遅くなってしまった。怒ってるだろう?」
「そうだったんだ。」
蓮見は下を向いたまま。
「蓮見が家に帰って来なかった日、咲江から蓮見に謝りたいからって連絡があって、店で話してたんだよ。本当は、蓮見に会った日に話そうとしたけど、咲江も言い出せなかったって。」
龍は蓮見の手を握った。
「本当にごめんな。」
「咲江さんはもう大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。ヒサシの所に引っ越したんだよ。その配達の人の事もちゃんと区切りつけたみたいだし。咲江、麻美にずいぶん怒られたみたいだな。俺も怒られたけどさ。」
「私も麻美さんに怒られた。」
二人は久しぶりに目を合わせて笑った。
「許せなかったら、許してくれなくていいよ。」
「龍。私、もう少しここで仕事をしようと思う。」
「1年の約束は延びるのか?」
「それは約束だからね。」
「淋しいな。」
「カカオは絶対アンコールしてくれなかった。」
「アンコールがあると、次があるって思うだろう。」
「ケン。」
「ケンじゃないって。蓮見の中ではずっとケンなんだろうけど、今はケンじゃないんだよ。」
「今日は帰らなくていいの?」
「そんな事、心配しなくていいから。」
「ここ、誰も見てないよ。」
蓮見は龍を見つめた。
「わかったよ。」
龍は顔を近づける。
「ねぇ、歌って。お願い。」
「はあ?」
「1回だけ、ケンの声聞いたら、もうケンって呼ばないから。」
龍は周りを見た。
「ほら、誰もいないでしょう?」
「あれ?」
龍が入口を見る。
「蓮見ちゃん、探したよ。」
東子が蓮見の肩に手を置いた。
「はじめまして。あら、本当に芸能人みたいな彼氏ね。」
「診療所の看護師さん。」
蓮見は立ち上がり龍に東子を紹介する。
「はじめまして。」
龍も立ち上がり東子に挨拶をした。
「東子さん、昨日はごちそうさまでした。楽しかったです。」
東子にお礼を言った。
「また来てちょうだい。ジジが喜ぶから。今度は耳元でもう100になったからって言ってやってね。」
龍が蓮見の顔を覗く。
「ババに会いに行く魔法の言葉よ。」
東子はそう言って笑った。
「蓮見ちゃん、これ、食べて。」
東子はケーキを持ってきた。
「うちの人が、蓮見ちゃんに食べさせてやってくれって、今朝、買ってきたの。昨日、本当はもう少し食べたかったんじゃないかって言い出して。」
龍は笑いながら
「どこへ行っても、ケーキに困らないんだな。」
蓮見にそう言った。
「彼氏さんも、一緒に食べるでしょう? フェリー乗場にいるみたいだって聞いて、すぐに東京に帰るのかなって思ってたんだけど、帰らないで、こっちに泊まるのよね?」
「2、3日泊まりますよ。」
蓮見は驚いて龍の顔を見た。
「それなら、蓮見ちゃん。原田先生がくる日までお休みにしてたんだから、ゆっくりするといいよ。それとね、蓮見ちゃんの彼氏さんは大工だって聞いたから、ちょっとお願いしたいことがあるんだけど。」
「俺は大工ではないですけど、なんですか?」
「お風呂場と台所を直したいのよ。ちょっと見てくれない?」
「いいですよ。」
「良かった。家に案内するから、ついてきて。」
龍は東子の家の他にも、何軒かの家を見てきた様だった。蓮見の部屋に来たのは、夕日が半分沈みかけた頃だった。
「これ。」
龍は黄色いフリージアの花束を蓮見に渡した。
「さっき、診療所に届いたんだって。」
「何かな?」
蓮見は花束を受け取ると、咲江からの手紙が入っていた。
蓮見へ
元気にしてる?
