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9章
追いかけてきたもの
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10月。
緑色の町が、少しずつ色を変え始めた頃、優衣と外で遊ぶ事ができなくなった隼斗は、ナオと一緒にゲームをする事が増えた。
「生意気だぞ、隼斗。」
ナオはなかなか隼斗に勝てなかった。
「アヤカ先生が、ナオは昔から弱いやつだって言ってたよ。」
「そんな話し嘘に決まってるだろう。」
少し前、ナオは小学校の時からずっと好きだったアヤカと話す機会があった。
ピアノの調律を頼まれて、隼斗の通う保育園に向かうと、
園長が案内したピアノの前に、アヤカがいた。
「佐原先生、ピアノの練習なら、お遊戯室でしてね。」
「今日、調律の日でした?」
「そうですよ。」
教室を出ていこうとしたアヤカは、ナオの方を振り向いた。
「直斗くんでしょう?柊子ちゃんの子供がここにきてるから、いつか会えるかもしれないって思ってた。」
アヤカはナオにそう言った。
「隼斗の先生なの?」
「そうだよ。」
ずっと好きだったアヤカと、大人になった自分が、初めてこうして話しをする。
「直斗くん、ピアノの調律やってるんだ。東京で、音楽をやってるって聞いたけど、こっちに戻ってきてたんだね。」
「もう、3年になるかな。」
「小学校からずっと一緒だったのに、こんなふうに話したのって初めてだね。」
「そうだね。」
「直斗くんは、結婚してるの?」
「一人だよ。アヤカちゃんは小田と結婚したって聞いたよ。小田と同じバドミントン部で、ずっと仲が良かったもんね。」
「私達、先月別れたの。だからまた佐原に戻った。」
「そうだったんだ。ごめん、余計な事言って。」
「大人になるといろいろあるね。いろんなものが手に入る様になると、何が欲しかったか、わからなくなる。」
「仕方ないよ。」
ナオはそう言うのが精一杯だった。
「ごめん、邪魔したね。」
アヤカは教室を出ていった。
小さな彼女の背中を見ていたナオ。
自分がずっと好きだった人は、こんなに淋しそうに話すんだ。
昨日から続いている雨は、色づいた葉っぱをアスファルトに貼り付ける。
最初からついている模様の様な、赤い紅葉の葉。
優衣の帰りがやけに遅かった。
診療所はとっくに終わっているはずなのに。
胸騒ぎがしたナオは、玄関を出て国道まで歩いてきた。
優衣の車が停まっている。
後ろには、もう一台の車が後をつけるように停まっていた。
車の中で優衣は誰かとモメているようだった。
ナオが車の窓を叩くと、優衣はドアを開けようとするが、隣りにいた男性が、優衣の手を掴んで離そうとしない。
ナオはドアを゙開けて、優衣の手を掴んでいる手をはがすと、外に出た優衣の体は、アスファルトにできた水溜まりにストンっと落ちた。
「あんた達のせいで、めちゃくちゃだよ。」
車から降りた男性はそう言った。
優衣とモメていたのは朝川だった。
「その気にさせておいて、突然いなくなるなんて最低だ。」
朝川が自分を罵るのを黙って聞いていた優衣は、
「もう、大嫌いになったでしょう?」
朝川を見て静かに微笑んだ。
さっきまで声を荒げていた朝川が、
「許してやるから、戻ってこいよ。結婚するって、みんなに言ってしまったし。」
そう言ったが、優衣は首を振った。
「ナオ、帰ろう。」
そう言って車の鍵をナオを渡した。
「そんなやつのどこがいいんだよ!」
「朝川くんは、私のどこが良かったの?」
「ふざけるなよ。」
「病院もひどい辞め方をしたし、私はもう、あの町で笑って暮らす事なんかできないから。」
また、雨が降り出す。
車から出た時に落ちた水溜まりのせいで、優衣の服は濡れていた。
「私は歩いて帰るから、車、お願い。」
夜の雨の中を走っていく優衣の背中は、雨の中でも走っていても、はっきりとした輪郭を、ナオの目に映した。
「優衣は嫌がるかもしれないけど、雨が止むまで休んでいってください。」
ナオは朝川にそう言った。
朝川は怪訝そうな顔をしたが、
「俺もあんたと話がしたい。」
そう言って、ナオの運転する車の後をつけてきた。
「今日は部屋が空いてないんで、こっちを使ってください。」
ナオは従業員用の部屋を、朝川に案内した。
「あんた、彼女の元彼に、一体何をやってるんですか?」
「本当ですね。」
「連れて帰るかもしれませんよ。」
「優衣が本当にそうしたいなら、俺は止めません。」
ナオは朝川に着換えとタオルを渡し、部屋を出ていった。
少しすると、多岐が食事を持ってきた。
「優衣はどこにいるんですか?」
朝川は多岐に聞いた。
