誘拐記念日

木継 槐

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3、

奮闘⑤

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次の日から僕たちは部室に集まった。

「とりあえず、6人もいれば5教科なんか余裕だろ。」

「確かに!6人なら1教科ずつ教えるとしても、一人あまるんじゃね?」

悠一の意見にノリよく便乗する秋大に透は冷たい視線を向けた。

「君達はどこまで馬鹿なんですか?」

「あぁ?」

「そんなにまんべんなく得手不得手が勢ぞろいするわけないでしょう。」

「そんなの分からんべよ。」

「どこの方言持ってきたんですか……では一応確認しますが国語の得意なのは?」

僕がそっと手を上げると、悠一はどや顔をして透に視線を向けた。

透はため息をつきながら5教科の並べていった……ここまでは良かったんだけど……。。


「それで?5教科をそれぞれ教えあえば余裕といったのは誰でしたっけ?」

「……俺です。」

「国語が1人、数学が1人、科学が0人、社会が2人、英語が0人でしたが?」

「……。」

「おかしいですねぇ?ここにいる人数と誤差が生じていますがぁ?」

今度は透がどや顔をして席を立ち、悠一の席の横で仁王立ちをした。

「俺が悪ぅございました。」

「分かって頂けて何よりです。ところで手を上げなかった二人は一体どういう事でしょう。」

悠一が消沈したのを一瞥して、透は次のターゲットの悟と秋大に的を絞った。

「いや、俺に期待されても困る。」

「ごめんて、透ちゃん。」

「ちゃん付けしないでくれませんかね。それに、満遍なく点数が悪いとはいったいどういう事ですか!!全部20点切るなんて……しかも1教科は一桁じゃありませんか!!」

透は顔を赤くして青くして、額に手を当てた。

「ごめんね……僕のせいで。」


「宗太君の謝ることではありませんよ。そもそもここまで壊滅的だと想定してなかった僕も甘かったんです。」

「馬鹿にすんなし!これでも一生懸命やった結果なんだぞ、ぷんぷん!」

「背が高い男子にやられても微々たるも可愛くないですよ。」

秋大がおどけて答えると、透は眉間にしわを寄せて席に座るように促した。

「ちぇ~。だって本当にむずいんだって。」

「そうだ、授業何言ってるか分かんねぇし眠くなるし。」

「それは俺もわかるな~。」

悟と秋大の意見に珍しく憲司が乗ったことで透は唖然として口を開けた。

「まさか、君までそういうこと言うんですか!」

「いやぁ、俺も結局塾辞めたしな。授業だって板書で精いっぱいだよ。」

憲司が照れ臭そうに笑うと、自然と冷たい雰囲気が少しだけ和んだ。

しかし、透の教室に響き渡るような舌打ちで一気にビリビリした空気に変わってしまった。

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