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7章
まだ始まっていない
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高田と久しぶりにバイトが一緒になった日。
「悠に電話したの?」
優里は高田に聞いた。いつもは優里のそばを離れなかったのに、今日の高田は、なぜかよそよそしかった。
「連絡したよ。今度会うことになった。」
高田の冷たい態度など、自分にはどうって事はないけれど、やっぱりこの前の事を、高田は怒っているのだろうか。
「そう、良かったね。」
優里は飲み物を補充しに向かった。
夏休みが終わり、学校が始まってから、中嶋は忙しいのか、あまり連絡がこなくなった。もしかしたら、自分と会って話す事は、気を使って疲れるのかもしれない。本当はもっと近づきたいけど、あまりしつこいと、中嶋に嫌われるかもしれないと思い、たまにくる中嶋からのラインに、優里は迷惑に鳴らないよう、短い言葉で返していた。たった数文字の言葉を返すだけなのに、何度も書いては、それを消した。
「佐伯、俺、バイト替えようかと思って。」
高田が言った。
「そうなんだ。」
優里が遠くを見て返事をすると、
「佐伯は、淋しいって言ってくれるよな?」
そう言って、優里の肩に手を置いた。
「私も今月で終わりだし。」
優里は高田に言った。
「そうなのか?」
「うん。」
驚いた高田は、優里を自分の方に向けた。
「辞めてどうするんだよ。」
優里は前に向き直った。
「この前、バイトしてたビアガーデンの店長さんの店に誘われてね。」
「なぁ、そこの店の名前教えてよ。俺も一緒にバイトしたいから。」
「ダメ。女の子のバイトが、ほしかったみたいだから。」
家まで歩いていると、高田が後を追ってきた。
「佐伯の家、こっちだったっけ?」
「本屋に寄ろうと思ってね。」
高田の声に一度振り返ったが、優里はまた、歩き始めた。
「じゃあ、俺も一緒に行く。」
高田が隣りに並んだ。
「高田くん、悠と会うんでしょう?」
「そうだよ。」
「誰にでも気軽に話せていいね。」
「俺だって好きな子と話す時は緊張するよ。」
「じゃあ、家に帰って、悠と話す事でも考えたら?」
「佐伯は好きな男と話す時は緊張したりしないのかよ。」
「どうかな。」
「あの人は大学生?」
「あの人って?」
「この前、電話で話していた人。」
「あの人ね。」
「俺の知ってるやつなのか?」
「ううん、違う。」
「働いてる?」
「そう。」
「いくつの人?」
「29って言ってたかな。」
「そんな年の離れたやつ、絶対遊ばれてるんだって。」
「そうかもしれないね。」
信号待ちで止まると、優里は少し自分の足元を見た。
「佐伯、もっと今しかできない事、楽しまなきゃダメだよ。」
「それってどんな?」
「俺と同じサークルに入らないか?」
「なんだ、そういう事。私、そんなのには入らない。」
「そうやって人を遠ざけるなよ。友達とか作る気ないのか?」
「あんまり。」
「なぁ、土曜日空いてるか?」
「空いてるけど、空いてない。」
「なんだよ、それ。」
優里は再び歩き始めた。
優里は本屋に入ると、スポーツ誌の棚に向かった。
中嶋が岡田の特集をやっているからと、教えてくれた雑誌を探した。
「佐伯、そんな趣味あったのか?」
高田が聞いた。
「少し覚えたの。」
優里は雑誌を抱えると、レジに向かった。
入り口を出ると、見慣れた車が停まっている。
「優里ちゃん。」
中嶋が降りてきた。
「中嶋さん、本、見つけたよ。」
優里がそう言うと、中嶋は高田の方を見た。
「優里ちゃん、ちゃんと話してほしかったなぁ。」
中嶋はそう言って、優里を疑るような目をした。
「違うよ、同級生。」
「そっか。じゃあ。」
中嶋は本屋に入って行った。
やっと会えて、また話しをしたいと思って見つめた中嶋の背中は、なんだか、自分を避けているようだった。
