誘拐記念日

４、

判決、そして……（最終章）

透は僕が慌てて組んできた水を一気に飲み干した。
「ぷはぁ……とにかく、我々は我々でできることをしましょう。」
「できることって言っても、高校生ができることなんてたかが知れてるだろ。」
「それでも諦める訳にはいきません。」
僕たちができること……でも……出来ない。
僕はふと、浮かんだ事を首を振ってかき消した。
その時、透はちらっと僕を見た。
「宗太君、何かありませんか？」
「……うん、ゼロじゃないかも。」
「何？！」
僕が頷くと、5人の視線が全部僕に集まった。
「その……僕の母さん、弁護士してるんだ。」
5人はガタッと立ち上がり余計僕に詰め寄った。
「あ、いや、でも、多分難しいんだよ。」
「何でだよ！ぜってぇ、無敵だろうが！！」
「親子だと弁護士に選ばれても不利なんだよっ！……それに……。」
「それに？」
「僕が望んでも、母さんが手を貸してくれるとしても、それを影子さんが嫌がると思うんだ。」
僕が思いを打ち明けると、5人は椅子に座り直した。

「あぁぁ！！結局振り出しかよ！！」
「でも、母さんの知り合いとかなら多分。」
「今すぐ当たりましょう！！宗太君のお母様の事務所の番号は分かりますか？」
「っ…うん！ちょっと待って。」
僕はスマホの連絡先画面を映した。
履歴には最新の所に母さんの弁護士事務所が残っていた。

「ほら、かけろよ！」
「今？！出るかな……。」
「バカ、出るまでかけろ！！」
「伝言を任せるだけでも折り返しが来るはずです！」
悠一と透は自らのスマホに事務所の連絡先を登録し始めた。
「そうだ、俺の父さんにも話してみよう。病院の弁護士ならなかなかの強みなはずだ、多分。」
憲司はそう言ってピコピコとスマホを操作した。
さすがに電話は難しいらしい。

店内で騒ぐのはさすがに悪いし、僕は外に出る事にした。
電話の着信音が何度か響くと、事務所の男性の声が聞こえた。
『はい、田中弁護士事務所。南川が努めます。』
「あ、南川さん、こんにちは。田中宗太です。」
『おや、宗太君か。お母さんに連絡かい？』
「で、出来れば……はい。」
『ん～、悪い。今対応のために外出中みたいだよ。』
「そうですか……。」
僕がつい項垂れると、南川さんは少し慌てたように少し高い声を上げた。

『僕から伝えようか？』
「えっと……明日事務所に行ってもいいですか？って聞きたかったんです。」
『ん？……うん、いいよ。直接話さないといけないことならおうちで話せそうじゃない？』
「いや……その、母さん以外に頼まないといけないかもしれなくて。」
僕が言葉を濁すと、南川さんはすぐに声のトーンを落とした。
『分かった。もし時間があるなら今日でも構わないよ。』
「今日ですか……。」
「行こうぜ。」
「ッ？！」
その時、悠一が僕の背後から肩に手を回した。

「どっちにしろ、話をつけるには俺みたいな証言できそうなやつも必要だろうしな。弁護士さん、宗太について行きます。」
『そうか、分かったよ。時間は空けておくからおいで。』
南川さんは優しい声で電話を切った。