すごく嫌な思いをさせちゃったね。ごめんなさい。
私と龍は何もないよ、安心して。
前に、親切な配達の人がいるって話したでしょう。
その人の奥さんが、私を不倫相手だと勘違いして、家にきたの。
それから家に帰るのが怖くてね、龍の家に逃げた。
龍の家を選んだのは、私の家から遠いから、奥さんが追ってこないと思ってね。
最初は1日だけって思ってたけど、一人で家にいるのが怖くて、結局、1週間泊めてもらった。
でも、本当に何もなかったよ。信じて。
今はね、龍と同じバンドだった人と暮らしてる。彼はお節介なくらい親切にしてくれる。
龍はすごくかっこいいね。
本当はね、1週間、とても楽しかった。
だけど龍の心の中には蓮見しか住んでないってよくわかった。
こっちにはいつ帰ってくるの?
また、蓮見と話したいな。
咲江
「龍と相談して決めたの?」
「咲江が一人で決めたんだろう。」
「キレイだね。」
蓮見は花束に顔を近づける。蓮見の顔が黄色い花に照らされると、龍は朝日に照らされた蓮見の事を思い出した。
龍は蓮見の隣りに並ぶと、そっと蓮見の手を握った。
「俺の事、大工って紹介したのか?」
「ごめん、家を建てる人って言ったから、そう思ったのかも。」
「来週から、いくつか仕事ができたから、時々来るよ。」
「本当!」
龍は、部屋の隅にある段ボールを見つけた。
「なぁ、この段ボール。」
龍が段ボールに入っている青い手袋を見た。
「龍がくれた手袋だね。」
「蓮見が手袋をなくさなかったら、会うこともなかったんだよな。」
「ナオさんが、Tシャツを替えなかったら、会うこともなかったんだね。」
「もしかして、これ、みんな捨てようとしてたの?」
「見えないところにしまおうと思ってた。そのうち捨てるかもしれないし、また見る日がくるかもしれないって思って。」
「髪、切ったんだね。」
龍は蓮見の髪を触る。
「うん。」
「本当は、もう会わないつもりだったんだろう。」
「……。」
髪を触っていた手に蓮見が自分の手を重ねる。
「辛い話しになると思ったら、龍に会いたくなかった。」
「咲江と俺が付き合ってると思ってたのか。」
「咲江さん、キレイだし。私なんか……。」
龍は花束を見つめた。
「咲江、花を使って話しをしてくるなんて、ずるいよな。」
「これ、なんて花だろう。」
「ヒヨコってよく言ってるから、この色を選んだんだろう。」
蓮見の背中を抱いた龍。
「蓮見、俺に寄りかかりなよ。」
そう言って、蓮見の体をきつく抱きしめた。
「あのね。」
「何?」
「何回こうしても、ドキドキするね。」
蓮見は龍の腕に顔をつけた。
「初恋かよって、レイが笑ってた。」
「レイさんは昔のまま。」
「あいつは女にモテることしか考えてないから。蓮見はレイと話してて、よく落ちなかったね。」
「王子様みたいだもん。夢の中の人。」
二人は笑った。
「好きだよ。」
「私も。」
龍は蓮見の唇にゆっくり近づいてキスをした。唇が離れると
「風呂、一緒に入るろうか?」
そう龍は言った。
「また、それ。」
「何回目でいいよが出るんだよ。」
「龍がおじいちゃんになった頃かな。」
「それって一人で風呂に入れなくなった時って事か?」
「髪の毛も洗ってあげるよ。」
龍は自分の髪を触っている蓮見の腕を掴んだ。
「ごめんな。俺のせいで。」
「私こそ、ごめん。」
「1年って長いな。」
龍が下を向くと、蓮見は顔を覗き込んだ。
「泣いてるの?」
「泣くわけないだろう、何言ってんだよ。」
「龍。私に寄りかかってもいいよ。」
蓮見はそう言った。
龍が全身で蓮見に寄り掛かると、蓮見は崩れてしまった。
「ぜんぜんダメじゃないか。」
「龍、力入れたでしょう?」
倒れた蓮見の横に並び、龍は蓮見の体を引き寄せる。
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