底なしαの慈郎さんと、底抜けβの太郎君

あうる

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いい子>悪い子>普通の子?

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「よくもまぁ堂々と人を当て馬扱いしてくれたものだな」と、ふかーいため息いた竹脇だが、最後には真面目な顔で、「なんでもいいから仕事だけは辞めるんじゃない。……早まるなよ」と妙な決め顔を残して俺の前から去っていった。

「早まるなっていわれてもなぁ……」

営業職である竹脇と、庶務課という完全な事務方である俺は、本来仕事のスタイルが全く異なっており、奴は出世株、俺は窓際予備軍と、そもそも用意された道からして全くの別物。

寧ろ連れションなんていつ振りだろう……。

「あ、この話も帰ったら慈郎さんに振ってみよーっと」

俺は、慈郎さんの愛を確かめたくて仕方のない悪い子ちゃんになる。

「……の、前にとりあえずお仕事だよな」
 
幸い、今俺が抱えている仕事は代わりがいないようなものではないし、引き継ぎだって一日もあればすんでしまうだろう。

会社という大きな一つの機械から、小さなネジが一本外れたところで、何が起こるわけでもなく。
ま、平凡なβの価値なんて所詮そんなものだ。


「竹脇が俺をどうこうできるわけ無いじゃん。でも嫉妬する慈郎さんってばカワイー!」

機嫌がいいし、気分もいいので、いっそこの足で辞表を叩きつけてこようと思ったのだが。

「能勢くん、ちょっといい?」
「………竹脇の裏切り者ーー!!」

休憩が終わるなり上司に呼び出されました。

「あのね、私は辞職することが悪いって言ってるんじゃないのよ」

俺の上司、成人済みの二児の母でもある女史は、めちゃ怖い。

「でもね?よく考えて見て頂戴。
うちにはもう、男手はあなたしかいないの。
それに先輩を差し置いて先に貴方が嫁に行ったりしないわよね?ねぇ?」
「部長、圧が凄いです、激アツです」
「どうしても寿退社したけりゃ、うちの行き遅れ共を嫁に貰うか、あいつ等全員に男を充てがうかしてからにしなさい」
「ハードル高すぎて飛ぶ気力すら起きないー」

結論 母は強し。

「まぁ実際辞職するかしないかはあんたの自由だけど、相手がαの男だっていうなら私は反対」
「わかってます」
「知ってるでしょ?私の離婚理由」

部長は、10年連れ添ったαの旦那に、「運命の人が見つかったから」と捨てられたβだ。

「αなんて禄なもんじゃないわ。
Ωを前にしたあいつらには理性なんてないの。野生の獣と一緒よ」
「Ωってそんなにいいんですかねー」
「悪いのはΩじゃなくて、運命の番なんていうくそったれな本能よ」
「なるほど」

βにはわからない理屈だが、αには運命の番と呼ばれる相性最高のΩが存在し、その相手と番う為ならば、何でもしたくなってしまうものらしい。

「確か相手のΩさんにも旦那さんがいたんでしたっけ?」
「あっちの旦那はαだったから、どうせ今頃別の番でも見付けてるでしょ」
「辛辣」
「我々βには運命なんてものはない。
これが現実よ、能勢くん」

だろうね。
だよね。
よく知ってるし、いつか身をもって後悔する日が来るだろうとも思う。
だけどさ。

「据え膳くわぬは男の恥だと思いませんか」
「食われるのは能勢くんじゃない。
明日から3日間有給をあげるから、しっかり二人で話しあってくればいいわ」
「有給は有難く戴きますけど別れ話はしませんよ?」
「帰りにそこの釣書持って帰ってね?うちのおすすめ物件よ」
「なんで職場に先輩の見合い写真が」
「備えあれば患いなしでしょ」
「怖っ」

お見合いおばさんも真っ青だ。

「私はね。あんたのことをこれでも見込んでるのよ。あんたは普通のβ。普通の家庭を持って普通に幸せになれる普通の子」
「俺、ごく普通のゲイなんで嫁を貰うより嫁に行きたいです」
「よしわかった。うちの息子を一人お前にくれてやる!うちに婿入りしろ!」
「捨て身が過ぎる!」

スタコラサッサと逃げだして、気がつくと自宅の前に立っていた。
なぜか、後生大事に見合い写真を小脇に抱えて。

ねぇ、これってなんてホラー?
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