「あの人には、彼氏に見えたんだって。」
高田は優里にそう言った。
「佐伯、帰ろうか。」
「…。」
優里は素っ気ない態度をしながら、高田と一緒に歩き出した。気持ちがソワソワして、さっきからずっと携帯が気になっていた。
どさくさに紛れて優里の家までついてきた高田は、中に入ってこようとした。
「ごめん。ここで。」
優里は高田にそう言うと、
「あの人は家に入れたんだろう?」
高田が言った。
「風邪引いた時に、いろいろお世話になったからね。」
「なあ、なんか飲ませろよ。俺、喉が乾いたから。」
高田はそう言うと、無理矢理、中に入ってきた。
本当は中嶋に連絡をして、早く誤解を解きたいのに、優里は携帯を見つめた。
「佐伯、喉乾いた。」
高田は冷蔵庫を指さした。
「これ飲んだら、帰って。」
優里は高田に冷たいお茶を出した。
「氷、入れてくれたのか。」
「うん。」
「佐伯も飲めよ。少し、話したいからさ。」
「私はいい。」
「まだ、肩痛むのか?」
高田は優里の肩を触った。
「もう大丈夫。」
「揉んでやるよ。俺、けっこう上手いって言われるから。」
「いいよ、そんな痛くないし。」
「遠慮すんなって。」
高田は優里の後ろに回った。優里の肩をぎゅっと握ると、
「硬いな~、勉強ばっかりしてたからだろう。」
そう言って肩を揉み始めた。気持ちがいいはずの揉み解しなのに、中嶋の事が気になって高田の手の感触すらわからない。
「佐伯。」
「何?」
「さっきのやつの事、気になってるのか?」
「…。」
「そいつに電話掛ければいいだろう、誤解だって。」
「そんな事したら、なんだか言い訳してるみたいだよ。」
「じゃあ、これでおしまいにしろよ。お前と俺の方が釣り合ってるように見えるんだって。」
優里は首を振って膝を抱えた。
「こんな佐伯見るの、初めてだな。」
高田は優里の背中を抱きしめた。中嶋とは違うぎこちない空気が、優里を包んだ。
「飲んだら帰ってって言ったでしょう。」
優里は顔を伏せたまま、高田に言った。
「帰れるわけないだろう。やっとここまできたのに。」
高田は優里を押し倒した。
「ずっと、好きだったんだ。これから俺と付き合おうよ。」
優里は首を振った。
「そんなに俺の事が嫌いか?」
「違う。」
「佐伯は遊ばれてるんだって。」
「違う!」
優里は高田の胸を押し返して、起き上がろうとした。
「佐伯、目覚ませよ。」
自分の感情を誰かに知られる事は、裸を見られる事と同じくらいに恥ずかしい。中嶋の事が好きだと言って泣いてしまえば、高田は私から離れていってくれるだろうか。そんな事をしたら、せっかく守ってきた自分という感情のないブランドが、やっぱり偽物だったのかと、笑われてしまう気がした。
「なんにもないんだね。空っぽ。」
優里は高田に言った。
「何言ってんだよ、お前。」
「こんな事して、悠、怒るよ。」
「八木の事は関係ない。俺は佐伯に近づきたかったから、八木を利用した。」
「馬鹿みたい。」
「俺の事、軽蔑したか?」
「そんな感情なんて、持ってないもの。」
高田は優里にキスをした。優里の服の中に手を入れると、
「ベッド行こうよ。」
高田がそう言った。
「あっ、鼻血。」
優里は溢れ出す鼻血をテッシュで押さえた。
「高田くん、服につかなかった?」
「ついてないよ。おい、大丈夫なのか?」
優里は中嶋が渡してくれたタオルで顔を覆った。
「一回出るとね、けっこう止まらないの。高田くん、悪いけど帰って。」
優里の服についた真っ赤な血を見て、高田の気持ちが引いているのがわかる。
「ごめん、帰るわ。」
高田はそう言って帰っていった。
鼻血が止まり、汚れた服を洗っていた。ずっと下を向いていたためか、鼻血がまた出てきた。優里は咄嗟に上を向いたせいで、血液が喉に落ちてきて、咳をすると、口から血が吹き出した。初めての事に、動揺した優里は、血塗れになった洗面所にしゃがみこんで、ボロボロと泣き出した。
