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田中氏と橘②
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…麻実視点…
リサちゃんとの出会いは10年ほど前にまで遡る。
夫の事故死の対応がひと段落して、夫の遺留品を整理していると夫の書斎の引き出しに鍵のかかった場所があった。そのカギは後から付けられたのか鍵穴が不自然に曲がっていた。
鍵の業者に依頼をして鍵を開けてもらうと、そこには黒いクリアファイルに入った書類と引き出しの奥に貼り付けるように入った封筒を見つけた。そしてその封筒には家庭の生活費に相当するほどの大金が入っていた。
「何よ、これ……。」
思わず声を漏らしながらクリアファイルから書類を引き出した。
するとそこには、”児童養護施設『ゆりひめ寮』”のパンフレットと契約書類が入っていた。
私は、その名前を頼りにHPを見つけた。この家からは2つほど先の駅を乗り継いで着くという通うには好条件がそろっていた。即アポイントを確保して、私は夫の荷物を鞄に詰め込んだ。
次の日、宗太の通学を確認してから、私はすぐに寮に伺った。
チャイムを鳴らすと女性の声で応答があり、すぐに扉が開いた。
「改めまして、田中の妻です。」
「……中へどうぞ。」
女性は私の顔をじっと見てから蝋人形のように表情一つ変えずに中に案内した。
その女性は名前を三船と名乗り、施設の中を一周するように案内した。
施設の中は玄関すぐに客間と医務室が並び、そこから先にはホテルのように扉が並んでいた。
「毎度こういう案内をするんですか?」
「いえ、昨日ご連絡をいただいたので、見ていただくのが最適だと判断しました。」
「……そうですか。」
向き合い10部屋ごとにお手洗いと奥に浴室が準備されていて、洗面所には、たくさんのカゴが名前を付けられて並べられていた。
最奥には大きな食堂があり、キッチンも完備されていた。
「料理の担当はいるんですか?」
「寮生がグループごと担当しています。」
「……寮生がですか?」
「ここは、レジャー施設ではありません。彼らは独り立ちするためにここにいるんです。」
淡々と答える三船さんは食堂で立ち止まってからまたすぐに歩き出した。
客間に到着すると、すぐにお茶が運ばれてきた。
「どうぞ。お口に合えばいいのですけど。」
「えぇ。」
軽く微笑むと、三船さんはとある書類を机に置いた。
「こちらは?」
「田中氏から生前、橘リサへ融資していただいた分の詳細です。」
「あの人が……いったいこの子とどんな関係が……?」
「この子は田中氏の娘に当たります。」
「……は?」
三船さんの話す内容を要約すると、夫は婚前に恋人がいて、私との政略結婚をきっかけに恋人とは別れ、その時に宿っていた子がリサちゃんだと知った。
「話に信憑性を抱いていただけるかは自由で構いません。金額も必要であれば返金致します。」
「可能なんですか?」
「もちろん。もともと施設への融資ではなく彼女への融資ですから。」
「……彼女の顔を見ることはできますか?」
三船さんは少し困惑の色を浮かべたが、顔合わせをせず遠くから見ることを条件にリサちゃんの姿を見ることができることになった。
窓から庭を覗くと、そこには幼い子を膝に乗せた髪の長い子が本を読み聞かせていた。
自分だってまだ7歳という幼い年齢だというのに気弱そうな表情にそぐわず、年下の子供たちに微笑みかけていた。
「あの子は、本当に血が繋がっていないんですか?」
「えぇ、しいて言えばパートナーにあたる田中氏が共通しているというだけです。」
「あの子は、きっと私の娘です。血は繋がっていないかもしれませんが、大切な我が子です。」
「田中麻実さん?」
「私が夫の跡を継ぎます。手続きをさせてください。」
私は三船さんに深く頭を下げた。
そこからの書類手続きはいたって簡単に進み、夫の持っていたものと同じ書類には私の名前が記載された。
「顔を合わせますか?」
「夫はどうしていましたか?」
「顔合わせは頑なに拒否されていました。」
「では私も顔は合わせません。混乱させてしまうのはあの子の障害になるでしょうから。」
「そうですか。」
それでもリサちゃんの成長は追ってあげたくて、時々の三船さんからの手紙に写真を同封してもらうことになった。