「もう寝たと思いますよ。直斗くんの甥っ子が、よく優衣さんと一緒に寝るみたいですから。」
「甥っ子って?」
「6歳の子ですよ。お母さんは遅くまで、旅館の仕事があるから、雨の日は淋しくなるんでしょうね。」
「あの人は、まだ起きてますか?」
「直斗さんですか?たぶん、まだ起きてますよ。」
「あの、起きてたら、少し話しをしたいと伝えてもらえませんか?」
ナオが缶ビールを持って、朝川の所へやってきた。
もらった缶ビールを開けると、朝川はそれを音を立てて飲んだ。
「優衣はもう寝たんですか?」
「寝てますよ。俺の甥っ子と一緒に寝てます。」
「あんなに言い合ったのに、すぐに眠るなんて、けっこう図太い神経の女ですよね。」
「そうですね。」
ナオは、さっきまで隼斗と楽しそうに話していた優衣を思い浮かべて、少し笑った。
「高校の頃のあいつは、控えめで印象に残らないやつでしたから、こっちの言う事はなんでも聞く、いい子のままだと思っていたのに。大学病院から来たっていうし、そんな子は田舎じゃ珍しいですからね。結婚にも泊がつくし、優衣なら理想の奥さんになってくれると思いました。」
「そうだったんですか。」
「弱い女でいるほうが、楽なのに、あいつはバカですね。」
「はっきり、物を言う事がありますよね。意地っ張りな所もあるし。」
「優衣をここに連れてきた事、後悔してますよ。ずっとピアノの前から動かなかったの時に、嫌な予感がしたんです。」
「音を1回聞いたら、忘れないん子なんです。ここへきた日、俺が適当に弾いたメロディを、同じように弾いた。それだけの事なんですけどね。」
「言ってる事がぜんぜんわかりません。」
「優衣の事、大嫌いになれますか?」
「なれないから、苦しんでるんです。」
「きっと、優衣も同じですよ。」
「優衣に触った事あるでしょう?」
「えっ?」
ナオは優衣がここへ来た最初の夜、眠っている優衣の背中を抱きしめた時の事を思い出した。
「どんなにこっちが求めても、影を抱いているみたいなんです。腕の中にいたはずなのに、あいつはどこにもいない。またぼんやり見えてきたと思えば、消えていってしまう。何なんでしょうね、本当に。」
朝川はいくら優衣を追いかけても、自分の元へ来ない事はわかっていた。それでも、初めて自分から離れていった女の優衣を、なかなか許すことができない。
「優衣、明日は早いんですか?」
「勤め先がここから30分掛かるから、7時過ぎには出ていきますよ。」
「何がいいんですかね、本当に。優衣が出掛ける前に、ここを出ます。楽譜を破った事、謝っていたと伝えてください。」
緑色の町が、少しずつ色を変え始めた頃、優衣と外で遊ぶ事ができなくなった隼斗は、ナオと一緒にゲームをする事が増えた。
「生意気だぞ、隼斗。」
ナオはなかなか隼斗に勝てなかった。
「アヤカ先生が、ナオは昔から弱いやつだって言ってたよ。」
「そんな話し嘘に決まってるだろう。」
少し前、ナオは小学校の時からずっと好きだったアヤカと話す機会があった。
ピアノの調律を頼まれて、隼斗の通う保育園に向かうと、
園長が案内したピアノの前に、アヤカがいた。
「佐原先生、ピアノの練習なら、お遊戯室でしてね。」
「今日、調律の日でした?」
「そうですよ。」
教室を出ていこうとしたアヤカは、ナオの方を振り向いた。
「直斗くんでしょう?柊子ちゃんの子供がここにきてるから、いつか会えるかもしれないって思ってた。」
アヤカはナオにそう言った。
「隼斗の先生なの?」
「そうだよ。」
ずっと好きだったアヤカと、大人になった自分が、初めてこうして話しをする。
「直斗くん、ピアノの調律やってるんだ。東京で、音楽をやってるって聞いたけど、こっちに戻ってきてたんだね。」
「もう、3年になるかな。」
「小学校からずっと一緒だったのに、こんなふうに話したのって初めてだね。」
「そうだね。」
「直斗くんは、結婚してるの?」
「一人だよ。アヤカちゃんは小田と結婚したって聞いたよ。小田と同じバドミントン部で、ずっと仲が良かったもんね。」
「私達、先月別れたの。だからまた佐原に戻った。」
「そうだったんだ。ごめん、余計な事言って。」
「大人になるといろいろあるね。いろんなものが手に入る様になると、何が欲しかったか、わからなくなる。」
「仕方ないよ。」
ナオはそう言うのが精一杯だった。
「ごめん、邪魔したね。」
アヤカは教室を出ていった。
小さな彼女の背中を見ていたナオ。
自分がずっと好きだった人は、こんなに淋しそうに話すんだ。
昨日から続いている雨は、色づいた葉っぱをアスファルトに貼り付ける。
最初からついている模様の様な、赤い紅葉の葉。
優衣の帰りがやけに遅かった。
診療所はとっくに終わっているはずなのに。
胸騒ぎがしたナオは、玄関を出て国道まで歩いてきた。