鼻血こどきで、死ぬわけはないと思っていても、情けない自分の姿を、また近くで別の自分が笑っている気がした。
もう、生きているのが嫌になる。
「優里ちゃん。」
声の方を振り向くと、中嶋が立っていた。
「冷やそうか。」
中嶋は氷の入った袋を優里の鼻の上に乗せた。
「泣くなんてめずらしいね。鼻血なんかよくある事だろう。」
中嶋の言葉に、優里はまた涙が出てきた。
「止まったみたい。」
優里は顔からタオルを離した。
「そろそろ、鼻血が出る頃かと思った。」
「なんでわかるの?」
「月の満ち欠けは関係してるって、姉が言ってたから。」
「玄関空いてた?」
「空いてたよ。本当に不用心だね。」
そっか、高田は鼻血を見て逃げ出したんだ。
「中嶋さん、今日は帰るの?」
「優里ちゃんに彼氏がいるなら、遠慮しておくよ。」
「ちゃんと話しがしたい。」
「わかった。俺も優里ちゃんと話しがしたいから。」
優里はニッコリ笑って頷いた。
「お腹減りました。中嶋さん、一緒に食べよう。」
優里は顔を洗い終えると、キッチンへ向かった。
優里の隣りには中嶋が立っている。
「何作るの?」
「グラタン。昨日のうち、種作っておいたから。」
「種?」
優里は冷蔵庫に向かった。
「本屋で会った人は高校の同級生。バイト先が同じなの。」
優里は取り出したタッパーを開けた。
「彼はきっと優里ちゃんの事が好きなんだよ。」
「鼻血見て、逃げて行きました。」
中嶋は吹き出した。
「優里ちゃんの鼻血は、男ならけっこう引くからね。」
「中嶋さんは、逃げないの?」
「俺は姉の血で慣れてるから。」
優里は皿に盛った冷たいグラタンを、オーブンに入れた。
「中嶋さん。」
「どうした?」
中嶋は優里の顔を覗いた。
「遊びなの?」
中嶋は優里の気持ちに、気がついていた。
「遊びで泊まっていったりしないだろう?」
「だって、そういう関係だってあるんだし。」
「優里ちゃんはそれでもいい?」
「嫌だよ、そんなの。」
「じゃあ、ちゃんと言ってくれないかな。」
「ずるいよ、中嶋さん。言ったら逃げるでしょう?」
中嶋は優里の頭を撫でた。
「悠に電話したの?」
優里は高田に聞いた。いつもは優里のそばを離れなかったのに、今日の高田は、なぜかよそよそしかった。
「連絡したよ。今度会うことになった。」
高田の冷たい態度など、自分にはどうって事はないけれど、やっぱりこの前の事を、高田は怒っているのだろうか。
「そう、良かったね。」
優里は飲み物を補充しに向かった。
夏休みが終わり、学校が始まってから、中嶋は忙しいのか、あまり連絡がこなくなった。もしかしたら、自分と会って話す事は、気を使って疲れるのかもしれない。本当はもっと近づきたいけど、あまりしつこいと、中嶋に嫌われるかもしれないと思い、たまにくる中嶋からのラインに、優里は迷惑に鳴らないよう、短い言葉で返していた。たった数文字の言葉を返すだけなのに、何度も書いては、それを消した。
「佐伯、俺、バイト替えようかと思って。」
高田が言った。
「そうなんだ。」
優里が遠くを見て返事をすると、
「佐伯は、淋しいって言ってくれるよな?」
そう言って、優里の肩に手を置いた。
「私も今月で終わりだし。」
優里は高田に言った。
「そうなのか?」
「うん。」
驚いた高田は、優里を自分の方に向けた。
「辞めてどうするんだよ。」
優里は前に向き直った。
「この前、バイトしてたビアガーデンの店長さんの店に誘われてね。」
「なぁ、そこの店の名前教えてよ。俺も一緒にバイトしたいから。」
「ダメ。女の子のバイトが、ほしかったみたいだから。」
家まで歩いていると、高田が後を追ってきた。
「佐伯の家、こっちだったっけ?」
「本屋に寄ろうと思ってね。」
高田の声に一度振り返ったが、優里はまた、歩き始めた。
「じゃあ、俺も一緒に行く。」
高田が隣りに並んだ。
「高田くん、悠と会うんでしょう?」
「そうだよ。」
「誰にでも気軽に話せていいね。」