もちろんまだ幼い宗太には伝えることはなく、麻実だけで秘密を抱えることにした。
リサちゃんとの出会いは10年ほど前にまで遡る。
夫の事故死の対応がひと段落して、夫の遺留品を整理していると夫の書斎の引き出しに鍵のかかった場所があった。そのカギは後から付けられたのか鍵穴が不自然に曲がっていた。
鍵の業者に依頼をして鍵を開けてもらうと、そこには黒いクリアファイルに入った書類と引き出しの奥に貼り付けるように入った封筒を見つけた。そしてその封筒には家庭の生活費に相当するほどの大金が入っていた。
「何よ、これ……。」
思わず声を漏らしながらクリアファイルから書類を引き出した。
するとそこには、”児童養護施設『ゆりひめ寮』”のパンフレットと契約書類が入っていた。
私は、その名前を頼りにHPを見つけた。この家からは2つほど先の駅を乗り継いで着くという通うには好条件がそろっていた。即アポイントを確保して、私は夫の荷物を鞄に詰め込んだ。
次の日、宗太の通学を確認してから、私はすぐに寮に伺った。
チャイムを鳴らすと女性の声で応答があり、すぐに扉が開いた。
「改めまして、田中の妻です。」
「……中へどうぞ。」
女性は私の顔をじっと見てから蝋人形のように表情一つ変えずに中に案内した。
その女性は名前を三船と名乗り、施設の中を一周するように案内した。
施設の中は玄関すぐに客間と医務室が並び、そこから先にはホテルのように扉が並んでいた。
「毎度こういう案内をするんですか?」
「いえ、昨日ご連絡をいただいたので、見ていただくのが最適だと判断しました。」
「……そうですか。」
向き合い10部屋ごとにお手洗いと奥に浴室が準備されていて、洗面所には、たくさんのカゴが名前を付けられて並べられていた。
最奥には大きな食堂があり、キッチンも完備されていた。
「料理の担当はいるんですか?」
「寮生がグループごと担当しています。」
「……寮生がですか?」
「ここは、レジャー施設ではありません。彼らは独り立ちするためにここにいるんです。」
淡々と答える三船さんは食堂で立ち止まってからまたすぐに歩き出した。
客間に到着すると、すぐにお茶が運ばれてきた。
「どうぞ。お口に合えばいいのですけど。」
「えぇ。」
軽く微笑むと、三船さんはとある書類を机に置いた。
「こちらは?」
「田中氏から生前、橘リサへ融資していただいた分の詳細です。」
「あの人が……いったいこの子とどんな関係が……?」
「この子は田中氏の娘に当たります。」
「……は?」
三船さんの話す内容を要約すると、夫は婚前に恋人がいて、私との政略結婚をきっかけに恋人とは別れ、その時に宿っていた子がリサちゃんだと知った。
「話に信憑性を抱いていただけるかは自由で構いません。金額も必要であれば返金致します。」
「可能なんですか?」
「もちろん。もともと施設への融資ではなく彼女への融資ですから。」
「……彼女の顔を見ることはできますか?」
三船さんは少し困惑の色を浮かべたが、顔合わせをせず遠くから見ることを条件にリサちゃんの姿を見ることができることになった。
窓から庭を覗くと、そこには幼い子を膝に乗せた髪の長い子が本を読み聞かせていた。
自分だってまだ7歳という幼い年齢だというのに気弱そうな表情にそぐわず、年下の子供たちに微笑みかけていた。
「あの子は、本当に血が繋がっていないんですか?」
「えぇ、しいて言えばパートナーにあたる田中氏が共通しているというだけです。」
「あの子は、きっと私の娘です。血は繋がっていないかもしれませんが、大切な我が子です。」
「田中麻実さん?」
「私が夫の跡を継ぎます。手続きをさせてください。」
私は三船さんに深く頭を下げた。
そこからの書類手続きはいたって簡単に進み、夫の持っていたものと同じ書類には私の名前が記載された。
「顔を合わせますか?」
「夫はどうしていましたか?」
「顔合わせは頑なに拒否されていました。」
「では私も顔は合わせません。混乱させてしまうのはあの子の障害になるでしょうから。」
「そうですか。」
それでもリサちゃんの成長は追ってあげたくて、時々の三船さんからの手紙に写真を同封してもらうことになった。
もちろんまだ幼い宗太には伝えることはなく、麻実だけで秘密を抱えることにした。
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