優衣の車が停まっている。
後ろには、もう一台の車が後をつけるように停まっていた。
車の中で優衣は誰かとモメているようだった。
ナオが車の窓を叩くと、優衣はドアを開けようとするが、隣りにいた男性が、優衣の手を掴んで離そうとしない。
ナオはドアを゙開けて、優衣の手を掴んでいる手をはがすと、外に出た優衣の体は、アスファルトにできた水溜まりにストンっと落ちた。
「あんた達のせいで、めちゃくちゃだよ。」
車から降りた男性はそう言った。
優衣とモメていたのは朝川だった。
「その気にさせておいて、突然いなくなるなんて最低だ。」
朝川が自分を罵るのを黙って聞いていた優衣は、
「もう、大嫌いになったでしょう?」
朝川を見て静かに微笑んだ。
さっきまで声を荒げていた朝川が、
「許してやるから、戻ってこいよ。結婚するって、みんなに言ってしまったし。」
そう言ったが、優衣は首を振った。
「ナオ、帰ろう。」
そう言って車の鍵をナオを渡した。
「そんなやつのどこがいいんだよ!」
「朝川くんは、私のどこが良かったの?」
「ふざけるなよ。」
「病院もひどい辞め方をしたし、私はもう、あの町で笑って暮らす事なんかできないから。」
また、雨が降り出す。
車から出た時に落ちた水溜まりのせいで、優衣の服は濡れていた。
「私は歩いて帰るから、車、お願い。」
夜の雨の中を走っていく優衣の背中は、雨の中でも走っていても、はっきりとした輪郭を、ナオの目に映した。
「優衣は嫌がるかもしれないけど、雨が止むまで休んでいってください。」
ナオは朝川にそう言った。
朝川は怪訝そうな顔をしたが、
「俺もあんたと話がしたい。」
そう言って、ナオの運転する車の後をつけてきた。
「今日は部屋が空いてないんで、こっちを使ってください。」
ナオは従業員用の部屋を、朝川に案内した。
「あんた、彼女の元彼に、一体何をやってるんですか?」
「本当ですね。」
「連れて帰るかもしれませんよ。」
「優衣が本当にそうしたいなら、俺は止めません。」
ナオは朝川に着換えとタオルを渡し、部屋を出ていった。
少しすると、多岐が食事を持ってきた。
「優衣はどこにいるんですか?」
朝川は多岐に聞いた。
「もう寝たと思いますよ。直斗くんの甥っ子が、よく優衣さんと一緒に寝るみたいですから。」
「甥っ子って?」
「6歳の子ですよ。お母さんは遅くまで、旅館の仕事があるから、雨の日は淋しくなるんでしょうね。」
「あの人は、まだ起きてますか?」
「直斗さんですか?たぶん、まだ起きてますよ。」
「あの、起きてたら、少し話しをしたいと伝えてもらえませんか?」
ナオが缶ビールを持って、朝川の所へやってきた。
もらった缶ビールを開けると、朝川はそれを音を立てて飲んだ。
「優衣はもう寝たんですか?」
「寝てますよ。俺の甥っ子と一緒に寝てます。」
「あんなに言い合ったのに、すぐに眠るなんて、けっこう図太い神経の女ですよね。」
「そうですね。」
ナオは、さっきまで隼斗と楽しそうに話していた優衣を思い浮かべて、少し笑った。
「高校の頃のあいつは、控えめで印象に残らないやつでしたから、こっちの言う事はなんでも聞く、いい子のままだと思っていたのに。大学病院から来たっていうし、そんな子は田舎じゃ珍しいですからね。結婚にも泊がつくし、優衣なら理想の奥さんになってくれると思いました。」
「そうだったんですか。」
「弱い女でいるほうが、楽なのに、あいつはバカですね。」
「はっきり、物を言う事がありますよね。意地っ張りな所もあるし。」
「優衣をここに連れてきた事、後悔してますよ。ずっとピアノの前から動かなかったの時に、嫌な予感がしたんです。」
「音を1回聞いたら、忘れないん子なんです。ここへきた日、俺が適当に弾いたメロディを、同じように弾いた。それだけの事なんですけどね。」
「言ってる事がぜんぜんわかりません。」
「優衣の事、大嫌いになれますか?」
「なれないから、苦しんでるんです。」
「きっと、優衣も同じですよ。」
「優衣に触った事あるでしょう?」
「えっ?」
ナオは優衣がここへ来た最初の夜、眠っている優衣の背中を抱きしめた時の事を思い出した。
「どんなにこっちが求めても、影を抱いているみたいなんです。腕の中にいたはずなのに、あいつはどこにもいない。またぼんやり見えてきたと思えば、消えていってしまう。何なんでしょうね、本当に。」
朝川はいくら優衣を追いかけても、自分の元へ来ない事はわかっていた。それでも、初めて自分から離れていった女の優衣を、なかなか許すことができない。
「優衣、明日は早いんですか?」
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