「俺だって好きな子と話す時は緊張するよ。」
「じゃあ、家に帰って、悠と話す事でも考えたら?」
「佐伯は好きな男と話す時は緊張したりしないのかよ。」
「どうかな。」
「あの人は大学生?」
「あの人って?」
「この前、電話で話していた人。」
「あの人ね。」
「俺の知ってるやつなのか?」
「ううん、違う。」
「働いてる?」
「そう。」
「いくつの人?」
「29って言ってたかな。」
「そんな年の離れたやつ、絶対遊ばれてるんだって。」
「そうかもしれないね。」
信号待ちで止まると、優里は少し自分の足元を見た。
「佐伯、もっと今しかできない事、楽しまなきゃダメだよ。」
「それってどんな?」
「俺と同じサークルに入らないか?」
「なんだ、そういう事。私、そんなのには入らない。」
「そうやって人を遠ざけるなよ。友達とか作る気ないのか?」
「あんまり。」
「なぁ、土曜日空いてるか?」
「空いてるけど、空いてない。」
「なんだよ、それ。」
優里は再び歩き始めた。
優里は本屋に入ると、スポーツ誌の棚に向かった。
中嶋が岡田の特集をやっているからと、教えてくれた雑誌を探した。
「佐伯、そんな趣味あったのか?」
高田が聞いた。
「少し覚えたの。」
優里は雑誌を抱えると、レジに向かった。
入り口を出ると、見慣れた車が停まっている。
「優里ちゃん。」
中嶋が降りてきた。
「中嶋さん、本、見つけたよ。」
優里がそう言うと、中嶋は高田の方を見た。
「優里ちゃん、ちゃんと話してほしかったなぁ。」
中嶋はそう言って、優里を疑るような目をした。
「違うよ、同級生。」
「そっか。じゃあ。」
中嶋は本屋に入って行った。
やっと会えて、また話しをしたいと思って見つめた中嶋の背中は、なんだか、自分を避けているようだった。
「あの人には、彼氏に見えたんだって。」
高田は優里にそう言った。
「佐伯、帰ろうか。」
「…。」
優里は素っ気ない態度をしながら、高田と一緒に歩き出した。気持ちがソワソワして、さっきからずっと携帯が気になっていた。
どさくさに紛れて優里の家までついてきた高田は、中に入ってこようとした。
「ごめん。ここで。」
優里は高田にそう言うと、
「あの人は家に入れたんだろう?」
高田が言った。
「風邪引いた時に、いろいろお世話になったからね。」
「なあ、なんか飲ませろよ。俺、喉が乾いたから。」
高田はそう言うと、無理矢理、中に入ってきた。
本当は中嶋に連絡をして、早く誤解を解きたいのに、優里は携帯を見つめた。
「佐伯、喉乾いた。」
高田は冷蔵庫を指さした。
「これ飲んだら、帰って。」
優里は高田に冷たいお茶を出した。
「氷、入れてくれたのか。」
「うん。」
「佐伯も飲めよ。少し、話したいからさ。」
「私はいい。」
「まだ、肩痛むのか?」
高田は優里の肩を触った。
「もう大丈夫。」
「揉んでやるよ。俺、けっこう上手いって言われるから。」
「いいよ、そんな痛くないし。」
「遠慮すんなって。」
高田は優里の後ろに回った。優里の肩をぎゅっと握ると、
「硬いな~、勉強ばっかりしてたからだろう。」
そう言って肩を揉み始めた。気持ちがいいはずの揉み解しなのに、中嶋の事が気になって高田の手の感触すらわからない。
「佐伯。」
「何?」
「さっきのやつの事、気になってるのか?」
「…。」
「そいつに電話掛ければいいだろう、誤解だって。」
「そんな事したら、なんだか言い訳してるみたいだよ。」
「じゃあ、これでおしまいにしろよ。お前と俺の方が釣り合ってるように見えるんだって。」
優里は首を振って膝を抱えた。
「こんな佐伯見るの、初めてだな。」
高田は優里の背中を抱きしめた。中嶋とは違うぎこちない空気が、優里を包んだ。
「飲んだら帰ってって言ったでしょう。」
優里は顔を伏せたまま、高田に言った。
「帰れるわけないだろう。やっとここまできたのに。」
高田は優里を押し倒した。
「ずっと、好きだったんだ。これから俺と付き合おうよ。」
優里は首を振った。
「そんなに俺の事が嫌いか?」
「違う。」
「佐伯は遊ばれてるんだって。」
「違う!」
優里は高田の胸を押し返して、起き上がろうとした。
「佐伯、目覚ませよ。」
自分の感情を誰かに知られる事は、裸を見られる事と同じくらいに恥ずかしい。中嶋の事が好きだと言って泣いてしまえば、高田は私から離れていってくれるだろうか。そんな事をしたら、せっかく守ってきた自分という感情のないブランドが、やっぱり偽物だったのかと、笑われてしまう気がした。
「なんにもないんだね。空っぽ。」
優里は高田に言った。
「何言ってんだよ、お前。」
「こんな事して、悠、怒るよ。」
「八木の事は関係ない。俺は佐伯に近づきたかったから、八木を利用した。」
「馬鹿みたい。」
「俺の事、軽蔑したか?」
「そんな感情なんて、持ってないもの。」
高田は優里にキスをした。優里の服の中に手を入れると、
「ベッド行こうよ。」
高田がそう言った。
「あっ、鼻血。」
優里は溢れ出す鼻血をテッシュで押さえた。
「高田くん、服につかなかった?」
「ついてないよ。おい、大丈夫なのか?」
優里は中嶋が渡してくれたタオルで顔を覆った。
「一回出るとね、けっこう止まらないの。高田くん、悪いけど帰って。」
優里の服についた真っ赤な血を見て、高田の気持ちが引いているのがわかる。
「ごめん、帰るわ。」
高田はそう言って帰っていった。
鼻血が止まり、汚れた服を洗っていた。ずっと下を向いていたためか、鼻血がまた出てきた。優里は咄嗟に上を向いたせいで、血液が喉に落ちてきて、咳をすると、口から血が吹き出した。初めての事に、動揺した優里は、血塗れになった洗面所にしゃがみこんで、ボロボロと泣き出した。
鼻血こどきで、死ぬわけはないと思っていても、情けない自分の姿を、また近くで別の自分が笑っている気がした。
もう、生きているのが嫌になる。
「優里ちゃん。」
声の方を振り向くと、中嶋が立っていた。
「冷やそうか。」
中嶋は氷の入った袋を優里の鼻の上に乗せた。
「泣くなんてめずらしいね。鼻血なんかよくある事だろう。」
中嶋の言葉に、優里はまた涙が出てきた。
「止まったみたい。」
優里は顔からタオルを離した。
「そろそろ、鼻血が出る頃かと思った。」
「なんでわかるの?」
「月の満ち欠けは関係してるって、姉が言ってたから。」
「玄関空いてた?」
「空いてたよ。本当に不用心だね。」
そっか、高田は鼻血を見て逃げ出したんだ。
「中嶋さん、今日は帰るの?」
「優里ちゃんに彼氏がいるなら、遠慮しておくよ。」
「ちゃんと話しがしたい。」
「わかった。俺も優里ちゃんと話しがしたいから。」
優里はニッコリ笑って頷いた。
「お腹減りました。中嶋さん、一緒に食べよう。」
優里は顔を洗い終えると、キッチンへ向かった。
優里の隣りには中嶋が立っている。
「何作るの?」
「グラタン。昨日のうち、種作っておいたから。」
「種?」
優里は冷蔵庫に向かった。
「本屋で会った人は高校の同級生。バイト先が同じなの。」
優里は取り出したタッパーを開けた。
「彼はきっと優里ちゃんの事が好きなんだよ。」
「鼻血見て、逃げて行きました。」
中嶋は吹き出した。
「優里ちゃんの鼻血は、男ならけっこう引くからね。」
「中嶋さんは、逃げないの?」
「俺は姉の血で慣れてるから。」
優里は皿に盛った冷たいグラタンを、オーブンに入れた。
「中嶋さん。」
「どうした?」
中嶋は優里の顔を覗いた。
「遊びなの?」
中嶋は優里の気持ちに、気がついていた。
「遊びで泊まっていったりしないだろう?」
「だって、そういう関係だってあるんだし。」
「優里ちゃんはそれでもいい?」
「嫌だよ、そんなの。」
「じゃあ、ちゃんと言ってくれないかな。」
「ずるいよ、中嶋さん。言ったら逃げるでしょう?」
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